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第五部第五章 次なる戦いの幕開けその一
                 次なる戦いの幕開け
 連合が巨大戦艦の名を正式に決定したその頃マウリアでは一つの問題が沸き起こっていた。不況に陥ろうとしていたのであった。
 この時代も不況というものはやはりある。これは経済のシステム上での問題である場合もあれば経済の循環上で起こる場合もある。マウリアの今回の場合は後者であった。
 これはある程度致し方のないことであった。経済は生き物だと言われる。それが為に好不況の波があるのだ。かってはこれは神の見えざる手に委ねられているとさえ言われていた。
 これに対するアンチテーゼ的な存在であったのがマルクス主義的経済学である。だがこれは無残な失敗に終わった。経済はそうそう容易にはコントロールできはしなかった。むしろ下手に手を加えてしまったことにより共産主義国家の経済はどこも破綻してしまったのである。
 そもそも経済は人間の欲望からはじまることが多い。それを考慮に入れないことが問題であった。人はパンと水のみで生きているのではなにのだから。人は良しにつれ悪きにつれ心を持っているのである。
 二十世紀はむしろケインズの経済学が好評であった。しかしそれもやはり限度がある。経済学というのは予想が難しいものだ。やはりある程度はコントロールできてもそれ以上はできなかった。
 連合の経済は積極的な開拓地への投資による金の循環をよく利用していた。過去幾度も経済危機にみまわれかけながらもその度に開拓地への進出を盛んにし、失業者のコントロール及び資金の循環をよくしてそれを乗り切っていた。だがこれは連合だからこそできることであった。無論他の対策を採った場合もある。緊縮財政や市場のコントロール。為替の変更等がそれであった。だがおおむね連合はそうした進出により不況をかわすことが多いのだ。
 マウリアも南方に開拓すべき星系が多くあるが積極的に進出したりはしていない。自然とゆっくりと進出していたのだ。
「焦る必要はないのだ」
 彼等は常にそう認識していた。
「星はまだmだある。それに今ここにいる場所を確かにしてからでも遅くはない」
 それが彼等の考えであった。よって彼等は不況の際には連合の様な方法はあまりとらなかった。
 ではどうしていたか。やはり彼等も指を咥えて見る様なことはしない。その都度対策を講じてきた。
 設備投資や財政の緊縮及び拡大。その都度行ってきた。むしろそれは連合のやり方よりも更に多岐に渡ったのである。
 今回はどうするべきか。それについて今閣僚会議が開かれていた。
「今回の不況の兆候ですが」
 財務省であるアナンタ=アジメールがクリシュナータをはじめとする閣僚達に対して話をしていた。見れば浅黒い肌に白い口髭を生やした三十代前半の男である。まだ若いのに髭もターバンから覗く髪も全て白かった。だがそれがかえって彼を知的に見せていた。
「好況であった時期が長かっただけありその期間は長い可能性があります。対策を誤ると恐慌の危険すらあるでしょう」
「そうだな。それが問題だ」
 クリシュナータもそれはよく認識していた。だからこそ今この場で深刻な顔をしているのだ。
「どういった対策を採るかだな」
「それですが」
 アジメールが言った。
「今回は設備投資等で資金を活性化させるのがよろしいかと思います」
「ケインズ的にか」
「はい。今回の不況の兆候は主に失業率の増加と購買の冷え込みにあります」
「それで金を動かすのか」
「そうです。そうすれば今回の不況は乗り切れると思います」
「ふむ」
 クリシュナータはアジメールの言葉を聞き暫し考え込んだ。そして口を開いた。
「わかった、それでいこう」
「はい」
「だが問題はまだあるな」
 彼は言葉を続けた。
「一体何処に資金と人材を投入するかだ。それを見誤ると結果は同じだ」
「それでしたら」
 ここで国防省であるラーンチが出て来た。
「丁度軍備の整備を行っておりますしこちらに投資しては如何でしょうか。今艦艇の建造及び防衛ラインの設立に人手が足りない状況でして」
「おお、そうだったな」
 マウリアは今軍備の拡大を行っていたのである。これは連合軍の拡充を受けてのことであるがこれは誰も言わない。
 クリシュナータはそれを聞き再び腕を組んで考え込んだ。そして決断の言葉を出した。
「よし、軍備に回そう。まずはそれで金を動かす」
「ハッ」
 閣僚達は一礼した。
「そしてそこで景気が上向いてきたならばそこから別の方面に人材を振り当てていく。そしてこの不況を乗り切るぞ」
「わかりました」
 これで景気対策の話は終わった。だがまだ話すべきことがあった。
「ところで連合だが」
 クリシュナータは首相であるムルワーラと外相エルールに顔を向けた。
「今どういった動きになっている」
「それですが」
 それに対してムルワーラが口を開いた。
「今は兵器の生産、製造及び軍港、後方基地の整備に忙しいようです。また中央議会も各国政府もとりあえずは今はこれといった動きはありません」
「そうか」
 クリシュナータはそれを聞き頷いた。
「やはり動くにはまだまだ時間がかかりそうだな」
「そうですね、まずは兵備を整えてからでしょう」
「そしてそれから意思決定か。そこからまた時間がかかるな」
 連合中央政府はまだ行政府の権限は強くはない。この二百年でそれなりに強くはなっているものの他の国や連合内の各国のそれと比べるとまだまだ弱いのが実状だ。
 そうなるとどうしても意思決定及び行動に時間がかかってしまう。連合は一人のリーダーの決断ですぐに動くことのできる国ではないのだ。
 まずチェックシステムが多い。立法府である議会もあれば中央裁判所もある。だが連合はそれだけではないのだ。各国も中央政府の力が過度に強くなるのを好まなかった歴史がある。各国も中央政府を常にチェックしていると言っても過言ではない。
 また各国の意見調整もある。これをどうにかしないと連合は動くことが出来ないのだ。それぞれの国々の領域がまたモザイク状に入り組んでいることが事情をさらに複雑にさせている。
 議会にしても上下の二院制であるがその上に各国の国家元首達による会議があるような状況である。また最近では現状を維持し、辺境星系の開拓をさらに推し進めていくべきだとする保守派と開拓は程々にして中央政府の権限を強化すべきという改革派の二つに分かれてきているが中央議会も各国の思惑が複雑に絡み合っていた。それで中々動くことができなかったのだ。
「中央政府は弱い方がいい」
 こうした意見も多かったのも事実である。それよりも所属しているそれぞれの国々の利益の方を優先して考えていた。中央政府はあくまで調整機関としてあればよい、というのが長い間連合において支配的な考えであった。
 その名残は今でも強く残っている。だからこそ連合はそうおいそれと迅速に動くことはできないのだ。
「話が出てから動いても遅くはないだろうな」
「そうですね」
 だが彼等も連合がその圧倒的な力を使う危険性を忘れたわけではなかった。やはり警戒は怠ることはできなかった。
「ですが事前にそういったことを見せておくと向こうも考えるかと」
「そうした考えもできるな」
 クリシュナータはムルワーラの言葉に再び頷いた。
「どのみち軍備の整備は必要か。そうでないといざという時に困る」
「はい」
 これはやはり避けられぬ道であった。彼等はそれをよく認識していた。
「だが連合だけではない」
 クリシュナータはここで言った。
「やはり西も気になるな」
「はい」 
 それはサハラ各国のことであった。
「今あちらの動きはどうなっている」
 クリシュナータはそれをエルールに問うた。
「はい、それですが」
 彼女は高い声で話しはじめた。
「まず東方のハサンですがやはりこれといった動きはありません。いつも通り連合や我が国とサハラ各国、そして陰では総督府との中継貿易で得られる利益を最優先させて考えているようです」
「そうか」
 それは予想していた通りであった。
「南方も変わりはりません」
 エルールは報告を続けた。
「相変わらず各国は集合離散を繰り返しております。統一などといった動きは全く見られません。ただ」
「ただ!?」 
 クリシュナータはその言葉に対し突っ込みを入れた。
「西方を統一したオムダーマンが南方への進出を考えているという情報もあります。彼等の動き次第で何か起こる可能性があります」
「ふむ」
 クリシュナータはそれを聞き顎に手を当てて考える顔をした。
「これは今のところ即断はできませんが」
 エルールはとりあえずはそう断った。
「ですが今のサハラの情勢を見てこれは充分に考えられることです」
「そうだろうな。東のハサンはやはり強大だ。それに北方は」
「はい、総督府とシャイターン主席がおります」
 シャイターンが北方諸国を統合しその元首となったことは既にマウリアにも伝わっていた。彼等は当然のように彼が非凡な人物であると見抜いていた。
「彼等の存在を考えると北にも行くことはできないな」
「そうだと思われます」
 これはエルールも考えていた。
「おそらくオムダーマンが次に動くとすれば南方であると思います」
「南方か」
「はい、あの地は小国が乱立し外交戦略次第ではかなり進出が容易です」
「だがかなり複雑な地形の様だな」
「そのようですね」
 全体的にサハラは地形が複雑なことで知られている。ブラックホールやアステロイド帯、磁気嵐、超新星等があちこちに存在している。その中でも南方は特に複雑なことで知られている。だからこそ小国が乱立する状況となっているのだ。
 ここでは正規軍同士による戦いは少ない。それよりも地形を利用したゲリラ戦が圧倒的に多いのである。
「だからこそ今まで大国の侵入も少なかったのです」
「侵入してもすぐに退けられていたな。地形を利用した戦いの前に」
「はい」
 そして各国の集合離散が続いた。南方はサハラの中でも異質の場所であったのだ。
「そこに進出するのか。オムダーマンは苦労しそうだな」
「ですがハサンや北に進むよりは楽かと」
「それはどうかな」
 マウリアとしては即断のしようがなかった。正直どうなるか全く読めない。
「また彼等のお手並み拝見といくか。ミドハドやサラーフを滅ぼした時のように鮮やかにいくか」
「それとも失敗するかだ」
 彼等は口々に言った。こうしてサハラに関しては様子を見るということで落ち着いた。
 会議は終わった。この時の会議で決定された経済政策によりマウリアは不況を免れた。だがまだ予断を許さない経済状況が続いているのも事実であった。

 連合はこの時艦艇及び兵器の大量生産に入っていた。莫大な予算が投入され各地で建造、生産されていた。
 その状況は逐一中央政府にも報告されていた。キロモトも八条もそれに一喜一憂する状況であった。
 だがそれについての議論も為されていた。中央議会である。
「あの艦は流石に不要ではないのか」
 こうした意見が相次いでいた。主に保守派からである。見ればティアマト級巨大戦艦についての議論が為されていた。
「要は海賊やテロリストを相手にすればいいのであろう。あれ程の巨大な戦艦はそうそう必要ないと思うが」
 保守派の領袖ランティール=モハマドもそうした意見であった。彼は議会の中央でそう演説していた。
「私は連合軍の存在には賛成だ。しかし過度な軍備には反対だ」
 彼はそう主張する。
「あの様な巨艦まではいらないと思うのだが」
「いや、それは違う」
 議員達の中からそうした声が挙がった。
「指揮艦としてはあの艦は必要ではなかろうか」
 見れば改革派の議員の一人であった。
「あの艦が巨大なのは装備や艦載機の理由からだけではない」
「それはわかっているつもりだ」
 モハマドはそれに対して切り返した。
「だが通信や電子ならばそうした艦で事足りるのではないか。何もあそこまでの艦は」
「財政的には問題もない筈ですが」
 ここで別の改革派の議員を口を挟んできた。
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