第六部第三章 奸物その一
奸物
アッディーンとアッバースはすぐに会議を招集した。そしてそこにはスタッフ及び各艦隊司令が集められた。
二人とハワージャが部屋に入るとそこには既に他の者達が揃っていた。彼等はアッディーンが入室すると一斉に席をたって敬礼した。
アッディーンはそれに返礼すると自らの席に着いた。外交部長であるアッバースが首席であり彼は次席であった。
「さて今回の臨時会議だが」
アッディーンは席に着いた。参加者を見渡しながら言った。
「作戦の第二段階についてだ」
「はい」
諸将はそれに対して頷いた。
「侵攻対象は南のムワッハド連合としたい。それについて意見を聞きたい」
「それで問題はないかと思います」
ラシークが言った。
「彼の国は交通の要所です。次にあの地域を抑えると今後の作戦行動がかなり楽になります」
「そうですな。私もラシーク准将の考えに賛成です」
シンダントも口を開いた。見れば彼も階級はラシークのものと同じになっていた。
「あの地域は四方八方に行くことができます。あそこを抑えれば次の作戦にかなり有利になります」
「ふむ、貴官達はそう思うか」
アッディーンはそれを聞いて考えながら言った。
「他の者はどう思う」
彼は他の将達の意見を求めた。見れば彼等の目は泳いではいなかった。
アッディーンはそれを見て決まりか、と思った。誰もそれには反論はなかった。
「では二人の言葉通りムワッハドを攻める。それでいいな」
「はい」
皆それに頷いた。これでムワッハド侵攻が決定した。
「それでは次の話に移ろう」
アッディーンは言った。
「ムワッハド侵攻には十個艦隊を以って当たりたい。指揮官は私だ」
「長官がですか」
ムーアがそれを聞き口を開いた。
「そうだ。何か不都合があるか」
「いえ、ただ」
「ただ、何だ?」
「はい、今回は敵のゲリラ戦が予想されます。それには各艦隊に指揮を委ね閣下はこのアイユーブから指揮を執って頂きたいと考えているのですが」
「各艦隊の裁量を優先させるのだな」
「はい、これが普通の正規戦なら問題はないですが何しろゲリラ戦です。正面から戦うのではありません」
「成程、確かにな」
アッディーンは彼の言葉に頷いた。
「おそらく敵は比較的小規模の軍で我々を奇襲したり後方を脅かしたりしてくるでしょう。それに対しては今までの様な指揮系統では支障が出ます。やはりここは臨時にそうした処置をとるべきだと考えます」
「ふむ」
彼はそれを聞いて腕を組み考え込んだ。そして口を開いた。
「他の者はどう思うか」
「そうですね」
まず口を開いたのはナクールであった。
「ムーア中将のお考えに賛成です。やはりゲリラ戦に対してはそうした特殊な処置が必要だと考えます」
「そうですな。それに占領していく惑星に対しても対応は慎重にする必要があります」
カーシャーンも口を開いた。
「おそらくそこでもゲリラ戦を仕掛けてくるでしょうし」
「古典的なゲリラ戦だな」
アッディーンはそれを聞いて呟いた。十九世紀にスペインがナポレオン率いるフランス軍に対して行った戦いであり以後大国の侵攻に対して小国が行う戦い方の一つとなった。ベトナムが有名である。
強大な敵に対しては確かに有効である。これに対しては徹底的な掃滅戦しかない。だがそれは敵国の感情をさらに刺激しかねない。一般市民も巻き添えにするからだ。
「これは武器の解除を進めていくしかありません」
「地味だがそれが一番か」
「はい。銃火器は全て没収させます。そして軍に対しては降伏したならば寛大な処置を約束させます」
「降伏しなかったならば容赦なく処刑だな」
「ええ。それしかないでしょう」
カーシャーンは言った。
「そもそも制服を着ていない者は降伏することすら許されないのですから」
これはこの時代の戦時法でも同じであった。国際法でも定められている。
「それを考えると彼等にとってもかなり都合のいい考えだと思いますが」
「そうだな」
アッディーンはそれを聞きながら答えた。
「では地上のゲリラに対してはこんごもそれで行こう」
「はい」
諸将がそれに頷いた。
「そして宇宙でのゲリラ戦だが」
「閣下は十個艦隊で進まれると仰いましたね」
ハワージャが問うてきた。
「ああ」
「それではあまりにも少ないと思います」
「少ないか」
「はい。単に前線を進むだけならばよいのですが相手がゲリラ戦を仕掛けてくるとなりますと。後方を守る艦隊も必要です」
「敵の後方への襲撃に備えてか」
「はい」
彼は答えた。
「地の利はあちらにあります。おそらく我々の予想もしない場所から攻撃を仕掛けて来るでしょう」
「それに備えてだな」
「はい」
ハワージャは答えた。
「少なくとも十個艦隊では足りません。二十個艦隊は送るべきかと」
「倍か」
「はい。すなわち前線を進み占領していく艦隊と後方を固める艦隊を置きます。そして少しずつ占領していくべきかと」
「ふむ」
アッディーンはそれを聞き腕を組んで考え込んだ。
「閣下、どう思われますか」
「そうだな」
彼は考え続けた。そして口を開いた。
「それでいくか。今回の作戦は二十個艦隊を送ろう」
「ハッ」
ハルージャはそれを聞き頷いた。
「指揮は私が執る。だが今回は後方で執りたい」
「ゲリラへの対策ですね」
「そうだ。普段の戦いならば前線に出るのだが」
ここで渋い顔をした。彼は本来前線で指揮を執るのが好きなのである。だがそれも時と場合による。
「今回は事情が違う。後方から全体を見たい」
「わかりました」
諸将はそれに頷いた。
「ではこれより作戦を開始する」
全てが決まりアッディーンは立ち上がって宣言した。
「第一艦隊から第二十艦隊までは進撃する、そして第二十一艦隊から第三十艦隊はここに残り予備兵力とする。そして外交部には引き続きここで各国との外交交渉に当たってもらいたい。よろしいでしょうか」
「はい」
アッバースは微笑んでそれに頷いた。
「そちらはお任せ下さい」
「はい」
これで全ては整った。後はアッディーンの言葉だけである。
「今回の作戦名をハッティーンとする。それは今から発動される」
「ハッ」
諸将も立ち上がった。そしてアッディーンに顔を向けた。
「ではここに宣言する。ハッティーン作戦、発動!」
「ハッ!」
諸将がそれに敬礼した。こうしてムワッハドとの戦いの火蓋が切って落とされたのであった。
オムダーマン軍はすぐにムワッハドに向けて進撃を開始した。それは普段のアッディーンの用兵とは違い慎重でかつ静かなものであった。
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