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第六部第二章 害虫その六
「だとするとまずは彼を何とかしないといけませんね。彼が解放軍と結託しているとなると問題は複雑になります」
「しかし証拠がない」
 ディカプリオ以外の元帥達は口惜しそうに言った。
「ですから何も出来ません」
「今のところは」
 八条はそれに対して言った。
「ですが今後はわかりません」
「といいますと」
「国務省に協力を仰ぎますか」
「国務省ですか」
「はい。彼等ならこうしたことは得意でしょうし」
 中央政府内務省のことである。連合内の自治や領域を調整するのがその業務である。連合は各国の自治権が強いがそれでもその調整をする機関として必要なのである。そうした連合の内政を司る機関としては他に厚生省、商務省等が存在する。
 連合中央政府は大統領の下に首相が存在し、そして各省がある。八条が長官を務めるこの国防省の他にカバリエがその巨体でもって統括する外務省、髭のないお洒落なトラブゾンのいる財務省、その他に法務省、厚生省、商務省、内務省、教育省、科学省、環境省、農業省、エネルギー省、労働省、交通省、開拓省、そして大統領府と首相府がある。二府十五省である。連合独特の省として開拓省がある。これは各国の開拓の調整やその星系の事前調査等を担当する。連合にとって極めて重要な省庁である。
 連合は各国の権限が大きく、個人主義的傾向が強い為各省庁の権限は小さい。自由主義に基づき、基本として監督するだけである。流石に国防省は少し違うが。
「あの内相ですか」
 八条は顔を曇らせた。
「骨が折れますね」
「ご愁傷様と言いたいところですが」
 マナドは少し苦笑しながら声をかけた。
「これも長官のお仕事です。頑張って下さい」
「はい」
 八条はそれには力なく答えた。
「これも仕事ですから」
「そういうことです」
 元帥達は口々に言った。八条はそれを溜息を心の中で出しながら聞いていた。
「それはいいですが」
 彼は話を元に戻すことにした。
「とりあえず作戦は長期戦でいくということで宜しいでしょうか」
「はい」
 今度は全員が頷いた。
「それが一番宜しいかと」
「損害も少なくて済みますし」
「決定ですね」
 彼はそれを見て再び頷いた。
「では解放軍掃討作戦は包囲し、彼等の疲弊を待つこととします。そしてその疲弊と合わせて少しずつ包囲の輪を狭めていくこととします。異存はありますか?」
「いえ」
 誰も反対しなかった。戦略として間違いはなかった。
「では事前の準備が全て整い次第兵を動かします。そして彼等を一人残らず捕らえます」
「ハッ」
 元帥達は頷いた。作戦了承の頷きであった。
「作戦の総司令官はマクレーン宇宙艦隊司令長官とします。よろしいですか?」
「はい」
 マクレーンはそれを受けた。
「そして副責任者として劉参謀総長。二人には前線で指揮を執ってもらいます」
「わかりました」
 こうした作戦において宇宙艦隊司令長官及び参謀総長が前線の指揮を執るのは当然であった。彼等は実戦部隊の最高責任者でもあるからだ。
「それではこの会議を終わります。皆さん今回はお疲れ様でした」
「ハッ」
 元帥達は一斉に席を立ち八条に対して敬礼した。これで会議は終わった。

 八条は会議室を出た後自室に戻った。既に木口がそこにいた。
「お疲れ様でした」
 彼は頭を垂れて彼を出迎えた。
「作戦の方針は決まりましたか」
「うん。そちらはね。ただ」
「ただ?」
「内務省と少し話をしなくてはならなくなった。はっきり言って憂鬱だよ」
「憂鬱ですか」
「それ以外に言う言葉がないね」
 彼はあからさまに顔色を暗くさせていた。どうやらかなり嫌なようである。
「どうも私は彼女には好かれていなくてね」
「あの人はいつもそうですよ」
「いつもかな」
「ええ。誰に対しても」
「それも凄いな」
 彼はそれを聞いて溜息混じりに言った。
「私だけじゃなかったのか」
「長官に対しては特に厳しいようですね」
「それがわからないんだ」
 八条は表情を変えた。顰めさせた。
「私は国防省に入るまで彼女とは面識がなかった。はじめて会ったのも私が国防長官となって最初の閣僚会議からだったというのに」
「確かその会議でいきなり言われたのですね」
「うん。何故だか今でもわからない」
「今でもですか」
「当然だよ。会議で口を開いたらいきなり私の態度を批判しだしたんだよ」
「長官のですか?」
 八条は育ちがいいせいか動作に気品が漂っていることで知られている。礼儀作法等で褒められたことはあっても批判されたことはない。
「何でも女性より先に席に座るのは何事かと。同時に座るのがああした会議でのマナーだろう」
 まず大統領が座りそれから閣僚達が一斉に座る。それがマナーであった。
「それで文句をつけてきたのですか」
「うん。それからもことあるごとに。それは知っているだろう?」
「ええ」
「たまらないな。何故私に対しては特にああなのか。全くわからない」
「国の関係ではないでしょうか」
「国の。ああ、確かにね」
 八条はそれを聞いて大いに頷いた。
「一千年以上前から変わらないな、我々の関係は」
「全くです。普通は政権が変わったら変わるものですが」
「それが彼等なのかもな。ライバル視されてもこちらは困るのだが」
「向こうはそうは思ってはおりませんよ」
「やれやれ」
 八条はまた溜息をついた。ふう、と息を出す。
「そう言われても困るな。我々は彼等とは特に利害関係もない。第一同じ連合の一員だというのにいがみ合ってどうするのだ」
「ですから彼等にとってはそういう問題ではないのでしょう」
「貿易赤字や力関係なぞは言っても仕方ないぞ」
「彼等にそれを言っても仕方ないです」
「歴史のこともカタがついている筈だが」
「それはもう宗教のようなものですから」
「余計にわからなくなってきたな。彼等が何故我々をああまで嫌悪するか。おかげで閣僚会議の度に困っているのだが」
「傍目にはカップルの痴話喧嘩に見えるようですよ。長官も彼女も独身ですし」
「悪い冗談だね」
 彼の顔がいよいよ暗くなった。
「向こうもそれを聞いたら本気で怒るだろう。誰がそんなことを言っているんだい?」
「日本スポーツ新聞です」
「あの新聞は一面で堂々と嘘を書く新聞だよ」
 八条は少し笑みを戻した。苦笑ではあったが。
「何かというと宇宙人だの未知の知的生命体だのタレントの有り得ないスキャンダルだの。膨大な資料を綿密なチェックと考証により笑い話を書いているところじゃないか。読むとかなり面白いけれどあの新聞はあくまでその嘘を楽しむ為のものだよ。これは君も知っているだろう」
「長官はあの新聞の最も恐ろしいことをご存知ないようで」
 木口はニヤリ、と笑った。場違いな程自信に満ちた笑いであった。
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