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第一部 ~火星までの道のり~
第四話

「ようこそいらっしゃいました。ハルカさん。マエヤマさん」

軍用のドックに出向くとプロスさんがお出迎え。
そして、眼の前にあるのは・・・。

「変な形ね」
「そうですね」
「この艦こそが我が社の開発した地球最新鋭の機動戦艦、ナデシコです」

そう、主役達の舞台、機動戦艦ナデシコだ。
ディストーションフィールドを発生させる為のディストーションブレード。
それのせいで変な形になっちゃってるけど、性能は確かに最新鋭。
これから長い間、お世話になります。

「それでは、ご案内しましょう。まずは格納庫です」

危険物の探知をして、消毒。
消毒しないと余計な菌を艦内に持っていっちゃうからな。
風邪とか菌がなければひかないだろうし。
体調には充分気を遣わなくちゃね。寝込みたくないし、仕事のシフト的にも迷惑がかかるし。

「こちらが本艦搭載のエステバリスです。マエヤマさんはご存知でしたな」
「え、ええ。まぁ。完成した機体は初めてですが・・・」

人型機動兵器エステバリス。
全高が六メートル前後の高い運用性と汎用性を持つネルガル開発の機体だ。
ジェネレーターをオミット。
エネルギーを重力波ビームにて外部供給する事で小型軽量化しつつ、高機能化にも成功している。
ただし、その性質上、供給源、今ならナデシコだな、から離れると幾つか支障が出る。
すぐにバッテリーが切れるとか、移動に制限があるとか。結構嫌なデメリットも多い。
ま、攻めには向かないけど守りには適していると思う。
アサルトピットのフレーム換装システムとか画期的過ぎ。
どんな地形でも換装次第で対応できるとか、無駄がなくて素晴らしい。
まぁ、余計にフレームを置いておかないといけないってデメリットもあるみたいだけど。
ま、サイズ的に小さいから問題ないだろう。何だよ、六メートルって。
俺の知っている機動兵器ではこれの三倍でも小さい方だっての。
やはりエネルギー源を外部に依存するってのは効果的な訳だな。

「マエヤマさん専用のアサルトピットもご用意してあります。アサルトピットはご存知で?」
「ええ。一応は。ゲームの時に簡単に説明を受けましたから。
 簡単にいえば、コアファ・・・ではなく、まぁ、コクピットですよね。
 他フレームと接続できるモジュール的な」
「そう捉えていただければ結構です。マエヤマさんには各機体のOSをお任せしたいのですが・・・」
「え? でも、万全なんですよね? 俺がいじくる必要はないのでは?」
「無論です。ですが、これ以上の性能は我が社の開発班では無理でしてな。
 マエヤマさんならより高度なものを作れるのではないかと思いまして」

どうなんだろう? ウリバタケ氏と相談してみようかな。
プログラム関連で目立つ分には問題ないし。
改良できる部分があるかもしれない。

「分かりました。出来るか分かりませんが、やってみましょう」
「そうですか。ありがとうございます。試験は我が社の凄腕のパイロットが務めますので」

凄腕のパイロット? 誰だろう?
ダイゴウジ・ガイ、改め、ヤマダ・ジロウかな?
でも、近接バカとして有名な彼が凄腕のパイロットって呼べるのかな。

「あ、あそこにいますね。紹介します。テンカワさん!」

テンカワ!? 
えぇ!? テンカワってアキト青年の事か!?
ど、どういう事だ!? 一体、どうなってる!?

「コウキ君。どうしたの?」

アキト青年を呼んでいて後ろを向いているプロスさんを気にしながらミナトさんが声を掛けてくる。
ミナトさんにはある程度の事を教えてある。もちろん、ミナトさん関連については話していない。
話したら怒るし。でも、ルリ嬢の事とか、ヤマダ・ジロウの事とかは簡単に話してある。
助けてあげたいって事も話したし、協力してくれるとも言ってくれていた。
アキト青年が主役でコックで予備パイロットって事も話してあるけど、いきなり予想外だ。

「テンカワっていうのはアキト青年の苗字で、本来ならまだ艦内にいないんですよ。
 そもそもパイロットとしては素人でとてもじゃないですが凄腕なんて・・・」
「・・・って事は早速物語からズレているって訳ね。やっぱり平行世界なのよ」
「・・・そうですね。これで先が分からなくなってしまいました。でも、やれるだけやってみますね」
「ええ。協力するわ。頑張りましょうね」

笑顔のミナトさん。
うん。やっぱりミナトさんの笑顔は勇気付けられる。

「・・・・・・」

こちらへとやって来るアキト青年。
ミナトさんを見た時は穏やかな顔をしていたのに、俺を見た瞬間、驚きで顔を染めた。
えぇっと。何でだ?

「紹介します。こちらナデシコのリーダーパイロットを務めてくださるテンカワ・アキトさんです」
「・・・テンカワ・アキトだ。よろしく頼む」

・・・マジかよ?
あの童顔で騒がしいアキト青年がこんな鋭い顔付きでクールに自己紹介だなんて・・・。
どういう事だ? 俺の存在がそんなにこの世界を変えたのか?

「こちらは操舵手を務めてくださるハルカ・ミナトさん。
 こちらは副操舵手、副通信士など、多くの役職を兼任してくださるマエヤマ・コウキさんです」
「ハルカ・ミナトよ。よろしくね。アキト君」
「マエヤマ・コウキです。よろしく御願いします」

えぇっと。何でこんなに睨まれているんでしょうか。

「マエヤマさんは予備パイロットでもありますので、テンカワさん、面倒を見てあげてください」
「・・・ああ。分かった」

射ぬかんばかりの鋭い視線で俺を見てくるアキト青年。
睨まれるような事はした覚えがないんだが・・・。

「どうか致しましたか? テンカワさん」
「・・・いや。なんでもないさ」

こ、怖いんですけど・・・。

「では、テンカワさん。ありがとうございました」
「・・・ああ。それではな」

去っていくアキト青年。
これは・・・とてもじゃないが、アキト青年なんて呼べないな。
アキトさん? テンカワさん? うん。テンカワさんって呼ぼう。

「それとですね、整備班の主任にも紹介しましょう。
 マエヤマさんとはよく会う事になるでしょうから」

ウリバタケ氏の事だな。

ピコンッ。

おぉ。コミュニケ。正式名称は・・・知らない。コミュニケでいいか。

「ウリバタケさん。格納庫の入り口の方へ御願いできますか?
 紹介したい方がいらっしゃいますので」
『ん? おお。すぐ行くよ』

ピコンッ。

凄いよな。コミュニケ。
便利だよな。コミュニケ。
カッコイイよな。コミュニケ。
あれ?

「えぇっと。今のは何ですか?」

あ、そっか。ミナトさんは知らないのか。

「あ、お渡ししていませんでしたな」

プロスさんからコミュニケを手渡してもらう。
ありがとうございます。

「これはコミュニケと言いましてな。我が社で開発した特別製です。
 ナデシコ艦内であれば誰とでもいつでも自由に連絡が取り合えます。
 もちろん、拒否も可能です。基本的には誰もなさいませんが」
「へぇ。凄いのね」
「便利ですね」

使ってみたかったんだよな。これ。
ってか、拒否も可能って。着信拒否って事?
もうちょっと違う言い方しようよ。

「詳しくはこちらのマニュアルでご確認下さい」

マニュアルを手渡される。
よし。覚えよう。そして、すぐ使おう。

「おう。来たぞ」

マニュアルを確認中にウリバタケ氏登場。
おぉ。これがマッドとかいう奴ですか。

「こちらは操舵手のハルカ・ミナトさんです」
「おぉ。別嬪だな」
「は、はぁ・・・」

いきなりナンパですか。貴方奥さんいるでしょう?

「そして、こちらがマエヤマ・コウキさんです。
 これから何度も顔を合わせると思いますので紹介させて頂きました」
「ん? ってことはパイロットか? こいつ」

意外そうな顔で見ないで下さい。
確かに見た目的に信じられないかもしれませんが。

「正式には予備パイロットですね。でも、本職は違います」
「んじゃあ、何だってんだ?」
「おや。御存知ありませんか? マエヤマ・コウキの名を」
「んん!? マエヤマ・コウキ。マエヤマ・コウキ。聞いた事あるな」

怪訝な表情でどんどん近付いてくるウリバタケ氏。
あの・・・怖いんですが・・・。

「天才プログラマーのマエヤマ・コウキさんですよ」
「おぉ! あの噂のか!? 随分と若いんだな」
「あ、はぁ・・・ありがとうございます」

肩をバンバンしないで欲しい。

「こちらは整備班主任のウリバタケ・セイヤさんです」
「おう。よろしく頼むな。マエヤマ」
「あ、はい。こちらこそ。よろしく御願いします。ウリバタケさん」

握手。
ゴツゴツしてる職人の手だなぁと感心してしまう。

「それで、その天才プログラマーがどうして?」
「ええ。OSとかの改良をしてもらおうと思いまして。やはり専門家の方に任せようと思いましてな」
「ふぅ~ん。でもよぉ、兵器関連と民事関連とじゃちょっと違うんじゃねぇのか?」
「そうかもしれませんが、知識は凄まじいと思いますよ。指導して上げて下さい」
「そういう事か。ま、いいけどよ。ま、暇な時にでも来な。色々と教えてやっから」
「はい。御願いします」

最近は遺跡に頼らずに割りといけるようになってきた。
これでウリバタケさんから習えるのなら嬉しい限りだ。

「それでは、次の場所へ。次は食堂です」

食堂。
凄腕料理人のホウメイ主任と五人の少女のテリトリー。
テンカワさんはいるのかな? どうなんだろう?

「こちらはホウメイシェフです。得意料理は中華ですが、何でもこなせる凄腕の料理人ですよ」
「ハッハッハ。褒めても何もでないよ」

豪快な人だな。ホウメイ主任。

「わぁぁぁ。私って美味しいものには眼がないのよね」

嬉しそうだな。ミナトさん。
戦艦って事で食事の心配してたもんな。
美味しい筈ですよって言ったのに信じてくれなかったぐらいだし。
でも、美味しそうな匂いだし、手際も良い。
食事している人のを見れば、絶対に美味しいって分かる程だ。

「マエヤマ・コウキです。よろしく御願いします」
「ハルカ・ミナトです。お食事、楽しみにしてます」

美味しそうだもんなぁ。
ミナトさんなんて眼が輝いてるし。
・・・残念ながら、僕の料理スキルはあまりよろしくないのです。
まずくはないけどさ。褒められる程に美味しい訳でもないって、そんな感じ。

「そうかい。楽しみにしてな。そっちの坊やも」

えぇっと。坊やって俺の事だよな?

「あ、はい。でも、坊やはちょっと」
「お。悪かったね。マエヤマだったかな?」
「はい。俺も楽しみにしてます。ホウメイ主任」
「主任は良いよ。ホウメイって呼んでくれ」
「分かりました。ホウメイさん」

楽しみだな。火星丼。
今まで食った事ないし。

「それでは、最後ですね。ブリッジへ向かいましょう」

ブリッジ。
俺の勤務場所になる所か。

「皆さん。よろしいですか?」

一斉にこちらへと向かれる好奇の視線。
そうだよね。ブリッジに人なんてあまり来ないし。

「ブリッジクルーの一員となる方を紹介いたします」

プロスさん先導のもとに自己紹介が始まった。

「戦闘指揮を担当していただきますゴート・ホーリーさんです」
「ゴート・ホーリーだ。よろしく頼む」

お世話になります。ゴートさん。
でも、貴方が活躍した描写が皆無だった気がするのは私だけでしょうか?

「この艦の提督を務めていただきますフクベ・ジン提督です」
「・・・よろしく頼むよ。若いの」

こちらこそよろしく御願いします。
・・・やっぱり暗いオーラを纏ってるよな。
ギャグ志向のナデシコでは肩身が狭そうだ。

「この艦の副提―――」
「ムネタケ・サダアキよ。この私がいる艦に来れた事に感謝するのね」

おぉ。キノコが来た。
マジでキノコじゃん。無論、食す気など毛頭ありませんが。

「え~。気を取り直しまして」

キノコさんがすいません。

「通信士を務めてくださるメグミ・レイナードさんです」
「メグミ・レイナードです。メグミって呼んでください。
 ここに来る前は声優をやっていたんですが・・・知りません?」
「あ、いえ。ちょっと・・・」

困ってますね。ミナトさん。
もちろん、僕も知りません。えぇ。知りませんとも。
魔法とか、少女とか、そんな事は全然知りません。

「オペレーターを務めていただくホシノ・ルリさんです」
「・・・・・・」
「ん? どうかしました?」

ミナトさんを見て微笑んで、俺を見て眼を見開いて。
あれ? テンカワさんと同じ反応だな。どういう事だろう?

「あ、いえ。オペレーターのホシノ・ルリです。よろしく御願いします」

それにしても、かなりの少女だよな。
周りが大人ばかりで大変だったと思う。
ミナトさんがいて本当に良かったと思うよ。

「こちらの御二人はサブオペレーターのラピス・ラズリさんとセレス・タイトさんです」
「ラピス。ラピス・ラズリ」
「・・・セレス・タイト・・・です」

・・・なるほど。
この二人は確実に俺の介入が原因だろう。
人体実験から救い出せたのか。
・・・良かった。本当に良かった。

「どうか致しましたか? マエヤマさん」
「え、あ、いえ。なんでもありません」

プロスさんに注意された。
気を付けないと。怪しまれる。
でも、こんな小さい子を戦艦に乗せなくちゃいけないのか。
それを容認している俺を含めて罪だよな、大人って。

「最後になりますが、会計、監査役のプロスペクターです。改めてよろしく御願いしますぞ」

謎の男、プロスペクター。
うん。凄く似合ってます。このフレーズ。

「それでは、次は御二人の紹介をしましょう」

あ、俺とミナトさんの番ですか。
うん。自己紹介って緊張するよね。

「こちらは操舵手を務めてくださるハルカ・ミナトさんです」
「よろしくぅ~~~」

あ、もうはっちゃけちゃいますか。
凄いですね。ミナトさん。

「そして、こちらの方が副通信士」
「あ。あの人がそうなんだ」

はい。あの人は僕です。

「副操舵手」
「コウキ君に任せれば安心ね」

サボっちゃ駄目ですよ。ミナトさん。
あくまでメインは貴方ですから。

「予備パイロット」
「・・・予備パイロット? ・・・そんな人はアキトさん以外にいなかった」

何を呟いているんでしょうか? ルリ嬢。

「オペレーター補佐」
「・・・補佐?」
「・・・・・・」

無言で見上げないで下さい。
どうしていいか分かりませんから。

「以上の役職を兼任していただくマエヤマ・コウキさんです」
「えぇっと。マエヤマ・コウキです。よろしく御願いします」

とりあえず、頭を下げる。
んで、少し経って、顔をあげると・・・。

「・・・・・・」

皆さん固まっていらっしゃった。
え? 何で?
ミナトさんなんて笑ってるし。

「・・・た、多才なんですね」

呆然と呟くメグミさん。
やっと反応が返ってきましたか。
無視されたかと思ったじゃん。

「いえいえ。色々と資格に手を出した結果です。趣味なんですよね。資格取得って」

これは事実。ミナトさんに勝とうと頑張る内にかなりの資格を取得していた。
俺の学習能力って半端ないよ。だってナノマシンの恩恵があるもの。記憶能力も抜群です。

「それにしても凄いですよ」

あ、笑ってくれた。可愛らしい笑顔な事で。
俺の身近にそばかすがある女の人はいなかったからな。
なんか新鮮。

「マエヤマ・コウキ。昨年高機能OSを開発して一躍有名に。
 その後も数多のソフトを開発した凄腕のプログラマー」

あのさ。勝手に経歴見ないで欲しいんだけど。ルリ嬢。
いや。公開されているから仕方ないんだけどさ。

「え? あのマエヤマ・コウキ? こんなに若かったのね」

貴方は年齢不詳ですよ。副提督。

「・・・オペレーター補佐?」
「・・・私達の・・・補佐さん・・・ですか?」

桃色と銀色の髪が揺れる。
ラピス嬢とセレス嬢か。
流石は妖精の末裔。・・・末裔じゃないけど。
ってか、MCって容姿整ってる奴ばっかりだよな。
クソ~。それじゃあ、何で俺は整ってないんだよ!
・・・ま、諦めようか。整形する程には拘ってないから。

「それなりに経験積んでるからね。
 少しでも教えられる事があれば教えてあげようって思ってさ。よろしくね」

あれだけの境遇だ。対人恐怖症があってもおかしくない。
ゆっくり、ゆっくり。怖がられないように話そう。

「・・・よろしく」
「・・・よろしく御願いします」
「うん。頑張ろう」

頭とか撫でてあげたくなる可愛らしさだけど自重。
怯えちゃうかもしれないからね。
ゆっくり慣れていってもらおう。

「あの・・・予備パイロットって。マエヤマさんはプログラマーなんですよね?」

そうだよね。気になるよね。
・・・今更だけどちょっと欲張りすぎたか?

「パイロットとしての適正も高くてですね。
 IFSもお持ちのようですからいざという時に頼ろうと思いまして」

プロスさん。俺はいざという時が来ない事を祈りますよ。
本当にいざという時だけしか頼られないかは不明だけど。

「しかし、訓練もなしの素人で現場が務まるのか?」

ゴートさん。的確な意見をありがとう。

「リーダーパイロットのテンカワさんに御願い致しました。訓練義務も課しましたから大丈夫かと」

この訓練義務が割りと時間を取るんだよ。
ま、こちらも命が懸かってるので頑張りますが。

「・・・本当に多才なんですね」

呆れた眼で見ないでください。メグミさん。
ってか、いつまで笑ってるんですか! ミナトさん!

「それでは、あちらの席が御二人の席になりますので。そちらの方へ。
 マエヤマさんは兼任されるのでそれぞれの役職の方と話し合っておいてください」

そう言ってプロスさんはどこかへ去っていった。
忙しいんだろうな。出航の時期って納入とかあるだろうし。

「行きましょうか。コウキ君」
「はい」

ブリッジの入り口付近から自分の席へと向かう。
階段らしき段差を下って、通信席、操舵席、オペレーター席のある所までやってきたんだけど。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

見詰めてくる五対の眼。
何か聞きたい事でもあるのかな?
ってか・・・。

「何でミナトさんまで俺を見てくるんですか!?」
「え? いいじゃない。ノリよ。ノリ。ね、メグミちゃん」
「え、あ、はい。ノリだと思います」

何だよ? ノリって。

「はぁ・・・」
「あら。溜息なんて良くないわよ。幸せが逃げるもの」

誰のせいですか。誰の。

「操舵席が二個ありますね。正面がミナトさんで隣が俺って所ですか?」
「う~ん。そうね。じゃあ、そうしましょう」

はい。僕は気付いてしまいました。
ここってさ・・・。

「・・・・・・」

気まずいよね。
本来の順番がブリッジ入り口から見て、左からメグミさん、ルリ嬢、ミナトさんだったとしよう。
現状では、左からメグミさん、ラピス嬢、ルリ嬢、セレス嬢、俺、ミナトさんの順。
問題は二つ。
一つは左から見詰めてくる金色の瞳。
セレス嬢。俺はそんな珍しい人間じゃないぞ。
ただの平凡な男さ。特別な事なんて何一つ・・・結構あるけど、それでも一般人だよ。
二つ目は対比。
どう考えてもおかしいでしょ。
副長、ゴートさん、プロスさんの苦労が今なら分かる気がします。
でも、俺はもっと肩身が狭いよ。
だって、男性と女性の比率が一対五だぜ。その集団の真っ只中にいるんだぜ。
やばい。無理です。
秘書課の皆さんのおかげで多少は慣れましたが、まだまだ駄目です。
少女だろうと何だろうと女性は女性。苦手なんです。
・・・あ。そうだった。

「えぇっと。これ、食べる?」

ポケットから飴を取り出してセレス嬢に見せる。

「・・・何味ですか?」
「えぇっと。イチゴ味・・・だね」
「・・・頂きます」
「えぇっと。どうぞ」

困った時のお菓子。
うん。何個か潜ませておいて助かったね。
餌付け・・・じゃなくて、間を取る為にはお菓子が一番さ。
子供は喜んでくれるからね。
しかも、飴だからなお良い。実は僕自身も緊張を紛らす為に先程まで食べていました。

「えぇっと。美味しい・・・かな?」
「・・・(コクッ)」
「そっか。まだまだたくさんあるから、食べ終わったら言ってね」
「・・・(コクッ)」

恐る恐るは僕も同じです。
はい。そこ。笑わない。
聞こえてますよ。ミナトさん。

「何をビクビクしてるのよ? コウキ君ってば本当に初心なんだから」
「う、初心なんかじゃないですよ。初対面なんですから緊張して当然です。
 ましてや、女性・・・なんですから」
「もう。これくらいの歳の女の子に緊張してどうするのよ」

苦笑して、俺の隣までやって来るミナトさん。

「私はミナトっていうの。よろしくね。セレスちゃん」
「・・・(コクッ)」

飴食べてるから返事できないよね。

「あぁ。可愛いらしいわぁ」

それは同意です。でも、即刻抱き締められるのは凄いと思います。
ま、ミナトさんだもんな。母性がくすぐられたか?

「・・・痛いです。・・・舌、噛んじゃいました」
「あ。ミナトさん。飴を食べてるんですから抱き付いちゃ駄目ですよ」
「え、あ。ごめんなさい」

パッと離れてシュンとするミナトさん。
ま、母性の暴走だな。よくある事だ。ミナトさんなら。

「・・・でも、とっても暖かいです」
「そっか。じゃあ、もう一回」

今度はゆっくりと優しく抱き締める。
あ。なんか凄く安らいでるな。セレス嬢。
母は強しってか? これ・・・口にしたら拳骨喰らうよな。
ミナトさんってまだ―――。

「何かしら? コウキ君」
「いえ! 何でもありません!」

やっぱり鋭いよ。ミナトさん。

「うん。また抱き締めさせてね。セレスちゃん」
「・・・はい」

ゆっくり離れて微笑みかけるミナトさん。
セレス嬢もちょっと笑ったかな? 無表情の顔を緩ませるなんて本当に凄い。

「よろしくね。ルリちゃん」

その後はルリ嬢とラピス嬢へと向かっていった。
きっとミナトさんなら二人も甘えさせてあげられるだろう。
ルリ嬢は年齢的に照れて抱き締めさせてはくれなさそうだが・・・。
ラピス嬢とセレス嬢はまだ四、五歳ぐらいかな? 大人として護ってあげなくちゃ。

「・・・・・・」

ん? 服の裾が引っ張られてる。
えぇっと。セレス嬢か?

「・・・飴」
「あ、うん。いいよ。はい」

気に入ってくれたのかな?

「・・・三つ」
「三つも食べるの? 虫歯になっちゃうよ」
「・・・(フルフル)」

首を横に振る。
えぇっと。何を否定したんだろう。
ま、いいか。きちんと歯を磨かせれば。

「はい。噛んじゃ駄目だよ」
「・・・(コクッ)」

・・・俺はいつも噛むけどさ。

「・・・ありがとう・・・ございます」
「うん。どういたしまして」

きちんとお礼が言えるなんて偉いな。
昔の俺はどうだったんだろう?

「・・・どうぞ」

小さな手に掴まれた三つの飴。
一つをラピス嬢に、もう一つをルリ嬢に手渡した。
そっか。皆にあげようと思ったのか。
ハハハ。優しい女の子だな。

「あぁ。セレスちゃん。可愛過ぎよ」

それを眼の前で見せられてまたもや暴走してしまいましたとさ。

「・・・・・・」

暖かい眼差しで少女三人衆を見詰めるメグミさん。
ふと眼があった。

「・・・食べます?」
「私はいいですよ。この子達にあげてください」
「そうですね。そうします」

ただの飴だったけど持ってきて良かったな。
セレス嬢、ラピス嬢はちょっとだけ微笑んでくれたし。
ルリ嬢は・・・もしかして、睨まれてますかぁ!?
な、何かしたのか? 俺。
テンカワさんといいルリ嬢といい何か怒らせるような事したかな?
睨まれるような事をした覚えはないんだけど・・・。

「・・・ルリ」
「何ですか? ラピス」
「・・・悪い人じゃないと思う」
「そんなのまだ分かりません」

コソコソと何かを話しているルリ嬢とラピス嬢。
ってか、あの二人って知り合いなのか?
う~ん。何かさっきから違和感ばっかりだな。
テンカワさんはパイロットなんかしてるし。
ルリ嬢はあの他人を遠ざけるような感じじゃないし。
ルリ嬢とラピス嬢が知り合いみたいだし。
何よりも二人に睨まれる理由が分からん。
何なんだ? 一体。





「アキトさん」
「・・・ああ。イレギュラーだ。本来いない筈の人間がいる」
「マエヤマ・コウキさん。ミナトさんと知り合いみたいです」
「ミナトさんと? 確かに一緒にいたからな。どんな知り合いなんだ?」
「分かりません。でも、かなり親しいみたいです」
「・・・ミナトさんにはツクモさんと幸せになってもらわないとな」
「はい。ミナトさんはツクモさんと幸せになる筈だったんです。
 それを今回の歴史では叶えてあげましょう」
「そうだな。それがミナトさんにとって一番の幸せだ」





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