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第二十一部第四章 妥協案その九
「あまり褒めたくはない相手だと思うが」
「それは確かに」
「今回もしてやられたという感じがします」
 閣僚達もあまりいい顔はしていなかった。
「確かにな。利は得られたが」
 ロベルトもまた言った。
「それでもだ。この感じはいいものではない」
「おそらくそれも見越しているのでしょうが」
「それも踏まえてやはり」
 話は続く。
「あまり気持ちのいいものではありませんな」
「そうだな。だがこれで話は終わった」
「バチカンは東北の辺境にですか」
「そうだ。後は中央議会でそれが議決される」
「中央議会にいる我が国出身者には何もしませんか」
「もう話は終わった。いい」
 ロベルトはそれはしないことにした。今更何かしても何の意味もない、むしろそれが漏れればかえって各国の不信を招く、そう判断したのだ。
「彼等にはそのまま動いてもらう。いいな」
「わかりました」
「反対でも賛成でも構わん。どのみち話は決まった」
「可決されますか」
「間違いなくな。この案は中央政府内務省と開拓省が作ったものらしい」
「内務省もですか」
 今度は内務省が出た。
「あの金内相が命じたらしい」
「左様ですか」
「あの才媛がまたしても」
「我が国にも配慮してのことだろう。それ以上に中央政府の思惑があるだろうがな」
「あの辺りはまだ開拓が不充分ですから」
 フレーニが言った。
「それも考えてのことだと思われますが」
「開拓省も協力しているからか」
「はい、私はそう思います」
「だろうな。これであの辺りも開拓が進むな」
「はい」
「巧妙だ。何もかも」
 ロベルトは感心した様に呟いた。
「今の中央政府は賢い。我々を上手くあしらってくれる」
「中央軍設立に関しても」
「我々にも便宜を図ったうえでな。そのうえでその権限を強めていっている」
「全てはあの大統領の考えでしょうか」
「全てではなくともかなりの部分は確かだ」
 言葉は言い切りだった。
「そうですか」
「最初は豪放磊落なだけかと思っていたのですが」
「あてが外れたな」
「はい」
「見事に化かされました」
「我々はまだいいがあの三国はかなりしてやられているな」
 米中露のことである。この三国は何かと中央政府と対立する国としてあまりにも有名である。他の国から見れば我儘でしかないにしろ。
「中央軍にしろだ」
「彼等は最後まで反対しましたからな」
「我々と違い」
 ブラジルは中央軍には反対しなかった。日本と協同歩調を取ったのである。
「ですがスキャンダルが起こり反対派の首魁が動けなくなり賛成となった」
「実に見事です」
「スキャンダルなぞ掴まれる方が悪い」
 ロベルトの言葉は冷徹だが真実であった。
「彼等はそれを掴まれた。それだけのことだ」
「ですがよくあれだけの面子のスキャンダルを掴めたものです」
「叩けば幾ら埃が出るにしろ」
「それは日本も関わっていたそうだしな」
「ああ、伊藤首相ですね」
「あの御婦人は。奇麗な顔をしてまたやることがえげつない」
 伊藤のそうした謀略は彼等もよく認識していた。
「狐が後ろからついてきてそれに気付かないのもまた不明でしかないです」
 フレーニが静かにそう言った。
「彼等は闇夜の中で狐に気付かなかった。ですから」
「掴まれたということか」
「そういうことです」
 ロベルトにも答えた。
「あの御婦人に」
「迂闊といえば迂闊だったな」
「はい」
「まあ無能とも言っていいな」
 こうまで言う。
「そうですね。スキャンダルは掴まれる方が悪い」
「しかし。相変わらず敵にすると恐ろしいな」
「日本という国自体も」
「あれで彼等は自分は無害で外交が下手だと思っているらしいな」
「とんでもない」
 それはその場にいる全ての者から否定された。
「日本が無害ですか」
「あんな強かな連中が」
「どうやら自分のことをよくわかっていないのは昔からのようだな」 
 ロベルトも彼等と同じ意見であった。
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