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第一話 嗚呼スライムに名前負け……

俺がここ最近拠点としている街アイルステルス。

高レベルダンジョンに近い街の中でも有数の巨大都市ということで寝泊まりや道具、装備の補充はここで行っていた。

最近とはいえ、もうここを拠点にしてから半年は経っているため、顔馴染みのやつがここには多い。

けれどもそんな顔馴染みのやつらの俺を見る目が今日はいつもと違っていた。

一応原因は分かっているんだ。

きっとーー否、100%俺の肩に乗っているスライム(こいつ)のせいだ。

さっきも言った通りだが、ここは高レベルダンジョンに近いので基本的にいるのはレベルの高いプレーヤーばかりだ。

そんな中で最弱の代名詞と言っても過言ではないスライムと共にいるなど頭がおかしいか何かスライム関係のクエストをしているかのどちらかにしか思えない。


「へぇ、外ってこんな風になってるんだな。ダンジョンとは違って立派じゃねぇか」

「当たり前だ。誰も破壊するやつがいないからな」


物珍しそうに(実際珍しいのだろうが)キョロキョロと街を見渡し、興味深々な様子のスライム。

そんな様子を見ていると、上から目線だった時とは一変、何だかただの子供のようだ。

右を向いて感嘆。

左を向いて感嘆。

そりゃあダンジョン内と外を比べれば時代が変わったかのごとく大きな差があるのは当然だ。


「そういえば名前を聞いてなかったな。お前なんて言うんだ?」

「相変わらず生意気だな…。そんな言い方で聞くモンスターなんて見たことねぇぞ……。俺の名前はルカだ。覚えとけよ」

「ルカか。まぁまぁの名前だな。俺はレオ。お前も忘れんじゃねぇぞ」


またか。

またか上から目線か。

自分の名前をまぁまぁと言われたことにイラッときたが、不覚にもこいつの名前を聞いた時に『あれ? こいつの方がかっこ良くね?』と思ってしまった。

い、いや違う!

きっとレオよりもルカの方がかっこいいさ!

普通はモンスターの名前って仲間にしたやつーーつまりは俺が決めるのでは? なんて疑問もあったのだが、下手に名前をつけてまたあの生意気口調で文句を言われるのも嫌なのでここはあえて何も言わないでおく。

だってレオよりかっこいい名前、俺には思いつかねぇし。

まさかのスライムに名前負けしそうに(俺は負けたとは認めない)なってしまった俺だが、気持ちを整えて宿舎に向けて歩を進める。

いつもなら先に道具屋に行ってダンジョンで獲得した道具の整理をするのだが、今日ばかりは事情が違うので予定を変える。

とりあえず、今後レオをどうするか考えないとな……。

いかにしてこいつの存在を隠しつつ過ごしていくか。

それが俺の目下の議題だった。

そう、『だった(・・・)』のだ。


「あ! ルカだ! どこいくの? クエスト終わったんでしょ? いつもの通りウチに寄っていきなよ」

「お、おぅリサ……」


たった今、俺の友人である道具屋、リサに会わなければな。

よもや今日に限って、しかもこのタイミングで買い物に出かけていようとは……。

20mほど離れた場所から大声で大きく手を振り、ポニーテールで纏めた栗色の髪を揺らしながら笑顔でこちらにやってくるリサに対して、俺は苦笑いで軽く手を挙げ応じることしか出来なかった。

俺の前でトンっと軽快に止まるとその綺麗な翠色の瞳を大きく見開き、俺の肩に乗っているそいつ(レオ)を見つめた。


「わぉ! スライムじゃん! 久しぶりに見たよ! やっぱ可愛いー! うりうりっ」


ぷにぷにと嬉しそうにレオを突き、スライム特有の弾力を楽しむリサ。

あ〜、レオ怒ってるぞ……

目を閉じ、それでいて口がギッと右上がりになっているところをみると我慢しつつもイライラを募らせているようだ。

いっそのことこのまま放置してキレるまでやらせようと思ったが、流石にリサにそんなことをさせるわけにはいかない。

折角レオへの嫌がらせが出来ると思ったのにな、なんて残念な気持ちで一杯だが、しょうがなくリサにやめるよう注意しようとしたのだが……


「うぅっ! 可愛いよ! スライム可愛すぎるよ!」

「おいっ! てめっやめろ! ギュッてするなギュッて! ルカも見てないで助けろやコラ!」


リサは俺が言うより早く、肩からスライムを抱き上げてレオを抱きしめてしまった。

レオも不測の事態に慌てて素の口調でリサを怒るがリサは聞いちゃいない。

今度は俺に助けを求めるも、俺は無視することにした。

あぁ? 何がやめろだ。

そんな可愛い子に抱きしめられてるんだぞ。

羨ましい。

俺への当て付けか、お前は。

俺だってされたことないぞそんなこと。

いや、俺は人間だし当然だけど。

羨ましい状況に文句を言っているレオに流石の俺も我慢ならない。

しばらくその状況のままでいろ。

お返しと言わんばかりにレオを上から目線で見下すと、レオは俺の考えを読み取ったのか唇(らしき部分)を噛み締め、後で覚えとけよと言わんばかりの睨みをきかす。

へっ。そんなもん俺には効かないぜ。


「? どうしたのルカ? 足が震えてるけど?」

「気にするな。なんでもない」


べ、別に『うわぁ、後で何言われるんだろ』なんて思ってないからなっ!?

ただ今朝食べたキノコスープに痺れキノコが入っていて今効きはじめただけだけだからな!?

レオは結局、俺の援護を諦めたようでジタバタと余計に暴れ、自力でリサから脱出した。

……偶然に見せかけてその反動で俺の顔面にアタックを決めることを忘れずに。

痛ぇ……。

スライムだからぷにぷにしてるはずなのに痛ぇ……。

痛む頬を押さえて、一つ大きな溜息を吐いた。

こういうのを厄日って言うんだろうな……。







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