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第五部第四章 神の名その一
神の名
 連合の観艦式がエウロパ等各国に与えた衝撃はかなりのものであった。特に巨大戦艦の存在は大きかった。
 今までは一部の者だけの話であったがこの式により全ての者が知ることになったのだ。話はそれで持ちきりとなった。
「あの戦艦は一体どれだけの力があるか」
「どれだけ建造されるか」
 数はすぐにわかった。連合中央政府が各艦隊の旗艦とすることを発表したからだ。
 連合の艦隊数は三千、すなわち三千隻建造されるのだ。
「あれが三千隻か」
 それだけで他国、とりわけエウロパの者にとっては脅威であった。
 脅威に感じたのは彼等だけではなかった。連合軍の設立以降急激に沈静化していた連合国内の海賊達だがそれを聞いてさらに弱体化した。更に投降する者が増加したのである。
 こうしてこの戦艦はその存在だけで連合国内の治安に役立った。それだけでも恐るべき存在であった。
「連合の治安が良くなると厄介だ」
 エウロパにはこうした意見を持つ者もいた。
「その分国力を向けなくて済む。そして治安の好転により経済活動が更に活発になる」
 連合にとっていいことづくめだがエウロパにとっては違う。彼等にとっては宿敵の伸張程腹が立ち、なおかつ危険なものはないからだ。
 この一千年何時連合が攻めてくるか、それが何よりの恐怖であった。彼等と連合の国力差はあまりにも大きいからだ。
 一千億対三兆、領土も資源も比較にならない。それだけでも脅威であったが今までは連合内のまとまりがないので助かっていた。中央軍すらなかっらのだ。
 だがそれが設立され、今こうして巨大戦艦が姿を現わした。エウロパは最早恐慌状態であった。
「予想していたが」
 モンサルヴァートは首都オリンポスに残っている各艦隊の司令達を集めて軍議を開いていた。
「やはり混乱状態になってしまったか」
 巨大戦艦の情報を手に入れた時からそれは予想していた。だが実際に起こってみるとそれは彼の予想を上回っていた。
「あれ程の巨大なものですからな」
 まずターフェルが口を開いた。
「致し方ないかと。やはり目に見える脅威ですから」
「確かにな。数字で見るのよりも遥かに効果的だ。連合の狙いはそれもあるのだろう」
 モンサルヴァートにもそれはわかっていた。だからこそ彼等はあえてあれ程までの巨大な艦にしたのだ。
「あの姿だけで連合内の海賊達は雪崩を打って投降しているようです。そして彼等のうち罪の比較的軽い者は軍に編入されているそうです」
「それだけではありません」
 今度はジャースクが口を開いた。
「それまで商船を護衛していた用心棒といった治安の好転で存在も仕事がなくなったので連合軍に入っているそうです。彼等もまた大きな戦力増強になっているそうです」
「彼等にとっては将にいいことづくめだな」
 モンサルヴァートは面白くなさそうに小さな声で言った。
「こちらにとっては脅威以外の何者でもないというのに」
「全くです」
 これはこの場にいる全ての者の意見であった。
「ただすぐにこちらに侵攻してくるかというと疑問ですが」
 マトクが自分の考えを述べた。
「それは何故だ」
 実はモンサルヴァートもそう考えていたがそれはここでは出さなかった。あえて彼に問うた。今エウロパでは連合の大艦隊があの巨大戦艦を筆頭を雪崩を打ってエウロパに侵攻してくるのではないか、とまことしやかに話されていた。その恐怖で一千億の市民は震え上がっていた。
「まずあの戦艦だけでなく軍備が整っておりません。まだ観艦式によりお披露目が終わっただけです」
「そうか。それで」
 彼はマトクにさらに言うよう促した。
「まずそれが整わなければ。三千個の艦隊とあの巨艦を三千隻建造するにはかなりの時間と労力が必要です」
「ふむ」
 それは彼も同じ意見であった。しかしやはりそれは口には出さない。
「そこから議会で話し合う。それに連合はエウロパと比べてもかなり各国の発言力が大きいです」
「各国の意見調整等も必要だというのだな」
「そうです、侵攻してくるのならばそれ等の手順を全て済ませてからでしょう。今すぐにということは有り得ません」
「だが無理をして攻め込んで来る可能性もあるのではないか。やはり彼等には数がある」
 ゴドゥノフが言った。
「数ですが」
 マトクはゴドゥノフの言葉に正対するようにして言った。
「数にはそれなりの費用がかかります。兵士それぞれを動かす為だけでも。それに燃料や食糧、兵器等も必要です」
「補給の問題か」
「そうです。彼等は大軍であるだけにそれが大きな課題になりましょう。それの整備もしなければなりません」
 マトクはモンサルヴァートに答えた。
「連合領内を動かすだけでもかなりの設備、費用が必要です。彼等はそれはまだ整備中だと聞いております」
「確かにな」
 それは軍事を知っている者なら容易に想像がつくことであった。連合は今軍港や航路等の整備を急激に進めているという情報も入っていた。
「そうしたことを全て終えてから行動に移るでしょう。そうですね」
 マトクは考えながら意見を述べた。
「まずは設備の整備を補給及び通新体制の確立、そして軍備を整える。それからどうするか連合内での議論でしょうね」
「それだけでもかなりかかるな」
「はい、時間はまだまだあります。我々はその間に防衛体制を整えておけばいいのです」
「彼等が動かないうちに、か」
「そうですね。彼等が動く頃には我々は既に防衛体制を整えていなければなりません。逆に言いますと」
「油断はできないと」
「ええ。何しろ三十倍の敵と戦うのですから」
 それが最大の問題であることに変わりはなかった。
「では今は軍備に専念することにするか」
「はい、それが賢明です。下手に彼等を刺激すればそれこそ問題です。彼等も整備をより早めようとするでしょう」
「その分我等にとって危機になる」
「それを防ぐ為には今は無視しておくべきです。表面上は」
「よし」
 マトクの言葉に大きく頷いた。
「では諸卿はこれまで通りそれぞれの任務に専念してくれ。私もそうすることにする」
「ハッ」
 司令達はその言葉に敬礼した。
「今は将兵の動揺を抑えてくれ。そして然るべき時に備えるのだ」
 こうして軍議は終わった。モンサルヴァートは軍議が終わるとその足ですぐに総統官邸に向かった。
「そうか、軍でも動揺があるか」
 ラフネールはモンサルヴァートからの話を聞きそう呟いた。
「あえて名は出しませんが高官の中にも連合の侵攻を恐れている者がおります」
 彼は軍の内部の動揺を伝えた。
「やはりあの巨大戦艦の存在は大きいな」
「はい、やはりあの存在が決定的だと思います。今までは単に物量差の問題でしたが」
「それでもかなりの脅威だったというのに」
 エウロパはやはり数が少なかった。そんな彼等にとって連合の数は脅威であることはこの一千年の間変わることはなかった。
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