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第二十六部第四章 権威の失墜その二
「ヨーロッパの病人と言われた耄碌した者達が」
「今では連合の大国の一つですか」
 それを実に疎ましく思っていた。心からである。
「彼等が言うにはかつてのオスマン=トルコ以上の繁栄だとか」
「その病人以上のですか」
「変われば変わるものです」
 なおこれはその病人と言われたオスマン=トルコにも言える。オスマン=トルコは長い間アジア、アフリカ、ヨーロッパの三つの大陸において覇を唱えた超大国であったのだ。その力は当時の西欧諸国、東欧諸侯を全て合わせたよりも強いと言われていた。
「あの中国にしろアメリカにしろ」
「植民地であったというのに」
 清朝末期にアメリカ独立前のことである。やはり彼等にとっては連合の者達は植民地あがりの野蛮人達でしかなかったのだ。教育でもそう教えられてきている。
「日本とタイ、エチオピア位ですか。あとはリベリア」
「植民地でなかったのは」
「そうですな。新興国家にしろ全てかつては我々の情けで暮らしていた」
 そういう感覚であった。
「それが千年前からつけあがり」
「今では我等を前にして勝ち誇っている」
「こんな馬鹿な話はありませんな」
 彼等にとってはそうである。連合の者達にとっては千年前からまたしても復讐を果たしたことになる。話が完全に逆になっているのである。
「本来ならば今でも我々に仕えている筈だというのに」
「しかもですな」
 ここでまた口髭の男が言ってきた。
「仲介役はあのマウリアです」
「そちらの召使であった」
「はい」
 イギリス貴族として友人達に答えた。
「何たる屈辱でしょうか。そうしてそれにより生き長らえるなぞと」
「ですが生きていなければ復讐も果たせません」
「それもわかっています」
 口髭の男はそれもわかっていた。屈辱に耐えているというわけである。
「生きていなければ復讐は果たせない」
「その通りです。ここは耐えて」
 連合の諺では臥薪嘗胆という。もっともエウロパ貴族達にとってはこうした諺もまた不快極まるものである。銀河語も必要だから学ぶのが常であり連合の文明も文化も彼等にとっては吐き気を催す不愉快なものであるのだ。そういうものでしかないのである。
「復讐の時を待ちますか」
「それしかありませんな」
 老貴族も言うのだった。
「今は」
「しかしです」
 ここで客の一人が言うのだった。
「復讐をするのならば」
「するのならば?」
「それは地獄のようにです」
 モーツァルトのオペラ魔笛第二幕の有名なアリアの題名である。超人的な技量を要求されるアリアでありこれを歌うことはコロトゥーラ=ソプラノにとって非常な名誉でもある。
「地獄のようにですか」
「はい」
 他の者達にも応えてみせる。
「我々の恐ろしさを教えてやりましょうぞ」
「確かに」
 老貴族もその言葉に頷くのだった。
「我々としてもこのまま負けているわけにはいきませんからな」
「その通りです。だからこそ」
「復讐の時を待ちますか」
「その通りですな」
 彼等はそれぞれ言う。
「そうでなければ貴族の誇りの意味がありません」
「そう、誇りです」
 また誰かがそれを言ってきた。
「貴族は誇りによって生きるもの。それが傷つけられたならば」
「晴らすのが道理」
「しかしですな」
 中の一人が冷静に述べる。
「しかし?」
「戦力に差があるのもまた事実」
 彼は言う。
「それをどうにかしなければなりませんな」
「腹立たしいことに」
 口髭の男がまた言った。
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