ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第五部第五章 次なる戦いの幕開けその四
「こうした理由から北への進出も止めるべきであると考えます」
「わかった」
 ブワイフはそれを聞いて言った。
「では北方への進出もない」
 そしてこう言った。これで北への進出もなくなった。
「それで残る南方ですが」
 アッディーンはそれを受けて再び説明を開始した。
「今南方は多くの小勢力に分かれております。個々の力は我が国と比べて極めて脆弱です」
「それを各個撃破していくということか」
 アジュラーンが言った。
「それが基本ですがむしろ他の方法で各国を取り込んでいくべきかと存じます」
「というと」
 アジュラーンは不思議そうに眉を動かした。
「それがこの会議に外相をお招きした理由です」
 アッディーンはそう言ってアッバースに顔を向けた。
「私ですか」
 当の本人はいささかキョトンとした仕草をしていた。だがそれはよく見るとあくまで仕草だけであった。少なくともアッディーンはそれを見抜いていた。
「はい」
「今回の作戦は外交の駆け引きが大きく関わることが予想されますので」
「何故ですか」
 アッバースはあえて問うた。
「南方は小国が乱立しているからです。そうした地域に進出するには各国の協調を防ぎ各個に併呑していくことが必要だからです」
「軍の動きと合わせてですね」
「はい。当然武力による侵攻も必要ですがそれだけでは損害も無闇に大きくなります。それを防ぎたいのです」
「成程」
 アッバースはここで頷いた。
「時には武力で、時には外交戦略で南方の各国を併合していくわけですね。一つずつゆっくりと」
「その通りです」
 アッディーンは答えた。
「それには外交部の力が何としても必要なのです。ご協力して頂けますか」
「そうですな」
 アッバースは暫し考え込んだ。だがその答えはもう決まっていた。
「わかりました。外交部は今回の作戦において軍部への協力を約束しましょう」
 彼は微笑んで答えた。
「有り難うございます」
 アッディーンも礼を返した。これで次の作戦の進路は決まった。
「大統領」
 ここでハラーイブがブワイフに顔を向けた。
「そろそろ決裁をとるべきだと思うのですが」
「そうだな」
 ブワイフはその言葉に対して頷いた。
「諸君」
 そして会議に出席する者全てに対して言った。
「宇宙艦隊司令長官の提案した今回の作戦について議決をとりたい。賛成ならが手を挙げてくれ」
「わかりました」
 一同は答えた。こうして裁決がはじまった。
 まずはアッディーンが手を挙げた。これは当然であった。
 続いてアジュラーンとマナーマも。彼等はアッディーンの提案は戦略のうえからも当然と考えていた。
 国防相であるシカールもだ。彼は元々南進論であったから当然だ。
 そして協力を約束したアッバースも。これで絶対的な数は確保した。
「だがまだ決まったわけではない」
 アッディーンは残る二人を見た。
 首相であるハラーイブと大統領であるブワイフ。特にハラーイブの動向を注視した。
「どう判断するかな」
 それが問題であった。彼女はオムダーマンきっての切れ者である。その彼女が異議を唱えれば話はまた大きく変わる可能性がある。
 彼女が動いた。その手がゆっくりと動く。
 手を挙げた。何と賛成である。
「長官の話された提案に賛同します」
 彼女はその硬質の声で言った。どうやら彼女は元々アッディーンの提案した作戦に同意だったようである。
(だからあの時俺に話をさせたのか)
 彼はこの時ようやくそれを悟った。
(だが首相という立場上語ることはできない。それで俺に話させる)
 彼女の深謀遠慮について思いを馳せた。
(伊達に鉄の女と呼ばれているわけではないか)
 彼女はどうも苦手だがその能力は認めるとこりである。アッディーンは一人心の中で頷いた。
「大統領」
 彼女は彼のその様な考えを知ってか知らずかブワイフに顔を向けた。
「大統領はどうお考えですか」
「私か」
 彼はいささか鷹揚ともとれる声で答えた。
「はい。残るは大統領だけですが」
「うん。もう決まっているよ」
 彼は微笑んで答えた。
「賛成だ。南方の勢力を併合して力をつけるのが最善の道だな」
 彼は手を挙げた。こうして全員が賛成した。
「これで決まりですね」
 ハラーイブは場を見渡して言った。
「では今回の作戦を了承したとみなします。以後この作戦の責任者をアッディーン宇宙歓待司令長官とすることで宜しいでしょうか」
「はい」
 一同はそれに答えた。
「ではこれで議決しました。長官は以後アッバース外相と協議のうえ作戦の細部を決定して大統領府及び首相府、そして国防省に概要をお送り下さい」
「わかりました」
 アッディーンは答えた。これで会議は終了した。
 会議が終わり彼は一人自分の執務室でくつろいでいた。束の間の休息である。
「これからすぐに忙しくなるな」
 それはわかっていた。だから今のうちにくつろいでおきたかった。
「アッバース外相とのお話していかなくてはならないし本部長や参謀総長とも色々打ち合わせがある。国防相にもお話しておかなければならない部分があるな」
 これまでは精々一方面軍の司令官に過ぎなかった。命令に従うだけといえばそうなる。だが今は違った。
 宇宙艦隊司令長官である。命令する立場なのだ。将校は本来そうしたものであるが本当に命令する立場というのは限られているものなのだ。
「元帥ともなれば当然だが」
 オムダーマン軍に三人しかいない階級である。言うまでもなく軍を動かす立場にある。
 そうした役職に就くとこれまでにはない仕事が出来る。少なくとも艦隊司令や司令官の比ではない。
「デスクワークにも慣れてきたからいいか」
 今ではそう割り切って考える時もある。そして一つずつ仕事をこなしていく。
「さてと」
 予定表を見る。とりあえず今日は何もない。
「早いうちに帰ることができるのも今のうちか。もっとも官舎に帰ってもすることもないが」
 彼は基本的にあまり趣味を持たないタイプである。読書とスポーツはラクロスや乗馬を好むがそれ以外はこれといってない。
 本は何処でも読める。歴史関係の本が好きだ。乗馬の他にも身体を動かすことは好きだが格闘技はあまりしない。軍にいるならば最低限のものは身に着ける。彼はボクシングをする。だがその他はこれといってしない。
「連合は何やら色々とあるようだがな」
 やはりここでも連合の多様性が出るのだ。連合軍の格闘技は柔道に空手、古武術、拳法、マーシャルアーツ、ムエタイ等と多岐に渡る。そのスポーツも多い。だがアッディーンはそれをさして羨ましいとも思わない。
「やるものは一つだ。それができればいい」
 彼にとってはそれは乗馬でありラクロスであった。ポロもすることはあるがあくまで乗馬の一貫であった。
 他には軍人の義務としてのトレーニングだ。これは毎日やらされることなのでまた別だ。
 音楽も聴かないわけではない。だがあまり激しい曲は苦手だ。
「結局俺は戦場にいる時が最も楽しいのかもな」
 そう思うと自然に頬笑みが出た。どうやら自分は根っからの軍人であるようだ。
「それもよいか」
 彼はそうしたことに不満はなかった。むしろ満足している。
「俺はあくまで軍人だ。それ以外の何者でもない」
 それでいいと思っている。だから不満もないのだ。
 だがこれからはそれだけでは駄目なのもわかっていた。やはり元帥となると責務が違う。
 政治的な判断もこれまでより要求される。将校には政治感覚も要求され、それは士官候補生どころか幼年学校の頃から言われ同時に広い視野も要求されるがどうしても軍人にとっては政治感覚を身に着けることは難しい問題であった。 
 やはり軍人であり専門職なのだ。そこから抜け出ることは非常に難しい。また軍人である以上政治に介入することも憚れる。だが意見を具申しなくてはならないのも事実だから話は余計複雑なのである。
 サハラにおいては文民統制を採っていない国も多い。だがオムダーマンはそれには比較的厳格である。
「それが本当に厄介だな」
 先程の会議のように会議にも参加することができ裁決にも加わることができる。だがそれも憚れるところがあるし具申しなくてはならないという矛盾もある。
 それが極めて難しい問題であった。その為アッディーンも何かと考えることが多いのである。
「軍人としての限界か」
 最近はそれについて思うこともある。
 やはり軍人としての権限で何かをするには限度があった。元帥になりそれがようやくわかってきた。
「政治家とはやはり違うな」
 そうであった。首相や国防大臣の権限とはやはり比較にならない。今回も説明にかなりの気力を割くこととなった。
 これ以上の作戦や戦略の提案には限度がある。彼は軍人としてこのまま終えるのに疑問を感じだしていたのだ。
「どうするべきか」
 軍人を辞して政界に転身するか。確かにそれはいい。
 だが問題があった。彼はあくまで軍人であり政治家となるには人脈がなかったのだ。
 これでは選挙に勝つことができてもそれで終わりである。ただの議員では何の意味もないのだ。
「やはりこのまま軍人で留まるべきか」
 そうも考える。考えているとドアをノックする音が聞こえてきた。
「どうぞ」
 彼は入るように言った。すると一人の女性が入って来た。
「ここで休んでいたのね」
 それはハラーイブであった。
「首相」
 アッディーンは彼女の姿を認めて思わず立った。そして敬礼をした。
「どうしてここに」
「一つお話したいことがありまして」
「お話」
 アッディーンはその言葉に目を向けた。
「はい。長官に内密にお話したいことがあるのですが」
「内密にですか」
 アッディーンはその言葉と口調にただならぬものを感じた。そしてすぐに机の上にあるスイッチでドアの鍵を閉めた。
「これでよし」
 アッディーンはドアがロックされたのを確認して言った。
「どうぞ」
 彼は続いてハラーイブに席を勧めた。
「どうも」
 彼女はそれに従い席に着いた。アッディーンと向かいになるように座った。
「それでですね」
 座ったのを確認すると言葉をかけた。
「そのお話とは何でしょうか」
「はい」
 ここでハラーイブの目が光った。
「長官は南方での作戦が終わったらどうなさるおつもりですか」
 彼女はそう問うてきた。
「ははは、何を言われるかと思えば」
 アッディーンはそれには笑って言葉を返した。
「何も変わりませんよ。もしかすると今のとは別の役に就くかも知れませんが」
「そうですか」
 彼女はここで一息置いた。
「では軍人を続けられるのですね」
(ムッ)
 彼はそれを聞き目を一瞬だけだが光らせた。
「それはどういう意味ですか」
 そして逆にこちらから尋ね返した。
「政界に進出されるおつもりはありませんか」
「政界にですか」
 丁度今さっきまで考えていたことだ。彼はそれを聞き内心驚きを隠せないでいた。
(まさかそれを尋ねてくるとはな)
 それだけでも驚くべきことであった。だが彼女はさらに言った。
「長官には我が内閣で重要なポストに就いて頂きたいのですが」
「ご冗談を」
 だが彼はまたそれを笑って否定した。
「私はその様な器ではありません。戦うだけが取り得の男ですよ」
「いえ」
 だがハラーイブはそれを否定した。
「長官にはまだまだ秘められたお力があります。それはまだ使われていないだけです」
「秘められた力」
「そうです。先程の会議ですが」
「はい」
「南方進出の戦略は軍人としての戦略ではありませんでした。高度に政治的なセンスも感じられる戦略でした」
「まさか。買い被り過ぎですよ」
 彼は笑って言った。
「私はただ最も効果があるであろう方法を主張したまでです」
「それです」
 ハラーイブはそれを指摘した。
「そこで武力のみならず外交まで駆使した戦略をそうそう主張できるものではありません。その能力をこのオムダーマンの為により効果的に使いたいとは思いませんか」
「オムダーマンの為に」
「ひてはサハラの為にです」
「サハラの」
 それを聞いたアッディーンの顔が考えるものになった。やはりサハラの者としてそれを出されると心が動く。
「無論ご返事は今でなくともいいです」
 彼女は静かな、低い声で言った。
「ですが何れはお答えを頂きたいです」
「そうですか」
 彼はそれを聞いてまた考える顔をした。
「長官には国防相をまず用意しましょう」
「しかしそれは」
「御安心を。シカール長官は副首相になって頂くので。それについては御心配は無用です」
 オムダーマンにおいては副首相は常に置かれるものではない。時と場合により置かれることもあるポストだ。
「いや」
 だがここでハラーイブは考え直した。
「長官に副首相になって頂くのも悪くはありませんね」 
 ここで口元が微かに笑ったように感じられた。
「まさか、またそんな」
「私は冗談を言わないことはご存知の筈ですが」
 一転して強い声になった。
「長官には是非我が国の為に働いて頂きたいのです。そしてこのサハラの為にも」
 アッディーンは答えることができなかった。確かに彼女は冗談なぞ言わない。そしてその目が今の言葉が本気であることを教えていた。
「よろしいでしょうか」
「・・・・・・・・・」
 彼は考えた。だが到底即答できるものではなかった。
「考える時間を下さい」
 そう言うだけで一杯であった。ハラーイブはそれを聞くと頷いた。
「わかりました」
 そして席を立った。
「それでは失礼しました」
「はい」
 こうして彼女は部屋を後にした。アッディーンは一人部屋に残った。
「まさか首相から声がかかるとはな」
 彼は笑ってはいなかった。その顔は悩むものであった。
「どうするべきか」
 深く考えてみる。だが結論は出ない。
 いざ話が出て来るとやはり考えてしまう。軍にも愛着はある。
「じっくり考えるしかないか」
 彼にしては珍しい結論であった。だがそうするしかないのも事実であった。
「それに今は作戦の方が重要だ」 
 そうであった。まずはそれを何とかしないとは話にもならない。
「よし」
 彼は外交部に電話をかけた。思うと即座に動く。
「宇宙艦隊司令長官だが」
 そしてすぐに話を切り出した。こうして作戦がはじまった。



第五部   完


               2004・10・21
人気サイトランキング site_access.php?citi_id=254078182&size=200小説・詩ランキングcont_access.php?citi_cont_id=343008101&size=200


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。