大樹海から来た男(7/260)PDFで表示縦書き表示RDF


大樹海から来た男
作:春野エックス



知恵のある野獣(7)


 入る時はその素晴らしいジャンプ力で二階の窓に手を掛け、よじ登るようにして入室するのである。もしもの時の為に一階は罠だらけにしておいたのだ。外でうめいている者の中にエムの見知った顔があった。光太郎の側にいた一心を彼は知っている。

「天空会館の奴等に間違い無いな。畜生ちくしょう闇討やみうちとは情けない。これが天下の天空会館館主、天の川光太郎のする事か!」
 エムは天空会館本部の一部に明かりがともっている事に気が付いた。そこに光太郎が居るらしいと、ピンと来た。

「光太郎、逃げるなよ!」
 激しく叫びながらエムは明かりを目指して走って行った。 

 時折、奇声を発してエムが猛スピードで追い掛けて来る事に、一人逃げ出した原田源次郎はらだげんじろうは気が付いた。頼りになる場所と言えばやはり天空会館しかない。彼も天空会館の第二道場に明かりが灯されている事に気が付いた。

『先生が危ない!』
 動転どうてんしていた彼の頭にその言葉だけがひらめいた。彼は一目散に第二道場に掛け込んだ。思った通りそこに光太郎が居た。

「先生、に、逃げて下さい! あの男が来ます。私以外の全員がやられました。は、早く!」
「ははは、準備は出来ておるのじゃ。心配は要らん」
 光太郎は目配せをして源次郎を安心させた。せめてこの男だけでも助けたい、そう思ったのである。

「それよりもお前は裏口から自宅に戻って待機していなさい。良いな、すぐ行きなさい。これはわしの命令じゃ。おっとその前にたった今、お前の破門は解除した。さあ早く行くのじゃ!」
「は、はい」
 源次郎は必ずしも納得した訳ではないが、館主の命令とあれば従わない訳には行かなかった。

 彼が去って二十秒もしない内にあの男が現れた。身体の所々から血がしたたっている。重傷まではいかないが、かなりの傷を負っている。

「あんたもなかなかやるねえ。人が気持ち良く寝ているところを襲わせる何ざ大したものさ」
 エムは皮肉めかして言った。
卑怯ひきょうだと言うのか!」
「いいや、俺はめてるんだぜ。こういう事は兵法の初歩。しかし俺だってぬかりは無いさ。色々と仕掛けをして置いたからね。三人は引っ掛ったな。
 あんたは門下生に何を教えていたんだ? 家に男が一人閉じこもっているんだったら、火を点けるのが最善だろう。出て来た所を十人で袋叩きにすりゃ良いんじゃないのか?」
「十人? どうして十人と分かる」
「ざっと何人いるのか常に俺は数えているんだぜ。逃げた奴が一人、罠に掛った奴が三人。二階で倒したのが四人、階段の所で蹴飛ばしたのが一人、音から判断して階段の下の方に居た奴が潰された。そいつが一人で合わせて十人だ」
「な、成程なるほど
 光太郎は男の決して力だけではない知的能力の高さに驚かされた。

「袋叩きにするぐらいじゃあ俺は倒せない。飛び道具が良い。銃がご法度はっとなら弓か手裏剣しゅりけんを使えば良い。そうすれば俺を何とか倒せたかも知れん」
「ば、馬鹿な。曲がりなりにも人様の家に火を点ける等と、そのような無法な事が出来る筈も無い!」
「へへへ、甘ちゃんだねえ。虫唾むしずが走るぜ! だから俺はあんたの門下生に一分一秒もなりたくなかったのさ。現実にあんたの門下生の、多分最強メンバーだろうが十人の内九人までが死んだか大怪我かどっちかだ。この責任をあんたはどう取るんだい?」
「そ、その者達は既に破門している。わしとは何の関係も無い」
「へえーっ、そこまで言うんだ。しかし世間の人はそうは思わないだろうよ。ここの最強メンバーが破門された途端とたんに俺を襲ったとなると、俺を襲わせる為にわざと破門したのだと皆は言うんじゃないのか?」
「だ、黙れ!」
「まあ、一人には逃げられたけど早々と逃げ出したもんでね、追い付けなかったよ。その男は見込があるね。他人の命より自分の命。俺が同じ立場だったらやっぱりさっさと逃げる。これも兵法の初歩だ」
「わしに何の用がある。襲われた仕返しか!」
「さっきも言った様に別にうらみに思っちゃいねえ。楽しませてくれた御礼を言いに来ただけさ。身体でな!」

 言うが早いか男は強烈な金的きんてき蹴りを仕掛けて来た。辛うじてかわしたが二の矢が早い。顔面を狙っての連続パンチ。一発一発が重くしかも速い。
 光太郎は防戦一方となった。更に再び強烈な金的蹴り。今度も辛うじてかわしたがよろけてしまった。殆ど飛ぶ様な感じで顔面へ膝蹴ひざげりがやって来た。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう