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第六部第二章 害虫その五
「それがこの地形に合っているのです。大艦隊はこの中では容易に展開できません」
「例え百個艦隊でも」
「はい。恐れながら」
 八条にも臆することなく答えた。その端正な顔は彫刻の様に動かない。
「しかしそれ位の規模でないと彼等を討つこともできないのは事実であると考えます」
 ディカプリオはここで言った。
「彼等は強力です。その操艦技術は極めて高いものがあります。そして戦い方もこの地形に適したものです」
「少兵では相手になれず、多兵では戦えず、ですか。難しいですね」
 八条はそれを聞いて言った。
「ですがその小規模で行動する艦隊ですが」
「はい」
「我々もそれを採用するべきだと考えますが。今回は」
「我々もですか」
 元帥達はそれを聞いて声をあげた。
「はい。戦艦、空母を中心に置き巡洋艦、護衛艦、駆逐艦でチームを編成しまして。そして砲艦やミサイル艦はアステロイドの外に配置します」
 彼は言葉を続けた。
「そして主力部隊の後方にはパトロール艦を展開させます。そうすれば後方を脅かされることもありません」
「成程」
 彼等はそれを聞いて頷いた。
「そしてパトロールには高速戦艦等も使います。機動力を活かして早急に対応がとれるように」
「慎重ですな」
 彼等はそれを聞いて言った。
「その円の外から四方八方から徐々に進めていこうと考えています。こうすれば彼等を逃がすこともありません」
「そして追い詰めていくのですね」
「はい。かなり大規模な包囲作戦を考えています」
 八条はここではじめて包囲を口にした。
「この際問題となるのは後方の連絡及び補給です」
 そう言いながらコアトルへ目を見た。
「後方支持部長」
「はい」
 コアトルはそれに答えた。
「それについてお考えはありますか」
「はい」
 かれは即答した。
「本来ならば補給艦や輸送艦を使いたいところですがこれは今回は困難であります」
「地形のせいですか」
「はい。これが問題です」
 コアトルは眉間に皺を寄せた。
「何しろ我が軍の艦艇は大型です。とりわけ後方の艦艇は」
「揚陸艦もですね」
「ええ。敵の本拠地への降下の際も問題になるでしょうが」
「その前の補給でかなりの困難が予想されると」
「はい。おそらく小規模ならば航行も可能ですが」
「それだと敵に狙われる」
「そうです。何しろ地の利は彼等にありますから」
 コアトルの不安はそれであった。彼は補給の途絶を何よりも危惧していたのだ。そして問題はそれで終わりではなかった。
「他にも問題はありますね」
 今度はマクレーンが口を開いた。
「他にも」
 八条は彼に顔を向けた。
「そうです。この地形を利用して彼等が機雷を撒くことです。これはかなり厄介です」
「それは充分考えられますな。これは掃海艇を使うしかありませんが」
 劉も口を開いた。
「やはりそこを狙われると」
「はい」
 二人は八条に答えた。
「無駄に損害を出す怖れがあります。それだけはあってはなりません」
「そうです。今後の我が軍の在り方にも大きく関わってきますし」
 マクレーンと劉はとあることに指摘した。これは円業軍が抱える宿唖とも言うべき問題であった。
 それは戦死者の増加により志願者の減少である。連合軍はその為に兵器の防御や生存能力を十二分に考慮しているのである。戦死者が多い軍隊に志願する者なぞいないからだ。
 これは彼等にとって最も恐ろしいことであった。下手をすると軍そのものの存在にも関わるものであった。
「包囲をしたところで彼等の運命はもう決まったものです。後は日干しになるのを待てばよいかと」
「私も参謀総長の御意見に賛同します」
 劉とマクレーンは言った。コアトルもそれに同意した。
「私もです。囲んでおけばいずれ彼等は自滅するでしょう。これも戦略かと」
「そうですね。それも確かに」
 所謂兵糧攻めである。その有効性がわからぬ八条ではなかった。
 彼はそれに傾いた。そして頷こうとしたその時であった。
「ただこれを何かという外野が出てきそうですね」
 ふとマナドが思い出したように言った。
「例えば市民団体とか」
「それもありますが今一番厄介なのが一人いますな」
 バールがそう言いながら顔を顰めさせた。
「残念なことに長官の御国の者ですが」
「ああ、彼ですね」
 八条おその整った顔を顰めさせた。
「あの男は何かと黒い噂が絶えませんが」
「しかし尻尾は出さない。中々」
 当然山口のことである。彼は今回の作戦についてことあるごとに反対の立場をとっていたのだ。
「しかし妙なのです」
 ここでバールがまた言った。
「何故彼はあそこまで今回の作戦に反対するのですか?確か金融業である筈なのに」
「裏で繋がっているという噂があります」
 ディカプリオがそれに答えた。
「軍の調査外ですので何もわかりませんがそういう噂は私も聞いております」
「ふむ」
 八条はそれを聞いて考え込んだ。口に左手をあてている。
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