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第二十二部第五章 舞台は整いその三
「世界が違うのは事実だ」
 またそれを述べた。
「だからな」
「はあ」
「その割合や形式が違うのは当然だ。だが信仰は確かにある」
「無神論者ではないのですね」
「いることはいるがごく少数派だな」
 アッディーンはこうも言った。なおサハラにおいては無神論者というのはことの他疑われ、嫌われる存在である。元々イスラムというのは他の宗教を信じている者は地獄に落ちるとされているがそれでも他の宗教を認めている。昔からジズヤさえ払えば信仰は認められた。ここで重要なのは他の宗教を認めると共にムスリムになった場合の特典を提示していたということである。同時にジズヤもなくなる。そうした柔軟な布教がイスラムを広めたのである。
 他の宗教であっても信じるものがあればそれが良心の拠り所になっていると考えているのだ。だがそれがない者は何か。それがどの様な悪事を行っても全く平気な者であると。そう認識されるのだ。
「そうした者は」
「ならいいのですが」 
 それを聞いてまずは安心した。
「しかしですね」
「まあそれは今ここで言っても仕方ない」
 話が極端に長くなりそうなので止めさせた。
「それでも信仰はあるということは覚えておけ」
「わかりました」
 シンダントはアッディーンのその言葉に頷いた。
「そういうことでしたら」
「彼等の価値観が我々のそれと大きく違うのは確かだしな」
「それがどう影響するでしょうか」
「今回にか」
「はい」
 シンダントは答えた。
「どうにも中央政府と各国が活発に利権の維持に動き回っているのでその姿を見ているだけで神経がそちらに行ってしまって」
 わかりにくいと述べる。
「どうにも」
「落ち着いて見ればいい」
 しかしアッディーンはここでこう言った。
「そうすればわかる」
「わかるのですか」
「そうだ。よく見ておくのだ」
 そしてまた言う。
「よくな。彼等がどう動いているか」
「法則か何かがありますか?」
「それを法則と言えばそうなるかな」
 シンダントのその言葉に考える目を見せてきた。
「それは否定しない」
「それはやっぱり利に敏感ということですね」
「そうだ。彼等は利権は全てを守ろうとする」
 アッディーンは連合の者達のそうした性質を見事なまでに見抜いていた。そのうえでの言葉であった。
「それが出来ない場合は最小限の犠牲で何としても済ませようとするな」
「はあ」
「現に国境からはもう人も設備も退きだしている」
「そのことは報告があがっています」
 シンダントはそれを述べた。
「既に連合各国もマウリアもその人員と設備を辺境地域からは撤収させていると」
「危険を察しているからな」
「そうでしょうね」
「さて」
 ここでまた考える目を見せてきた。
「我々としてはどうするべきか」
「何かお考えが?」
「私としては利権はそのまま認めるつもりだと思う」
 それがアッディーンの考えであった。
「どうか」
「認められるのですか」
「貴官は違うのか?」
「いえ」
 だがシンダントもそれは同じ考えであった。
「私も基本的にはそうです」
「そうか」
 アッディーンはその言葉を聞いて納得した顔になった。現実にそれしかないのである。連合とサハラではあまりにも力の差があるからだ。それに利権と言ってもかっての帝国主義時代のようなものではなくあくまでビジネスの提携である。認めても何も問題はない種類のものばかりなのだ。
「ですが」
「ですが。何だ?」
 シンダントの声の色が変わったのに気付いた。
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