第二十六部第二章 観戦者達その十一
説明を終え与党慎重派を説得し終えた八条は満足した顔で国防省に戻っていた。とりあえず彼等に関しては上手くいったのであった。
「これでまた一つですね」
「ああ」
車の中で木口に答える。二人は車の後部座席で並んで仕事に関する資料を見ながら話をしていたのである。
「与党はこれでいい。後は野党だが」
「何が何でも反対だという勢力もいますね」
「それはワトソン議員が何とかしてくれると言ってくれている」
「ワトソン議員がですか」
「そうだ」
木口に答える。
「スキャンダルを仕掛けて動けなくされるそうだ」
「スキャンダルですか」
「方法としてあるな」
あまり好ましくないといった顔で木口に言う。
「それは確かに」
「ええ。ただ」
「私は好きではないがな」
ワトソンに見せたのと同じものを木口にも見せる。
「そうしたことは」
「そうですね。長官には向いていません」
木口もそれは認める。八条はそうした陰謀には似合わないタイプの政治家なのだ。
「ですからそうしたことは」
「下手にはしない方がいいか」
「誰にも向き不向きがあります」
彼は言う。
「ですから」
「わかった。それではな」
八条もそれに頷く。彼とてそれはわかっていた。
「そちらには手は出さないでおこう」
「それがよいかと。あと」
「何だ?」
話が変わったのを見てあらためて木口を見た。
「ジェルメの資料が届いています」
「最新式のものか?」
「そうです、これです」
ここで三次元写真を出してきた。ジェルメ星系の宙図である。そこには惑星などの他に様々なものが書き込まれていた。かなり細かい。
「如何でしょうか」
「少し見せてくれ」
八条はそう応えて木口からその宙図を受け取った。そのうえで見る。
「ふむ」
「如何でしょうか」
「堅固だな」
最初に受けた印象はこうであった。
「これならば容易には陥落はしない」
「容易にはですか」
「そうだ、ここまではな」
そう木口にも言う。
「オムダーマンとしてはこれを破るのは容易ではない」
「では敗北ですか」
「いや」
しかし彼はここで言う。
「それはどうかな」
「何かありますか?」
「確かにこの防衛ラインは堅固だ」
八条はまたそれを言う。しかし彼はそれだけを見ていたのではないのだ。そうでなければここで言葉を止めたりはしない。彼が見ているものとは。
「穴がある」
彼は言った。
「この穴は致命的だな」
「穴ですか」
「より正確に言うと帰結点だ」
そこを指摘してきた。
「ここだ」
指差した場所は星系に敷かれた防衛ラインの最左翼であった。そこを指差している。
「ここが最も弱いな」
「そこですか」
「ここを衝かれればな。ハサンは辛いぞ」
「しかし長官」
木口はここで言う。
「そこを衝いたとしても戦力はハサンの方が」
「問題は遊撃戦力だな」
八条はそこも指摘する。彼もまたそこを見ていたのだ。防衛においてはただ単に守っているだけでは駄目なのだ。高速機動部隊もまた必要なのだ。
「それが充分にあればハサンの勝利だ。なければ」
「危ういですか」
「そうだ。それ次第だ」
奇しくも彼の視点は当たることになる。何処にいても見る者は見るということであった。そうした意味で八条はやはり一級の戦術眼も備えていると言えた。
「さて」
八条は宙図から目を離し前を見ていた。
「我々もな。仕事をせねば」
「仕事は尽きませんので」
「というとあれか」
木口のその言葉に顔を曇らせる。
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