第二十五部第一章 国境の動揺その十一
「ですからこれが連合のものとは言えません」
「所謂二十世紀の実存主義哲学もあるな」
十九世紀に欧州で生まれたものである。キルケゴールやニーチェにはじまる。神の存在を肯定するものと否定するものの二種類があるがどちらもキリスト教がそのルーツにあるのは否定できない。連合にその実存主義が流れ込んだのである。
「あとは」
「宗教ではさらに多彩です」
「多彩どころではない」
クリシュナータは言った。
「エジプトにケルト、メソポタミアの古い神々もいるな」
「はい」
その言葉に頷く。
「彼等の哲学もまた」
「哲学は一つではありません」
ラーンチはその言葉を出してきた。出しながら述べる。
「連合そのものが多様でありますし」
「その多様な連合を見極める為にもな」
「軍人だけではなく留学そのものも進めていくか」
彼はさらに言葉を続ける。
「よりな」
「連合を学びそれをマウリアに活かし」
「同時に彼等を知る。敵を知るには」
彼等の言葉には政治と戦略があった。彼等はただ交流や親善、学生達個人を高める為に留学を推し進めているのではないのだ。そこには深い読みがあるのである。
「敵の中に入る」
「連合もそれは気付いているでしょうね」
「気付いている人間がいるのは間違いない」
クリシュナータもそれは読んでいた。連合とて愚かではない、彼は連合を侮ってはいなかった。相手を侮ればそれは必ずや致命的な失態につながる。それをよくわかっていたのである。
「それでもあえて受け入れているのだろうな」
「器が大きいということでしょうか」
「学びたければ学べ、そういうことだな」
確かに度量はある。しかしそれだけではない。何故ここで多くの留学生を入れているのか。連合にも考えがあるということだ。
「自分達の力を見せつける」
「思えば露骨な誇示であります」
相手に自分の力を見せる為に留学を受け入れる。だがここでもまた駆け引きがある。話はかなり複雑で迷路のようになっていた。その迷路の中で連合もマウリアも互いの腹を探り合っていたのだ。
「しかも肝心なものは教えない」
「既に技術供与されているものや彼等にとっては常識のシステムばかりだな」
「はい」
機密を教えたりはしない。そこが老獪なのだ。マウリアと比べれば歴史の浅い連合であるがそこにある知恵は既に老獪の域に達していた。
「食えない話です」
「御馳走はそう簡単には食べられないものだ」
こう評してきた。
「中々な」
「それを食べるには」
「それなりの知恵がこちらにも必要だ」
そういうことであった。連合とマウリアは化かし合いをしているのであった。まさに狐と狸であった。その化かし合いは技術の争奪でも行われていたのだ。
「彼等のことを全て知るのはな」
「思えば簡単なのですがね」
続いてこう述べたラーンチであった。
「連合に入ればすぐにでも」
「入りたいのか?」
しかしクリシュナータはここでその彼に問うてきた。
「連合の中に」
「いえ」
しかし彼はそれを否定してきた。すぐに首を横に振る。
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