第二十一部第一章 代理人の座その五
「報いなのかも」
「この度のあまりにも重い罪の為に」
「連合でも必ずや神がいて下さります」
「ええ」
それはわかる。神はあらゆる場所に存在するからだ。かってスピノザはそう言って凡神論を唱えていた。神の力をあくまで偉大なものとするキリスト教ならではの考えである。
「ですから。そこでもまた御加護を」
「報いではあっても」
「そうです。では参りましょう」
話が一段落したところでヤロシュ枢機卿に声をかけた。
「教皇様の下へ」
「はい」
二人は立ち上がり礼拝堂を後にする。そして教皇の下へ向かった。まずは連合各国への呼び掛けについて二人で提案をした。だがそれはむべもなく下げられた。
「なりません」
「やはり」
「これは私達に対する報いなのです」
教皇もそれを言った。
「知っていてそれを正そうとしなかったこと。これは罪なのですから」
「それでは」
「どの様な場所でも笑顔で進まなければなりません」
教皇は言う。
「私達の罪の報いなのですから。よいですね」
「わかりました。それでは」
「はい。かって主はゴルゴダの丘を歩まれました」
キリストの最期の話である。
「それに比べれば如何ばかりでしょうか。ましてや罪への償いなのですから」
「喜んで受けるべきだと」
「少なくとも私はそうです」
その言葉も声も澄んだものであった。
「神が与えた給もうた報いであり試練ならば」
「そうですか」
「リー枢機卿はどうなのでしょうか」
「私もまた神の僕です」
リー枢機卿の答えはこうであった。彼もそれを忘れたことはない。
「ですから」
「それを聞いて安心致しました」
「皆そうなのですよ」
彼はまた言う。
「神の僕です」
「では僕としての責務を果たしましょう」
「それでは」
「連合にも神はおわします。いえ」
教皇は二人だけを見ていたのではなかった。その目には神さえも見ていたのである。
「あらゆる場所に。ですから」
「はい、私達も共に」
「神の場所に向かいましょう」
「有り難うございます」
教皇は二人の枢機卿の申し出に目を細ませる。
「それでは」
「はい」
三人は頷き合った。
「この話は終わりです。もうすぐ時間です」
「時間?」
「神の僕達に会う時間です」
教皇が窓から姿を現わし彼に一目会わんと集まっている信者達に応える時間なのだ。これもまた神の代理人である教皇の仕事なのである。
「もうそんな時間ですか」
「はい」
「わかりました。それでは」
「私共はこれで」
「また機会があれば」
「お話しましょう」
二人の枢機卿は教皇に別れを告げた。教皇は信者達と会う為に窓に向かい二人の枢機卿は部屋を後にした。二人並んで廊下を進みまたあの礼拝堂に入った。
「お流石と言うべきでしょうか」
「教皇様ですか」
「はい、あれ程神の御意志に従おうという方は他にはいないでしょう」
「そうですね」
リー枢機卿はそれに頷く。
「ですから今も多くの信者に慕われている」
「お世辞にもいい教皇様ばかりではありませんでしたがあの方は少なくとも」
「違いますね」
「ええ、私はそう思います」
ヤロシュ枢機卿はにこりと笑って述べた。
「では私もまた」
リー枢機卿はここで言った。
「何か御用件が?」
「はい、共に来ている者達と食事の時間ですので」
「主の身体と主の血を」
「頂きに向かいます」
「わかりました。それでは私も」
「はい」
二人は言い合う。
「またお会いしましょう」
「今度は連合になるかと思いますが」
「その時にまた宜しくお願いします」
「こちらこそ」
二人は言葉を交わした。そのうえで別れる。エウロパを離れる前のバチカンは郷愁と未練が漂いながらも神の意志に従おうとしていた。その中でこんな話が出ていた。
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