第二十三部第二章 権益その十八
「さて、戦争をはじめる前でもそれは同じだが」
「備えも」
「色々とやることがあるな」
また誰かがぼやいた。
「あれこれと次から次へと」
「平和でもな」
「まあそれが世の中ってやつなんだろうな」
達観したような言葉が出て来た。
「何かとな。色々なことがあって」
「そんなものかね」
「面倒だよな」
「面倒だからこそ仕事がある。俺達の仕事がな」
マスコミ関係者らしい言葉もあった。
「そういうものだろ」
「まあそうだ」
「それを飯の種にしているのが俺達だ」
自嘲めかした様子になってきた。かつてはマスコミといえば絶対権力者であったがこの時代では違う。それでもかなり腐敗し易い世界であり尚且つ自浄能力に乏しいのは残念ながら変わりがない。時に二十世紀型の独裁者を彷彿とさせるおぞましい醜悪な怪物が出るのもこの世界の問題点である。その最悪の雛形はやはり二十世紀の日本であった。この時代の日本程マスコミの問題点を語るうえでの格好の材料はない。
「何か卑しいねえ」
「それでも気品を持って仕事をしないとな」
だが少なくともここにいる者達はある程度以上の品性と分別を備えていた。それが救いであった。
「そうだよな。全く」
「エレガントにね」
「そりゃ意味が違う」
冗談に突込みが入った。
「おっと、そうか」
「そうだよ。しかしまあ」
ここで自嘲とも取れる言葉が出て来た。
「俺達ってのは本質はやっぱり卑しいのかね」
「どうかね、それは」
その言葉には少し答えにくいものがあった。
「人の尻追っかけてそれだからな」
「いや、それは違うな」
しかしこれにも異議が出て来た。
「違うのか?」
「違うな。確かにイエローペーパーはそうだが」
イエローペーパーでも良質なものと悪質なものがあるのは言うまでもない。悪質なものになると独裁国家のプロパガンダのようになってしまっている。良質なものはやはりそれなりの品性があるのだ。
「俺達は真実を報道するのが仕事だ」
「ああ」
言うまでもないマスメディアの看板文句だがこれを実行するには非常に困難が伴う。
「嘘を書くのが仕事じゃない」
「嘘しか書かないのもいるがな」
それが問題なのである。マスコミというものは一歩間違えればこの世で最も醜悪な存在になってしまう。そういうことなのである。
「そうだ。そうなってはならない。それに」
「それに?」
「報道の自由はあるが報道の責任もあるな」
「そうだな」
前者は実に都合よく常に引き合いに出されるが後者は実に都合よく忘れられる。日本のとある偉大な学者はこう言い残している。言論の責任を問うては言論の自由は成り立たないと。この言葉を言った人物は共産主義華やかなりし頃は論戦相手にその言葉を言うと革命が起これば御前は革命裁判にかけられるぞと恫喝したこともある。なお彼は民主主義を標榜する学者であった。悪質なブラックユーモアかと思えるような話だが事実である。これこそが共産主義の本質であり戦後の日本の学者や知識人の多くの正体であったのだ。悪いジョークは続くもので彼は一時国会議員でもあった。怪奇現象と言うべきであろうか。
「それを忘れるとな」
「そうだな」
「人の人生を潰しかねないからな」
「それでも今はそれはかなりましになっているだろう」
一人が言った。
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