第五部第一章 新たなる幕開けその二
「はい、何でしょうか」
「後方基地の建設だが」
これも艦隊運営及び戦略には欠かせないものである。
「これはどういう計画が出ている?」
彼はそのことについて尋ねた。
「はい、それでしたらまずカッサラを中心に置くことが既に決定しております」
「やはりな」
当然この星系を外すことは出来ない。ミドハド及びサラーフとオムダーマンを繋ぐ場所にあるからだ。
「ミドハドはそこからサルチェスに伸びます。そしてサラーフですが」
「あそこが重要だな」
「はい、北方やハサンと国境を接していますから」
バヤズィトは電話で答えた。
「二つ置こうと考えているのです」
「二つか。まずは何処だ」
「はい、まずはムスタファ星系です」
かってアッディーン率いるオムダーマン軍がサラーフ侵略の拠点とした場所だ。今も交通の要地であることに変わりはない。むしろその重要性は高まっている。
「ここにまず置きたいと考えています。それもカッサラに匹敵する大規模なものを」
「あの星系にか」
「そうです。如何でしょうか」
「いいと思う」
アッディーンは答えた。
「やはりムスタファに置くのが一番いいだろうな」
「閣下もそう思われますか」
「ああ。サラーフとの戦いでそれはよくわかった。是非ともそれで進めてくれ」
「わかりました」
「そしてあと一つは何処だ」
「あと一つですか」
「そうだ。まだ計画にもあがっていないか?」
「いえ、既に一つ挙がっています」
バヤズィトはすぐに答えた。
「何処だ?」
「アルフフーフを考えています」
言うまでもなくかってサラーフの首都であった場所だ。
「あの星系もまた交通の要地ですし。それに」
「それに?」
「軍の施設にはこと欠きませんし。どうでしょうか」
「そうだな」
アッディーンはそれを聞いて暫し考え込んだ。
「アルフフーフは少し北方、ハサンとの国境に遠い気がする。それではいざという時の補給に難が生じるのではないか」
「そうでしょうか」
「そう思う。もう少し東にあった方がいいと思う。ただアルフフーフにも基地は置いておくべきだな。用心にこしたことはない」
「わかりました」
バヤズィトは答えた。
「では第二の後方基地は暫く検討します」
「頼むぞ。そして前線基地も置いておきたいな」
「それなら既に候補が挙がっております」
「早いな。何処だ?」
アッディーンは尋ねた。
「スルが宜しいかと」
「スルか」
彼はそれを聞き言葉を出した。
スルは北方と東方を結ぶ位置にある星系である。鉱産資源にも恵まれサラーフにおいても重要な工業地帯の一つであった。そして交通の便もよかった。
「はい、あの星系なら宜しいかと」
「確かに」
アッディーンはそれを聞いて頷いた。
「ではそれは国防省に話をしておこう。おそらく通る筈だ」
「有り難うございます」
バヤズィトは敬礼して応えた。
「ただ一つ気になることがある」
「何でしょうか」
「アスランからの距離だ」
アッディーンは言った。
「かなり離れているな」
「それは否定できませんね」
「首都から離れているとそれだけで問題が起こる。補給も通信も」
首都はその国の中心である。言うまでもなく行政、軍事の中枢が集中し、そこから主な命令が出される。これは何時の時代でもあまり変わらない。
「我が国もかなり大きくなった。アスランはその国土と比べて西に寄り過ぎている」
「今となってはそうですね」
元々オムダーマンは西方においても最も西にあった。その為首都も西方においてはかなり西にあるのだ。
「今まではカッサラを前線基地にしていたがあの星系はアスランからそれ程離れてはいなかった」
「はい、ですから前線基地として絶好でした」
「アルフフーフにしろスルにしろアスランどころかカッサラからも離れ過ぎている」
距離はそれだけで問題であった。
「今後東方や北方とことを構えるとなると首都がアルフフーフのままでは何かと支障をきたしかねないな」
「それは我々も危惧していることです」
「だが首都はアスランのままでいくつもりのようだな、政府としては」
「首都機能の移転にはまだ時期尚早ですし」
西方を統一したばかりである。ミドハド、サラーフの新たな領土はまだ完全に治まってはいない。
「少なくとも落ち着くまではアスランのままでいくでしょう」
「そうだろうな。だが時期が来れば議論して欲しいな、国会には」
「そうですね」
二人はそんな話をしていた。首都の位置はそれだけ重要だからである。
これは連合やエウロパにおいても変わらない。特に多くの国が互いに対立しているサハラや各国の権限が大きい連合と比べてエウロパの首都の重要性は大きい。これはこの勢力が他の勢力に比べて中央集権的傾向が強いせいでもあるのだ。
「オリンポスの防衛計画が完成しました」
プロコフィエフはモンサルヴァートに分厚い計画書を差し出して報告した。
「そうか、遂にか」
彼はそれを手にとって言った。
「首都が陥落しては何もならないからな」
「はい、ましてや我々の防衛計画は首都を基軸にしておりますし」
「そう、だからこそまずは首都の防衛を万全にしておかなければな」
ここが連合とエウロパの違いであった。連合は広大な国土のせいもあり各地に行政機能が拡散している。首都機能にしろ各国が持っているといっても過言ではないのだ。
だがエウロパは違う。構成国それぞれに首都があろうとも彼等にとって首都とはオリンポス星系のガイアただ一つであった。このガイアに何かあればそれだけでエウロパにとっては致命傷である。
「まずはガイアの周辺に人工の防衛用小型衛星を置きましょう」
「小型衛星か。どのようなものだ」
「直径にして五キロのものを考えております。それは二十四個。常にガイアの周辺を回らせます。コントロールはガイアから行います」
「中々いいな」
「そしてオリンポス星系の全ての惑星にこれを置きます」
「全ての惑星にか」
「はい、もし一つでも惑星を陥落されたらそこを足掛かりにすることが考えられますので」
彼女の声は冷静であった。
「それを考えると当然の処置かと存じます」
「そうだな。他にはあるか」
「駐留艦隊をこれまでの一個艦隊から三個艦隊に増員します。西方の部隊から移動させようと考えております」
「西方か」
モンサルヴァートはそれを聞き壁にかけてある立体地図を見た。
「確かに西方はそれ程の脅威はないな」
連合からもサハラからも遠い。精々治安維持が妥当かと思われた。
「ならばそれで宜しいでしょうか」
「いいと思う。兵員も多いにこしたことはない」
「有り難うございます」
プロコフィエフはそれが了承されて安堵した息を漏らした。
「そして次に星系全体の防衛ですが」
そして次の説明に移った。
「それぞれの惑星の砲座、ミサイル発射基地を増加させます」
「どれ位だ」
「今までの二倍を考えております。今ガイアにはそれぞれ一万の砲座、ミサイル発射基地がありますが」
「それでは不十分なのだな」
「そう思います」
プロコフィエフは率直に答えた。
「連合が中央軍を設立したことを考えますとこれまでの防衛では心もとないと言わざるを得ません」
今回の本土防衛計画もそれが根幹にあった。エウロパにとって連合はそれだけ脅威であるのだ。
「今までニーベルング要塞群にだけ頼っていましたが若しそれが破られたら」
「今までだと終わりだったな」
「はい」
頷く彼女の顔はいささか蒼ざめていた。
「それを考えますとそうした備えも必要かと存じます」
「同意する。だが二倍で足りるかな」
「と言いますと」
「連合は三千の艦隊を持っているという。我が軍の三十倍だ」
「はい」
そのことはエウロパにも伝わっていた。それを聞いた者の多くは青くなった。
「若し彼等がエウロパに侵攻してきたら。そしてニーベルング要塞群を攻略したならば」
モンサルヴァートは言葉を続けた。
「すぐにでもこのオリンポスに向かって来るだろう。もっともそれを防ぐ為に今防衛計画を立てているのだが」
「首都以外の各星系、宙域の防衛計画も進めなければいけませんね」
「そうだ。だがやはりまずは首都の防衛を完了させてからだ」
中央集権的なエウロパの軍人らしい考えであった。
「そこから四方八方に伸びていく防衛を考えているのだが」
彼は自身の考えを述べた。
「宜しいと思います」
プロコフィエフはそれに対して言った。
「それを考えてまずは首都の防衛計画を持って来たのですから」
「そうだったのか」
モンサルヴァートはそれを聞きやはり切れる、と思った。
「首都から拡がる防衛計画なら何事もやり易いですね」
「そう思うか」
彼はそれを聞き微笑んだ。
「はい、それに理に適っておりますし」
少なくともエウロパには合っていた。
「それではまずこの計画を練りましょう。全てはここからはじまります」
「そうだな。では各部の長を呼んでくれ」
「わかりました」
こうして各部門のリーダーが召集された。ベルガンサやモナコ等がやって来た。
「よく来てくれた」
モンサルヴァートは彼等が来たのを見て席を立って迎えた。
「いえ、その様な」
ベルガンサもモナコもそれを受けて謙遜した。
「閣下に呼ばれたのですから当然です」
だが彼等も悪い気はしなかった。
「では話をはじめましょうか、早速ですが」
モナコが言った。彼等はそれを受けてモンサルヴァートの席の前に集まった。
「卿等を呼んだのは他でもない。首都の防衛計画だが」
「プロコフィエフ参謀総長のですね」
「そうだ」
モンサルヴァートは頷いた。
「参謀総長」
彼はプロコフィエフに顔を向けた。
「それでは説明を頼む」
「わかりました」
そして彼女は先程モンサルヴァートに話したことを今度は彼等に話した。話が終わるとモンサルヴァートは彼等に問うた。
「どう思うか」
参謀達は暫し考えていた。だがやがて口を開いた。
「非常にいいと考えます」
「流石といったところでしょうか」
ベルガンサもモナコも口々に言った。モンサルヴァートはそれを見て納得した様に軽く頷いた。
「そうか、ならいい」
「そして話は全てここからはじめるのですね」
「そうだ」
モンサルヴァートは答えた。
「首都ガイアを中心に全土を防衛する。何か考えがあれば遠慮なく言ってくれ」
「そうですね」
ベルガンサはその言葉に口を開いた。
「各地にも補給基地等を充実させたらどうでしょうか。中央に重点を置くのもよいですが」
やはり後方参謀らしい考えであった。
「そうだな」
モンサルヴァートはそれに対し頷いた。
「そうすれば何かあった時に物資に困ることもありませんし」
「よし、それも計画に入れよう。参謀総長、それでいいな」
「はい」
プロコフィエフもそれに頷いた。
「私の考えですが」
今度はモナコが口を開いた。
「通信も重要ですね。防衛には情報の伝達も欠かせません」
「よし、ではそれも検討しよう。それにしてもだ」
モンサルヴァートはここでエウロパの立体地図に目をやった。
「どうも今までニーベルング要塞群にばかり防衛を集中させ過ぎていた様だな」
「それは否定できませんね」
他の者もそれに頷いた。
「確かにあの要塞群は堅固ですが」
プロコフィエフがまず言った。
「もし破られたならば以後は為す術がありません」
「少なくとも今は」
アッディーンはここで応えた。
「はい」
彼女はそれに頷いた。
「防衛上それでは非常に不安です。そうしたことを考えますとやはり国土全体を守れる様にしなければなりません」
「うむ」
アッディーンも頷いた。
「今まではそれでも大丈夫でしたが」
「これからは違うな」
やはりここには連合軍の存在があった。
「若しあの膨大な戦力がこちらに向けられたならば。そして要塞群が破られたならば」
「そう考えると怖ろしいものがある」
これはエウロパにいる全ての者が思っていることであった。
「それを考えますと明らかに今のままでは問題があります」
「わかっている、その為のこの防衛計画だからな」
これは他の者も同じ考えである。
「本土の方は全土を要塞化するつもりでないと駄目だな。かなりの戦費の負担になるが」
「はい、今までの三倍以上になるかと思われます」
「凄いな。だがやらないわけにはいかない。財務省の者達が嫌な顔をするだろうが」
「それは総統次第ですね。あとは選挙の結果です」
エウロパも民主制である。やはりこうしたことは選挙にかなりの影響を与える。
「市民はこの計画をどう思っているのだ」
モンサルヴァートはここでプロコフィエフに問うた。
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