第二十二部第五章 舞台は整いその二
しかしこれは子供の世界だけではなく大人の世界にもある。だから人はどうしてもその利権を守ろうとするのだ。無論約束を破られない為の手も打っておく。それを子供の頃の経験で学んでいる者もいる。
「そういうものだ」
アッディーンはここまで話したうえで言った。
「人間というものはな」
「そうなのですか」
「だから彼等は必死にこだわる」
一国が去ったかと思えばもう一国が駆け込んで来る。実にめまぐるしい。
「掴んだものを放すまいとな」
「滑稽と言えば滑稽ですね」
シンダントは言った。
「何か」
「だが我々も同じだ」
しかしアッディーンはそれには賛同しなかった。
「さっき言ったな。連合とサハラではあまりにも歴然としていると」
「ええ」
話が戻ったように感じられたがそれは違っていた・
「しかしだ」
アッディーンは言う。
「そのちっぽけなサハラの中で我々は戦っている」
「はい」
その言葉に頷く。
「必死にな。それも同じなのだ」
「同じですか」
「だからだ。人は皆同じだ」
こうも言った。
「考えることも行うこともな」
「連合にいれどサハラにいれど」
「そうだ。そういう意味ではな」
「成程。ですが」
ここでシンダントは考える顔を見せてきた。
「どうした?」
「いえ、連合の場合はかなり利に走る一面が見受けられますので」
「それはあるな」
偶然かどうかわからないがクリシュナータと同じ意見であった。
「彼等はな」
「そうですね」
「しかしそれは誰にでもあるしな。それで彼等を特に言うつもりはない」
「左様ですか」
「ただしだ」
ここでアッディーンの目の色が変わった。
「何か?」
「連合の者達のそうした傾向は覚えておきたい」
「今後の為ですか」
「そうだ」
その言葉に答えた。
「連合といえばだ」
シンダントは合理的、物質文明、消費社会というキーワードを頭の中に思い浮かべた。サハラの者達にとって連合のイメージとはそうしたものなのだ。
「物欲が強いというイメージがどうしても強いが」
消費社会や物質文明というキーワードがそれに当たる。
「それだけでもないしな」
「複雑ということですか」
「信仰もある」
「あるのですか?」
だがシンダントはそれには懐疑的であった。
「私の見たところ彼等は」
「それはあくまでサハラから見た場合だ」
そう断った。
「我々から見た場合だ」
「では彼等なりの信仰心が備わっていると」
「うむ。これはキリスト教の言葉だったか」
啓典の民ということで知っていたのだ。
「人はパンと水のみに生きるにあらず、と」
「ええ、確かそんな言葉でした」
シンダントもそれに頷く。
「心ある存在なのだと。そう言っています」
「そういうことだ。そういう意味でも彼等は我々と同じなのだ」
「どうもそうしたイメージが湧きませんが」
シンダントは首を傾げさせた。
これは無理のないことであった。連合は様々な宗教が存在し銘々がそれ等を信仰している。そして宗教人口は連合の人口の優に数倍だ。こうしたことを知っているからこそどうしても連合に信仰があるとは思えないのである。サハラの者から見ればそうなのだ。
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