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第二十二部第一章 戦雲の歴史その十六
「戦争で死にたくないというのは。戦死もまた名誉だというのに」
「彼等の考えではそうではありません」
「平民の考えか」
「少なくとも我々とは違います」
 エウロパ貴族とは違うということである。連合軍の軍人達とエウロパ貴族達の考えもまた全く違っているのである。これが立場の違いでもあった。
「損害が出ればそれで志願者が減りますし」
「それもわからんな」
 シュバルツブルグは今度は首を傾げさせた。
「軍を名誉とは考えないのか」
「彼等にとっては仕事の一つでしかないのです」
 今度はプロコフィエフが述べた。
「軍人というものも」
「ドライだな。いや、これも考えの相違か」
「そうなります」
 プロコフィエフはそう返した。
「かなりの相違ではあります」
「そうだな。正直驚いている」
 彼はまた述べた。
「これ程まで違うとは」
「それで」
 モンサルヴァートの言葉はさらに続く。
「損害が多ければそれが政治家への批判に直結します」
「それはわかる」
 これはシュバルツブルグもわかった。彼は軍務相という政治家でもあるからだ。エウロパでは現役武官であっても政治家になる場合があるのである。連合の様に完全な文民主義ではないのである。八条は軍人出身であるが退役している。だから文民となるのである。
「遺族達が黙っていないだろう」
「だからです。政治家達もそうしたことで自身の評判を落としたくはないですから」
「選挙にも影響しかねないからな」
「そういうことです。ですから」
 また言う。
「損害を恐れるというのか」
「連合軍に対してはそれだけのものを見せればよいのです。無論本気で守るつもりで」
「損害の覚悟を認識させるか」
「はい」
 それこそがモンサルヴァートの連合への防衛戦略なのであった。彼は連合の性質を見切った上でそう計画してきたのである。慧眼と言うべきであった。
「如何でしょうか」
「見事だ」
 シュバルツブルグはそれを見ていた。
「思えばそうだったな、先の戦いでも」
「ええ」
「ニーベルングの時の無人艦隊、そして義勇軍」
「そうした存在もこうした背景があるのでしょう」
「だがその場合もやはり義勇軍が出て来るのではないのか」
 シュバルツブルグは問うた。
「正規軍の前面には常に彼等がいるのだからな」
「それはもう想定しております」
 モンサルヴァートは述べた。
「ですからまずは彼等を減らし後方にいる正規軍が露わにならざるを得ないようにするのです。それを意識させるだけで我々の勝利です」
「勝利か」
「戦場で勝つだけが戦いではありません」
 時として戦略的勝利は戦場以外でも得られるものなのだ。戦術的勝利とはそこが違うのだ。
「ですから」
「よし、わかった」
 シュバルツブルグはそれに頷いた。
「ではそれでいこう。連合に対してはな」
「はっ」
 モンサルヴァートはその言葉を受けて一礼した。
「わかりました」
「軍としてはこれで行こう。財務省や総統が何と言われるかわからないが」
「かなりの議論になると思います」
 それはモンサルヴァートも承知している。
「しかし」
「これ位しなければな。無理だろうからな」
「その通りです。ですから」
「だが。財務省にも事情があるからな」
 これが一番の問題であった。
「彼等は決して邪悪な存在ではないのだ」
「ええ」
 あくまで彼等の立場で動き軍務省と対立しているのである。それだけだ。それだけのことで互いに嫌い合うのであるがこれはどの国でも同じである。財務省にとって軍隊とはとてつもない金喰い虫で予算編成のうえでの深刻な問題なのだ。支出ばかりで収入もない。厄介な存在だと認識しているのだ。
「それだからこそでもある」
 シュバルツブルグは口を真一文字にして言う。
「何とかして予算を回してもらわないとな。さもないと」
「エウロパを守りきれません」
「問題は彼等にも正当な反論があるということです」
 プロコフィエフがまた述べた。
「他の部門に財政を回してそれを復興にあてるという」
「そうなのだ」
 それがわからぬシュバルツブルグではなかった。だからこそ頷いたのだ。
「難しい。復興も必要だ」
「我々は今建国以来の国難にいます」
 モンサルヴァートはその彫刻の様な端整な顔に暗い影を落とさせていた。
「それを乗り越えるのはやはり困難なもののようです」
「だが乗り越えなくては」
 シュバルツブルグは言う。
「何ともならないぞ」
「はい」
「必ずや」
 二人はそれに応える。
「多少の無理は承知だ。何としても防衛計画を実行に移さなくては」
 シュバルツブルグの考えはこうであった。今エウロパは他者に関わっている余裕はなかった。まずは自分達に関してであった。それはサハラ側からもはっきりと見て取れていたのであった。
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