ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第二十部第一章 新たなる舞台の開幕その十四
「ようこそおいで下さいました」
 まずは八条がカバリエに挨拶をした。
「今回は何の御用件でしょうか」
「マウリアのことで」
「マウリアの」
「そう、さっき首相からメールがあったの」
 カバリエは落ち着いた声でこう述べた。
「首相から」
「講和のことでね。彼等に恩ができたから」
「はい」
 それは八条も認識していた。だから頷いたのである。
「これがそちらにも及ぶかも知れないから。話を伝えに来たのよ」
「直接ですか」
「ええ、直接話をしておきたくて」
 カバリエは言った。
「これは私の憶測だけれどね」
「何でしょうか」
「彼等は。連合の軍事技術も欲しがっているわ」
「我々のですか」
 その言葉に目を動かしてみせた。
「そうよ。講和条約の仲介をした見返りとして」
「我々の軍事技術をですか」
「彼等も善意で停戦から講和まで仲介したわけじゃないから」
 外交の世界では常識である。善意でそんなことをする国はまずない。表面上は善意という名前で取り繕われていてもだ。そんなものは仮面に過ぎないのが外交、いや政治というものなのである。
「ギブアンドテイクなのよ」
「それでですか」
「そうよ。その軍事技術だけれど」
「マウリアの軍事技術はそれ程低かったでしょうか」
 八条は言った。
「確かそれ程ではなかったと思いますが」
「技術は兵器だけじゃないでしょ」
「ええ」
 これも八条はよく理解していた。言われるまでもなく。
「通信にしろ偵察にしろ」
「そちらでしょうか」
「今回の戦争で連合軍の通信能力、偵察能力はかなりのものだってわかったから」
「それで被害を最小限に抑え、敵の意表を衝いてきましたから」
「そうね」
 カバリエは納得した顔で八条の言葉に頷く。八条はそれを受けてさらに言葉を続けた。
「それがこの戦争の大きな勝因の一つともなりました」
「マウリアはそれを欲しがっているようなのよ」
「左様ですか」
「ええ。それでね」
「停戦と講和の仲裁の見返りとして」
「それだけではないでしょうね」
 八条はそれも見据えて述べた。
「他には」
「まだ色々とあるけれどね。軍事技術だけでなく」
「やはり」
 八条はまた頷いた。
「それでも講和までこぎつけられたのは事実だし。見返りもまた必要なのよ」
「ではそれを提供するべきだと」
「私はそう考えるけれど。長官はどうかしら」
「マウリアとは何の軍事的緊張もありません」
 八条はまずそれに言及した。
「将来にもその可能性は薄いでしょう」
「そうでしょうね」
「ですから。それならば提供してもいいと思います」
「じゃあそれはこで決まりね」
 そう八条に問うと返事は明るいものであった。
「はい」
「わかったわ。後で首相に直接メールしておくといいわ」
「わかりました」
「ただ、どうにもマウリアの要求は訳がわからない時があるのよね」
「腹が読めないと」
「それが彼等の意図なのでしょうね。腹の底を読ませない」
 これは外交の基本中の基本である。駆け引きにおいては自分の考えは見せずに相手を惑わせるのだ。さながらポーカーの様に。そして自分の有利なように話を進めていくのである。
人気サイトランキング site_access.php?citi_id=254078182&size=200小説・詩ランキングcont_access.php?citi_cont_id=343008101&size=200


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。