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第六部第一章 星河の海その三
 オムダーマンが南方への兵を進めている頃北方では別の動きがあった。
 彼等は今大規模な軍事訓練を行っていた。場所は首都星系から近いある宙域である。
 そこには北方の主な将官が集まっていた。当然そこにはシャイターンもいる。
 彼等はそれを軍事用宇宙ステーションから見ていた。特にシャイターンは最もよい場所から見ていた。
「ふむ」
 彼はその訓練の光景を見て一言言った。
「悪くはないな」
 見れば各艦の動きも流れもスムーズである。そしてその攻撃も迅速である。
「だが」
 しかしシャイターンはその顔に不満の色を宿らせた。
「まだ足りないな」
「足りないといいますよ」
 傍らにいたハルシークが問うた。
「うむ。兵士個人個人の動きはいい」
「ハッ」
「それは艦の動きでわかる」
「問題はそこではないと」
「そうだ。一隻一隻の動きはいいのだが全体の動きが悪い」
「そうでしょうか」
 ハルシークにはそうは思えなかった。だがシャイターンは違う考えであった。
「艦隊運動がまだ未熟だ。攻撃に移る動作もやや鈍い。指揮官に問題があるとも思えないな」
「では何でしょうか」
「通信だな。旧式化していないか確かめてくれ」
「わかりました」
 ハルシークはその言葉に敬礼で答えた。
「通信がなくては戦争にはならない。旧式化していたならばすぐに換装するようにな」
「ハッ」
 彼は再び答えた。そして後ろに下がった。
 シャイターンは訓練を見守り続けていた。そして一隻一隻の動きを緻密に見ていた。
「連度は上がっているな」
 彼はそれは認めていた。
「だがまだ足りない」
 しかしそれで満足してはいなかった。
「これからの戦いにおいては強い兵でなければならない。このサハラを手中にする為にはな。そして」
 ここで北を見た。
「彼等をこの地から追い出す為にもな。まずはこのサハラをサハラの者だけのものとしなければならない」
 彼はあくまで総督府に対して激しい敵意を抱いていた。それはサハラの者ならば当然であった。
 彼は艦隊に目を戻した。陣を組んでいる。
 そして互いに攻撃を仕掛ける動作に入る。やはりその動きは彼にとってみればやや緩慢だ。
「やはり通信だろうな」
 彼はそれを見て呟いた。そしてそれは的中していた。
 この訓練の後北方はすぐに全艦の通信機能を換装することになる。シャイターンの目は確かであったのだ。
 やがて訓練は終わった。彼は首都の自身の官邸に戻った。
「今後の予定はどうなっている」
 彼は旗艦イズライールの司令室でハルシークに問うた。
「ハッ」
 彼はそれに敬礼をした後で答えた。
「まずはこの度のこの連合国家の正式名称を決める会議となります」
「国名か」
「はい、今までは単に北方諸国連合と呼ばれていましたがそれでは収まりが悪いかと」
「そうだな」
 彼はそれに同意した。
「それについて閣下のお考えはどうでしょうか」
 この国では主席の発言権が大きい。シャイターン自身がそうしたのであるがこれは隣にエウロパという強大な勢力が控えている為の必要な処置であると説明させていた。実際にそうであったがシャイターン自身が己が政策を実行し易いようにという意図もあった。
「私の考えは既に決まっている」
 彼はそれに対して答えた。
「それはどうしたものでしょうか」
 ハルシークは問うた。
「ティムール連合というのはどうだ」
「ティムール連合」
 ティムールとはかってサハラを席巻した一大勢力の名将の名である。この北方出身で知られている。
「あの英雄の名を冠する。悪くないと思うが」
「そうですね」
 ハルシークはそれについて反論はなかった。
「ではそれを会議で最初に伝えますか」
「そうするように頼む」
「わかりました」
 ハルシークは頷いた。これが北方の正式名称となった。
「予定はそれだけか」
 シャイターンはここでまた問うた。
「いえ、あとは今後の戦略についてですが」
「それはもう大体決めてある」
 シャイターンは言った。
「まずは勢力を蓄える。今主な敵は総督府だ」
「総督府ですか」
「そうだ、何か問題はあるか」
「問題といえば」
 ハルシークはそれに考える顔をした。
「やはりハサンとオムダーマンでしょうか」
「あの二国か」
「はい。とりわけオムダーマンは動きが活発ですし」
 それは彼等にとっても頭に入れておくべきことであった。
「オムダーマンは今南方に進出しゆとしている。問題はないと思うが」
 こえはシャイターンの耳にも入っていた。
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