ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第六部第三章 奸物その五
「またえらく大袈裟ですな」
 三人はそれが不思議でないようであった。
「軍事のことは国家の一大事といいますぞ」
「それではいざという時に支障が出るのではないですかな」
「多少の支障は致し方ないと考えておられますね、国防省は」
 フンプスはそれにも答えた。
「やはりまずはトラブルを避けておられるようです」
「トラブルトラブルといいますが憲兵もいるでしょうに」
「それに連合軍の将兵はかなりの数。その移動に支障があってはあちらも困るでしょう」
 それがわからぬ彼等ではなかった。話はさらに続いた。
「それはあちらもよくわかっておられるようですが」
「それでもできないと。ふむ」
「政治の難しいところですな」
 彼等は瞑目し頷いてこう言った。それはまるで哲学者のようであった。
「ですが民間から要請があったらどうですかな」
「民間から」
 フンプスがカレーラスのその言葉に顔を上げた。
「そうです。それならば軍としても問題はないでしょう」
「港湾施設や航路の利用はやはり難しいですが中継地の相互利用ならできるのではないですかな」
 マウムもそれに続いた。
「一時停泊してそこで休憩するなり。それでかなり違うと思いますぞ」
「ということは」
「ええ、おわかりだと思いますが」
 ポートがフンプスに対して答えた。
「中継の港への停泊ならば我々も喜んで協力させて頂きたいのです。今回はそれを申し上げに来たのです」
「そうだったのですか」
「ええ。我等とて連合の者」
「その軍の効率的な運用を心から願っております故」
 だが彼等もやはり経営者である。ここには港湾施設に停泊っすることによるその料金、そして将兵が落とす金等も考慮に入っていた。これを求めるのは経営者として至極当然のことであった。
「それを商務長官にまずお話しておきたいと思いまして」
「そうだったのですか」
「はい。当然これは八条長官にもお話する予定です」
「商務省としてはそれでよろしいですかな」
「はい」
 フンプスには断る理由がなかった。だがもう一つ話をしておくべき場所があった。
「それは交通省にはお話していますか?」
「勿論」
 三人はそれに対して即答した。
「既にナル=サン交通相にはお話してあります」
「あちらは快諾してくれました」
「そうですか」
 ナル=サンは現中央政府の閣僚の中では長老格に当たる。ミャンマーでは大統領も務めたことのある大物政治家である。老練の政治家として知られている。
「それでは産業の世界では問題はありません。交易にもいいでしょう」
「はい、何しろ九十億の市場ですからな」
「軍事に携わっていなくともこれは見逃せません」
「ははは、流石ですね」
 フンプスはそれを聞いて思わず笑ってしまった。わかっていたこととはいえやはり彼等は一代の経営者であった。それには素直に感心せざるをえなかった。
「では承諾を頂きたいのですが」
「わかりました」
 フンプスは笑顔で三人が差し出した書類にサインをした。それは交通省のものであった。
「これでよし」
「御苦労様でした」
 こうして三人とフンプスのここでの仕事は終わった。その後暫し茶を楽しみながら談笑もしたがそれで四人は別れた。
「終わりましたか」
 秘書官は三人を見送った後でフンプスに対して話し掛けた。
「いや、これからだよ」
 だが彼はそれに対してはこう答えた。
「これからとは」
「仕事はサインをして終わりじゃないということだよ。全てはそこからはじまるんだ」
「そこからですか」
「そうだよ。まあそれもすぐわかる」
 彼はそう言うと踵を返して省庁の中に入った。
「行こう、早速仕事が待っているだろう」
「ええ、それはもう」
 秘書官である彼が最もよくわかっていることであった。
「山の様になっておりますよ。すぐにはじめないと日が暮れてしまいます」
「そうだな。最近家族サービスも怠っているしたまには早く帰らないとな」
 彼は子沢山で知られている。何と九人の子供がいるのだ。それでよく野球チームの監督になれるだの次はサッカーの監督だの言われている。既に上の子供の何人かは結婚して孫がいる。それももう何人もいるのである。
「下の子はまだ小学校に入ったばかりなんだ」
「それはまた」
 難しい年頃であった。もっとも子供で難しくない年頃なぞないのであるが。
「だから余計に顔を見せておかないとな。うちのにも言われているんだ」
「それはそうでしょうね」
「だからはじめよう、すぐに」
「わかりました」
「夕食には皆帰られるようにするぞ。さあ仕事仕事」
「はい」
 こうして彼等は事務室に向かった。そしてその言葉通り仕事に励むのであった。

 程無くして彼等は国防省にも訪れた。そして八条との話し合いの場が設けられた。
「本当ですか!?」
 彼はそれを聞いた時思わず声をあげた。
「ははは、こんなことで嘘は言いませんぞ」
「是非協力させて下さい」
 三人は笑顔で彼に対して言った。
「しかしそちらにも迷惑が」
「いやいや」
 だが彼等はここで首を横に振った。
「実際我々もこの商売柄色々なお客様がおりまして」
「その中にはやはりマナーのよろしくない方もおられます」
「はい」
 これは事実であった。マナーの悪い客はどこにでもいるものである。犯罪を犯す者もやはりいる。
「そうしたお客様と比べたら軍人さんはかなり紳士的です」
「常に外の目を意識しておりますからな」
「ええ、それはもう」
 八条自身元軍人であるからそれは当然であると考えていたが実際はそうではない。やはり外の目を意識していると人の物腰は変わるものなのである。
「ですから我々としては構わないのです」
「長官は少しそれを意識し過ぎではないですかな」
「そうでしょうか」
「ええ。少なくとも我々はそう思います」
 実は八条の出身である日本は軍人の数がかなり少なかった。比較的治安もよく、海賊も少ない為それで充分であったのだ。そしてその規律は極めて厳しく連合一であった。とりわけ民間人とのトラブルは警戒されていたのである。それも彼の意識にはあったのは否定できない。
「ですから我々は反対しません」
「むしろお願いしたい位です」
「わかりました」
 彼はそれを受けて頷いた。
「ではあらためて国防省としてもお願いできますか」
「はい」
「喜んで」
 こうして話は決まった。連合軍はこの三グループの港への停泊が認められたのであった。
「これは他の会社にも影響しますな」
 三人はそれを見計らったように言った。
「これで連合軍の動きもより効率的になるでしょう」
「はい、有り難うございます」
 八条はそれに答えた。実際にこれは連合軍にとって実に有り難いことであった。そして有り難いことはもう一つあった。
「ところで」
 三人の老人達は口調を変えてきた。
「今連合軍は解放軍を討とうとしておられますな」
「はい」
「どうやら軍をそちらに向けようとしておられるようですが」
「否定はしません」
 彼はそれに対しそう返した。
「ですがこれ以上は機密に関することなので」
「おっと、そうでしたな」
 三人はそれを受けて応えた。
「ですが彼等はそうそう容易には倒せませんぞ」
「それもわかっております」
「何しろ闇商人とも結託しておりますからな」
「残念なことに。今それについて調査中です」
「その闇商人ですが」
 彼等はここで目を光らせた。
「実は一人大物がいるのです」
「大物!?」
「はい」
 彼等は思わず顔を上げてきた八条に答えた。
「山口義彦です」
「あの男が」
「はい。あの男が裏でかなりのことをしているというのは聞いておりますな」
「はい」
「我々も商売柄それなりに裏の話も聞きます」
 これだけ巨大なグループを持っていると当然ながら色々と情報を手に入れる。それで彼等は知ったのある。
「そこで聞いたのです」
「それは本当ですか。山口が彼等と結託しているとは」
「ええ。マウリア方面への闇商人の元締めが彼ですから」
「それはあの男の出身地からもおわかりでしょう」
「確かに」
 山口は日本国籍だがその生まれは日本ではない。南アフリカの辺境の星系出身である。マウリアのすぐ側の星系であった。
人気サイトランキング site_access.php?citi_id=254078182&size=200小説・詩ランキングcont_access.php?citi_cont_id=343008101&size=200


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。