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第六部第二章 害虫その八
連合において次の作戦行動が進められている頃サハラ南方ではアッディーンが兵を進めていた。
 まずは隣接しているアイユーブ王国に向けて兵を進めた。これを見たアイユーブは忽ち恐慌状態に陥った。
 彼等にオムダーマンに対抗できる力はなかった。オムダーマンが三十個艦隊を派遣してきているのに対してアイユーブは二個艦隊しかない。戦力差は歴然としていた。
 戦っても勝ち目はなかった。ましてや相手はアッディーンである。完膚なきにまで叩き潰されるのは誰が見ても明らかであった。
 彼等はどうすべきかわからなかった。降伏しても命の保障はない。やはり戦うべきなのか。議会も紛糾したが結論は出ない。そこにオムダーマン外交部から使者がやって来た。
「オムダーマンから?」
 アイユーブの議員、閣僚達はそれに顔を向けた。そしてすぐにその使者を招き入れた。
 使者はアッバースであった。彼はオムダーマン側の提案を持って来たのだ。
 それはアイユーブへの無条件降伏であった。そして王族及び全市民の身の安全を保障するものであった。当然財産も安全が保障されていた。つまりオムダーマンに組み込むということであった。
 アイユーブにとってはどのみち勝ち目はない。それに身の安全が保障されるのならばそれでよかった。一部徹底抗戦を主張する者もいたがそれはごく僅かであった。
 そしてアイユーブはオムダーマンの軍門に降った。すぐにオムダーマン領に編入され王族は一市民となった。だがその財産は保障されアイユーブ市民もオムダーマン市民として公平に迎え入れられた。
 アッディーンは何なくその旧アイユーブ領に兵を進めた。そしてそこを足掛かりとし次の作戦行動に備えた。
「次はどこに兵を進めるかだ」
 だがここでアイユーブ周辺の国々で動きがあった。
 何と数ヶ国がオムダーマンへの帰順を願い出てきたのである。条件としてその安全の保障とオムダーマンの市民権であった。
「またえらく急な動きだな」
 アッディーンはこれには戸惑った。
「いえ、予想された展開ですよ」
 傍らにいたアッバースはにこやかに笑って彼に言った。
「長官」
 アッディーンはそれを受け彼に顔を向けた。
「それは一体どういうことですか」
「はい、アイユーブはこの辺りでは大国でした」
「はい」
 それはアッディーンも把握していた。そしてこの国は言うならば南方への入口であった。侵攻するならばここから攻めるものと当初から決まっている程であった。
「その国を一兵も失うことなく降したとしたらどうなりますか。しかもその際身の安全、今後の権利を完全に保障する」
「他の国々もそれに惹かれますね」
「そういうことです。ですから私は今回の長官のアイユーブ侵攻に賛成したのです」
「そうだったのですか」
 実は作戦前の会議において最初の侵攻対象及び外交交渉の対象としていささか議論があった。外交部の一部がアイユーブの周辺国から外交を展開すべきであると考えていたのだ。
 だがそれに対してあくまでアイユーブからの交渉を主張したのがアッバースであった。丁度アッディーンもアイユーブからの侵攻を考えていただけにこれは両者にとって都合のいいことであった。
「これでまず第一段階は終了ですね」
「はい。橋頭堡を築くことができました。次の段階です」
 アッディーンはそう言いながら机の上に地図を拡げた。それはサハラ南方の地図であった。
「我々はまだ南方の入口に来たに過ぎませんから」
 見ればアイユーブは南方の入口である。そして今回帰参した国々もその入口にあるに過ぎない。
「次の侵攻予定地はここですね」
 アッディーンが指差したのは今彼等が手中に収めた範囲の南にある場所であった。
「ムワッハド連合ですか」
「はい」
 彼は答えた。丁度ここから各地に進める交通の要地であった。
「ここを勢力圏に収めるのが次の作戦です」
「はい。それは私も同じ意見です」
 アッバースは言った。
「ですが中々手強そうですよ」
「それはわかっています」
 ムワッハドは南方においては屈指の強国である。五個艦隊を擁しその地形は南方でも特に複雑である。そして彼等はゲリラ戦に秀でていた。
「私が行きます」
 アッディーンは言った。
「長官自ら」
「はい。十個艦隊を率います。留守はガルシャースプ副司令に任せます」
 彼は既に上級大将に就任していた。そしてアッディーンの副将として揺るぎない信頼を得ていたのだ。
「十個艦隊ですか」
「ええ。外相はその間他国との交渉に当たって下さい。おそらく彼等は我々とムワッハドの戦いの動向を見守っているでしょうが」
「わかりました」
 彼は答えた。
「ではそのようにしましょう」
「お願いします」
 アッディーンはそう言うと席を立った。そして後ろにかけてあるマントを手にとった。
「すぐに軍事会議を開きます。長官も出席をお願いします」
「はい」
 彼はそれを了承した。そして部屋を出ようとしたその時であった。
「入ります」
 誰かが部屋の扉を開けた。
「ん!?」
 するとオムダーマンの制服を着た男が入って来た。
「貴官は」
「ハッ」
 見ればアスランを発つ時に話をしたあの将校である。
「ウスマーン=ハワージャ少将です。この度宇宙艦隊司令部に配属されました。宜しくお願いします」
 彼は敬礼してそう答えた。
「おお、来たのか」
 アッディーンはあの時の話を思い出した。
「それにしても早いな。まさかもう来るとは」
「マナーマ参謀総長が動かしてくれました」
「そうか、総長には礼を言わないとな」
「そうですね。総長らしいと言えばそうですが」
 アッバースもそれに同意した。
「しかし貴官が来てくれると有り難い。早速働いてもらうぞ」
「はい」
「本日付けで宇宙艦隊首席参謀だ。いいな」
「わかりました」
 ハワージャはそれに応え再び敬礼した。
「では会議に行こう。長官、行きましょう」
「はい」
 こうして彼等は次の作戦に向かった。戦雲が南方を支配していた。
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