ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第一部 ~火星までの道のり~
第五話

「えぇっと。これをこうして・・・」

現在、俺専用のアサルトピットからOSとかを改良中。
想像通り好きに動かせるといっても戦闘経験不足は否めないしな。
それを補うべく、俺は秘策を使った。
調整してシミュレーションで試してまた調整。
これをひたすら繰り返す。
・・・ま、それだけなんだけどさ。
とにかく、俺に最適な調整を見つけるまでやり続けるつもりだ。
そうしないと足手纏いだろう。
ま、ヤマダ・ジロウみたいに突っ込んで自ら窮地にいくような事はしない。
そもそも俺の出番があるか分からんけど。
それでも、ま、やらないよりはやった方が良いだろ?
いざって時に困るし。

「おぉ~い! マエヤマァ!」
「ん? この声はウリバタケ氏か。はぁい! 何ですかぁ!」

振り返るとウリバタケ氏が手招きしていた。
格納庫はうるさくて堪らん。
仕方ないけどさ。

「テンカワが用があるってよ! ちょい降りて来い」

用って何だろう?
ま、いいや。どっちにしろ、ちょっと待って欲しい。

「ちょっとだけ待って下さぁい! もう少しなんでぇ!」
「急げよぉ! テンカワも忙しいんだからなぁ!」

出来るだけ急ぎますから待ってくださいって。

「えぇっと。補正値はこれくらい。リミッターは俺の身体なら耐えられるからちょっと緩めるか。
 伝達速度は最高値で。あれ? あんまいじくると怪しまれるか?」

基準が分からん。
あんま変な設定にすると変な眼で見られる。

「ま、まぁ、試していたって言えばいいか。おし。とりあえずこんなもんかな。
 ウリバタケさぁん! 今、行きまぁす!」

降りる時に使うワイヤー?みたいなのに捕まって降りる。
飛び降りられるんだけどね。六メートルぐらいなら問題ないよ。
でもさ、普通じゃないじゃん、それって。
あくまで僕は一般人を目指しているので。

「・・・来たか。ついて来い」

あの・・・怖いんですけど・・・。

「えぇっと。どこに行くんですか?」
「付いて来れば分かる」
「あ、そうですか」

強引だよ。拒否できないし。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

あぁ。無言。間が保たない。

「・・・お前は・・・」

話しかけてくるテンカワさん。
何だ? 何を言われるんだ?

「はい。何でしょう?」
「・・・ミナトさんと・・・いや、なんでもない」
「はぁ・・・」

ミナトさんがどうかしたのかな?

「着いたぞ」
「ここは・・・シミュレーション室ですか?」
「ああ。予備といってもパイロットだからな。実力を把握しておきたい」

あ、リーダーとしての責任感ですね。分かります。
あぁ。良かった。何されるのかってヒヤヒヤしてたんだよ。

「シミュレーターに入れ。一対一だ」

一対一ね。ま、やれるだけやりますか。

「場所は火星。フレームは0G戦フレーム。何か質問は?」

何でわざわざ火星なんだ? 
ってか、ネルガルもネルガルだよな。
何故あえて火星フィールドをシミュレーターに導入した。
知っている人には分かるが、知らない者には謎以外の何ものでもないぞ。

「・・・・・・」

ジーっと見られているんですけど?

「いいのか? 悪いのか?」
「あ。すいません。大丈夫です」

待っていてくれたのか? 悪い事したな。

「それじゃあ、始めるぞ」

その声を合図に手をコンソールに置く。
切り替わる正面モニターの映像。
まるで本当に戦っているかと思う程の臨場感だ。
以前体験したゲームとはまったくの別物。
まぁ、あっちは遊び用だったから仕方ないか。

「・・・行くぞ」

イミディエットナイフを片手に接近してくるテンカワ機。

「・・・未来予想。誤差は?」

視覚からの情報だけじゃない。
俺はナノマシンの恩恵でフィードバックレベルを限界以上に高められる。
・・・あんまり高めすぎると痛みとかも感じるみたいだから、これも後で調整だな。
フィードバックレベルの向上は結果として、イメージだけの機動を超えて、
ほぼ無意識な反応にまで対応するようになった。
そして、俺が急遽開発したソフトの・・・見得はいけないな。
遺跡からロードしたソフトの機動予想というソフトを機体のハードにインストール。
これは相手方の運動性能、武装、体勢などから敵機体の能力を把握し、
現状からどう動いてくるかを予想するというもの。
俺が持つナノマシンとこのソフトのお陰で・・・。

「ほっと」

見える。見えるぞぉ。

「何!? 避けられた」

俺、いや、私にも未来が見える。

「チィ! これなら!」
「あ、やばっ」

ラピットライフルが火を吹きました。
とりあえず避難です。

「右手にナイフ、左手にライフル。・・・よし」

機体に持たせ、的確にイメージする。
自らの身体と機体とを融合させ、己の身体とする。
・・・次は俺のターンだ。

「オォォッォ」

隠れていた建物から身体を乗り出し、対象物にラピッドライフルをぶちまける。
機動予想で先を読み、そこへライフルを放てば命中する筈。

「・・・・・・」

・・・凄まじい旋回で避けられました。
ま、理論上なので確実ではないのですが・・・。
何でしょうか? あの機動は?
あんな事したら内蔵傷めるっての。
横も縦も凄まじいGが掛かってる筈。
俺は耐えられるかもしれないけど、普通の人にはまず無理。
良く耐えられたな。もしや、テンカワさんも普通じゃないのか?

「まだまだぁ!」

おいおい。
回避能力が凄まじ過ぎるでしょ?
あれだけ連射して一発も当たらないなんて。
ん? 弾切れが近い?
とりあえず止めだ。当たらない射撃に意味はない。
意味ある射撃なら無駄弾でもいいが。

「・・・次はこちらから行くぞ」

俺がライフルをしまった途端、テンカワ機は再度突っ込んできた。
得物はイミディエットナイフか。
ならッ!

「ハァァァ!」

俺もナイフで応戦だ。
飛び込んでくるテンカワ機に俺も突っ込む。

「・・・考えもなく飛び込んでくるな」
「嘘だろ!?」

そのまま鍔迫り合い?
なんて事を思ってたらいつの間にか空いてた方の手にライフルを持ってましたよ。

「終わりだ」

共に接近している状態での乱撃。
普通なら確かに終わりだろう?
でも、俺は残念ながら普通じゃないんでね。

「オォォオォォ」

機体を回転。
一発一発を的確に避けていく。
最小限の動きで。

「何!?」

それが俺には可能だ。
この恐ろしい程の動体視力ならな。
・・・回転のGがありえない程に凄いけど。

「ハァァァ!」

ガキンッ。

嘘ぉ! あの一瞬でライフルを捨ててナイフに持ち替えただって?
ありえないでしょ。どれだけ高機動戦に慣れてるの? って話だし。
わざわざライフル側から攻撃したのに意味ないじゃん。

「やるな。まさか、避けられるとは思わなかったぞ」
「もう一杯一杯ですよ」

実際、そんな感じです。
ありえない機動にありえない反応速度。
俺はいいよ。色々と人間離れしてるから。
でもさ、貴方ってただの人間だよね?
激しく疑問に思うんですけど・・・。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

鍔迫り合い。
テンカワ機は両手にナイフを持ち俺の攻撃を受け止めていた。
俺は片手で押し続ける。
駄目だ。片手対両手じゃいつか跳ね返される。
その為に・・・離脱だ!

「ほっと」

機動兵器でキック。
ついでにディストーションフィールドも纏わせて頂きました。
ゲキガンキックってか?

「グッ・・・」

蹴り飛ばして、同時に後ろへと跳ぶ。
これで距離は取れただろう。
経験が浅い俺としては近接距離は避けたい。
出来るだけ遠くから攻撃しないと絶対に勝てない。
間違いなく、相手は相当に経験を積んでいるだろうから。
・・・テンカワさんってコック志望だったよな。
何があったらこんな場慣れしたパイロットになれるんだ?
もしかして・・・今のテンカワさんって未来から来たテンカワさん?
いや、でも、だったらもっと歳取ってるよな。
それにこっちの世界のテンカワさんがいないのもおかしいし。
まぁ、何かしらの細工をすればナデシコに来させない事も出来なくないけど。
とにかく、今のテンカワさんは成人前のテンカワさんで間違いない筈。
何があったか知らないけど、それでも間違いはない筈だ。
でも、それにしちゃあ経験豊富そうだよな? 
やばい。頭が混乱してきた。
・・・あ。・・・今、気付いたんだけどさ。
俺ってもう十九歳だよな。じゃあテンカワさんより年上じゃない?
何で敬語で話してるんだ? ま、いいけど。

「戦闘中に考え事はいけないな」
「おわっと!」

いつの間にか接近を許していました。
ナイフで斬りかかられました。
ギリギリで避けられました。

「あ、危ねぇ・・・」

どうにか助かったって感じ。
下手するとさっきので負けてたな。

「・・・あれも避けるか。充分に間合いは詰めた筈なのだが・・・」

フッフッフ。動体視力と反応速度なら負けないぜ。
経験不足を補うにはそれしかないからな。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

ナイフでの接近戦を終えた後はライフルでの射撃戦。
互いにライフルを構えて、機動しながらの戦闘を行う。
上下左右斜め。
状況を的確に判断し、最善の位置へと移動する。
スラスター全てを駆使して、自分の出せる最高速度で移動し続ける。
そうしなければ当たるとお互いが分かっているからこそ。
止まれない。妥協できない。勝つ為にはそれしかないから。
だが、何故だろう? まったく勝てる気がしないのだが・・・。

「グッ!」
「ン!?」

クソッ。フィードバックが強すぎた。右腕が焼けるように痛ぇ。
下げよう。
必死にライフルを避けながら、俺はOSを書き換えた。
・・・ふぅ。
痛みが引いたな。
反応が良いのは助かるけど痛みまで来るのはいただけない。
何かしらの対策があるまでこの状態は禁止だな。

「良く当てたな。右足が使い物にならない」

俺が右腕を犠牲にしたようにテンカワさんも右足を犠牲にしていたらしい。
って事はまだ勝機はある。

「オラァァァ」

全身にフィールドを纏いながらテンカワ機に突っ込む。
・・・足から。

「・・・・・・」

対するテンカワさんは助走をつけて飛び込んできた。
・・・ライフルを出す素振りはない。
なら・・・。

「イメージ。イメージだ。全てのディストーションフィールドを右足に集中。蹴り倒す」

全てのDFを右足に回し、その足から突っ込む。
現在の俺が出せる攻撃の中で最大級の攻撃力を持つ攻撃だ。
これで終わらなければ負けたようなもんだと思ってくれ。

ガンッ。

金属同士が衝突した音。
俺の機体の右足とテンカワ機の右手が正面から衝突していた。
ディストーションフィールド同士の真っ向勝負か。
面白い。やってやろうじゃないか。


DF同士の衝突は凄まじい衝撃らしく、俺の機体もテンカワ機も吹き飛ばされた。
俺がその衝撃で眼を回している時にテンカワ機が強襲。
コクピットに拳を叩き込まれて負けてしまいました。

「クソ~~~。負けちまった」

やばい。かなり悔しい。

「いや。良くやったと思う」

クソッ。それは勝者の余裕か。

「そう悔しがるな。俺はエステのテストパイロットを一年間やっていたんだ。負ける方がおかしい」

・・・一年? すると、サイゾウさんに拾われてからすぐにテストパイロットになったって事か?
どういう事だ? アキト青年に何があったんだ?

「・・・お前はどうして予備パイロットに?」
「俺が予備パイロットになった理由ですか?」
「・・・ああ。お前から頼み込んだのか?」

俺から頼み込んだ訳ではない。
そりゃあ最終的には自らの意思だけど、きっかけは別にある。

「なんかネルガルがプロデュースしてたゲームで最高記録を出してしまいまして。
 それでパイロットに適正があるとかでスカウトされました」
「すると、お前はパイロットとしてナデシコに来たという訳か?」
「いえ。パイロットといっても予備ですし、パイロットはおまけに過ぎませんよ。
 ゲーム機でパイロットとしての実力が計れる訳ないじゃないですか」

ゲームは所詮ゲームだ。
確かに今のシミュレーションに近いものはあったけど、
ゲームで適正を計るのは間違っていると思う。

「では、何故、ナデシコに? お前の目的は何だ?」

鋭い眼光で睨みつけてくる。
こ、怖いって。
それにしても・・・。

「理由・・・ですか。そうですね。放っておけないからですかね」
「放っておけない? 何がだ?」

・・・視線が鋭くなった気がする。

「俺が途方に暮れている時にミナトさんが助けてくれたんです。
 だから、ミナトさん一人を戦艦に行かせる訳にはいかないかなって」
「・・・ミナト・・さん?」
「ええ。お世話になりっぱなしでしたから。少しでも恩返しできればなって思って」

これは本当。ナデシコにいる間にミナトさんには多くの選ぶ時があると思う。
もちろん、決定権はミナトさんにあるんだけど、
悩んでたり、苦しんでいたりする時に助けてあげれればなって思ってる。
だから、白鳥九十九とか、ミナトさん関連の話は一切してないんだから。

「予備になったのも本当に危機に陥った時に何も出来ないのが嫌だからです。
 本当は嫌だったんですけど、嫌がってて死んじゃったら本末転倒かなって」

生きなければ幸せは望めない。
まずは生き抜く事。それが大前提。

「俺のちっぽけな力で誰かを護れるのならそれでもいいかなって思います。
 ミナトさんに言われたんですよ。一人で出来る事なんて限られてるって」
「・・・・・・」
「だから、とにかく身近な人を護ろうと思います。
 地球全体とか、木星蜥蜴でしたっけ? そんなのを一人で背負いきれる訳ないんで」
「ッ!」
「まずは自分。その次に大切な人。それで、もし、まだ余裕があるのなら他の人の事も考える。
 そうやって幸せを求めるものだって俺は習いましたから」

自分を犠牲にして誰かを救う。
それじゃあ幸せになれないんだな。
自分の犠牲が救われた誰かを苦しめるかもしれないし。
幸せになるって簡単そうに見えて本当に難しい。
特にこんな戦争の時代なんてね。

「理由は放っておけないから。
 目的は・・・そうだなぁ、無事に生き抜いて、幸せを求める為ですかね。
 俺は生き抜きますよ。ナデシコクルーも護りきってね」

どれだけ異常な力を持っていても所詮は人間。神じゃない。
出来る事と出来ない事があるんだ。
出来ない事を出来ると突っ走る事も時には大切かもしれない。
もしかしたら、本当に実現させてしまえるかもしれない。
でも、俺にはそんな事は無理だと思う。
なら、出来る事を全力でやるしかないだろう?
きっと、それが俺の生きる道なんだよ。

「・・・一人じゃ限界がある・・・か」

何か思い当たる事でもあったのかな?

「これは俺の人生観ですよ。テンカワさんに押し付けるつもりはありません。
 テンカワさんにはテンカワさんの考えがあるでしょうから」
「いや。参考になった。そうだな。人一人が背負うのに世界は重過ぎるな」

世界を背負う?
話が大きいな。
でも、世界を舞台に戦う人間もいる。
たとえば、そう・・・。

「それでも、足掻いて、足掻いて、無理だと理解しても足掻き続けて。
 いつか無理だった事すらも乗り越えてしまう、どんな困難も打ち破ってしまう。
 そんな不可能を可能にしてしまう人もいますけどね」

物語の主人公ってそんな感じ。
どれだけ逆境に立たされても諦めない心で打ち勝ってしまう。
眼の前にいるテンカワさんになら、あるいは・・・。

「足掻く・・・か。今の俺にピッタリの言葉だ」

足掻く事がピッタリ?
どういう事だろう?

「良い言葉だ。足掻く。決められた運命にも足掻き、非情な現実にも足掻き・・・。
 そして、いつか、俺が望んだ光景を見る。それが俺の目的か・・・」

神妙な顔付きで話すテンカワさん。
その表情から全てを理解する事は出来ない。
でも、テンカワさんが隠し切れない苦悩と責任という重圧に押し潰されている事は分かる。
完全に原作のアキト青年とは別人なんだってこの時に理解した。
本質的にアキト青年とテンカワさんは違うみたいだから。
あの時のアキト青年は逃げの構えだったからな。
このテンカワさんは必死に足掻き続ける攻めの姿勢。
いや、根本的には同じなのかな?
劇場版のアキト青年こそ今のテンカワさんと―――。

「・・・同じだ。同じなんだ。どうして気付かなかったんだろう。
 いや。ありえないって否定していたのか」
「・・・どうかしたのか?」
「い、いえ。何でもないです」

間違いない。
このテンカワさんは本来の時間軸の未来からやって来たアキト青年だ。
身体は原作開始時と同じ。でも、経験とか、考え方とか、そういうのは劇場版のアキト青年。
実体のないボソンジャンプ? いや、でも、そんな事ってありえるのか?

「あの、機体の調整とかしたいんで、もういいですか?」

今は考える時間が欲しい。

「ん? ああ。時間を取らせてすまなかったな」
「あ、いえ。良い経験でしたから。また御願いします」

一礼して、急いで格納庫へ向かう。
今は自分のアサルトピットに閉じ篭りたい。
考えても無駄かもしれないけど、自分の考えは纏めておきたいからな。
・・・今度、ミナトさんに相談しようかな?





「悪い人間ではない。腕も確かだった。彼ならナデシコを護ってくれるだろう」
「そうですか。アキトさんが言うのならそうなんでしょうね」
「だから、悪い人じゃないって言った」
「そうでしたね。ラピス」
「・・・ルリちゃん。俺達は足掻くんだ。無理かもしれないが、それでも足掻き続けよう」
「はい。あんな未来はもうたくさんです。足掻いて、足掻いて、足掻き続けましょう」
「ああ。不可能を可能にしてやる。足掻き続けて、諦めなければ、いつか、いつか・・・」
「・・・アキトさん」
「・・・アキト」
「協力してくれるか? ルリちゃん。ラピス」
「何度も言ってるじゃないですか。私はアキトさんを支え、助ける為にここにいるんだって。
 貴方が望まぬ限り私はいつまでも貴方を助け続けます」
「アキト。私はアキトの眼、アキトの耳、アキトの手、アキトの足。アキトが望めば私も望む」
「・・・そうか。頼むな。二人とも。一人で背負いきれななくても皆となら背負いきれるんだ。
 俺だけじゃ無理でも皆がいれば・・・」





「それじゃあアキト君は未来からやって来たって事?」
「・・・かもしれないんです」

ミナトさんの部屋にお邪魔してお茶を頂いています。
ミナトさんとは同棲・・・コホン、一緒に暮らしていたので、あんまり緊張とかはありません。
うん。一年間だしね。流石に慣れるよ。
んで、相談に乗ってもらっています。
ミナトさんも分からない事ばかりだと思いますが、聞いてくれるだけで考えが纏まるから不思議。
やっぱり凄いなって改めて実感します。

「でもさ、ボソンジャンプってそういうものなの? 身体ごと飛ぶんじゃないの?」
「ええ。その筈なんですけどね。でも、ボソンジャンプってレトロスペクトだっけ?
 とにかく、身体を一度分解して過去へ戻って未来へ具現化されるってシステムなんです」
「えぇっと。もうちょっと分かりやすく説明してくれるかな?」

分かりやすくか。俺もそんなに詳しくないんだよなぁ。

「間違っているかもしれませんが、それでも良いですか?」
「ええ。コウキ君が考えている通りでいいわ。
 難しい事は分からないし、大まかな形だけ捉えられればいいもの」
「そうですか。分かりました」

かいつまんで話す技量が俺にあるかな? ま、やれるだけやってみよう。

「ボソンジャンプはある演算器によって管理されています。それがまぁ、遺跡って奴なんですけど」
「演算器が管理? という事は自由に何もかも出来るわけじゃないって事ね」
「はい。だから、時間軸移動も任意には出来ませんし、誰にだって使える訳じゃないんです」
「私には無理って事よね?」
「ええ。例外を除けば無理ですね」
「例外って?」
「いくつかあります。たとえば遺伝子手術を受ける。
 でも、これは危険性が高いのでお薦めできませんね」

MCは大丈夫みたいだけど、一般人には厳しいらしい。

「もう一つはとても簡単です。今でも可能ですよ」
「え? そうなの?」
「はい。高出力のDFで囲めばいいんです」
「DFって何かしら?」

あ、そっか。まだ知らないのか。

「ナデシコに搭載されている空間を捻じ曲げる事で攻撃を防ぐ特別な障壁です。
 いずれ見る事が出来ると思いますよ」
「ふ~ん。ま、その時まで待つわ」
「ハハハ。そうしてください。
 それで、その高出力のDFに囲まれつつ、導き手が導けばボソンジャンプは可能です」

戦艦でも機体でも、DFと一緒に運べば良い。
ただし、A級ジャンパーがいる事が条件だけど。

「その導き手っていうのがボソンジャンプが普通に出来る人なのよね?」
「流石に鋭いですね。そうなります」

曖昧な情報でここまで的確に理解できてるのは凄いと思う。

「ボソンジャンプが出来る人、ジャンパーって呼びますね、そのジャンパーは三つに分類されます」
「三つ?」
「はい。一つはA級ジャンパー。CCという特別な石?があればDFすら必要とせず飛べる人間。
 これがミナトさんのいう普通に飛べる人って認識です」
「CCって何なの?」
「ん~~~。そうですね。使い捨てのコミュニケって感じです。演算器にイメージを伝える為の」
「なるほど。一度しか使えない訳ね」

本当に鋭い。
一度のジャンプで使用されたCCが失くなるって理解している。

「次はB級ジャンパー。これは遺伝子改造を受けた人の事で、CCだけでは飛べません。
 確か、機械の補助があれば可能な筈です」
「そもそもさ、どうやって目的地とか決めるの?」
「イメージです。ここに飛びたいという思いがCCを介して演算器に伝わり目的地へ運びます」
「イメージか。なんだかIFSみたいね。もしかしてさ、ジャンパーの条件って特別なナノマシン?」
「核心突き過ぎです。ミナトさん」
「え? 当たってるの?」
「ええ。でも、もう無理ですよ。条件はある所で生まれて、ある程度過ごす事ですから」
「何だ。じゃあ、私には無理なのね」
「まぁ、そうなりますね」

実は俺がいれば飛べるんだけど、これはまだちょっと秘密かな。
確か遺跡がDFなくても飛べるっていってたし。
試すの怖いし、しょうがないよね。
あ、俺だけは何度か試したけど、無事に飛べました。
ま、普通に生きるだけなら瞬間移動なんて特に必要ないけど。
時間掛かっても出来る事ばっかりだし。

「最後にC級ジャンパー。これはDFに囲まれ、かつ、A級ジャンパーの先導が必要な人間です。
 先導役は機械の補助付きのB級ジャンパーでも大丈夫ですね」
「へぇ。でもさ、それなら少なくともAとBは分ける必要がないんじゃないかしら?
 機械の補助があれば大丈夫なんでしょう?」
「それが、ちょっと違うんですよ」
「どう違うの?」
「A級ジャンパーは長距離間の移動が可能。それこそここから月にだって一瞬で行けます」
「へぇ。それって凄いじゃない。じゃあ、B級は短距離って事?」
「はい。距離はあまり分かりませんが、少なくてもここから月までは無理でしょうね」

理論上、A級ジャンパーは演算ユニットが把握している所ならどこへでも行ける筈。
平行世界という観点を除けばだけど。

「ただし、例外もあります。B級ジャンパーでも長距離移動が出来る例外が」
「遺伝子調整だけで長距離瞬間移動か。実現したら色々と便利そうね。問題も多いと思うけど」

ええ。火星の後継者の騒乱はそれが原因でしたから。
便利なもの全てが人間にとって良い事とは限らないんですよね。
ヒサゴプラン自体はそんなに悪くなかったと思うけど。

「その方法はあらかじめ飛ぶ場所を設定しておく事です。
 簡単に言えば、ワープホールを作るって事ですかね」
「ワープホールを作る? そんな事可能なの?」
「トンネルみたいな概念です。トンネルの中はワープホール。そこを抜ければ違う場所みたいな」
「トンネルねぇ。それって作れるものなの?」
「正しく言えば、あらかじめ作られているトンネルを飛びたい場所まで運ぶって事ですかね」

確か木連はプラントでチューリップを作っていたよな?
ってことは設計図と材料さえあれば作れるかもしれない。気になるから後で遺跡で調べておこう。

「そっか。それならどこへでも行けるわね。運ぶのが面倒かもしれないけど」

きちんと制御して管理すれば便利だと思いますよ。
大航海時代がやってくるかもしれません。

「それじゃあ俺なりですが、ボソンジャンプについて説明しますね」
「ええ。御願いね」

ウインクありがとうございます。

「んもう。つまんないわね」

最初の方は照れてましたが、流石にもう照れませんよ。
一年間ですから。同棲・・・コホン、同居生活。

「端的に言いますと、
 ジャンパーが演算器にアクセスするとまずは身体が粒子として分解されます」
「分解されて弊害はないの? 構築されないとか」
「それがジャンプミスですよ。
 ジャンパーじゃない者が無理に飛ぼうとすると分解されてお終いです」
「こ、怖いシステムね」

下手するとっていうか、簡単に死にますからね。

「その分解された粒子はある特別な波に乗って過去へ向かうんです。
 直接現地へ向かう訳じゃないんですね」
「直接向かってたら分解、構築がすぐに出来ないじゃない。それじゃあ瞬間移動にならないわ。
 それに、時間軸移動についても説明できないもの」
「おぉ。鋭い」
「ふふん。まぁねぇん」

過去へ向かってそこで演算器に現在という未来へ送られる。
その時に何かしらの干渉があって時間軸移動が可能になっちゃうって事か。

「過去へ向かい、演算器によって再び未来へ送られるそうです。
 その際にイメージしていた目的地で具現化されるそうで・・・」
「ふ~ん。それじゃあさ、もし演算器に何かしらの不備があったら、
 ボソンジャンプは何があるのか分からないって事よね?」
「ええ。そうなります」

そう思うと怖いよな。
分解されて違う形に再構築されるなんて事になったら・・・え?
違う形で再構築? もしかすると・・・。

「お、何か思いついた顔ね。話して御覧なさい」
「ええ。割と現実味があると思うので聞いてください」
「ま、タイムマシンとか言っている時点で現実味なんてないんだけどね」

・・・それは言わないお約束ですよ。

「テンカワさんはこの世界で始めてボソンジャンプした存在なんです」
「へぇ。偉大な人って事じゃない」
「ちなみに理論を確立したのはテンカワさんのお父さんらしいです」
「あら? アキト君の家って優秀な人の集まり?」
「あ。もう一つ補足ですが、物語の主人公だったアキト青年。
 彼は単純でおっちょこちょいで直情で熱血漢という典型的な方でしたよ」
「そ、そう。でも、ま、それは物語の話なのよ。こことは違う世界の事なの」
「そうですね。そうしましょう」

もし、今のテンカワさんが未来のアキト青年ならまったく同じ道筋を辿っていると思うんだけどな。
あのクールを地でいくテンカワさんにもあんな頃がありました。
なんて事を周囲が知ったら、皆ビックリするかも。

「悪戯っ子の顔はやめなさい。貴方は顔に出るから分かりやすいのよ」
「・・・そんなに顔に出てました?」
「ええ。やっぱり悪戯ってのは何食わぬ顔でしなっきゃ」
「よっぽど性質が悪いですよ」
「あら? 最近悪戯してなかったものね。欲求不満?」
「い、いえいえ。そんな事ありませんよ」

悪戯されなくて欲求不満とかやばいでしょ。
危ない人の末期ですよ。それって。
あ。前の世界の友達にそんな奴がいた気がする。
・・・いや。うん。ま、世の中には色んな人がいるんだよ。

「で、話を戻しますけど」
「ええ。いいわよ」
「初めてとか、そういう事に意味がある訳じゃないんです。
 アキト青年がボソンジャンプを過去に行っているという事実だけ覚えておいてください」
「既にボソンジャンプは経験済みって事ね。初めてはとっくの昔に捨てていたと」

な、何か、違う響きに聞こえました。

「ボソンジャンプが過去に戻ってから未来に再度送られるというシステムならば、
 一度粒子とされた存在はどこかに隔離され保管されているとも考えられませんか?」
「未来に送るのではなく、その時間軸になるまでどこかに保管されているという事ね」
「はい。それで、きちんとした手順でボソンジャンプをすれば正確に保管されるけど、
 何かしらの不備で保管に失敗したとしましょう」
「イメージが伝わり切らなかったとか、分解し切れなかったとか?」
「まぁ、どんな理由かは分かりませんが、そんな事があったという仮定です」
「ええ。分かったわ。その仮定で話を進みましょう」
「はい。もし、保管に失敗して、そこに似たようなものがあったらどうしますか?
 たとえば、作りかけの書類があったとします。それの未完成品と完成品があって―――」
「完成品のどこかが何故か消えていたら、未完成品から補完するって話よね。
 もしくは未完成品を完成品を参考にして完成させるとか」
「そういう事です。過去のアキト青年と未来のアキト青年がいて、
 未来のアキト青年の粒子が不完全なら過去のアキト青年を使って完全にすると思います」
「ま、穴はありそうだけど、そこまでおかしな話じゃないわね」
「多少の穴は見逃してください」

そもそも思い付きですし。
きちんとした理論展開した訳じゃないんだからさ。

「補完し終わって同じような完成品が二つ出来上がってしまった。
 そんな時、ミナトさんなら二つある完成品の内、一つをどうしますか?」
「ま、あえてとっておくか、いらないって捨てちゃうわよね」
「ええ。ま、それはどっちでもいいんです。
 とっておいたのなら、未来のアキト青年が望んだ場所、望んだ時期に具現化されるだけですし」
「捨てられたなら何も起きないだけって事ね。でも、どうでもいいってどういう意味よ?」
「大切なのはどちらも同じような完成品だという事です。
 遺跡は過去のアキト青年を未来のアキト青年になるように作り変えてしまったんですよ」
「あ。そっか。未完成品を完成品にしちゃったんだものね」
「はい。物凄く簡単に言うと過去と未来が混ざっちゃったんです。
 過去と未来の二人のアキト青年が今のテンカワさんという一人の人間として」
「なるほど。うん。割といけてるんじゃないかしら」
「ですよね。過去と未来とが入り混じった人間。知識や記憶や身体能力なんかもです。
 そうなれば、身体は過去で意識は未来でみたいな不思議な事態も成り立ってしまう訳ですよ」

割と良い案だったと思う。

「じゃあさ、次は私の考えを聞いてみてよ」
「お、流石はミナトさん。考え付いたんですね」
「ええ。でも、私のはコウキ君のより穴があるわ」
「いえいえ。是非とも聞かせてください」
「そうね。でも、その前にお茶の御代わりを用意しましょう。すっかり冷めてるわ」
「・・・あ」

話に夢中で忘れてた。
あぁ。一つの事に熱くなっちゃうのは悪い癖だよな。

・・・・・・・・・・・・。

「それでね」

はい。お茶を飲みながらの再スタートです。
ズズッと美味しいお茶を頂きます。

「私も不備の状態での保管という点では一緒なの。そこからがちょっと違うのよ」
「ほぉ。お聞かせ下さい」

ちょっと違うってどんな違いだろう?

「私は現実世界で補完されるんじゃないかと思うの」
「げ、現実世界って何ですか?」

何です? その魔法の世界みたいな響きは。もしくは夢の世界とかですか?

「現実世界っていうか、本人としての身体がある世界の事。
 粒子の状態で補完されている世界を保管世界とでも呼びましょうか」
「それじゃあ、現存している人間に情報としての粒子が混ざり合って一つの個体になると?」
「あら。少ないキーワードでそこまで分かるだなんてコウキ君って結構頭いいじゃない」
「ハハハ。どうもです」

褒められるのはちょっと照れるかな。

「ふふふ。詳しくは分からないから結構適当なんだけどね。
 粒子になったって根本的には同じ身体じゃない? 
 それなら、自分と同じ存在なんだって認識するんじゃないかしら?」
「むぅ。なるほど。既に具現化されていてもそれは足りない状態として認識。
 だから、粒子として身体に混ざりあう事で補完する訳ですね」
「ええ。遺跡が完成品としての形を認識していれば、その形で具現化しようと頑張ると思うのよ。
 だから、不完全な状態でいるのが嫌で補完させたみたいな」

なるほど。そんな考え方もあるのか。

「でも、それでは矛盾が生じませんか? 
 それじゃあボソンジャンプする度に過去の自分を補完する事になっちゃいますよ。
 常に完成品に近づけようとしちゃいますもん」
「不備の状態での保管という事が前提よ」
「不備の状態って事は欠陥している何があるって事ですよね。
 現実世界での補完では欠陥している所を補えないんじゃないですか?」
「だから、何かしらの不備があるんじゃない。
 たとえば、成長する以前の身体とか。現にアキト君は過去のアキト君の身体なんでしょう?」

おぉ。なんだかそれらしい。

「それらしい理由です」
「でしょ?」

笑顔でウインク。
ミナトさんって結構可愛らしい所もあるんだよな。
綺麗なだけじゃないんだ。

「あ、でもですね、それが正しいとして、いつ補完されるんですか?
 保管世界での補完は別にいつでもいいですが、現実世界での補完はタイミングが掴めませんよ」

どれくらい過去に戻るのかは知らないけど、下手すると幼少の時とかに補完してしまう可能性もある。
だって身体はあるんだから。

「それがミソよ。これは予想でしかないけど・・・。
 そのタイミングこそジャンパーが望んだタイミングなんじゃないのかしら」
「ジャンパーが望んだタイミング?」
「経験ないから分からないけど、もし走馬灯という形で記憶を思い返していたら?
 あんな幸せがあった。あの頃に戻りたい。そんなのがイメージとして伝わっていたら?」

時期の指定か。
普通なら出来る筈がない。
けど、逆にイメージに不備があるからこそ可能になったとも考えられるか・・・。

「ジャンパーが望んだ時期に具現化したい演算器。でも、そこには既に具現化している対象が。
 あれ? あれは具現化の途中なのでは? それじゃあ完成させないとって」
「具現化したい対象が既に存在していて、しかもその存在が完成品に比べて不完全だから、
 その対象を演算器が責任を持っていじくるって訳ですね」
「ええ。いじくるっていうか、まぁ、そうよ。完成させようと頑張るのよ」

ふむふむ。何か色々と分かってきた気がする。
もし間違っていても、俺はこれで納得しよう。

「要するに、粒子としての不備を補う為に演算器が頑張っちゃった結果、こうなっちゃったって事」
「なるほど。演算器の責任感ある行動が記憶や能力のみを逆行させる。
 そんな不思議な事態を作りあげてしまった訳ですね」

あぁ。謎が解けたらスッキリした。
ま、完全に解けた訳じゃないけどさ。モヤモヤが消えたんだからいいだろ。これで。

「納得できたみたいね。安心して疲れちゃったかしら」
「ハハハ。そうですね。今日一日ずっと考えてた気がします」
「そっか。はい」

えぇっと。はいって?

「えぇっと。あの・・・」
「いいじゃない。偶には。サービスしてあげるわ」
「あ、えっと、その・・・ですね・・・」
「ほら。早く来なさいよ」

女の子特有の正座に似た座り方で、太腿の上を手でポンポンと叩いている。
これって、あの、その、噂の・・・。

「嫌かしら?」
「え、あ、いえ、むしろ、嬉しい限りというか、でも、その緊張するというか」
「いらっしゃい。コウキ君って眼を離すとすぐ抱え込んじゃうから心配で」

あれ? 何の魔力だろう。
身体が勝手にミナトさんの方へ向かっている。

「はい。素直でよろしい」

ミナトさんの隣に座り込む俺。
ミナトさんは優しい笑顔で見詰めてきて、気付いたら頭がミナトさんの太腿の上にありました。
後頭部に幸せの感触が・・・。

「ふふふ。何だかコウキ君が幼く見えるわ」

僕は恥ずかしくて何も見えません。

「もう。眼なんか瞑っちゃって。可愛らしい」

これは完全に遊ばれているね。
うん。なら、いいや。存分にこの感触を味わおう。
あぁ。柔らかくて安心する。

「ふふふ」

何ですか。その笑みは。

「何かね、子供が出来たらこんな感じかなって思って」

こ、子供・・・。
そっか。ミナトさんもいつか結婚して子供を持つようになるんだよな。
俺もいつまでも甘えていられないか。
・・・ん。ちょっと胸が痛い。

「でもさ、良かったの。そういう事を話して」
「・・・そういう事って何ですか?」

痛みを堪えて平然を装った。
変な心配掛けたくないし。

「未来の話とかボソンジャンプの話とか。誰かに聞かれてたら困るんじゃない?」

ま、確かにね。
特にボソンジャンプの件とかネルガル所属の戦艦で言うもんじゃないよ。
でも、大丈夫。

「大丈夫ですよ。解決済みです。
 オモイカネ、あ、オモイカネっていうのはこの戦艦を管理するスーパーAIなんですけどね。
 そのオモイカネに頼んで、偽造映像を流してあります」
「えぇっと。偽造映像を流す必要があったって事は常に監視されているって事?」
「いえ。そうじゃないです。オモイカネは全艦内を管理していて防犯とかも担当しているんです。
 だから、その気になればオモイカネを介して監視できる訳です」
「や、やっぱり監視できるんじゃない。嫌よ。そんなの」
「ただし、オモイカネを介する事が出来るのはオペレーターだけですよ。
 それ以外だったらオモイカネが許す訳ありませんから」
「そ、そっか。それなら安心・・・って。コウキ君もでしょ!? 全然安心できないじゃない!」
「え? ちょっと待とうよ。俺はそんな事しないよ。あ、えっと。しませんよ」
「でも、ほら、コウキ君も男の子じゃない。そういう事に興味あったりするんじゃないかなって」
「え。そりゃあありますよ。でも、ですね、そういう事はきちんと守ります」

当たり前じゃないか。それぐらい耐えられない男だったらとっくにミナトさん自身を襲ってましたよ。

「えぇ・・・? 人の寝顔を勝手に見たりとか、人の着替えを勝手に覗いたりとか。
 そういう事するんじゃないの?」

し、しないって。
した事ないでしょ? 俺。

「あの・・・俺って信用されてません?」
「ううん。信用してなっきゃ部屋に入れてあげないわよ」
「ですよね。良かった。・・・ん。なら、何であんな事を言ったんですか?
 あ。そうですか。そういう事ですか。またからかったんですね」
「さぁ。どうでしょう」

ニッコリと笑うミナトさん。
ミナトさん。その笑顔は悪戯が成功した時に見せる笑顔ですよ。

「・・・ま、いっか」
「ん? 観念したの?」
「ええ。ミナトさんと一緒にいられるのなら、からかわれてもいいかなって思いまして」
「・・・・・・」

え? 無言?
何か反応して欲しいんだけど。
でもねぇ、眼を開けたらさ、見てはいけないものを見てしまうんだよ。
詳しく言うなら視界の右側に。
・・・状況によっては左側だけど。
一発KOされる自信があるね。この角度からなら。

「ミナトさん?」
「え、う、うん、なんでもないわよ。もう。コウキ君が変な事を言うからいけないのよ」

めっとか言いながら額を叩くのはやめてください。
もう子供じゃないんですから。

「それとナデシコって完全防音らしいですよ。
 だから、廊下に声も漏れないですし、偽造映像を流している以上、
 誰かに聞かれたりバレたりする事はありません」
「そっか。それなら、色々と安心なのね」

色々? 色々って何だろう?

「あ。そうだ。なら、今日は泊まってく? 折角だし」
「え? えぇ!?」

い、いや。いいですよ。

「え? そんなに・・・嫌・・・なの?」

ちょ、ちょっと悲しいトーンで言わないで下さい。
からかわれていると分かっていても罪悪感を覚えますから。

「だ、駄目ですよ。部屋の行き来でさえあんなにうるさいのに泊まったりなんかしたら」
「大丈夫よ。だって、偽造映像流してるんでしょ? 明日の朝だけ気をつければ問題ないって」

ク、クソッ。これは駄目か。なら・・・。

「ほ、ほら、ベット一個しかないし」
「一緒に寝ればいいじゃない」
「む、無理です」
「嫌?」

グハッ。良心の呵責が・・・。
でも、駄目だって。

「眠れませんよ」
「え? それって」

何を赤くなってるんですか? ミナトさん。

「俺が眠れません。緊張で溺死します」
「・・・バカ」

え? 何でバカって言われるの?

「緊張して損したわ」
「緊張するなら誘わないで下さい」
「そっちじゃないわよ! もう・・・発言に責任を持ちなさいよね」
「えっと、すいません」
「何かも分からずに謝らない!」
「は、はいぃ! すいません!」

たとえ怒られようと律儀に眼を瞑り続ける俺なのさ。
赤い血で溺死したくないから。

「そ、それにですね。よく考えてみてください。
 今までは別室だったから大丈夫でしたが、同室となると、ねぇ、同じベットともなると、ねぇ」

ねぇ。分かってくれますよね?

「え? どうなっちゃうの?」

ニヤニヤニヤニヤと。
分かってて聞いてやがる。

「と、とにかく駄目です。そういう事はもっと進んだカップルがするものです」
「・・・年頃の男の子にしては強情ね。これは考えが甘かったかしら」

見えない。聞こえなぁい。何を言っているのか分からなぁい。

「何自分で言って恥ずかしがって悶えて耳を塞いでるのよ。
 カップルって言うのがそんなに恥ずかしかった?
 それとも、もっと先の事を想像しちゃった?」

既に緊張+羞恥心で溺死しそうですが、何か?

「あ。もしかしてそうやって眼を瞑って耳を塞ぐ事で私の太腿の感触を覚えようとしてるのね。
 このこの。照れ屋さんのくせに抜け目ないなぁ」

や、やめてください。つんつんとかしないで下さい。
既にこの柔らかな感触と芳しい匂いで俺の精神は陥落寸前なんですから。

「じゃ、じゃあ、そろそろ俺は帰りますから」
「あら。早速、如何わしいものを盗み見ようとしてるのね」
「ち、違いますよ。自分の部屋で寝るだけです」
「う~ん。信用できないな。やっぱりこの部屋でコウキ君を監視してようかしら」

や、やばい。もう駄目!

「え? コウキ君?」
「し、失礼します。明日、また来ますから」

退避。退避だぁ。
俺の理性がなくなる前に。


次の朝、いつも以上に悶々として寝不足になったのは言うまでもありません。
だってさ、夢にまで太腿の感触とか心地良い匂いとかが出てくるんだよ!
耐えられる訳ないじゃん。
ミナトさん。やっぱり俺で遊ばないで下さい。寝不足で死んじゃいますから。
あ。でも、膝枕はして欲しいかな・・・って駄目駄目。
気持ちよさと恥ずかしさとで理性を失いかねん。
あれはそう・・・何かのご褒美としてやってもらおう。
そうすれば、やる気もでる・・・コホン、そんなにされなくて済むだろう。
・・・名残惜しいが致し方あるまい。
って、名残惜しいのか!? いや。ま、正直名残惜しいけどさ。
・・・・・・今日もしてもらおうかな?

「あ。おはよう。コウキ君」
「ハッ! お、おはようございます! ミナトさん」
「何? どうしたのよ? そんなに慌てちゃって。
 あ。そっか。昨日の事を思い出して変な事考えてたんでしょう? このこの」

朝っぱらからする話題じゃないですよ。ミナトさん。
それとつんつんするのはやめて下さい。

「さ、今日も一日頑張るわよ。コウキ君」
「はい。ミナトさん」

さて、今日も頑張るとしますか。





+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。