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第五部第一章 新たなる幕開けその五
「テロリストへの対策は十二分にしておこう。連中の存在が最も怖い」
「ですね」
 秘書官もそれに頷いた。各国の首脳が勢揃いし、そのうえ重要な艦艇が次々に現われるのだ。テロリストが狙わない筈はなかった。
 各国の首脳を狙う者だけではない。こうした軍事を忌み嫌う者達もいるのだ。
「兵器なぞ必要ない。そんなものがあるから戦争が起こるのだ」
 というのが彼等の主張だ。だがこれは大きな誤りである。
 国際社会においては各国が軍を持っていなければとても侵略やテロに対処なぞできない。特に連合では宇宙海賊やテロリストへの対策を考慮して軍が編成されている。これは今の連合軍もそうであるし、かっての各国の軍や今のそれぞれの国の軍も同じである。侵略戦争がなくともそうした戦乱の火種は常にあるものなのだ。
 それをわかっていない者もいる。所謂平和教徒だ。彼等はまだいい。
 問題はそれをわかっていて主張している者達である。彼等には別の意図がある。
 それは何か。至って簡単である。彼等はテロリストや宇宙海賊の行動をやり易くする為にそうした主張をしているのだ。
 実際に連合軍が設立されてから宇宙海賊、テロリストの行動は激減した。まだ仮の港に停泊し、艦艇も兵器もバラバラの状況でこれなのである。それが正規の港を持ち、決まった艦艇を持てばどうなるか。結果は見えている。
 だからこそこうした団体は主張するのだ。彼等は海賊やテロリストと思想的、若しくは利益によって繋がっている。もしそれが公になれば当然彼等は犯罪者として裁判にかけられる。
 実際に前のとあるマスコミ企業が怪しげな市民団体と結託した事件もあった。そしてついこの前にも同じ様な事件が起こっている。
 キューバのとある自称正義派の女性国会議員である。彼女は何でも市民の為の政治家であり、汚職や腐敗を絶対に許さない、そして民主主義の為に戦っているという触れ込みだった。キューバの一部メディアには女神の如く崇められていた。
 だが実像はそれとは全く逆であった。当初から市民団体にいたことが看板となっていたがネットではよくこの団体の胡散臭さが言われていた。海賊と関係があるのでは、と。
 そして彼女自身もこの団体を自身の錬金術の道具にしていたのだ。人は良い行いをしたいものだ。従ってそういうことをする団体に資金援助をする者も多かった。団体の広告には子供達と楽しく談笑したり、地震等の災害が起こった場所で積極的に働くこの女の写真があった。
 しかしそれは嘘であった。この女は震災地ではまず自らの団体の宣伝を行った。そして救助活動をする軍を侮辱する発言を繰り返し、その施設に無断で入り込むと避妊具や酒を見つけて救助活動なぞせずに遊んでばかりいる、と中傷した。
 この時の酒は被災した市民達に無料で送る為のものだった。人はパンと水のみで生きるのではない、せめて心を安らげてもらう為に、というキューバ軍高官達の心配りだったのだ。
 避妊具なぞ誰でも持っている。財布にはまず入っているだろう。何とこの女は兵士の財布をひったくり、そこから抜き出していたのだ。
 これを批判する者も多かった。当然である。だが一部マスコミの報道によりそれは隠されていた。話はどうしてもネットにしか出回らなかった。
 だが収賄で捕まったのを機に話は動いた。この女の今までの悪行が白日の下に曝される時が来たのだ。
 悪事は次々と出て来た。学生時代から海賊の恋人がおり、また市民団体の船も海賊のものだった。そしてその政策は常に海賊達のことを考慮してのものだった。
 特に軍の力を弱める様な法案を立て続けに出したのはそれが狙いであった。軍よりも社会保障に回すべし、と主張したのはこの女が社会保障にも黒い利益を持っていたからであった。
 この女は当然裁判にかけられた。そして海賊を使って政敵を暗殺したことがわかり遂に死刑を宣告された。ネットでは大騒ぎとなった。
 こうした事件も起こっていた。それだけ連合においては海賊やテロリストの根が深いのだ。
 それを考えるととても安心はできなかった。警備は極めて厳重でなければならない。
「この地球、いや太陽系全体を警護しなくてはな」
「はい」
 秘書官はその言葉に頷いた。
「それだけでは足りないかも知れません。既にこの地球にテロリストが潜り込んでいる可能性もあります」
「地下にか」
「はい。見つけ出すのは困難かと思われますが」
「だが必ず見つけ出さなくてはならないな。何かあってからでは遅い」
「憲兵隊にも話をしておきましょうか」
「憲兵だけでは足りないな。特殊部隊も動員しよう」
「わかりました」
 連合の特殊部隊は各国の特殊部隊から入った者が多い。アメリカでグリーンベレーと呼ばれる特殊部隊はこの時代においても存在していたが彼等を参考にしている。
 その他にもテロリスト専門の対策チームがある。彼等は言わば連合軍のテロリストへの切り札であった。
「各部隊を総動員することになるな。そうでないととても心もとない」
「ですね。用心に用心を重ねないと」
 二人は何時になく真摯な顔で話し合っていた。
「海賊は流石に来ない。テロリストに専念した警備にしよう」
「特に危険な組織のリストアップは既にできております」
 秘書官はそう言って一枚のディスクを差し出した。
「こちらに。暗号を入力すると開きます」
「ほう」
 八条はそのディスクを受け取った。
「では早速見せてもらう。そしてすぐに行動に移ろう」
「わかりました」
 秘書官はまた頷いた。
「まずは太陽系への出入をチェックしよう。そしてそこから太陽系内の大掃除だ」
「かなり大掛かりなものになりますね」
「なるな。しかしそうでもしないと連中は防げない」
 これがテロの怖ろしいところである。完全に抑えないと駄目なのだ。一人でも逃がしたらその逃げた者がテロを行うからである。
 八条はそれはよくわかっていた。軍にいた時に叩き込まれたことだ。
「では今からその話をしよう。ところで」
 八条は自分のパソコンにディスクを入れていた。
「暗号のパスワードは何だい?」
 顔を上げ秘書官に尋ねた。
「私の一番下の妹の生年月日です」
 彼は微笑んで答えた。
「そうか。教えてくれないか」
「わかりました」
 彼はそれを伝えた。八条はそれに従って入力する。そしてディスクの中を開いた。
「ふむ」
 そこにはテロリスト達のデータが細かく書かれていた。八条はそれに目を通していった。
「こうしてみると多いな」
「一人一人、組織を一つずつ載せているからそう思われるだけですよ。実際はそれ程多くはありません」
 テロリストは常に少数派である。何故か、彼等は人に受け入れられることのない思想や信条を掲げていることが多いからである。
 そして反対派は絶対に排除する。例え誰であろうと。そうした者達が幅広く支持を集められる筈がなかった。だからこそ卑劣なテロに走るのだ。
「だが少数であっても危険であることには変わらない」
 八条の顔は硬いままだ。
「テロは一人でも成功させればいい。それで目的が達成される。それに対して」
「はい、我々は彼等全員を防がなくてはなりません。この差は大きいです」
 それが昔から変わらぬテロの恐ろしさであった。守る方はテロは全て防がなければならない。だが彼等は一人でも成功させられればそれでいいのだ。
「これについても話し合いたいな。特殊部隊と対策チームの長官を呼んでくれ」
「わかりました」
 特殊部隊は幾つかある。その中でも地球に駐屯する部隊は精鋭で知られている。彼等はかってのアメリカの特殊部隊グリーンベレーの名を受け継いでいる。グリーンベレーといっても緑の帽子は被っていない。これはあくまで部隊名に過ぎないのだ。
 その隊長はアサム=ンガバである。ケニア出身で中肉中背の黒人である。だが髪は赤い。これは彼の父方の祖母がカナダ出身の白人だったからである。
 今の階級は大佐である。ケニア軍でも特殊部隊におり、その冷静沈着さと卓越した戦闘能力及び統率力には高い評価がある。
「入ります」
 彼は敬礼をして部屋に入った。中には既に一人の男が座っていた。
「どうも」
 男は席を立って応えた。やや小柄なラテン系の男である。
 だが肌はあまり白くない。彼もやはり混血しているのだ。
「これが連合だ」
 昔ある作家が連合の人間の肌や髪、目の色が人種に関わらず様々なのを誇らしげに言った。連合はかってのアメリカ大陸、アジア、アフリカ、そしてオセアニアの国々から構成される。人類の大部分を占め、かつ多くの人種で構成されている。従ってその恋愛も多岐に渡るのだ。
 かっては白人と黒人の結婚なぞ考えられはしなかった。差別があったからだ。
 しかしそれは二十世紀の人種差別撤廃の動きから大きく変わった。そして二十一世紀以降は人種に関わらず開かれた恋愛が行われるようになった。
 しかしこれに国際社会の対立がいささか関係したのは残念なことであった。連合とエウロパは激しい対立関係に入り、マウリアは連合と協調路線をとりながらも独自の道を歩んだ。サハラはそのどこにも属さず、彼等同士で争っていた。従ってそうした恋愛が進んだのは連合に限られたことになってしまった。
 その結果が混血であった。日本人の父とオーストラリアのアボリジニーの母を持つある歌手は終生自分の黄色い肌と銀の髪を自慢していた。それが彼女の人気の秘密でもあったからだ。
 その他にも国に捉われず恋愛と結婚が進んだ。こうして連合では昔には考えられなかった様々な容姿の者が現われたのであった。
 ンガバもそうであるしアラガルもだ。あの鉄壁のガードを誇り頭の硬いことでは連合一とまで言われる日本の宮内庁も皇室の他の国々の者との婚姻は認めている。彼等の主張ではかっての皇室は他の王室、皇室との婚姻を認めていた、というのがそれである。これは事実であった。といっても併合した琉球王家や満州皇室との婚姻である。あまり例はない。だが彼等は前例には従うのを基としているので問題はなかった。その婚姻は当然の様に結婚されるご本人達の御意志は尊重されない。やはりそれなりに由緒正しいい者でないと婚姻は認められなかった。なおこの時代でもご成婚は議論の対象になっている。しかも今では日本国内に留まらず連合全体を巻き込む話になってしまっている。今の天皇陛下のご成婚も既にどうなるかという話が為されている。
「どうせ宮内庁が押し切るさ」
 という者もいる。彼等は宮内庁を好ましく思っていない。伝統や格式にこだわらない連合らしくないというのだ。だがこれにはでは他の王家はどうなのだ、という反論が用意されている。王家というものは伝統と格式の象徴であり、こうしたことは守らなければならないものであるのだ。
 こう言う者もいる。
「いや、陛下がご自身の意思を通されるだろう」
 実際にこうしてご成婚が決まったことも多い。現在の日本の皇室について考えるうえで非常に重要な天皇である昭和天皇にしてもそうであった。以後もそうしたご成婚が実に多い。
 だがこれは宮内庁にとって思わしくないのである。皇室に由緒正しくない者や考えを入れたくはないのだ。
「あそこの宮内庁の石頭は一千年の間全く変わらなかったな」
 誰かが宮内庁を揶揄した。すると宮内庁から反論が来た。
「我々は常に皇室の在り方を考え、皇室をお守りしているのです」
 と。彼等も彼等で皇室のことを真剣に考えているのだ。独善が入っているにしろ。
 これには言った者も苦笑した。だがこれで宮内庁が変わるかというとそうではない。彼等はこれで闘志をさらに燃やし、皇室の伝統と格式を守ろうと奮闘するのであった。
 これを見て連合の多くの者は思った。
「連合にも一つ位こういうものがあってもいい」
 彼等はこうした考えも受け入れることにしたのだ。結局伝統と格式も必要なのものであるからだ。なおエチオピア皇室も事情は大体同じである。この皇室は一度断絶しているがそれでも気の遠くなるような歴史がある為それを守らなければならないからだ。
「エチオピア皇室の歴史は何千年か」
 これは今だにはっきりしていない。今では連合の多くの宗教の一つであり、また影響を与えているキリスト教の経典によるとシバの女王の子孫だという。だがギリシア神話にも名前が出ている。これはシバの女王よりも前ではないのか、という説がある。なおこの家も混血している。何代か前の皇帝は日本の皇室から皇后を迎えている。それ以前にも例はあった。
 こうした国々である。今更肌や髪、目の色で誰も驚いたりはしない。気にもとめない。ただ、容姿の人気には多いに関係する。アメリカ大統領のマックリーフはその容姿でも人気があった。肌は黒いがその顔は白人のもので金髪碧眼であったからだ。
 ここにいるンガバやアラガルも同じであった。彼等はそれにこだわることなく挨拶を交わした。
「長官はまだですか」
 ンガバはアラガルに尋ねた。
「もう少ししたら来られると思います」
 彼は隙を見せない声でそう答えた。
「そうですか」
 ンガバはそれを聞いて納得したように頷いた。そして自分の席に着いた。アラガルの向かい側の席だ。
 ンガバには軍人としてだけでなく、何か野生動物の様な独特のしなやかな動きが備わっていた。例えるなら虎に似ているだろうか。動作はしっかりとしているがその中にしなやかさを含んでいた。
 それに対してアラガルは豹に似ている。だがその顔は常ににこにこと微笑んでいる。
(いつも思うが不思議な男だ)
 ンガバはアラガルを見て心の中で呟いた。彼とは何度も会っているが常にそう思う。
 かっては探偵としていたという。それもよくある浮気調査といったものではない。
 凶悪犯罪の捜査をその仕事としていたという。それも時には犯人を自身の銃で射殺することもあったらしい。
「まるでドラマに出てくる探偵だな」
 誰かがそれを聞いて言った。アラガルはそれに対して言った。
「ドラマではなく事実だ」
 まるで二十世紀後半に流行ったハードボイルドの主人公であった。今でもこのジャンルは健在だが彼の様に実際にそうした人生を送っている者はいない。
 テロリストの捜査にも協力するようになった。そこでも常人とはかけ離れた勘と運動能力を発揮して捜査を進めていった。そして連合軍が設立されると国防省のスタッフに招かれたのだ。当然テロ対策チームとして。
 そうしたかなり変わった経歴を持っていた。彼がかもし出す雰囲気はそれも関係しちえるのだろうとンガバが見ていた。
「どうやら我々を今回ここに呼んだのは観艦式の警護についてでしょうね」
 ンガバが口を開いた。
「そうでしょうね」
 アラガルは笑みをたたえたまま答えた。とてもそうした激しい人生を歩んできた男には見えなかった。まるでコーヒーショップの気のいい親父である。
(経歴は本当なのだろうか)
 この笑顔を見てンガバだけでなく多くの者がそう思う。だがそれは問わない。
「やはりテロリストですか」
「おそらく。この地球に潜伏しているか、やって来る者達についででしょう」
「ふむ」
 ンガバがそれを聞き考えるように腕を組んだ。
「要人暗殺を狙ったものでしょうか」
「他にもあります。連合軍自体に反対する組織とか」
 彼等の反対する理由は平和を害するというものだ。
『戦争が起こるのは軍隊があるせいだ』
 こうした主張はかっての二十世紀の日本を思わせる。当時の日本は『平和憲法』と呼ばれるものがあった。ここには軍隊や戦争の放棄が謳われていた。
 かなり理想的な理念ではあった。だが空想的でもあった。国家や国民を自らの手で守ることを放棄しているからだ。その様な国家は今まで存在していなかった。崇高な理念を持っていなかったのではない。常識を持っていたからだ。その様なことをしたらどうなるか、誰でもわかることであった。
 結果としてこの憲法は全く何の役にも立たなかった。むしろ当時の日本の政治、外交にとって足かせに過ぎなかった。だが意外とその寿命は長かった。
 これにはやはり理由があった。この憲法を狂信的なまでに信奉する者達がいたのである。
「この憲法は日本が世界に誇るものだ」
「この憲法さえ守っていれば平和は守れる」
 この憲法を作ったのはアメリカ人である。当時戦争に敗れた日本に対しアメリカの都合がいい憲法を押し付けたに過ぎない。だがそれには目を閉じていた。
 そしてこの憲法が平和を守るというのは単なる信仰に過ぎなかった。実際にはこの憲法に制約を受け当時の日本は政治外交に大きな障壁を持っていた。その弊害は無視できるものではなかった。だが信奉者達はそれにはまたもや目を閉じていた。
 凶悪なテロ支援国家に自国民を拉致されてもろくに手出しができなかった。これは普通なら戦争に至る極めて非道な行為であることは言うまでもない。
 信奉者達はあろうことかこの拉致は嘘だと主張した。何のことはない。彼等の言う平和とはその程度のものであったのだ。しかもこのテロ支援国家と結託までしていた。結局彼等もテロリストの一派であったのだ。
 この連中は最後はこのテロ支援国家が崩壊した時に道連れになる形で裁判にかけられた。そして外患誘致罪で殆どは死刑になった。同時に日本もこの憲法の呪縛から解き放たれたのであった。
 平和主義を唱えているからといってその者が平和を愛しているとは限らないのだ。中世のローマ=カトリック教会の僧侶達も口では神への信仰を唱えていても、やっていることは神への冒涜であったことからもこれはわかる。
 これは連合にとって大きな教訓となっていた。『平和を唱えるテロリスト』それは連合の内憂そのものであった。
「あの者達も当然やって来るでしょう」
「やはり」
 ンガバはアラガルの話を聞き顔を曇らせた。
「いつも思いますが連中は自分の主張と行為の矛盾について何も思わないのでしょうか」
「思わないでしょうね」
 アラガルはやや素っ気無く言った。
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