豆カン。(23/25)縦書き表示RDF


少々官能的であります。
苦手な方はお控えくださいませ。
豆カン。
作:乙麻呂



白薔薇の君へ



君に捧げよう、これは優美で美しい君に相応しい。



目の前でほんのりと頬を染めて俯く少女に、男はそっと一輪の薔薇を差し出した。

小さな花が一つだけついた白薔薇の一枝。


この薔薇は君を実によく表している。


男が少女に唇をふんわりと乗せると、少女はきゅっと渡された薔薇を握りしめる。

棘の採られた薔薇は、少女の手のひらを傷つけることなく、そこに収まる。


純粋無垢で、恋をまだよく知らない君。


すっと男が少女の首に舌を這わせると、少女の唇から、小さな吐息が漏れた。


恋の吐息を洩らす君は、まだ私に恋をするには早すぎる。


少女の手に握られた白薔薇の茎に手を伸ばし、男は小さくふっと笑った。


ぱきん。


花が根元から折れて、少女の手には薔薇の茎だけが残る。

しかし少女は止まることのないキスの嵐に、未だそのことには気付かない。

はぁ…。

あられもない淫らな声が、少女の唇を割る。



貴女の不快さが私を悩ませる…。



ぱきん。


小さな薔薇の悲鳴がまた一つ、少女の手のひらから生まれる。


君は気づいていない。


ふぅっと少女の耳に熱い息を吹きかけて、男は女が求めて止まない、その切れ長で美しい瞳を僅かに伏せる。

長い漆黒の睫が男の頬に影を作り、それは作り物のような精巧な美を形成した。

窓から僅かに差し込む光が男の彫りの深い顔に陰影をつけ、まるでそれは聖像画に描かれた高貴なる聖職者のようだった。


ぱきん。


男は薔薇の茎を折ることをやめない。

今や少女の手に握られているのは、切り口がいびつな、不格好で汁を垂らした薔薇の茎のみであった。


君のようだ。


男は瞳を熱っぽく潤ませて、キスを求めるように、上目づかいに自分を見てくる少女に呟いた。

男はそれに従いながら、少女をゆるく抱きしめて、またキスを繰り返す。



私は貴方に相応しい―。



少女の口から吐息とともに吐き出された言葉に、男はまた瞳を伏せる。

少女の栗色の髪に指を絡め、その頭を引き寄せながら、男はその少女の胸に顔を埋める。


白薔薇の蕾は今日落ちる。



ぷちん。


引きちぎられたボタンに、少女はまた吐息を荒くした。

ひとつ、またひとつとボタンが千切られていくたび、少女の白く滑らかな肌が露わになる。

ぴくんと跳ねた体を愛おしそうに見つめながら、男はそっと瞳を閉じた。


貴女には白薔薇が相応しい。


つぅっと指を胸に這わせ、キスをひとつ。

そこに咲いた赤い薔薇に、男はまたひとつ、キスを落とす。

一連の動作を、まるで何かの儀式のように繰り返しながら、男は次々と少女の胸に薔薇を咲かせていく。


―貴方を死ぬほど恋い焦がれています。


少女から聞こえてきた声に、男はほんの僅かに手を止めた。

視線を胸から顔に移動させると、少女は潤む瞳を小さく開いて、淡く淡く微笑んだ。

それは頬を染めて俯いていた少女とは同じと思えないほど、怪しくつややかな笑み。

男は鈍く光る自分の瞳をその少女の瞳に写しながら、ほぅっと溜息をひとつ零した。


女が愛してやまない男の、小さな溜息。

世の女が求めてやまない男の、その美しい顔と漆黒の瞳は、当の昔に霞んでいる。

儚げな男の表情は女をそそる。


もっと…。


求めてくる腕に首を絡め取られながら、男はそれに従順に従った。



もっと・・・。



赤く染まった唇に唇を重ねる。

重ねた途端に侵入してきた舌が、乱暴に男の口内をまさぐる。

それは欲望を抑えきれなくなった女そのものの姿。


君は気づいていない。


ふぅっと唇の端から漏れる吐息が、男の顔をかすめる。



恋の吐息を洩らす君は、まだ私に恋をするには早すぎる。



そっと唇を離すと、戻し遅れた少女の舌が、ねっとりと糸を引いて宙を彷徨った。

何かを求めるように見つめてくる少女に、男は何も言わずにすっと立ち上がる。

男は全く乱れていない着衣を確認し、そっと扉を押し開けた。


私と君が結ばれることは、最初から有り得ない。


どさりと倒れる音がして、男はほんの僅かに首を回した。

先ほどまで熱っぽく潤んでいた瞳に、今や光は見当たらない。

青白い顔をしてそこに伏せる少女を視界の端に映し、男は静かにその場を後にした。



どんなに愛した女性でも、結ばれることは決してない。

それは男の宿命であり、人生であった。


男は口の端に僅かに残る血痕を乱暴に拭うと、最後に女が残してくれたそれを、丁寧に舐めとった。

銀色の月に照らされた血は、赤く、禍々しく、そして甘美であでやかな味がした。

男は鬱塞うっそうとした気分で、今にも割れてしまいそうな儚い月に視線をほうり、ズキンと痛む頭に顔をしかめた。


もうすぐ朝が来る。


男はすっと目を細め、ビルの屋上に足をかけた。


今日はそろそろ退かなければいけないか。


とん…と軽く地面を蹴って、男は遥か遠くに見える地上に向かって飛躍する。

暗闇に白いワイシャツがはたはたと靡き、男の漆黒の髪がぶわっと盛り上がった。

急速に近づいてくる地面に、何の造作もなく、すっと足を着けると、男はほんのりと明るくなってきた通りをゆっくりと歩き始めた。


明日はどんな娘にしてやろうか。


人通りの少ない街道を、男は一人呟く。


血に飢えた獣は何を望むのか。


伏せられた睫に日の光が僅かに当たる。

男はその呟きを最後に、闇の中へ、溶けるように消えていった。




『白薔薇の君へ』いかがでしたでしょうか。

いやぁ、久々にかなり頑張った感があります。
思いついたときとはだいぶ違う作品になってしまいましたが、満足しております。
本当は、様々な薔薇を模した少女が男に次々と殺されていくお話だったのですが…^^;
ちょいとオカルト〜な話になりましたね。
本当はあんな落ちじゃないはずで…でも書いてみたらコレもありかも、となってしまったのです。
なぜなら前半に書いた文章を気に入ってしまい、最終的には前半に合わせた話にしなくてはいけなくなって
…まだまだ構成力が足りない私です…orz

実は沢山花言葉が書いてあるんですが、話に折り込んでしまったので分かりにくかったかもしれないですね。
この後ブログに載せておきますので、興味のある方はご覧くださいませ^^
ブログには『豆カン。』TOPページから行けると思います。

それでは少しでも『白薔薇の君へ』楽しめていただければ幸いです。

これからも『豆カン。』をよろしくお願いします♪






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