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第五部第四章 神の名その四
 近代以降戦争の在り方は大きく変わった。戦場以外での作戦及び行動が非常に重要になっているのだ。
 後方の通信、補給、整備。それ等がなくては戦えない。
 そして資金。そういったものを全て処理する事務も考えなくてはならなかった。
 それにとりわけ力を入れているのは今では連合である。彼等は新設軍ながら大軍を効率的に運用する為にそうしたことにも力を注いでいるのである。
 あの巨大戦艦や輸送艦もその一環である。あの戦艦には最新鋭の通信及び電子設備が満載されている。輸送艦の巨大さは収容量を多くする為である。
 その他にも後方の基地や港湾の整備にも全力を注いでいる。そして事務も大幅に増やしていた。連合軍は前線部隊よりも後方部隊の方が遥かに充実しているという見方すらある程である。
「我々もそれなりに充実しているとは思うが」
「ええ、それは確かに」
 実際オムダーマン軍は補給や通信には困ったことはない。ミドハドやサラーフとの戦いにおいてもオムダーマン軍は補給路を上手く確保し、中継基地を効率的に使用していた。これはアッディーンの戦略やカッサラ星系の存在が大きかったからもあるにしろだ。
「幾ら何でも食糧や燃料、弾薬がなくては話にならない」
「そうです、まずはそれを充実させないと。幼年学校でも言われました」
 オムダーマンではまず補給と通信を教える。この時代の軍の教育においてはどの国もそれは変わらない。それ程重要視されているのだ。
 だが連合のそれは彼等の遥か上をいっていた。流石にオムダーマンも彼等には遠く及ばなかった。
「山の様な食糧と弾薬が常にある。それだけでも有り難い」
 海賊達との戦いにおいてある艦隊司令がこう漏らしたという。それだけ連合の補給システムは万全のものであった。そしてその後方支持により彼等は海賊を殲滅していった。連合軍は海賊達との戦いにおいては物量戦を常としているがそれを支えているのは後方であるのは言うまでもないことであった。
「そうでなくては彼等は兵が集まらないのだろうな。後ろがしっかりしているという保障もないと」
「それもあるでしょうね」
 これにはやはり連合軍が完全志願制という事情も関係していた。
 連合においては様々な職業がある。学びたければ学者になればいい。学者で食べるのが困難なら教師も兼業する。金持ちになりたければ会社を興すか開拓地で資源でも掘り当てる。運がよければ一発でもレアメタルが手に入る。大きな牧場や農場が欲しければ開けばいい。あまり資金がなくとも強靭な肉体と根性があれば何とかなるかも知れない。探検家になりたければ好きなだけなれる。ただし未開地で恐竜やわけのわからない位に不思議な進化を遂げた獣と死闘を繰り広げるリスクはある。これはこれで冒険になる。そうした話は連合においてはつとに人気のある話である。普通の暮らしがしたければサラリーマンになればいいい。公務員もある。目立ちたければ歌手や芸能人でもいい。異性にもてたければ散髪やコーディネーターという道もある。コックもあれば個人商店もある。要するに連合では他に職は幾らでもあるのだ。好きなのになればいいという考えが強い。自分のなりたい職業で成功すればいい、連合はそうした意味で極めて活発な国々であるのだ。
 つまりこれは軍に魅力がなければ入る者が少なくなるということであった。
 それは困る。徴兵制なぞ誰も支持しない。そもそもそこまでやる必然性すらない。無駄に金がかかり、各産業を無意味に圧迫するだけである。
 連合の国情には志願制こそ相応しい。軍人になりたい者はなればいい、そこでまた連合独自の考えが出て来るのだ。
 そういう状況で将兵が来るにはどうすればいいか。軍に魅力があればいいのだ。
 その為にはまず生きることが出来る状況になければ駄目である。死ぬ可能性の高い軍にはそうそう誰も入らない。中には愛国心の強い者もいるだろうがそれは連合ではあまり期待できないところがある。
「まずはその国の国民である。それから連合市民という考えが出る」
 連合においてはそうであった。連合市民という考えはあくまで二番目である。まずは所属している国々への帰属意識があるのだ。
 だからこそ問題なのである。エウロパの様に高貴なる者の義務といった考えは最初からない。そもそも連合においては貴族程馬鹿にされるものはない。
「特権階級なぞいざという時には何の役にも立たない」
「エウロパの御貴族様は精々狭い場所で閉じこもってろ。その間に俺達は銀河系全てを開拓してやるさ」
 こう言うのが常であった。実際連合は銀河のかなりの部分を開拓してはいる。
 サハラの様に戦いにおける宗教的な意識も希薄である。連合においてはかなり多くの宗教が存在する。それだけ信仰されている神は多い。中には戦いの神も存在する。
 キリスト教の天使から発展した炎の翼神ミカエル、太陽神ラーの護衛でもある剛力の神セト、かっては豪傑であった大柄な関羽、荒ぶる神スサノオ、巨人の血を引く美しき神ブレス、血に酔う女神アナト、ジャガーの姿をしたテスカトリポカと実に多い。連合においてはかっての神々も復権しているのである。
 メソポタミアやエジプトの神々も彼等に受け入れられた。ケルトの神も受け入れられたのは主要国の一つであるアメリカにケルト系の者が多いからである。
 アメリカは当初はアングロサクソンと言われていたが実際は一概に言えないところがあった。最初からアイルランドやスコットランドからの移民も多かったのである。
 例えば第二次世界大戦で活躍したマッカーサーである。陸軍士官学校はじまって以来の秀才と謳われた彼は傲岸不遜でありながら人種的偏見はないといった二面性のある人物であった。彼は終生自分がスコットランドからの移民の子孫であることを誇りにしていた。
 大統領ではケネディ、ニクソン、レーガン、クリントン等がそうである。彼等はむしろアメリカにいる方が多かった程であった。
 彼等はカトリックを信仰していた。だがその心の奥底には古の神々が宿っていたのであった。
 それが長い歳月を経て復権したのだ。エジプトやメソポタミア、中南米の神々と共に復活した。そして再び人々に信仰されるようになったのだ。
 ここにギリシアや北欧、インドの神々がいないのはギリシアや北欧の神々はエウロパで信仰されているからである。インドの神々はその後継国家であるマウリアにそのまま生きている。さしもの連合においてもマウリアのあの独特の宗教観と思想を受け入れることは困難であった。
「前世のことまで知っている筈がないだろう」
 連合の者がマウリアの者と話をしてよく言う言葉はこれである。マウリアの者にとって今生きているこの人生は輪廻転生の中の一つに過ぎないのだ。
 それはこの宇宙ですらそうである。世界は全てその創造、調和、破壊のサイクルの中で動き人間はその中のほんの一つに過ぎないのだ。
 こうした考えにはあまりなれないのが連合の者である。彼等は現実的である。神々を信じていてもそこまでスケールの大きい話にはどうしても及びつきにくいのだ。
 それが結局連合の者がマウリアを『敬して遠ざける』状況の要因となっていた。幸か不幸かそれが両国の友好関係にも関わっていた。理解し難い相手とは互いに距離をおきたがるものだ。衝突もその分少なくなるからだ。
 そう、連合の者の信仰心はマウリアやサハラ各国のそれと比べて実に稀薄なのである。連合から見れば彼等こそが異常に見えるかも知れないが。ユダヤ教を今でも信仰するイスラエルの様な国もあるが概して連合の者は信仰心はそれ程篤くはない。エウロパの方が遥かに高いであろう。
 それは戦争に対する考え方にも深く関わっていた。つまり軍人はあくまで多くの仕事の中の一つに過ぎないのだ。
 だから魅力がなければ来ない、死ぬ可能性が高いと来ない。待遇が悪いと尚更だ。従ってそうしたことに注意を払わなくてはならないのだ。
 それが将兵の居住設備及び福祉の充実、高い給料等に繋がっている。娯楽施設にまで注意を払っている。
 そして生存能力の強化にも力を入れる要因ともなっていた。連合軍の兵器の防御の高さもそこに理由があった。そして今話のもととなっている後方の充実にもだ。
 こうしたことは全て連合の国情が要求しているものなのだ。そして八条もキロモトもそれを十二分の考慮したうえで政策を進めているのだ。
「国情の違いがやはり大きいな」
「ええ。彼等はまず人気が必要です、軍自体の」
 オムダーマンの後方の充実は単に作戦進行の円滑化と将兵と兵器の無駄な損傷を防ぐ為からであった。ここが連合とは少し異なる点だ。
「軍に入れるのにも人気が必要か」
「そこが我々と彼等の異なる点ですね」
「そうだな。確かにサハラとはそこが違う」
 サハラでは兵はわりかし容易く手に入る。徴兵制のせいもあるにしろだ。
 オムダーマンも徴兵制だがその査定は厳しい。実際にはかなり厳密な選抜徴兵制である。これは将兵の数よりも質を重要視しているからだ。
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