第二十部第二章 割譲その十三
「じゃあ小柄だよなあ」
「ああ」
「けれど私よりずっと大きいわね」
「まあそれは」
伊藤は一五〇あるかないかだ。長身の八条等と比べられるとまさに大人と子供なのである。
「やっぱり映画になると私は大きくなるみたいね」
「ですね」
「嬉しいということにしておこうかしら」
伊藤達はそんな話をしていた。少なくとも連合はリラックスした状況であった。だがエウロパ側は違っていた。極めて重々しい空気に包まれたままであった。
「もうすぐ終わるのだな」
「はい、もうすぐです」
イギリスだけでなくフランスやドイツ、他の国々の首脳達もまた不機嫌な顔をしていた。
「全く、これ程まで時間が長いと思ったことはない」
「何時終わるのだ」
彼等にとっては不愉快極まる時間である。だから時間が長くかかると思っていたのだ。
「早く終わってしまえ」
「奴等の顔なぞ見たくもないわ」
向かい側に座っている連合の首脳達を見て言った。
「どの者も天国にいるような顔をしているな」
「それ程嬉しいのか」
「敵愾心は消えぬか」
スターツはそんな彼等の様子を見てこう呟いた。
「まあ当然か。私もそうだしな」
「また戦争でしょうか」
「少なくとも対立は続く」
問うてきたスタッフの一人に言葉を返した。
「これからもな」
「戦争は」
「それは当分はない」
これは否定した。
「その当分が何年になるかはわからないがな」
「左様ですか」
「そのまま睨み合いばかりでまた千年かも知れないしな」
「千年」
「これまでの千年でエウロパも連合も変わったと思うが」
「確かに大きくは変わりました」
これは否定出来なかった。連合にしろエウロパにしろ千年という時間は長かった。国家システムにしろかなりの変遷があり、国の名はそのままでもその性格が完全に変わった国もあった。また新しい国家も多く生まれたし文化も文明も変わってしまっている。やはり千年という時間は長いものであったのだ。
だがそれでも連合とエウロパの対立は続いていたのだ。それぞれの文明も文化も変わったがそれでも衝突する関係そのものに変わりはなかったのである。
「ですが」
「そうだな、対立する構図そのものは変わってはいない」
「それが変わらない限りはですか」
「変わるとは思えないがな」
これがスターツの意見であった。
「そう簡単にはな」
「我々はそういう関係ですか」
「そうだ、それに我々は纏まる必要がある」
「纏まる必要とは?」
この言葉の意味は少しわかりにくかったのかも知れない。スタッフ達は驚いたような顔を見せた。
「わかりにくいか。つまりエウロパとして一つにならなければならないということだ」
「そういう意味でしたか」
「そう言えばわかるな」
「はい」
その言葉に頷く。
「それでしたら」
「では。纏まる為には何が必要か」
「最も手っ取り早いのが敵でしょう」
「特に我々にとっては」
「連合だ」
スターツは一言で述べた。
「連合こそその為の敵だ」
「象徴として、同時に現実にある敵ですね」
「そうだ。彼等は現実にいる敵でもある。だからこそだ」
彼は言う。
「彼等との対立は続く」
「あまりにも強大な相手ですが」
「敵は強い方がいいのだ」
そしてまた言った。
「実際に戦わない限りではあるが」
「纏める為には」
「ですが実際に戦えば」
「惨めな話だな」
今度は顔を思い切り苦くさせた。
「栄光のエウロパがこのようなことになるとは」
「大変なのはこれからでしょう」
それはイギリス政府のスタッフ達にも嫌になる程よくわかっていた。
「戦争による荒廃こそそれ程ではありませんでしたし人口も減ってはいませんが」
このことに関しては連合に感謝しなくてはならなかった。連合軍は攻撃対象は軍事関連のみに絞り民間人の居住区や産業には一切手をつけなかったのである。これは民間人を戦争に巻き込むことを嫌う彼等、とりわけ八条の考えが大きく影響していたのである。
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