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第二十六部第一章 女傑その六
「戦では無類に強くとも敗れれば」
「ふむ」
 シャイターンはそれを聞いてまた一人の連合の女ヒーローを思い出した。
「巴御前のようにか」
「剛力と美貌を誇る将でしたな、確か」
「そうだったと思う」
 シャイターンは彼女に対しては今一つ歯切れに欠ける言葉を述べてきた。どうやら彼女についてはあまり詳しくはないようだった。巴御前は言うまでもなく平家物語に出て来る木曾義仲の部下であり恋人でもあった女だ。果敢に戦い、最後まで義仲の身を案じて落ちていった。彼女は日本人の間での悲劇のヒロインなのだ。
「今はああした力は不要だが」
「勇猛さは今でも必要です」
 ハルシークはまた答える。
「彼女はそれは持っています。これは紛れもない事実です」
「そうだ。勇猛な女司令官か」
 ここでふと楽しげな笑みをまた浮かべてきた。
「面白いとは思わないか。強い女を倒すのもまた」
「敵だからですか」
「それもある。しかしだ」
 彼は前を見据えて不敵な笑みに変えてまた言う。
「私は気の強い女が好きだ。そうした女を従わせていくのもまたな」
「左様ですか」
「ここでだ」
 さらに言う。
「無理強いは決してしない。刃を交えその刃を落とし」
「降伏させると」
「身体だけを求める男は愚か者だ。女の最も美しいものは心だ」
 シャイターンは女色についても造詣の深い男であった。男色については興味がないとされているが少なくとも多くの従者を従え慕われている。また若者からも絶対的な支持を得ている。そうした意味で彼は男の心もまた支配するのが上手い男であった。これを男たらしと呼ぶのはいささか品のない揶揄であろうか。
「心は無理に奪えるものではない。陥落させるものだ」
「では閣下はあの女王を」
「悪くはない」
 声に野心がこもってきた。
「部下にするもよし。側に置くもよし」
 笑いながら言う。
「どちらもな。かつて美女は重要な戦利品だったしな」
「そういう時代もありましたな」
 とりわけモンゴルではそうであった。戦争で勝利を収め美女を自らの妻に入れる。そうして多くの妻を持っていることは彼等の社会では誇らしいことであった。あのチンギス=ハーンもそうして多くの妻を持っていた。これは彼の偉大さを知らしめることであった。
「今は。少し違いますが」
「少なくとも妻は四人までいいがな」
 イスラムの戒律が出て来た。
「それも未亡人ならばなおだ」
「あの女王は夫はいたでしょうか」
「確か今はいない筈だ」
 シャイターンは答える。
「好都合と言えば好都合だな」
「確かに。それでは問題なく」
「勝利を収めた時彼女は私のものとなる」
 今それは豪語になっていた。
「アヤグーズ、そして栄光と共に」
「ではその栄光に向けて」
「進軍だ。全軍に伝えよ」
 ここで指示を出す。
「コムまで全速力で進む。そしてそこに辿り着いたならば」
「辿り着いたならば」
「おって私の指示を出す。よいな」
「はっ」
 ハルシークがその言葉に対して敬礼する。こうしてティムール軍の方針は決まったのであった。彼等は一路コムを目指していた。
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