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第五部第五章 次なる戦いの幕開けその二
「確か軍事費の決定の際にはモハマド氏も賛成されていましたね」
「確かに」
 モハマドはそれは認めた。
「指揮艦を建造するというのもご存知だった筈ですが」
「それも認めます」
 どうやら彼はそれについては認めるらしい。
「それでもあの艦は好ましいとは思っておりません」
「何故ですか」
「確かに今は建造するだけの費用はクリアーしました。ですがこれからあの艦を維持するのにもかなりの費用がかかりますし果たしてそれだけの費用に見合うだけの役割が果せるか。それが疑問なのです」
「必要か不要か、それとは別の意味でですね」
「そうです」
 彼は答えた。
「兵器も艦艇もすべからくそれを考えなければなりません」
 彼も軍事について知らないわけではない。むしろかなり詳しい方と言ってよいかも知れない。だからこそ今ティアマト級について自説を主張しているのである。
「あれだけ大きいと狙いを定められ易い。指揮艦を潰されては話にもならないでしょう」
「確かに」
 皆それに対しては頷いた。
「あの様に巨大な艦は不要なのです。それよりも各艦の充実に費用を当てる方が宜しいのではないでしょうか」
 彼の意見はそうしたティアマト級不要論であった。これはすぐに連合全土に流れあの巨艦についての議論が為されるようになった。
「あの戦艦は使えるのか」
 そうした議論が主流であった。だが中には他のものもあった。
「維持費は大丈夫か」
 だがこれは国防省の発表ですぐに消えた。既にそれは考慮に入れられていたのである。
 だが役に立つかどうかという議論は続いた。流石にあそこまでの巨艦だと防御も難しいだろう。揚陸艦で内部に突入すればすぐに陥とすことができるのではないか、いやそれはあの巨艦の装備の前に防がれるだろうと多くの議論が飛び交かった。だが結論は出なかった。
 結局この艦はまだ実戦に投入されていないのである。ようやく各艦隊に配備されだしたところであった。これはどの艦も同じであったがやはりこの巨艦はかなりの注目を浴びていた。
「話題になっているようね」
 伊藤は電話で八条にこの艦について話をしていた。
「ええ、まあこれは予想通りです」
 八条にとってはこれは予想されたことであった。そして歓迎すべきことでもあった。
「ここまで議論が為されているとは嬉しいですね」
「あら、どうして」
 伊藤はそれに対して問うた。
「いえ、ここから何かと改善策が考えられますから」
「ふふふ、成程ね」
 電話越しであるが笑っているのがわかった。
 今二人は超高速通信の電話で話をしている。テレビ電話もあるがそれは使用していなかった。
「考えたわね。そうして改善策を出していくなんて」
「我々だけで出すと限りがありますから」
「じゃあこれからもあの巨艦の建造は色々と考えていくのね」
「はい、三千隻のティアマト級はこれからも進化していきますよ」
 艦の建造とはそうしたものであった。そうして次に建造される艦は更によくなる。そうでなければ建造される意味もないのである。
「そしてそこからもありますから」
「あら、まだ何か考えているのね」
「おっと、これは失言でした」
 八条は苦笑して答えた。
「今の言葉は忘れて下さい」
「ふふふ、いいわ」
 伊藤は笑って答えた。
「ところで話は戻るけれど」
「はい」
 八条は思わず身構えた。
「あの艦にはかなり自信があるようね」
「当然です」
 彼は珍しく不敵な声を出した。
「そうでなくてはそもそも建造しませんし」
「そうなの」
「はい、あの艦はかなりの力がありますよ」
 彼は自信に満ちた声で言った。
「あの艦一隻で一個艦隊に匹敵する戦力はあるでしょう」
「それはオーバーじゃなくて?」
「いえ」
 だが彼はその言葉に対して首を横に振った。
「決して誇張ではありません。それだけの破壊力を持っています」
「日本にも一隻来ているけれど」
「はい」
 既に配備ははじまっているのである。
「確かに大きいわね。あんなに大きな艦は本当にはじめてだわ」
 伊藤も観艦式に出席していた。だがその彼女ですら間近に見るとその巨大さをあらためて実感したのであす。
「日本でも色々と話題になってるわよ」
「そうでしょうね」
 やはり彼の声は自信に満ちたものであった。そして面白そうであった。
「まあ賛否両論だけれど」
「結構なことです」
「まるで要塞だ、っていう人も多いわね」
「要塞ですか」
「ええ。まああの巨体じゃ当然でしょうけれどね」
「そうですね」
 それは彼も認めるところであった。
「そうした意図もありますから」
「単に指揮艦としてだけでなく」
「はい、あの艦は我が軍の象徴でもあります」
 彼は落ち着いた声で語った。
「それだけにその役割も重要なのです」
「戦力としても」
「はい。それは近いうちにおわかりになるでしょう」
「海賊にでも投入するのかしら」
「その予定はあります」
 彼は言った。
「それにはやり過ぎだと思われるかも知れませんが」
「私はそうは思わないけれどね」
 だが伊藤はそれに賛同する言葉を述べた。
「海賊には容赦してはいけないわよ。彼等は凶悪犯なんだから」
 連合においては宇宙海賊はテロリストと同じ犯罪者として扱われる。掃討や取締りの際殺害してもよい。彼等も頑強に抵抗することが予想されるからだ。
 それだけでなく逮捕、若しくは投降した者に対しても厳重な処罰が下される。厳密な取調べの末罪がなければよい。だが有罪であった場合は基本的に死刑である。連合の死刑は極めて酸鼻なことで知られている。
 これは凶悪犯への見せしめの意味がある。そして悪行への報いだ。テレビやネットによる実況中継の下機械でゆっくりと切り刻まれたり全身を粉々に砕かれたりする。獣の餌や生体実験に使われるのもよくあることだ。
 人の人権や命を踏み躙る者に対してはそれは一切保障しない、そうしたシビアな考えも根底にあった。これはかっての行き過ぎた人道主義への反動でもあった。
 連合ではこの処置は広い支持を得ていた。エウロパでは死刑廃止論が起こる時も多い。サハラ各国はあくまでコーランに乗っ取った処刑が行われる。彼等は過度に残酷なことを好まない。殺す時はできるだけ苦しまないようにするべしという考えがある。ナベツーラやミツヤーンへのリンチはあくまで例外的なことである。
 連合は人権に対する考えが彼等とは違うのである。罪は罰を以って償うべし、これはどの国でも同じであるが連合は悪事を決して許しはしないのだ。
 過失犯に対しては温情が示される。むしろこれはエウロパやサハラよりも遥かに甘い。間違いは誰にもあるからだ。だが確信犯に対しては別なのである。
 そうした考えから海賊も罪を犯していれば容赦なく血も凍る様な恐ろしい刑に処される。ついこの前もさる海賊のドンが獣に生きながら貪り食われ八つ裂きにされる有様がテレビで中継されたばかりである。
「連合は血を好む」
「人としての在り方を忘れている」
 これは主にサハラ各国からの批判である。だがここで一つ奇妙な問題が起こる。連合もまたサハラの人権意識について快く思っていないのである。
「サハラの考えは古い」
 という言葉もよく出る。
 他には女性への配慮だ。サハラでは女性が軍に入ることのできない国も多いのだ。中には今もヴェールに顔を覆う女性もいる。連合はそれを指摘するのだ。
 だがこれはサハラの女性への配慮である。軍に入ることができない国があるのは彼等が子供を産むのでそれで激しい軍務で身体も胎児も壊さないようにとの配慮からだ。ヴェールで覆うのは暑さへの対策である。サハラには砂と暑い日差しに支配された星も多いからだ。
 連合の酸鼻な死刑もこれと同じかも知れない。凶悪犯をそうして処罰することによりこれ以上の凶悪犯罪を防ぐ。罪への報いの恐ろしさと悪は必ず裁かれるということを教える為に。実際こうした刑罰が適用されるのは凶悪犯に対してのみでありその凶悪犯罪も割合でいえばエウロパよりずっと少ないのだ。
 人権は一括りにしてはとても語れない問題である。連合とサハラの意見対立にはそうした複雑な事情もあった。
 そうした事情がある。連合では海賊の掃討に対しては徹底的にやる。だが人権派団体もあるから話はまた複雑になる。
「死刑廃止」
「海賊も人間だ」
 彼等が海賊と結託している者も多いのはもう言うまでもないが中には狂信的な者達もいる。彼等は実際は極めて少数派であるが声が大きいので目立つ。一部のマスコミも取り上げる。
 だが連合市民の殆どは海賊に対しては徹底的やるべきでると考えている。だからこそ厳罰が容認されているのである。
 海賊も凶悪犯罪を過去に行っているならば当然そうなる。戦いにおいては降伏するか、死しか認められてはいない。だが降伏して凶悪犯罪を行っていない場合は改悛の見込みありとして軽い処罰で許されるのが普通だ。
 だからこそ投降した海賊が軍に入ることができるのである。これにより連合軍が人員を増やしたことも事実である。
「まあ投降した者で罪を犯していない場合は軽い処罰の後軍に編入していますが」
「かなり多いそうね」
「はい。彼等は彼等で中々役に立ちます」
 操鑑技術や地理に詳しいからである。中には今まで公にされていなかった航路まであった。
「これで治安もかなり良くなりましたし」
「そうでしょうね」
 海賊退治は何も力だけでするものではない。頭も使うことが必要だ。
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