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第二十二部第五章 舞台は整いその四
「無条件でといくのはどうかと思います」
「それも交渉の駒とするのか」
「それでどうでしょうか」
 あらためてアッディーンに問うた。
「利権を認めるかわりに見返りも」
「それは確かにいい考えだろう」
 アッディーンはまずはそれを認めた。
「悪くはない」
「それでは」
「しかしだ」
 だが彼はここで言った。
「何か?」
「それで連合やマウリアと不必要なトラブルを作ったり悪感情を抱かせてはならない」
 冷静な声でそう述べた。
「それはどう思うか」
「ふうむ」
 シンダントはその言葉を聞いてまた考える顔になった。
「確かに」
「それでトラブルを抱えては元も子もないな」
「はい」
 これはすぐにわかった。
「条件等はつけなくていい」
「わかりました」
 アッディーンもまた連合の力を警戒していたのである。その力はやはりサハラを圧倒している。それを知っているからこそ彼等に対して無闇な行動は避けるべきとしているのである。
「それでもだ」
「それでも?」
「侮られてはいけない」
 彼はこうも付け加えた。
「それはわかるな」
「ええ」
 これもまた外交においては常識であった。外交において侮られればその相手国が何処までも過剰に要求してくるからだ。これもまた外交のポイントなのである。
 かって二十世紀後半の日本において第二次世界大戦のことを反省し謝罪、賠償するべきという『良識』が出て来たことがある。その考えが政治や外交にまで影響を及ぼし国益を大きく損なったことがある。それどころか国益を考えてはいけないという風潮さえあった。日本は悪だったのだからと。
 だが戦争はどの国も行うものでありそれに伴う戦争犯罪も同じだ。エウロパとの戦争においても連合もエウロパも僅かだがそれを犯す不心得者がいて処罰されている。問題はそれの検証と対処であり検証の結果当時の日本はその点に関しては比較的まともであったことがわかった。ナチス=ドイツがあったドイツとの比較がよく行われたが何を言わんやであった。
 ナチスの問題点はその行為が『戦争犯罪とは別の』行為であったことが何よりの問題だったのである。その悪は否定出来ないものであったのだ。当然戦争犯罪もありそれは日本の比ではない。日本は戦争犯罪を犯しただけなのだ。こうした大きな差があるのだ。
 調べていくと面白いことがわかってきた。謝罪しろ賠償しろだの言っている者達の素顔だ。彼等は特定の国と結び、かつてはナチスと同じ全体主義国家のソ連を崇拝していた者達だったのだ。彼等は国家を崩壊に導き日本を共産主義国家にしようと目論んでいたとさえ言われている。つまり国を売ろうとしていたのだ。これがはっきりした時謝罪主義なるものは急激に廃れていった。良識という仮面が剥がれその下の下劣な素顔が露わになった時全てが終わる。その素顔が醜ければ醜い程それを見た者の怒りは大きくなる。それが世の中だ。彼等は今歴史に永遠にその醜悪な心と名前を刻み込まれている。自業自得である。
「確かに連合は強大だが」
「はい」
「侮られてはならない」
 アッディーンはこう主張する。
「侮られればそれで終わりだ」
「そうですね」
 シンダントもそれはよくわかっている。
「だからこそだ。侮られない為にも今の利権以上のものは与えない」
「与えませんか」
「連合は物質文明だな」
「ええ」
「すなわち物を追い求める。つまりだ」
「我々のものであっても」
 そう語るシンダントの顔に影がさした。
「そう仰りたいのですね」
「その通りだ。彼等は必要とあらば狙ってくる」
 アッディーンは言う。
「隙あらばな」
「特に彼等ですか」
 シンダントの目が剣呑に光った。
「アメリカ、中国、そしてロシア」
 彼等のことはサハラにおいてもよく知られている。連合における主導的な大国でありその横暴さでもってよく知られているのである。
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