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第二十部第三章 英雄の鼓動その十五
「まあそれでもいいかと思います」
 シンダントがそれをフォローした。
「それが結果につながるのならば」
「ふむ」
 アッデイーンはそれに頷けるものを見出していた。
「そうした考えもあるか」
「私はそう思います」
「ではここはハルヴィシー少将に任せよう」
 そのうえで断を下す。
「防衛ラインのことはな」
「では」
「ただしだ」
 それでも付け加えることは忘れなかった。彼にしてみればまだ注文したいことがあったのだ。
「境全体に関しても調べてもらいたい」
「境全てをですか」
「そうだ。少将にはその旨を伝えてくれ。いいな」
「はっ」
「了解しました」
「ハサンとの戦いに関してはまずそれだ」
 アッディーンは境を破ることにまず重点を置いていた。
「それが済んでからだ。全てはな」
「全ては」
「ハサンの首都を目指すまでの道のりは遠いものになるだろうが」
 ハサンは広大である。空間はそのまま障壁となる。国境を突破してもまだ首都までかなりの距離がある。アッディーンはそれを把握していたのだ。
「一つ一つクリアーしていきたい」
「わかりました」
「そうしたように作戦を立案していきましょう」
「近頃ハサンの要人の事故が続いているな」
 アッディーンはそれにも言及した。
「どういうわけか知らないが」
「あれでしたら」
 ガルシャースプがそれに答える。
「どうやらティムールの工作の模様です」
「ティムールのか」
「はい、まだ確かな情報は掴んでおりませんが情報部からはそうした予想が複数あがっております」
「閣下、これは有り得る話であります」
 バヤズィトが述べた。
「有り得るか」
「敵国の優れた人材を消すということはそれだけ消した国にとっては有り難いことです」
「確かにな」
 敵国の優れた人材はそれだけで脅威となる。これは政治の世界だけでなくビジネスやスポーツの世界においてもそうである。連合においてもそうした相手のスキャンダルの発掘がある。これもそうした抹殺方法の一つである。中には自分達に引き込むといったやり方もある。これはスポーツ界で最もよく見られ、ある野球チームはこれを十八番にしていると言われる。これには今ではかなり規制がかかっている。
「シャイターン主席にしてみれば戦いの前の布石なのでしょう」
「勝つ為にか」
「はい、サハラの覇権の為に」
 バヤズィトは何処か人間味が感じられない声で述べた。彼にしては珍しい口調であった。
「それをしているのかと」
「それによりハサンの受けた傷は小さなものではないがな」
「今後の戦局に大きく影響するのは間違いありません」
「かなりの犠牲者が出ているしな」
「そうです、有能な提督や高級官僚が次々と」
 その報告は既にオムダーマンにも届いていた。オムダーマンにとっては対岸の火事であるが。
「ハサンの上層部はそれに頭を悩ませているそうです」
「頭を悩ませたからといって人材が帰って来るわけでもなし。辛いな」
「ええ」
「ですがこれは我々には」
「わかっている」
 敵国の不幸は自国にとっては幸福である、いささか他力本願であり彼の好むところではなかったがアッディーンはそれにも頷いた。
「付け込むことが可能だ」
「その通りです」
「ではもう一つ手を打っておきたい」
 アッディーンは言った。
「もう一つとは?」
「ハサンのその要人達だ」
 彼は述べた。
「新しく繰り上げざるを得なかった。彼等だ」
「彼等のことを」
「よく調べてくれ、何かとな」
「わかりました、ではそちらも」
「まずは敵のことを全て知っておきたい」
 敵を知ることこそが戦略の第一歩である、アッディーンは今それに忠実に従っていた。
「戦略そのものも同時に進めていくが」
「そしてそれが整った時こそ」
「決まっている、開戦だ」
 声が強いものになった。
「全てはその為に進んでいる。いいな」
「了解」
「それでは」
 参謀達もアッディーンの言葉に敬礼した。オムダーマン軍も今胎動の段階に入っていた。連合とエウロパの戦いが終わり今度は砂の星達の中での戦いがはじまろうとしていたのであった。
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