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大樹海から来た男
作:春野エックス



制裁(4)


「そうならいいけどね。でもカランはウィチカーニの世話係だったと思うけど。担当を替えてもいいのかな?」
「うふふふ、私と金雄さんみたいにべったり二人で行動している訳じゃありませんから。一緒になってトレーニングしている人は、ここでは私一人だけなんですからね」
「えっ! そ、そうなのか? じゃあ一緒に食事をすることも普通は無いのか?」
「はい。時々は一緒に食事をする事もありますけど、寝起きを共にし、食事もトレーニングも一緒なのは私達だけですわ。
 さっきカランと話をした時、彼女に私達は事実上の夫婦なのかって聞かれたのよ。ちょっとどきりとしちゃったわ。うふふふふ」
 ナンシーは如何いかにも楽しそうに笑いながら言った。

「えっ! な、何て答えたんだ?」
「そ、それはそのう、近い将来そうなれれば良いなって。でもね、それは冗談で、本当は単に仕事熱心なだけだって答えて置いたわ」
「うーん、拙いよ。ナンシーとは友人以上の関係は無いんだからね。……それじゃあ明日から別々に暮らそうか?」
「それは駄目よ。わ、私は、言いたくは無いんだけど貴方の監視役でもあるのよ。何時いつそばにいなくちゃ駄目なのよ。離れて暮らすなんて考えられないわ」
 ナンシーは所々に自分の本音を漏らしていた。金雄も薄々は気が付いていたのだが、知らぬ振りを押し通す事にした。
 下手に同調すると美穂の手前もあるが、浜岡の仕掛けた罠にはまり込む様な気がして、ろくな事にならないと思ったからである。

「そうだったな。長くなって来たので忘れるところだったよ。しかし俺はビエンターににらまれる様な事をしたかな? 今日が初対面だぞ」
「そうねえ、ちょっと調べてみるわ。何か私達、人様の気に触るような事を知らず知らずの内にしていたのかも知れない」
「うん、頼むよ。それじゃあ遅い昼食をたっぷりと食べますか」
「はい。私、もうお腹ぺこぺこ」

 二人は気が付いていなかったが、二人とも、特に小森金雄は地下格闘会の一部の選手達に激しく憎まれていた。ナンシーも憎まれてはいたのだが彼女は浜岡の女だと思われていた。このムーンシティでは浜岡に睨まれたり、彼を怒らせる様な事があったら、それは即座に死を意味する。

 実際にかつてナンシーをひどくからかった男二人が、惨殺ざんさつされたという事件があったのである。だからナンシーには手を出せない。
 しかし金雄なら殺してもたいした事はあるまいと考えていた。ただナンシーと一緒では手が出せないので、この二人を引き離すことを、密かに画策していた者達がいたのである。

 その一人がビエンターだった。と言うよりはビエンターが中心になっていた。二人を引き離し、小森金雄を抹殺する計画が着々と進行しつつあったのである。

 やがて試合の刻限がやって来た。金雄はランク五十八位で青のコスチューム。対戦者は五十七位の赤のコスチュームで、シャパールというフランス系の男である。
 ナンシーの調査によると過去に釘を隠し持っていて相手をめった突きにし、Cクラスから一気にEクラスにランクを下げた事のある男だった。

 試合が始まると何故かその男はしきりに頭を両手で探っていた。いわゆるアフロヘアーで金雄の目に一瞬光るものが見えた。
 凶器に間違いない。仮に凶器でなくとも重大な反則である。その事にレフリーも気付いて止めようとしたが、シャパールはレフリーを激しく突き飛ばして失神させ、金雄に突進して行った。

 金雄は右に回り込んで横から攻撃しようとしたがシャパールは手に持った凶器を投げて来た。難なくかわしたが、すかさず襲い掛って来た。

「ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ!」
 今度は右手に持った凶器を振り回しながら攻撃して来た。両手に凶器を持っていたのである。小さなナイフの様だった。

 金雄はじりじりと後退した。かなり手馴れているらしく、なかなか鋭い攻撃で自分自身も全くの無傷では倒せそうもなかった。
 しかしその時、
「パンッ、パンッ! パンッ、パンッ!」
 数発の銃声があって、シャパールは血を噴出して倒れた。

 半分位の入りの客席は騒然となった。薄暗かった場内は照明が全開されてすっかり明るくなった。地下格闘場には警報音が鳴り響き、主要な出入り口は厳重に封鎖され、地下格闘場専門の警察官によって観客および選手とその関係者、格闘場のアナウンサーや警備員、責任者など全員が厳重な取調べを受ける。

 シャパールは直ぐ医療施設に送られたが命に別状はなかったようである。彼は当分ここで取調べを受ける事になる。ただここでも浜岡と深い関係にあると思われているナンシーだけは特別扱いだった。

「申し訳ないんだけど、金雄さんは被害者だし、私は勿論何もしていないから帰らせて貰いたいんだけど、良いかしら?」
「はい、ええとそのう、身分証だけ調べさせて貰えませんか?」
「はい、どうぞ」
 尋問に当たった警察官が丁重な態度でナンシーに接した。












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