第二十部第三章 英雄の鼓動その五
「あの食い方は連合軍並だな」
「そこまでですか」
「で、そうなりたいのか?」
シェフはここでウェイトレスに顔を向けた。
「ビヤ樽によ」
「女の子はスタイルが命なんですよ」
それが彼女の答えであった。
「確かに太めが好きな人だっていますよ」
これも案外多い。本当の遊び人は夏は痩せた女の子を、冬は太った女の子を愛する。それは何故か。汗をかかなくて済むからだ。だが一途な男は痩せていようが太っていようが構わないと言う。
「けれど私の彼氏は」
「痩せているのが好きか」
「そういうことです。だから私も頑張って痩せてるんですよ」
「だったら食べ過ぎは禁物だな」
シェフはそう言った。
「太るからな」
「結局そうなりますか」
「体格に合った食べ方をしないとな」
それが彼の持論であった。
「さもないとえらいことになるぞ」
「そういえば」
ここで彼女は気付いた。
「どうした?」
「連合もやっぱり太ってる人多いんですかね」
「そうなんじゃないのか?」
シェフは何となくあまり考えずに返した。
「こっちだってそうなんだからな」
「そうですかね、やっぱり」
「ほら、講和会議に来てた向こうの偉いさんの一人」
カバリエのことである。
「かなり立派な体格してただろ」
「ええ」
「そういう人も多いんじゃないのか、やっぱり」
「ですかね、やっぱり」
「まあ実際に連合に言ったことはないからどうってことは言えないけれどな」
一応はそう断った。
「けど、そうなんじゃねえのかな。やっぱり」
「太ってる人も多い」
「誰だって結婚すれば太るさ」
そしてまたこう言った。
「うちの妹みたいにな」
「じゃあ私は気をつけないと」
身に滲みる話である。彼女は強くその心に誓った。
「太りたくありませんからね」
「誰だってそう言うんだよ」
それに対するシェフのコメントは辛口であった。
「若い頃はな」
「私は違いますよ」
「その言葉もだよ」
年長者としての言葉であるがそれ以上に何か毒を含んでいた。しかも結構露骨にだ。
「歳取るとそんなものどうでもよくなるんだ」
「またそんなこと言って」
「そんなことじゃねえ、事実さ」
今度は突き放してきた。
「太るのもそれがどうでもよくなるのもな」
「けれどそうじゃない人もいますよね」
「努力してな。けどよ、そこまで努力したいのか?」
「女ってそうですよ」
「じゃあ俺の妹は今は女じゃねえのか」
何処となく真理に近い言葉であった。
「昔は違ったが。ついでに俺の女房も」
「まあまあ」
「まあいいさ。女ってのは太っててもな」
「さっきと言ってること違いますよ」
「別にいいじゃねえかよ」
突き放した後はふてくされる。どうにも感情の動きが激しいシェフであった。
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