第二十四部第三章 各国の思惑その十二
「それだけではありません」
「といいますと」
「オムダーマンが勝利を収めたとすると衝撃的な話になります」
「衝撃的ですか」
「そうです。それは政治的にも」
「成程」
彼は八条の政治的という言葉を聞いて大いに頷いてきた。
「そういうことですか」
「そうです。連合軍は百三十億」
四兆の膨大な人口がそれを支えている。四兆の人口から見れば百三十億はほんの一握りであるが他の勢力から見ればそれは悪夢のような数である。
「軍事はもう充分ではないのか」
その数を見てこう主張する政治家も多い。数だけ見れば確かにそうなる。戦争は数だ。しかし数だけで全てを賄えるかというとそうでもないのだ。やはり備えが必要なのだ。
「それに胡坐をかいていてはなりません」
八条もそれを言う。
「それをどうにかするには政治的なインパクトが必要なのです」
「それがオムダーマンの勝利ですね」
「そうです。防衛ライン施設を考えるとそれが一番いいのです」
「しかし」
「ええ、ここでしかしがつきます」
八条は今度は苦笑いになってきた。
「連合としてはハサンが勝利を収めるのがベストです。関係も権益もそのままスムーズに継承、拡大されますからね」
「下手な人間が出たならば困りますからね」
今まで連合中央政府や各国の権益をいきなり強奪しようという政治家もサハラには出たことがある。所謂革命外交というものだ。だがそれを実行しようとしたり宣言した政治家はどういうわけか『急に』世を去ってしまうのだ。そこに何があるのかはわからない。しかし幾ら何でも朝起きてみれば死んでいたり妻に刺殺されたり歯を磨いていて倒れ込んだり靴の中に毒が滲み込ませていたりというのは尋常ではない。アラファトやカストロでも生き延びられないであろう何かがあるのではというのが一応の『噂』である。今は流石にそういうことはない。表向きは。
「そうです。ですから」
「ハサンの勝利を祈りたいものです」
「国力ならばハサンは勝利を収めます」
八条は国力を指摘してきた。
「オムダーマンとティムール双方を相手にしても」
「ですね。しかし国力だけではありませんので」
「はい」
話はそこなのであった。それだけで勝てはしないと。八条が先程から言っていることである。
「予断を許しませんね」
「そういえば」
ここでスタッフはまた言う。
「連合はこの戦争には介入しないのですね」
「ええ、一切」
八条は即答してきた。そこには一切の迷いがなかった。
「それは考えていません。誰も」
「そうですね。別にサハラで何があろうとも権益が守られ我々の脅威にならなければ」
「というのが私達の考えですからね」
「ええ」
スタッフも彼の言葉に同意する。連合にとっては結局はそうなのだ。サハラで何があろうと基本的には不介入なのである。これは一千年の間不変であり今でもそうである。連合にとってはサハラは化外の地である。何があろうとも構わないというのが考えなのである。
「サハラはサハラで、ということです」
「しかし備えはしておくと」
「備えさせてくれればいいのですが」
「どうなるでしょうか」
「それはやはり彼等次第です」
結局はそれであった。
「ある程度は受動的になっていますね。彼等が強ければ備えられますが」
弱い相手には誰も備えはしない。これは政治の世界でもスポーツの世界でも同じことだ。連合のとあるチームの監督は弱いチームにこそ徹底的に勝てと言っている程である。
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