第十九部第五章 退場その十
だが連合はかなり気が楽だった。彼等は勝者なのだから。敗者はそうはいかない。ペーチは早速戦後処理に奔走していたのであった。
「酷いものだな」
執務室において軍務省からあげられた損害報告に目を通してまずは呻いた。
「ここまでやられていたとは」
「軍としての損害だけではありますが」
損害報告を提出してきた将校がそう述べる。
「民間に関するものはまた別になります」
「内務省からだったね」
「はい」
「後は交通省や通産省か。そちらはどうなるかな」
「連合軍は民間には危害を加えませんでしたのでそちらの損害はほぼありません」
将校は答えた。
「ですが戦争により経済活動が阻害されていた為その分の損失がありますが」
「それが問題だな」
「ですがインフラは健在です。すぐに経済活動を再開できるものと思われます」
「だといいのだがな」
だが彼は楽観視はしてはいなかった。
「市民生活に困窮はあまりありませんし」
「うむ」
「難民も出てはおりません。このことは連合軍に感謝すべきかと」
「敵に感謝するというのも因果なことだがな」
「彼等が節度を守ったということに」
「皮肉な話だ」
ペーチは苦い顔でこう述べた。
「それで今はかなり楽になっている一面があるからな」
「ですが戦争による損害は」
「わかっている」
目の前にある資料こそがその証拠であった。
「五百個あった艦隊は三割を失っているな」
「はい」
「そして多くの人員を失った。遺族への救済が大変だ」
「物資も。かなりのものを失いました」
「防衛態勢もな。致命的なダメージだな」
エウロパ軍にとっては。天文学的な損害であった。
「戦争前に回復させようと思えばかなりの額になるかと存じます」
「ニーベルングも失った。防衛態勢を一から考え直さなければならない」
「問題は山積みですね」
「そういった事柄を全てクリアーしなくてはならない。暫くは辛い時代が続くな」
「それは覚悟しております」
将校は唇を噛み締めて答えた。
「それはよく」
「軍のこともな。よく考えなければ」
彼はそのうえで将校に対して言った。
「軍務相は今どうしているか」
「軍務相ですか」
「そうだ。今はオリンポスにいるのか」
「はい、おられます」
将校は答えた。
「クロノス及びニョルズへの視察を終えられまして」
「そうか、それは何よりだ」
「ただ、かなりお疲れですが」
「そうだろうな」
これは容易にわかった。今このオリンポスで疲労を感じていない者なぞいない。誰もが敗戦のショックに打ちひしがれているのが実情であった。
「「だが。時間はあるか」
「御会いになられるのですか?」
「あくまで私の希望だが」
二人が古くからの親友同士だというのは多くの者が知っている。それはこの将校も知っていた。軍ではかなり有名な話なのである。
「よいかな」
「閣下にお話してみます」
「うむ、頼むぞ」
「わかりました。ところで」
「何だ?」
「何処でお話されるおつもりですか?」
将校は尋ねてきた。
「こちらでですか?それとも軍務省で」
「いや、レストランで会いたい」
「レストランですか」
「そうだ、部屋を予約してな」
そうも言い加える。
「わかりました。それではその際はこちらで手配致します」
「頼めるか?」
「ええ、その位は」
彼は答えた。
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