第二十四部第四章 アッディーンの機略その五
「待ったはなしだぞ」
艦長は得意げに笑って言う。
「いいな」
「わかっています。それでは」
勝負を続ける。暫く続けて途中で止める。そうして仕事に戻る。
艦橋に戻ると当直士官である船務長の敬礼を受ける。返礼しそれから彼に尋ねる。
「何か異常はあったか?」
「今のところは何もありません」
彼はそう報告してきた。
「そうか。ならいいな」
「このまま何もなしならばいいのですがね」
副長は笑いながら述べた。
「オムダーマン軍も国境から去り我が軍がそれを追い」
「そうだな。まあここまでは来ることはあるまい」
「はい」
副長だけでなく他の艦橋スタッフ達もそれに応える。
「まさかな」
そう話していた時であった。突如としてモニターに巨大な艦艇が無数に現われた。
「何っ!?」
「何だ!?」
艦長や副長だけではない。他の艦橋スタッフもそこに異変を見ていた。
「これはオムダーマン軍です」
下士官の一人が言った。
「間違いありません。識別反応が一致しています」
「馬鹿な」
艦長は青い顔をしながらもそれを否定する。
「ここまで来る筈がない。彼等は今国境にいる筈だ」
「ですが」
下士官は言う。
「識別信号は」
「有り得ん」
そこまで聞いては頷くしかなかった。だがそれでもまだ信じられなかった。
「ここに出て来るとは。どういうことなのだ」
「艦長、どうしますか」
呆然としかけたところで周りの者が彼に問うてきた。
「戦いますか?やはり」
「それとも」
「待て」
一旦は焦る彼等を落ち着かせる。艦長としての最低限の務めを果たしていた。
「周りには何隻いるか」
「敵でしょうか味方でしょうか」
「両方だ」
そうレーダー員に返す。
「どうなっているか」
「味方は星系全体で五十隻です」
レーダー員は答えた。若い兵士であった。
「そして敵は」
「うむ」
「一万隻です。一個艦隊に相当します」
「そうか。もうそれだけの数がか」
「どうされますか?」
「囲まれているのだな」
「はい」
レーダー員は答える。
「完全にです」
「そうか。ならばどうしようもない」
呻くような言葉だった。こうなっては答えは一つしかなかった。
「降伏する」
彼は言った。
「いいな」
「降伏ですか」
「生きていればまた何かできる」
艦長はそう述べる。
「そうだな。だから」
「わかりました」
「それでは」
部下達もそれに頷いた。頷くしかなかった。
こうしてこの艦はオムダーマン軍に降伏した。他のパトロールにあたっていた艦も次々と降伏していく。オムダーマン軍は瞬く間にガズニーを包囲していったのであった。
ガズニーの基地司令はイスム=ムワヒド中将である。経補の出身であり実務派として知られている。実戦経験は乏しいが補給やそういったことには定評がある。その為ガズニーを任されたのである。軍人というよりは官僚と言うべき人物であった。
その彼は今司令室でデスクワークにかかっていた。その内容は特に変わったものではなくどの物資をどれだけ調達するとかそういった話であった。補給基地としてはごく普通のものであった。
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