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第二十五部第五章 ジェルメ星域会戦その十三
「限りあるものだ。まして相手はオムダーマンだけではない」
「ティムールもまた」
「敵は一つではない」
 そして手強い、ダビデブは言うのだった。
「多くの敵がいる、だからこそ」
「無闇な損害は避けなければなりませんね」
「わかっているならいい。いいな」
「はい」
 こうしてハサン軍はオムダーマン軍にそれと悟られないように撤退に取り掛かった。それは順調に進み何とか少しずつ左翼から中央に向かっていた。
 同時に右翼も下がっていた。しかしオムダーマン軍はここで果敢に動こうとはしなかった。何故か彼等に対しての攻撃を緩めていたのである。
「よし、まずは行かせろ」
 アッディーンは戦局を見渡しながら述べてきた。
「いいな、今はだ」
 彼は今ハサンの援軍と戦っていた。その戦闘は苛烈なもので一歩も前には出れないでいた。しかしその戦いの間も全体の統率は執っていたのである。
「それよりもだ。右翼の軍をこちらに向けろ」
「はっ」
 参謀達はアッディーンの今の言葉に頷く。
「敵は下がるに任せてだ。いいな」
「了解」
「それでは」
「彼等は下がらせていればいい。それよりも目の前だ」
 今戦っている敵軍を撃破しようとしていた。それには理由があった。
 その為に今さらなる軍を向けさせる。そして彼等は来た。
 アルマザールの部隊であった。マトラも部隊もいた。
「アルマザール、マトラ両提督の部隊が来ました!」
「よし、勝ったぞ!」
 アッディーンはその報告を聞いて会心の笑みを浮かべる。
「両提督の部隊と合流し正面の敵を倒す!いいな!」
「はい!」
「そして敵の後方に回り込む!それで我が軍の勝利は決定する!」
 今二人の軍が到着した。全てが決しようとしていた。
「撃て!」
 援軍を得たうえで一斉攻撃を命じる。それで目の前の敵を一気に倒した。
 そのまま敵全体の後方に回り込む。司令部と敵の本軍を寸断し包囲攻撃に移る。
「全軍敵をこのまま殲滅せよ!」
 アッディーンは目の前の敵を粉砕しながら叫ぶ。
「一隻も撃ち漏らすな!ここで戦い自体を決めろ!」
 ここで言う戦いとはオムダーマンとサハラの戦い全体を言っていた。彼はそれを見据えて決定的な勝利を得ようとしていたのであった。だがそれには時間が味方しなかった。言い方を変えれば時間は最後にはハサン軍を救ったのである。
「司令」
 シンダントがここでアッディーンに報告してきた。
「どうした?」
「敵の援軍です」
 ブルジルトからの援軍であった。それが今遂に戦場に到着したのである。
「今ダビデブ司令のところに到着しました」
「ここでか」
「はい。どうされますか?」
「残念だな」
 この言葉が全てを決していた。
「今これ以上の敵を相手にはできはしない。攻撃を止めるしかないか」
「はい」
「その援軍の動きは」
 あらためてそれを問うてきた。
「どう来ている?」
「やはりこちらに向かってきています」
 参謀の一人がそう報告する。モニターにはこちらに来ている敵のあらたな大軍がいた。明らかにアッディーンが直率する軍を狙ってきていた。
「狙いは我々か」
「このまま頭を潰すつもりのようです」
「そうだな。少なくとも退けるつもりのようだ」
「どうされますか、ここは」
「このままでは挟み撃ちに遭ってしまう」
 彼は冷静に敵の動きを見ていた。既に敵は南下してきているその援軍だけでなく包囲下に置かれだしていた元からジェルメにいる軍勢も脱出を計り北に戦力を集中させようとしていた。今アッディーン自身が率いる部隊では彼等の相手をすることが難しいのは明らかであった。
「退くぞ、一旦な」
「それで敵の矛をかわすと」
「その通りだ」
 彼はそう部下に返す。その考えは変わってはいなかった。
「しかも矛は二本だ。あえてその先に身体を晒すこともあるまい」
「それでは」
「我が軍は退く。そして包囲している敵を逃がしてやれ」
「はっ」
「ついで南下して来ている敵軍からの攻撃もかわす。いいな」
 この指示も下した。まずは敵の矛先をかわす。無駄な損害を避けて次の攻撃に備えることにしたのである。これは合理的な判断であった。
「わかりました。それでは」
「うむ」
 アッディーンは一旦自分が率いる軍を退かせてジェルメのハサン軍を逃がさせた。しかしただ見逃すというのではなかった。最初からそのつもりはなかった。戦場においては撤退する軍は極めて脆いものだ。彼はそれがわかっているからこそあえて逃がしたのだ。そうした狙いもあってのことであったのだ。
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