第二十部第五章 脇役として終わりその九
ティムールにおいても。シャイターンは自身の官邸において会議室で首相であるウーアンザと向かい合って座っていた。今広い会議室にいるのは二人だけだ。それがかなり異様な風景ではあった。
「あらかた終わったか」
「はい」
ウーアンザはまずシャイターンの言葉に頷いた。
「ハサンの目ぼしい人材はこれでほぼ全て」
「下地は整ったか」
シャイターンはその報告を聞いて整った目を面白そうに動かした。
「予定通りの時間だな」
「丁度いいですか」
「そうだ、早過ぎず遅過ぎずもない」
笑みを浮かべて言う。
「最高のタイミングだ」
「では工作員達はこれで」
「いや、まだ留めておけ」
それはよしとはしなかった。
「留めるのですか」
「そうだ、彼等にはまだ仕事がある」
「それは一体」
「攪乱だ」
その目が妖しく光る。
「これからの戦いの後ろでな」
「そちらですか」
「一旦忍び込ませた、ではまた仕掛けさせてもらおう」
彼は言う。
「蛇は一度噛むだけでは駄目だ。二度三度と噛まなければ」
「その蛇は隠したまま」
「今度は狼を放つ」
即ち戦争である。
「狼の牙は一度でいい」
「毒で弱った獲物の喉に」
「その血がまた美しく銀河を染める」
目の妖しい光が増していく。
「紅にな」
「銀河は紅に染まるものですか」
「銀河の色は何だ」
シャイターンはここで首相に問う。
「色ですか」
「そうだ。銀河の色は。何だ」
「黒でございます」
ウーアンザは思惑のある笑みを浮かべて答えた。
「漆黒の。美しい色でございます」
「黒に最も似合う色は赤だ」
それがシャイターンの嗜好であった。彼が愛するのが鮮やかな赤、そして漆黒の黒なのだ。赤と黒こそが彼の愛する世界なのである。即ちそれは銀河と戦争だ。
「漆黒に匹敵する美しい赤」
心なしかその目さえ紅く輝いていた。
「それがまた見られるのだ」
「そしてその先には」
「覇業がある」
シャイターンは笑い続けている。
「永遠の覇業がな」
「シャイターン家による、ですな」
「このサハラは長きに渡って集合離散を繰り返してきた」
「地球にあった頃からですな」
「あのアッバース朝も統一はしていなかった。ハールーン=アル=ラシードがバグダートにおいてこの世の栄華を誇っていた時代も」
その時にこそ分裂がはじまっている。ウマイア朝がリベリア半島に逃れたその頃から。
「バイバルスもサラーフ=アッディーンも統一はしていない」
「出来なかったと言った方が妥当ですな」
「彼等を以ってしてもな」
「あの世界帝国オスマン=トルコも」
「あれだけの大国でもな。それは適わなかった」
「銀河にあっても」
「大国が出来ては消え、出来ては消え、だった」
正に混沌であった。サハラでは多くの国が生まれ、そして戦乱の中に消え去っていく。それの繰り返しだったのだ。何度か統一の気運が見られたがそれはいつも消え失せるのが常だったのだ。
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