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第二十五部第三章 名もなき批評家その十七
「そのイスラムによりサハラは一つになるのを目指していた。二千年の間」
「かつてのウマイヤ朝のように」
「ウマイヤ朝か」
 八条はその古い国家を聞いてふと目を動かした。微妙に。
「あの国家がアッバース朝に倒されてからだったな」 
 アッバース朝のクーデターめいた攻撃によりウマイヤ朝は滅んだかに見えたが何とかイベリア半島にまで逃れて生き残ったのである。だがここからアラブ世界は長らく分裂したままだったのだ。それが今に至る。しかし今それが一つになろうとしていたのだ。八条はそれを見据えているのである。
「サハラの分裂は」
「何度か統一されようとしましたね」
 由良はまた述べた。
「これまでにも」
「そうだな。しかしそれは適わなかった」
 八条の言葉は一抹の寂しさを含んだものになっていた。表情は変わりはしていないが。
「その度にそれは潰えた」
「何故だったのでしょうか」
「理由は様々だったな」
 歴史を振り返る。そのうえでの言葉であった。
「暗殺に叛乱、急死、分裂、裏切り。全てあったな」
「ええ」
 その都度サハラ統一は夢と消えていった。実ることはなかった。これがサハラの歴史であった。夢は常に消える。それでもまた統一を目指す。それがサハラであったのだ。
「今度もその可能性はある」
「ありますか」
「それは否定できないと思うが」
 由良を見ての言葉であった。
「今までの歴史からな」
「確かに」
 そして由良もそれを認めるのであった。歴史を見ればそれは当然であった。
「英雄だけでは駄目なのだろうな」
 八条はふと達観したような目になり声もそうしたものにした。
「やはりな」
「といいますと」
「また中国の言葉だが」
 そう断った上で述べる。
「地の利と人の和」
「そして天の時ですか」
「その三つがないと駄目だとされているな」
「ええ、確かに」
 あまりにも有名な言葉である。この時代においても何かにつけ小説や漫画、ゲームに出て来る。主人公達に相応しい言葉となっているのが常である。
「今まではそのうち天の時がなかったということだろう」
「だから統一できなかったのですね」
「そうではないかな」
 八条は言った。
「時期というものは大事だ」
「時期ですか」
「そうだ。連合もそうだったしな」
 八条はここで連合について言及した。
「連合軍が設立されるまでの間はかなりの時間が必要だった」
「それは確かに」
 それを言われると納得できる。連合はあまりにも多くの勢力が存在している為そこに至るまで多大な時間を要したのだ。各国の軍の存在も大きかったのである。
「ようやく、ですからね」
「その天の時がなかった。サハラには」
「だから統一されなかったのですか」
「実はあったのではないかと思う」
 しかし八条は首を傾げながら述べた。述べながらまたサイトを開いた。そこはオスマン=トルコに関するサイトであった。かつてアジア、ヨーロッパ、アフリカに覇を唱えた大帝国である。広大な領土と長い繁栄を誇ったイスラム世界最後の世界帝国である。言うまでもなく今の連合の大国の一つトルコの前身である。
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