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第六部第四章 ゲリラその七
 その操縦席にいるパイロットは黒い髪に藤色の目をした若い白人の男であった。ただし顔立ちは白人でも肌は黒い。彼はヘンリー=スタンフォードという。アメリカ軍で戦闘機のパイロットをしていた。その頃から名うてのトップガンであった。
それは連合軍に編入されてからも変わらない。連合でも屈指のエースパイロットである。
「隊長、待って下さい!」
 後ろの機から通信が入る。だがそのタイガーキャットは止まらない。
「黙って俺について来い!戦場で待つ奴なんているか!」
 彼はそう言ってさらに突き進む。その前に六機の解放軍の戦闘機が姿を現わした。
「来たな」
 その敵機を見てニヤリと笑う。すぐに操縦席のコンピューターのあるスイッチを入れた。
『ミサイル発射用意完了』
 コンピューターから音声が発せられた。彼は右手でコンピューターのキーワードを入力する。左手は操縦桿を握っている。
 モニターの六機の敵機にそれぞれ照準が当てられる。そこでコンピューターがまた音声を発した。
『照準完了。射撃準備完了』
「よし」
 彼はそれを受けて頷いた。そして右手を元に戻しボタンの一つに指をやる。
「いけ!」
 そのボタンを押す。するとまた声が聴こえてきた。
『ミサイル発射!』
 すると左右の翼からミサイルが放たれる。それは炎を発しながらその六機の敵機に襲い掛かった。
 敵はそれを見て逃げようとする。だがそれは間に合わず全てミサイルの餌食となった。
 六つの爆発が起こる。彼のタイガーキャットはその中を潜り抜けた。
 その後を部下達がついて来る。彼等の前にも敵機が姿を現わした。
「よし」
 スタンフォードは操縦桿を大きく動かした。そしてその敵機の後方に回り込む。
 敵はそれに気をとられた。そこで動きが乱れた。
「かかったな!」
 スタンフォードはそれを見てニヤリと笑った。そこに部下達の機の攻撃が仕掛けられる。
 敵機は全てミサイルに撃たれた。そして爆発となり消えた。
「これでよし」
 彼はその爆発を見て呟いた。そこに通信が入る。
「隊長」
「何だ」
 部下達からの通信である。彼はそれに応えた。
「有り難うございます」
 それは感謝の言葉であった。だが彼はそれには特に表情を変えてはいなかった。
「気にするな」
 それだけであった。そして敵を探し彼等を引き連れ戦場を駆けるのであった。
 揚陸艦がついた。そしてその入口が開く。
「よし、行け!」
 そこから陸戦部隊が雪崩れ込む。歩兵だけでなく戦車等もある。
 すぐに解放軍の者が銃を手に迎撃に出て来る。しかし圧倒的な数と装備の前に相手にならない。忽ち追い詰められていく。
 全ての地域が連合軍の手に落ちるのに大して時間はかからなかった。こうして解放軍は壊滅した。
 終わってみれば彼等の約九割が戦死していた。生き残った者は全て逮捕され裁判にかけられることとなった。そこには山口や小泉、ネゴロツキーもいた。
 連合の刑法は凶悪犯に対しては極めて厳格である。過失犯に対しては寛容であるが確信犯には厳しい。死刑もかなり多い。これは刑務所の収容人数も考慮されてのことである。
 連合においては強制労働といったものはない。通常の犯罪者に対しては人権も考慮されているのである。
 だが人としての道をあきらかに誤った輩に対しては何処までも厳しいのだ。その為死刑も多い。
 死刑といってもサハラ各国の様にすぐに殺すものではない。時間をかけて、それも酸鼻を極めるやり方で殺していくのだ。
 車裂きや八つ裂きもあるし火炙りもある。中には鋸引きや生きたまま内臓を取り出すといったものまである。猛獣に生きながら食われることもある。
 これはその時の状況によって違う。コンピューターが選ぶのだ。そして刑が施行される。無論それまでには有罪か無罪か極めて厳密な裁判が行われる。無罪であればよい。だが有罪ならば刑が施行されるのは言うまでもない。
 その処刑は実況中継される。そしてその死に様を晒されるのである。
 これは連合独自の人権に対する考え方に基づくものである。他の者の人権を侵害する者にはそれに相応しい刑罰が与えられる。加害者の人権なぞといったものは連合においては存在しないのだ。当然ながら少年法も存在しない。
 死刑執行人も職業として認められている。彼等は悪人を成敗する存在とみなされている。中にはその酸鼻な処刑を批判する者もいるがおおむね彼等は尊敬される立場にある。悪人を成敗するのは当然だからである。
 今回は極めて厳しい判決が予想されていた。解放軍の今までの悪行は有名である。そして山口やネゴロツキーの汚さも知れ渡ることとなっていた。よって死刑執行人もかなりの数が予想されていた。
「裁判はどうなるかしら」
 金は作戦終了を報告しに来たドトールに対して語った。
「どう考えても有罪です。証拠が揃い過ぎていますから」
 ドトールは落ち着いた様子で答えた。彼女の前に姿勢を正して立っている。
「そうね。どうやらかなり大掛かりな裁判になるようだけれど」
「その後も大掛かりなものになるかと」
「でしょうね」
 それはもう言うまでもなかった。
「死刑執行人の方から志願者がかなり来ているらしいわね」
「はい、そのようですね」
 これは司法の話なのでまだ彼等にも詳しい話は伝わってはいない。だがおおよその情報は入っていた。
「自業自得ね。この中継はまた騒ぎになるわよ」
「そうですね。エウロパがまた批判して来るでしょうが」
「彼等が何と言おうと気にはしていないでしょう、誰も」
 金の目が一瞬細くなり光った。
「どうせ遠くでさえずっていることしかできないのだから。御貴族様というのは気楽でいいわね」
 彼女の声はシニカルなものではなかった。そのかわりに辛辣なものであった。
「自分達もサハラで侵略して住民を追い出しているというのに。人権ならそちらの方が問題でしょうね」
「同意です」
 これはドトールも同じ考えであった。
「今の様子だと大丈夫でしょうけれど、今まで通り」
「状況が変われば」
「その時はわからないわね」
 金の目が光った。
「例えばサハラで何かしらの貴重な金属や資源が発見された場合は違うかも知れないわ」
「かっての石油の様に」
「ええ」
 金はその言葉に頷いた。
「ましてやこの連合には色々とそうしたことに熱心な国もあることだし」
「彼等ですか」
 ここでドトールの顔が少し歪んだ。
「彼等のあれは本当に昔からですから」
「貴方の国も苦労しているわね」
 金もそれは同じであった。
「はい。全くあれだけ持っているのにまだ欲しいと言う。満足することを知らないのでしょう」
「だから大きくなれたのでしょうけれどね」
 ドトールはキューバ、金は韓国出身である。いずれも連合内ではそれ程大きな国ではない。韓国は二十番目位に大きな勢力であるとされているがそれでも存在感が薄い。やはり他の国の後塵を拝する状況なのは変わりがない。
「アメリカ、中国、ロシア」
 ドトールはそれ等の国々の名を挙げる。
「困ったものです、本当に」
「日本もよ」
 ここで金が言った。
「日本ですか」
 だがドトールはここで意外そうな顔をした。
「あの国は少し違うような。他の国に対しても色々と便宜を図ってくれますし」
「それは外見だけよ」
 金は露骨に嫌悪感を露にしてそう言った。
「私はそう思うけれど」
「はあ」
 彼はここで彼女が韓国人であることを心の底から認識した。
「彼等はああ見えてしたたかよ。それで何度も煮え湯を飲まされていているし」
「我々にはそうではありませんが」
「キューバはね。中央政府も」
 日本は中央政府には受けがいい。大国の中で最も中央政府に忠実な国であるからだ。
「けれど我が国に対しては違うわ」
「そうでしょうか」
 少なくともドトールにはそうは思えないのだ。韓国も日本との通商によりかなりの利益を挙げているからだ。それは連合の誰もが知っていることである。
「どうやら長官はそれに関しては私と違う御考えのようですね」
「残念ですが」
「それならいいです。ではこのお話は終わりにしましょう」
「はい」
 話が気に入らなかったようである。だからといって遠ざけるような金ではない。彼女は確かに厳格で潔癖症の気質を有してはいるが私情で人事を行ったり差別したりする人物ではないのだ。そうでなくてはこの若さで中央政府の閣僚に就任なぞしない。
「それに時間になりましたので」
「時間ですか」
「はい、次の仕事の時間です」
「といいますと」
「会談です」
 ここで金の唇の端が微かに揺るんだのをドトールは確認した。
「その日本の方とです」
「わかりました」
 それが誰かは最早言うまでもない。
「では私はこれで」
「はい。私も出発しなければなりませんので」
「長官が行かれるのですか」
「はい、そうですが」
 金は問われて意外そうな顔をした。
「それが何か」
「いえ、別に」
 ドトールはそれには答えなかった。心中思うことはあったがそれは伏せておいた。
「ではこれで」
「はい」
 一礼して部屋を去った。そして彼は警察本部に戻った。

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