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最始部 ~始まりはいつも突然~
第三話


「ほら。コウキ君。行くわよ」

ミナトさんに抱き付いて泣いてしまう。
そんな俺にとって人生トップ3に入る程に恥ずかしい思いをした日から数日が経った。
あれから、どうもミナトさんが過保護な気がする。
嬉しいような恥ずかしいような情けないような、まぁ、そんな感じだ。
決して嫌じゃないんだけどね。いや、やっぱりちょっと恥ずかしいかな。

「それにしても、いつの間にかハッキングが上手くなってたな」

非公式研究所をハッキングをしている内にかなりのレベルのハッカーになっていた。
今ならビックバリアの解除パスワードとか入手できそう。
いや、試してないけどさ。バレた時に怖いし。
それにIFSの扱いにも慣れてきた。
イメージとかも明確に出来るようになってきたし。
随分と成長したものだ。うんうん。
そうそう、あれから色々試したんだけど・・・。
俺の身体ってオリンピックも夢じゃないっていうか、オリンピック選手を侮辱しているんだよね。
オリンピックがこの時代にあるかどうかは分からないけどさ。
俺のいた世界ではって話。
信じられない事に百メートル走とか五秒とかそんなんだよ。
握力とかも百キロ軽く超えてるし、背筋とか三百キロ超とかだし、跳躍力は・・・訊かないでくれ。
人外になっちまったと思ったけど、本当に人外でした。
ってか、生きていく力が欲しいって言っただけなのにやり過ぎでしょ。
日常生活にこんな逞しい身体能力は必要ないよ。
そりゃあないよりはあった方が良いけどさ。
無駄だって。俺は平穏な生活を望んでるの。
それにさ、努力しているスポーツ選手に申し訳ないよ。
努力もなしにこの能力って・・・。確実に侮辱してるよね。
自分が怖いです。やり過ぎです。

「はぁ・・・」
「どうしたの? 溜息なんかついて」
「いえ。何でもありませんよ」
「そう? 無理しないでね」

自分が怖いなんて言ったら変な子だって思われるよね。
流石のミナトさんにだってこんな事は言えない。

「それにしても、コウキ君って運動神経良かったのね。そうは見えなかったのに」
「ハハハ。そうですね」

苦笑いしか出ませんよ。ミナトさん。
ミナトさんが知っている理由はとても単純。
だって、この異常に確信したのってこの前の体力測定の時だし。
前々から変だな? 異常だな? って思ってたんだけど、
あの時ほどそれを実感した時はなかった。
会社の身体測定の一環で行われた体力測定。
そこで俺は化け物ぶりを発揮してしまった。
ほら。日常生活で全力を発揮する事なんてないから。
それで久しぶりの運動だなって全力で走ったりしたんだけど。
・・・前々から制御できるようにしておけば良かったと激しく後悔したさ。
下手すると会社単位で活動する駅伝部とかに参加させられる所だった。
あれから、よく色々な所からスカウトされるよ。
サッカー部とか野球部とか。
楽しいよ。球技って。経験者だし。
でもアルバイトだしさ。ミナトさんに迷惑かけられないし。
とりあえず保留です。

「どうして参加しなかったの? コウキ君なら活躍できたでしょうに」
「ま、まぁ、いいじゃないですか。今の仕事を楽しんでいるんですから」
「そう? それなら良いけど」

ミナトさんからも勧められてるんだけど。
いや。あれだよ。
汚れた服とかミナトさんに任せるの嫌だし。
自分で洗うのとかもなんか嫌だし。
俺は遊びの範囲で球技とかスポーツとかが出来たらなって思う。

「ま、コウキ君は他にも才能あるからね。あれから結構特許取ったでしょ?」
「ええ。まぁ」

才能って言うか、反則技だけどな。
使えそうだなって思うアプリケーションソフトとかを遺跡からダウンロード。
その後、それを少し細工して表の世界に公表。
たったそれだけだ。それが評価されているに過ぎない。
決して俺が作っている訳じゃないんだ。

「仕事がやりやすくて助かってるわ」
「それは光栄です」

でも、プログラムって結構楽しいんだよな。
最近は遺跡に頼らないで自分の力だけで作ってみたりしている。
ま、勿論、駄目駄目だけどさ。
それでも、自分の力だけで達成するのって楽しいんだよ。

「資格とか興味持ち出したし。充実してるのね」
「ミナトさんが資格持ち過ぎなんですよ。何となく負けたくないっていうか」
「ウフフ。男の子ね」

笑われてしまった。
でも、本当にミナトさんは凄いと思う。
俺はずっと疑問に思ってたさ。
何で社長秘書が戦艦の操舵手が務められるんだよって。
気になって訊いてみた所・・・。

「う~ん。いつか使えるかなって思って」

・・・普通はそう思いませんから。
実際にそんな日がやって来る訳ですが・・・。

「とりあえず目標はミナトさんが持つ資格を全部手に入れる事ですかね」
「そう。それなら、私は追いつかれないように頑張ろうかしら」

頑張りますね。ミナトさん。
変な資格は取らないでくださいよ。

「でも、意外だったわ。何で最初に操舵手の資格を?」
「え? いいじゃないですか。ミナトさんに追いつく為ですよ」

あれから、俺は考えたんだ。
どの役職で乗り込もうかって。
そして、俺はこう決めた。
何でも屋になろうと。
ま、詳しく言えば、副操舵手、副通信士、サブオペレーターとか兼任してみようかなって。
その為のこの資格です。
ブリッジクルーって何かあった時に困る役職ばかりだろ。
だから、俺が常に補佐して、代わりになれれば役に立てるんじゃないかなと思って。
とりあえず・・・。

「戦艦の通信士って何の資格が必要なんだ?」
「急にどうしたの? コウキ君」
「あ。えぇっと。何でもないですよ?」
「何で私に訊くのよ」
「とにかくなんでもないですよ。色々と俺にも考えがありましてね」
「そう?」

心配そうに見詰めてくるミナトさん。
・・・そんなに眼を合わせられると照れるんですけど。

「ま、いいわ。何かあったら相談なさい。いつでもいいから」
「ありがとうございます」

やっぱり優しいな。
相談相手がいるってだけでとても心強い。

「さあ、今日も一日が始まるわ」

出社。
うん。この世界に来て、もう半年か。
月日が経つのって早いな。 
後半年で遂に始まる。
スキャパレリプロジェクトが。
アキト青年を中心に動くドタバタラブコメディSFロボットアニメ。
・・・こう訊くと設定盛り込みすぎだよな。
良く成立したと思うよ。
製作者って凄いな。

「何をボ~っとしてるの? 行くわよ」
「あ、はい」

ミナトさんに腕を引かれての出社。
別にそんなに珍しい訳じゃない。受け付け嬢も苦笑して済ませてるし。
無論、男性社員の視線は物凄く鋭いけど。
・・・いつか刺されるんじゃないか? 俺。
ま、そうならないように後半年。頑張りましょうか。





「本日は貴方をスカウトに来ました。ハルカ・ミナトさん」

もうスカウトの日か。あっという間だったな。
スキャパレリプロジェクト始動・・・か。

「あ、申し遅れました。私、プロスペクターと申します。以後、お見知りおきを」

秘書課にいたミナトさんのもとへ大男ゴート・ホーリーを連れたプロスさんがやって来た。
・・・本当にゴートさんって仏頂面なんだな。

「えぇっと。何のスカウトですか?」

そうだよな。突然過ぎて分からないよな。

「少しお時間を頂けますか?」
「はぁ。構いませんが・・・」

困惑気味でこちらを眺めてくるミナトさん。
俺はそんなミナトさんに頷いてみせた。
大丈夫ですよって。
それが伝わったのか、ミナトさんも笑顔で頷いてみせてくれた。

「あ。マエヤマさんも良いですか?」

・・・ずっこけさせてくれますね。プロスさん。
あのミナトさんですら、呆気に取られてますよ。

「コウキ君?」
「あ、はい。分かりました。行きましょう。ミナトさん」

とりあえず付いていくとしますか。





「それでは、私が戦艦の操舵手、コウキ君がパイロットですか?」

・・・まいったな。パイロットかよ。
俺の計画では副操舵手だったんだけどな。

「はい。以前、マエヤマさんには断られてしまったのですが。やはり諦め切れず」
「え? 本当なの? コウキ君」

驚いた顔でこちらを見てくるミナトさん。
ま、そりゃあ驚くよな。

「ええ。結構前ですけどね。俺のどこにパイロットの適正があるんだか・・・」
「御戯れを。貴方は出したじゃないですか。トップスコアを」
「トップスコア? どういう事? コウキ君」
「何ていうんですか。ちょっと幼心に刺激されますてね・・・」

何かゲームセンターで遊んでたって言うの恥ずかしいよな。
って、俺がもたついていると・・・。

「もう、ハッキリなさい!」

一喝。

「は、はい! 以前、休日にゲームセンターでシューティングアクションゲームを致しました所、
 トップスコアを出してしまいました!」

ミナトさん。怖いです。抗えません。

「シューティングアクションゲーム? ゲームでパイロット適正を計ったんですか?
 それはちょっと・・・」

呆れるミナトさん。そうですよね。呆れますよね。たかがシューティングゲームで・・・。

「いえいえ。あれは唯のゲームじゃないんですよ。
 我が社が開発したシミュレーションの技術を存分に注ぎ込んだ特別製なのです」
「えっと。あれですか? G設定とか。確かに本格的でしたけど」
「その通りです。あれは実際にかかるGとほぼ同等のGをパイロットに負荷させます」

それって下手すると失神するんじゃ・・・。

「あの状態でのスコアは本番でのスコアと同等。いえ、それ以上かもしれません。
 当時は機体の方に問題がありましたから」

良くそんな状態のゲームを普通のゲームセンターに導入しましたね。

「あそこは我が社が経営しているゲームセンターです」
「えぇっと。顔に出てました?」
「ええ。顔が引き攣ってました」
「そうね。引き攣ってるわ」

ミナトさん。貴方も少し引き攣ってますよ。
ミナトさんは聡明だし、操舵手の資格を持ってるから分かりますよね。
本番のGの凄まじさとか。

「その上で貴方は我々が連合軍トップクラスとして想定したスコアを抜いたのです。
 それが何よりの証拠になりませんか?」
「コウキ君。貴方、どれくらいのスコアだったのよ」
「・・・覚えていませんよ。普通に楽しんでいましたから」
「軽く超えてますよ。倍とまではいきませんが」
「コウキ君。貴方って意外と多才よね」
「いえいえ。ミナトさんこそ。・・・あの、現実逃避して良いですか?」

在り得ない。
普通にゲームを楽しんでただけなのに。
それがこんな結果だなんて。
そうか。これこそが逃れられない運命という奴だったのか?
・・・いや。これに関しては自業自得だよな?
あぁ。俺の万全な計画が・・・。

「えぇっとさ。コウキ君。何で落ち込んでるのか知らないけどさ。
 とりあえず落ち込むのはやめて話の続きをしましょうよ」
「・・・そうですね。ミナトさん」

内心はもうボロボロです。

「ハルカさんはどうでしょうか? 操舵手なんですが」
「うぅ~ん。どうしようかしら」

悩むミナトさん。
あれ? おかしいな。
確かここはやっぱり充実感かなとか言って即刻引き受けてなかったっけ?

「あ、給料はこれくらいです」
「ん~~~。えぇ!?」

きっと俺の時と同じくらいなんだろうな。
あれはマジで少しでもいいから社員を雇ってあげてくださいと思ってしまう金額だ。

「あ、でも、私って別に給料で職場を選んでるわけじゃないですし。やっぱり充実感かな」

あ、やっぱり理由は充実感なんだ。

「充実感・・・ですか。それなら、ここ以上に得られる所はないと思いますよ」

ま、基準は分からんが、退屈はしないだろうな。
ドタバタラブコメディだし。

「う~~~ん」

とか言いながら俺を見てくるミナトさん。

「えぇっと。どうかしました?」
「ううん。別になんでもないわよ」

えぇっと。それじゃあ何で眼を逸らしてくれないんですか?
何で俺を見詰めてくるんですか?

「そうですか。分かりました。それでは、マエヤマさん。こうしましょう」

・・・今、プロスさんの瞳がピカンって光った気がします。怖ぇよ。

「予備パイロットはどうですか? メインは副操舵手。もしくはサブオペレーターで」

ん? これは願ってもない展開では?
無論、予備パイロットは拒否するが。

「貴方のプログラマーとしての名は有名ですからね。天才プログラマー、マエヤマ・コウキ。
 是非ともスカウトして来いと上もうるさいのです」

へぇ。アカツキ青年がね。青年っていっても俺より年上だけど。

「副操舵手。サブオペレーター。そこまではいいでしょう。
 ですが、予備パイロットは勘弁して頂けませんか?」

パイロットなんてやるつもりはありません。
俺は補佐の補佐の補佐を目指しているんです!

「困りましたな。何としてもパイロットとしての貴方が欲しいのですが」
「困られても困ります。俺はパイロットをするつもりはありません」

こればかりは妥協できない。俺は平穏なノンノンとした生活が良いんだ。
パイロットなんかになったら連合軍から眼を付けられる。
最悪、隠れ住まなければならないようになる。
そもそも死と隣り合わせの戦場になんて出向きたくない。
いつ死ぬか分からない戦場なんかに。
己惚れじゃないけど、ミナトさんも嫌がってくれると思う。
だって、俺が死んだら悲しんでくれ―――。

「いいじゃない。コウキ君。予備パイロットぐらいなら」

・・・泣きたくなる程にショックだった。





SIDE MINATO

「いいじゃない。コウキ君。予備パイロットぐらいなら」

軽い気持ちで告げた。
たった一言。たった一言が私に激しい後悔を残した。
私がそう言った瞬間。
コウキ君の顔が見た事もない程の驚きで染まり、次いで悲しみで染まったのだから。
その表情を見た瞬間、私は心が苦しくなった。とても、とても痛くなった。

「・・・ミナトさんは・・・」

俯きながら、呟くように話すコウキ君。
その言葉一つ一つが何故か胸に突き刺さる。

「・・・ミナトさんは・・・俺に死ねって。・・・死んでもいいって。そう思ってたんですか?」

ッ!?
そ、そんな事は思ってない。

「そんな事は―――」
「戦艦のパイロットですよ? 戦場は常に死と隣り合わせです。
 たかがゲームで高得点を出したからって訓練も受けてない俺が生き残れると思いますか?」
「そ、それは・・・。で、でも、予備パイロットよ。名前だけじゃ―――」
「戦艦のパイロットは全部で何人なのか? 機体のスペックはどうなのか?
 脱出機構は備わっているのか? 戦艦自体の武装は何なのか?」
「・・・コウキ・・・君?」
「プロスさんは何も言っていません。
 予備パイロットの役目なんてない? ・・・どうしてそう言い切れるんですか?」
「・・・・・・」
「戦場ですよ。貴方は予備パイロット。パイロットがいなくなったので命を賭して護ってください。
 ないと言い切れますか? 訓練なんて碌にした事がないのに。死なないと?」
「そ、それは・・・」

何も言い返せなかった。
コウキ君は間違った事を何一つ言っていないのだから。

「軽い気持ちでパイロットになりますなんて言える訳がないじゃないですか。
 そんな俺をミナトさんは臆病者だって、そう言いますか?」
「そ、そんな事―――」

思ってない。思ってないのに。
俯くコウキ君を前にして口が開かなかった。

「・・・そもそもがおかしいんですよ。
 パイロットとしての俺を欲しているプロスさんが予備パイロットとか提案してくる時点で」
「そうですかな?」
「ええ。とりあえず予備パイロットとして登録しておけば、どうにかなると思っていたのでは?
 何かあった時は予備とか正規とか関係なしに都合良く出撃させられますからね。
 それに、予備だからってパイロットがいない時のみとは限らないですし」
「歳の割りに鋭いのですね」
「企業の裏ってのは痛い程、実感してますから。
 組織の利益の為なら何だってする。それが組織でしょう?」

何でだろう?
すごく身近に感じていたコウキ君が。
今は・・・遠い。
知らない人に見える。

「そもそも企業が戦艦を保持する。目的地を告げない。その二つだけで不自然です。
 ネルガルは何が目的なんですか?」

鋭い眼光で睨みつけるコウキ君。
あぁ。私の軽い一言がコウキ君をここまで追い詰めてしまったんだ。
朗らかで怒った事なんてないコウキ君がこんなにもむき出しの敵意を見せるなんて。

「はて。目的なんて」
「・・・仮にパイロットになったとしましょう。
 俺が戦うのは誰ですか?木星蜥蜴? それとも連合軍ですか?」

それって・・・。

「連合軍と何故戦うのですか?」
「企業が戦艦を保持していて連合軍が何も言わないと思ってるんですか?」
「事前に許可を得てますが?」
「その戦艦は軍用の兵器でシェアを確立するネルガルが自慢としている戦艦なんですよね?」
「無論です。地球最新鋭の技術で造り上げました」
「恐らく苦戦続きの木星蜥蜴だって打倒してしまえるのでしょうね?」
「ええ。もちろん」
「そんな戦艦を連合軍が見逃すと思っているんですか?」
「先程も述べましたが、許可を―――」
「許可を得たぐらいで安心しているのですか? 貴方は、いえ、貴方達は軍を甘く見過ぎだ。
 木星蜥蜴を打倒できると知れば強引に徴収しようとしますよ。それが今の軍の実態ですから」
「お詳しいのですね。軍の事も」
「少し調べれば分かります」

本当に別人みたい。
あのコウキ君がこんな・・・。

「貴方は何の訓練も受けていない一般人に人を殺せと。そう言っているのですね?」
「はて。それはマエヤマさんの想定でしょう? それが現実になるとは限りません」
「・・・どちらにしろ。俺は予備であろうと正規であろうとパイロットをするつもりはありません。
 パイロットを望むなら連合軍から引き込めば良い。失礼します!」

激情を抑えきれないまま部屋から飛び出していくコウキ君。
それを私は見送る事しか出来なかった。

「いやはや。まいりました。あそこまで拒絶されるとは。想定外です」
「あの・・・コウキ君が言った事は本当なんですか?」
「どの事ですかな?」
「予備でも都合良くとか。連合軍がそういう組織だとか。その辺りです」

ふぅっと大きな深呼吸をしてプロスペクターさんが話し出す。

「無論、予備パイロットは予備でしかありません」
「それなら、戦場に出るなんて事はないんですよね?」

それならきっとコウキ君だって―――。

「いやはや。戦場に絶対なんてありえませんからな。
 もしかすると予備パイロットの方にも出撃を要請するなんて事もあるかもしれません。
 無論、可能性でしかありませんが」
「でも、正規のパイロットだっているんですよね」
「それは勿論です。素人だけに任せる訳にはいかないでしょう?」
「それなら、予備パイロットなんて必要ないじゃないですか」
「いえいえ。万が一という事がありえますから。
 準備を怠る訳にはいかないのですよ。念には念をいれてという奴です」

まるで予備ですら戦場に出すのが当然と言わんばかりの言葉だった。

「連合軍に関してですが、あれはあくまでマエヤマさんの想定でしかありませんよ。
 連合軍とて一度許可を出したら引っ込めないでしょう。軍にも面子があるでしょうから」
「そ、そうですよね」

そう。普通はそうよね。
それなのに、何でコウキ君はああまで軍を警戒していたのかしら?

「・・・今日はもう交渉は難しいでしょう。また後日伺わせて頂きます」
「あ、はい。分かりました」
「それでは、失礼しますね」

去っていくプロスペクターさんを私はまた見送る事しか出来なかった。

「・・・コウキ君」

軽い一言で追い詰めてしまった私の大事な同居人。
護ってあげようって誓った大事な弟分。
今、コウキ君はどんな気持ちなんだろう?

「うん。コウキ君の所へ行こう」

謝りに行かないと。軽々しくパイロットになれなんて言った事を。

「コウキ君ですか? コウキ君なら気分が優れないって早退しましたけど・・・」
「ッ!?」

コウキ君が・・・いない?
もうここには・・・帰ってこないの?

「ハルカさん? どうかしました?」
「いえ。なんでもないわ」
「顔色が優れませんが?」
「な、なんでもないのよ」
「ハルカさんも早退しますか? 少し休んだ方が良いですよ」
「大丈夫よ」

・・・探しに行きたい。
コウキ君がいなくなる前に、ちゃんと話がしたい。

「・・・そうね。ごめんなさい。ちょっと体調が優れないから早退するわ」
「分かりました。社長にはそう伝えておきます」
「ええ。御願いするわね。あ、コウキ君から何か聞いてる?」
「えっと。特には」
「そう。ありがとう」

荷物を纏める。この時間ですら惜しい。
早く、早く行かないと。
私はいつになく急いで部屋から飛び出した。
時間は午後二時。
まだまだ暖かい昼下がりだった。

SIDE OUT





「ふぅ・・・。やっちまったな」

会社とミナトさんのマンションとの間にある公園。
そこのベンチで俺はボーっとしていた。

「はぁ・・・。予定が崩れちまったよ」

予定としては副操舵手、副通信士、サブオペレーターの兼任だったんだけど。
予備パイロットなんて名前だけだからな。
アキト青年も予備予備って言われながら結局最後までパイロットやらされたし。
ってか、そんな事よりも・・・。

「あぁ! もう! ミナトさんにもう顔を合わせられねぇよ」

ちょっと興奮してミナトさんを傷つけちまった。
ミナトさんだって悪意があって言った訳じゃないのにな。
カッカすると周りが見えなくなるのは俺の悪い癖だよ、まったく。

「俺は予備パイロットを務めるべきなんだろうか?」

歴史をより良くするならパイロットの方が都合が良いよな。
でも、なんていうか、俺みたいな一般人には到底不可能な気がする。
それにだ。もし、仮に、パイロットを引き受けたとしよう。
そうなったら戦後が問題なんだよな。
戦争中の活躍が戦後に危険分子として危険視されるとかいう話は良くあるし。
かの有名なパイロットも戦後、軍に監禁されてたしさ。
俺はああなるのが嫌なんだよ。名前が売れて許せるのはプログラマーとしてだけ。
パイロットとか、ジャンパーとか、そんなんで有名になったら色々とまずい。
ほぼ間違いなく俺は平穏な生活を諦めなくちゃいけなくなる。
巻き込まれただけの俺が何で? とか、そんな事を思っている訳じゃない。
どんな未来であれ、歴史通り辿ればいいとか、そう思っている訳じゃない。
でも、歴史を変えるとか、そんな大それた事、俺には無理だよ。
その為の能力だって言われても、そんなの俺が望んだわけじゃないし。

「はぁ~~~。平穏な生活は俺には望めないのかね?」
「そんな事・・・はぁはぁ・・・ない・・・はぁ・・・わ・・・」

空を見上げる俺に影が差し込む。
その影は・・・ミナトさんだった。

「・・・ミナトさん」
「・・・はぁ・・・はぁ・・・コウキ君」

やばい。気まずい。

「と、とりあえず、座ったらどうですか? それとこれ」

ハンカチを手渡す。
走ってきたみたいで汗だくだ。
秋だけどまだまだ暖かいからな。

「はぁ・・・はぁ・・・そうさせて・・・もらうわ。ありがと」

ドサッと崩れるようにベンチに座り込むミナトさん。
慌てて支える。

「ハハハ。駄目ね。運動不足だわ」

苦笑いのミナトさん。

「ちょっと待っててください」

ベンチにミナトさんをしっかりと座らせて、俺は近くの自動販売機へと向かう。
えぇっと・・・お茶・・・でいいよな?
とりあえず、二本買ってベンチへと戻った。

「あの、どうぞ」
「あ、うん、ありがとう」

お茶を渡して隣に座る。
・・・それからは無言だ。
やはり気まずいな。

「えぇっと。ミナトさん。先程はすいま―――」
「ごめんなさい! コウキ君!」

突如、下げられる頭。
無論、混乱したさ。
何で謝られるの? 俺。

「えぇっと。謝られるような事しましたっけ?」
「私が、私が軽々しくパイロットになれなんて言うから。コウキ君を追い込んでしまった。
 危ないって分かってるのに。それなのに軽々しく戦場に行けなんて」

不意に涙を浮かべるミナトさん。

「ちょ、ちょっと待ってください」
「私が悪いの。あんな事言ったら死んでも構わないって言ってるのと同じ。
 ううん。もっと性質が悪いわ。私は平気でコウキ君を切り捨てたんだもの」

ポロッと涙を流すミナトさん。

「ごめんなさい。本当にごめんなさい」

やばい。本格的に泣き出してしまった。

「私は・・・私は・・・」

・・・あぁ。俺は・・・勘違いしてたんだな。
ミナトさんってこんなにも小さかったんだ。
いつも包み込んでくれるような暖かさでずっと頼っていたから、
俺はいつの間にかミナトさんは何でも出来る人だって思い込んでた。
何でも受け止めてくれる強い人だって思い込んでた。
でも・・・ミナトさんも・・・一人の女性だったんだな。
ちっぽけで矛盾だらけな、一人の人間だったんだ。

「ミナトさん」
「・・・コウキ・・・君?」
「ありがとうございます。こんな俺の為の泣いてくれて」

弱々しく俯くミナトさんの手を取る。
こんなにも震えている。
・・・俺のせいで。

「・・・正直、ミナトさんにパイロットを勧められた時はショックでした」
「ッ!」

息を呑むミナトさん。でも、きちんと伝えなっきゃな。

「分かっています。ミナトさんだって悪意があって言った訳じゃないって。
 予備パイロットに出番なんてないって。そう思ってたから言ったんだって」
「でも・・・」
「ミナトさんは悪くないんです。俺がちょっと熱くなって暴走したからいけないんですから。
 ミナトさんは何も悪くないですよ」
「私が軽々しくあんな事を言わなければコウキ君だって・・・」
「ミナトさん。聞いて下さい。俺の、ちっぽけで臆病な男の話を」

悩んだけど、ミナトさんには伝えよう。
俺の存在を。俺の真実を。
俺が一番に信頼している人だから。

「俺は違う世界からやってきたんです」





SIDE MINATO

「俺は違う世界からやってきたんです」

真剣な表情で、でも、どこか寂しそうな顔で告げるコウキ君。
私はその言葉に耳を疑った。

「御伽噺みたいで、二流、三流の小説みたいな話なんですけど、今から言う事は全て事実です。
 俺はこの世界とは別の世界からやって来ました」

零れてくる涙を必死に拭いて、コウキ君を見詰める。
この眼は嘘をつくような眼ではない。
一年の付き合いだもの。それぐらいは分かる。

「ミナトさんは過去、未来、そのどちらかを好きに移動できたらどう思いますか?」

それって・・・タイムマシンよね?

「タイム・・・マシン?」
「まぁ、そんな感じです」

それなら、コウキ君。
貴方は未来からやって来たというの?

「俺は未来の事を知っています。厳密に言えば、経験したのではなく、知っているだけですが」
「・・・ごめんなさい。良く分からないわ」

嘘は言ってないけど、真実味に欠ける。
だから、私は必死でコウキ君を見詰める。
そうすれば、コウキ君の想いが伝わってくると思ったから。

「未来という概念がもし実際に存在するのなら、未来は人の行動一つで幾重にも枝分かれします」
「私の両親が結婚しなかったらとか、コウキ君と出会わなかったらとか、そういう事よね?」
「そうですね。そういう事です。それを平行世界と呼ぶとしましょう」

平行世界。時間軸のズレた世界。
ありえたかもしれない可能性が実現した、近過ぎて、近過ぎるが故に見る事の出来ない世界。

「俺はこの世界を観測する事の出来た世界にいた人間です」
「・・・観・・・測?」
「俺は見ているんです。この世界が今後どうなっていくのか?
 その結末がどうなのか? そんな、この世界の未来を」

この世界の未来を知っている。
それは私の運命すらも知っているって事?

「私の未来も知っているの?」
「ええ。ある程度でしかないですけどね」

何て事だろう。
他人に己の運命を知られている事がこんなにも怖いだなんて。
私が誰を好きになって、どうやって死ぬのか。
それをコウキ君は知っている。
まるで神様のように。
私はコウキ君の掌で踊らされているの?
身体が恐怖で震えた。

「でも、それもちょっと違うんです」
「違う? どういう事よ?」

怖い・・・けど、ちゃんと聞かなくちゃ。
コウキ君の想いを受け止めなくちゃ。

「俺っていうこの世界に存在する筈のない存在が介入した。
 それだけでこの世界は俺の知る世界とは別の世界なんですよ」

・・・そうか。そうよね。

「コウキ君が介入した時点であるべき未来から枝分かれしている。
 言わば、コウキ君の知る世界とは既に別の世界なのね?」
「そうなります。この世界は既に俺の知る世界じゃない。ここは平行世界なんです」

・・・少し安心した。
私の全てをコウキ君は知っている訳じゃないんだ。
あれ? でも、ちょっと待って。

「それなら、何でコウキ君には戸籍があったの? そもそもタイムマシンなんてどこにあるのよ?」

戸籍は私がちゃんと調べた。
タイムマシンなんてあの時のコウキ君の傍になかった。
あれは本当に途方に暮れていたみたいだったし。
あれが演技ではない事は一年間の付き合いで分かってる。
今まで全てが演技って可能性もあるけど・・・。

「・・・そんな事、ありえないわよね」

うん。ありえない。
あの初心で恥ずかしがり屋でいじり甲斐のあるコウキ君が偽りだったなんてありえないわ。
もし、あれが演技だったら、どんな優秀な俳優より優秀だもの。

「そうですね。順を追って説明しましょうか」

神妙な顔付きで話し出すコウキ君。
今日は本当に今まで見た事のない一面をコウキ君は見せるわ。

「まずはタイムマシンですね。これはボソンジャンプといいます」
「ボソンジャンプ?」

聞いた事ないわね。どういう装置なのかしら。

「じゃあ、見せますから、ずっと俺を見ていてくださいね」
「ええ。分かったわ」

ベンチから立ち上がり私の前に立つコウキ君。

「じゃあ、行きますね。・・・ジャンプ」

ジャンプ。たったその一言でコウキ君の姿が消えた。
え? えぇ!?

「コ、コウキ君!? どこに行ったの!? コウキ君!?」
「後ろですよ」
「キャッ!」

急いで退避。
び、びっくりするじゃない。

「あ、すいません。驚かせましたね」
「い、いつの間に後ろにいったのよ」
「これがボソンジャンプです。パッと見は瞬間移動ですが、これは時空間移動でもあります。
 信じられないかもしれませんが、信じてください」
「いいわよ。コウキ君だもの。信じてあげる」

コウキ君は冗談ばかりだけどあんまり嘘はつかないわ。
あんまり・・・だけど。でも、眼が嘘じゃないって何よりも主張してる。

「それじゃあ、タイムマシンっていうのは装置じゃなくて、そのボソンジャンプって事なのね」
「はい。普通なら唯の瞬間移動なんですが、偶然に偶然を重ねて、
 それこそ三つ程に偶然を重ねたぐらいの確率で時空間移動する事があります」
「それがタイムマシンって事ね」

タイムマシンではあるけど、自由に時空間移動は出来ないって事か。
夢があるようでないタイムマシンなのね。

「俺はその偶然の三乗、まぁ、奇跡みたいなものです。
 それがきっかけでこの世界に飛ばされました。今からずっと昔。二十一世紀から」
「二十一世紀!? それって、私の御爺ちゃんの御爺ちゃんぐらいの世代よね」
「え、ええ。でも、御爺ちゃんで例えるのはちょっと」
「あ、そうね。ごめんなさい。嫌よね」

そうよね。まだ若いのに老人扱いだなんて。
嫌に決まってるわ。私だったら我慢できない。

「ちなみに二十一世紀の最初の方ですからもっと前ですよ」
「えぇ? そのまた更に御爺ちゃんの御爺ちゃん?」
「ミナトさん。流石に怒りますよ?」
「あ、ごめんなさい」

私も混乱してるみたいね。
ちょっと、落ち着きましょう。

「ふぅ・・・」
「大丈夫ですか? 休みます?」
「ううん。ありがとう。大丈夫よ」

頭は混乱してるし、涙でメイクは落ちてるけど、大丈夫。
・・・直したいけど、今はこっちの方が大切よね。

「さっき観測できる世界って言いましたよね。あれは事実で、俺はこの世界を知っています」
「未来を知っているって事よね」
「具体的にいえば、この世界は物語として語られているんです。結末もその後も」

背中に嫌な汗が流れる。
それって・・・。

「既に決まっている運命を辿っているって訳? 私は物語の人物で。
 私の想いや考えは全て定められたものだって、物語のストーリー通りだって。そういう事なの?」

そんなの! そんなの認められない!
私の想いは私だけの物。私の記憶は私だけの物よ。

「ミナトさん。ここには俺がいます」
「あ」

急速に熱が冷めていった。
・・・そうだったわ。ここにはコウキ君がいる。

「既に物語からは外れているのよね?」
「はい。物語と言っても、実際に俺達はこの世界に生きているんです。
 運命なんて俺は信じないんで。自分の道は自分で見つけるものですよ。違いますか?」
「そうね。私もそう思うわ」

作られた世界だとか、物語だとかはもう気にしないわ。
私はここにいる。人間として感情を持ち、記憶を持ち、誰かを想う気持ちがある。
それでいいじゃない。誰にだって思い通りにはさせないわ。

「やっぱり強いですね。ミナトさんは」
「え? 何で?」
「今、ミナトさんは俺から過酷な現実を突きつけられたんですよ。
 それなのに、それを受け止めて打ち返す強さがある。本当に、尊敬します」
「尊敬だなんて。当たり前の事よ。私だって運命なんて信じないもの」
「アハハ。やっぱり敵わないな」

苦笑するコウキ君。やっぱり敵わないってどういう意味よ?

「ミナトさんは未来を知りたいですか?」

愚問ね。

「知りたくないわ。というより、そんなの既に別世界の私よ。
 この世界の私の決定権は私にあるんだもの」
「それでこそ、ミナトさんです」

ニッコリって笑うコウキ君。
何だろう? 凄く久しぶりに見た気がしたわ。

「タイムマシンに関しては以上です。
 詳しくはまた後で質問してください。いつでもお答えしますんで」
「そうね。他にも色々と聞きたいし、後にするわ」

戸籍の事とか、色々と聞かないと。

「俺の戸籍ですが・・・」
「・・・・・・」

困ったように笑うコウキ君。

「怒らないでくださいね」
「内容によるわね」
「えぇっと・・・」

またもたついてる。はっきりしないわね。
ま、コウキ君らしいっていえばらしいから許してあげる。

「はっきりなさい!」
「は、はい! ハ、ハッキングして捏造しました!」

・・・捏造って。
捏造!?

「じゃ、じゃあ、あの戸籍は嘘って事?」
「はい。出来る限り、違和感のないように考えたデタラメです」

デタラメ・・・。
デタラメねぇ・・・。

「・・・とりあえず、その握り締められた拳はやめましょうよ。
 殴られる方も痛いですが、殴る方も痛いんですよ」
「問答無用よ!」
「ちょ、ちょっと落ち着いてください」

ゴンッ!

「イッタァ!」

まったく、犯罪だって分かってるのかしら。

「一応、言い訳させてもらえますか?」
「いいわよ。聞かせてみなさい」

言い訳ぐらい聞いてあげるわ。

「この世界に飛ばされた身としては戸籍がないのは色々とまずかったんですよ。
 ネットカフェに入ろうとも会員証は作れないし、働くにも働けないし」
「そっか。それであんな所で立ち往生してたのね」
「はい。ミナトさんに拾われたのは本当に幸運でした」

そっか。あの時がコウキ君がこの世界にやって来た時だったんだ。

「それで色々と困惑してたのね。家電とかその他にも」
「はい。流石に二世紀近く時代が進んでいると何にも分かりませんよ。
 状況的には生まれたての赤ん坊と同じです」
「ま、それは仕方ないわよね」

そうよね。知らなかったんだもの。

「飛ばされたので、頼れる知人もいませんし」

あ、そうよね。
コウキ君はこっちの世界に飛ばされた。
って事は家族とか友人とかともお別れしたのか。
ずっと昔の人だからいる訳ないし。

「両親がいないのも事実でしたしね。辻褄を合わせるにはあんな設定にするしかなかったんです」

・・・そうね。
じゃあ、仕方ないか。
でも・・・。

「今回だけよ。犯罪行為なんて許さないんだから」
「はい。分かっています」

シュンとなるコウキ君。
この分なら大丈夫そうね。

「最後にですが、ミナトさんにはきちんとお伝えしておきます。失望されるかもしれませんが」

そう告げるコウキ君の顔は酷く物憂げだった。

SIDE OUT





伝えなくちゃ。
俺の四つの異常と俺の目的を。
怖がられるかもしれない。
失望されるかもしれない。
でも、ミナトさんだから。
誰よりも信頼するミナトさんだから。
きちんと伝えておきたいんだ。

「俺は飛ばされる際にボソンジャンプを司る存在、まぁ、管理者とでも思って下さい。
 その者にある事を頼みました。俺にとっては本当に大切な事です」

遺跡の事は追々話す事になるだろうな。
とりあえず、今は続きを話そう。

「本当に大切な事?」

真剣な表情でこちらを見詰めてくるミナトさん。

「はい。衣食住とか知人とかいない状態じゃ生きていけないから何かしらの温情をくれと」
「そ、そうよね。当たり前よね」

慌てるミナトさん。
まぁ、確かに飛ばされる身としては軽い希望だったかもしれないかな。

「そうしたら、俺には四つの異常が備わったんです」
「四つの異常?」
「はい。一つは管理者へのアクセス権。
 本来、ボソンジャンプには色々な条件と制約があるんです。でも、俺はそれを全て無視出来ます」

如何なる時でも自由にボソンジャンプできる。
常に瞬間移動できる俺は誰にも捕まえられない。

「二つ目はナノマシンとの親和性の向上。
 知ってますか? 普通の人間の身体にはナノマシンは一種類しか注入できないんです」
「え、ええ。知ってるわ。確か、ナノマシン同士が喧嘩しちゃうのよね」
「はい。拒絶反応を起こして激痛を与えると言われています。
 ですが、俺の身体は特別で何種類ナノマシンを注入しても適合してしまうんです」
「それって・・・」
「化け物って事ですよ。俺の身体はナノマシンの塊です」

怖がられるかな?
いいさ。怖がられるのを覚悟で明かしたんだから。

「三つ目は複数のナノマシンの注入。
 親和性が高まっている中に管理者が選別した数種類の高機能ナノマシンを注入されたんです」

実際にどれくらいなのかは知らないけど。
きっとかなりの量なんだろう。じゃなければ、俺の能力に釣りあわない。

「その恩恵で俺の身体能力は異常になりました。
 見たでしょう? 俺の体力測定。あれでも一生懸命抑えた方なんですよ」

息を呑む音が聞こえる。震える身体が見える。
あぁ、やっぱり怖がられるよな。でも、最後まで伝えよう。

「・・・四つ目は知識の習得。俺が開発したOSは既存の情報を使ったものです。
 ずっとズルしていたんですよ。俺は」

元々あったデータをロードして書き換えただけ。
それだけで天才プログラマーとか持て囃されて。
本当にどうしようもない人間だな。俺は。

「そんな四つの異常を抱える俺です。そんな俺の目的。教えてあげます」

震えて、怯えて、きっと、それでも、ミナトさんは俺を真っ直ぐ見詰めている。
眼を逸らし、恐怖される事に恐怖している俺の事を。

「ただ・・・ただ平穏に過ごしたいんですよ。
 普通の暮らしをして、普通の人間と同じように過ごしたい」
「・・・え? それ・・・だけ?」
「はい。歴史を変えられるだけの大それた能力を持ちながら・・・。
 俺は何もせずに人任せにして幸せになりたいんです。身勝手ですよね。失望しますよね」
 
異常者が正常を求める。
なんて滑稽、なんて無様。
それでも、俺は・・・。

「こんな能力望んでいなかった。俺はただ普通に生きられれば良かった。
 それでも運命は俺を逃がしてくれない。歴史を変えろと俺に囁き続ける」

それでも、俺はただ当たり前の幸せが欲しいんだ。

「俺は身勝手なんです。物語に介入したくないからと主人公と距離を取ろうとしました。
 巻き込まれたくないからと主人公を取り巻く者達とも距離を取ろうとしました。
 でも・・・それでも・・・」

貴方が優しさをくれたから。
貴方が温もりをくれたから。

「俺は始め、ミナトさんとも距離を取ろうと思いました。
 でも、ミナトさんは本当に優しくて、本当に暖かくて・・・本当に居心地が良くて。
 ・・・だから、俺はミナトさんの傍にいたくて」

だから、身勝手で傲慢な俺は・・・。

「最善の方法を取らず、自己保身に走り、その上で最低限介入しよう。
 そんな俗物みたいな考えで主役達の舞台、機動戦艦ナデシコに乗ろうとしていたんです」
「・・・機動戦艦・・・ナデシコ。それが・・・私の乗る戦艦・・・」
「俺がパイロットになって根本から解決するのがベストなんでしょう」

俺にはそれだけの能力が与えられたのだから。

「でも、俺は戦後、パイロットとして活躍した事がデメリットにしかならない。
 そんな自分勝手な考えでパイロットを拒否しました。救える命があるかもしれないのに」

失望しますよね。ミナトさん。

「主役達の傍で少しずつ物語を好転へと修正していく。
 そんな神様みたいなポジションになろうだなんて考えていたんですよ」
「・・・・・・」
「傲慢で自分勝手・・・ですよね」
「・・・・・・」

無言・・・か。
そうだよな。呆れられたかな?
いや。そんなもんじゃないだろう。
失望、恐怖、軽蔑。
そんな感情全てを俺に向けているんだろう。
そうされるだけの罪が俺にはある。

「・・・何で?」
「え?」
「何で貴方はそんなに自分を追い詰めてるの?
 いいじゃない。幸せを望めば。いいじゃない。平穏を望めば」
「ミナト・・・さん?」
「何がいけないの? いいのよ。望みなさい! いくらでも望みなさい!」

必死に言葉を紡いでくれるミナトさん。
その声が心に響く。不思議と自然に逸らしていた瞳はミナトさんへと向かった。
正面から俺を覗き込んでくるミナトさん。
その顔は涙で一杯だった。

「貴方は貴方を何よりも優先していいの。
 能力? そんなもの関係ない。あったとしてもそれは貴方の幸せの為にあるのよ」
「俺の・・・幸せの為? この異常な能力が?」
「貴方は言ったわ。運命なんて信じないって。
 それなのに何が運命から逃れらないよ。自分の発言に責任を持ちなさい!」
「でも、俺は・・・」
「一人で抱え込まないで。人一人が持てる荷物なんて限られてるの。
 まずは貴方だけの荷物を持ちなさい。それでもまだ持てるなら他の人の荷物も持ってあげなさい」

俺は・・・俺を優先させていいのか?
俺の幸せを望んでいいのか?

「まずは貴方が幸せになるの。そうすれば必ず貴方の周りは幸せになるから。
 自分を幸せに出来ないような人が他人を幸せに出来る筈がない」
「ミナト・・・さん」
「ずっと、ずっとそんな恐怖を抱えていたのね。
 ごめんなさい。気付いてあげられなくて。ごめんなさい。支えてあげられなくて」

俺の為に泣いてくれているミナトさん。
どうして・・・どうしてそんなに優しいんですか?

「俺が・・・怖くないんですか? 化け物ですよ? 異常者ですよ」
「化け物? 異常者? ううん。貴方は当然の事を望んだだけ。
 きっと管理人さんは貴方の幸せを望んでとっておきの能力を与えてくれたのよ」

とっておきの能力? この異常が? 
幸せの為の能力なのか?

「自分勝手? 傲慢? 一人で何でも出来るって考えている今のコウキ君こそが傲慢で自分勝手よ」
「でも、俺にはそれだけの能力が・・・」
「どんなに凄い能力を持っていようと人には限界があるの。
 神様だって全てを救う事なんて出来ないわ。
 そんな事が出来てれば世の中に不幸なんてなくなるもの」
「・・・・・・」
「貴方は普通の子よ。ただちょっと人にはない特別な能力があるだけ。
 気負わなくていいの。誰かを救わなければいけないなんて自分を追い詰めなくていいのよ」

・・・平穏な生活を望んでいたその裏で、俺は何かしなければと思っていた。
この世界は俺にとって物語の世界だった。
でも、俺は現に生きている。この世界の住人と触れ合っている。
ただ生きていくだけなら今のままで充分な筈。でも、遺跡は言った。必ず巻き込まれると。
それが俺には貴方の能力はその為に与えたものだって言われているとしか思えなかった。
その力で救えるものを救いなさいって言われているとしか思えなかった。

「好きに生きなさい。貴方が望むように生きなさい。
 義務感とか責任感とか、そんなんで己の行動を縛らないで。貴方の事は貴方が決めるのよ」

救わなければという義務感。
未来を知っているという責任感。
それが俺を縛っていた? 
平穏に生きると主張しておいて、俺の知らない自分でも気付かない所で俺を縛っていたのか?

「普通に生きなさい。貴方が望む普通の生活を。貴方にはその権利があるの。
 誰の為でもない。自分の為に行動できる権利があるのよ」
「・・・いいんでしょうか? 未来を知り、その解決策すら知っている俺が何もしなくて」
「当事者の問題は当事者が担う。どれが最善かなんか分からないでしょ。
 未来を知っている人が助言したからって事態が好転するとも限らないわ」
「でも、それじゃあ、俺は何でこの世界にいるんですか?
 俺が、俺がここにいるのは何か理由が―――」
「理由なんてないわ」

・・・理由がない? 俺がここにいるのに、意味なんてない・・・のか?

「人が生きる事に理由なんてない。存在する事に理由なんてない。
 生きるってそんな複雑な事じゃないもの。ただ幸せを望み、幸せを与える。それが生きるって事」
「・・・俺はいてもいなくてもいい存在なんですか?」
「そうじゃないわ。貴方がここにいる事に意味はある。
 でも、理由がなくちゃ存在しちゃいけないなんて事はないの」
「・・・良く分かりません」
「コウキ君。この世界は居心地が悪い? 辛い?」
「・・・そんな事ありません。居心地が良過ぎて。だから・・・」

どうにかしないとって余計に思って。

「それでいいじゃない。存在する事に理由を求める必要なんてないわ。
 貴方はここにいる。ただそれだけよ」

全てを理解できた訳ではない。でも、ミナトさんの想いはきちんと伝わってきた。
俺は、俺のしたいようにしていいんだ。義務感? 責任感? そんなものに囚われる必要はない。
未来を変えなければならない? 俺一人の力で変わるような未来じゃない。
俺に出来る事は己とその周りの幸せを考え、その為に行動する事ぐらいだ。

「・・・ミナトさん」
「何かな? コウキ君」
「幸せって何でしょう? その為に俺は何が出来るんでしょう?」

何の気負いもなくして、平穏な生活を望んでいいって思うと気持ちが楽になった。
でも、今度はどうすればいいか、分からなくなった。
無意識に俺はナデシコに乗る事だけしか考えてなかったみたいだ。
始めはナデシコに乗らなければ良いって考えて、
次はパイロットにならなければ良いって考えて、最後はどうにか無難な役職を求めて。
この世界に来てからナデシコの事以外考えてなかったんだ。今、それに気付いた。

「幸せは人それぞれじゃないかしら。コウキ君にはコウキ君の幸せがある。
 コウキ君が幸せを求めるなら、コウキ君にしか出来ない事があるんじゃない?」
「・・・ハハハ。優しくないですよ。ミナトさん。こんなに困ってるのに」
「存分に困りなさい。幸せを求めるならいくらでも苦しみなさい。
 それが後々の幸せに繋がるの。幸せを実感できるの」

ニッコリ笑うミナトさん。
何だろう? 何か、久しぶりに見た気がする、ミナトさんの笑顔。

「そっか・・・」

はぁ・・・って息を吐く。
ベンチにもたれかかる俺をミナトさんが優しげな笑顔で見守っていた。
・・・ちょっと照れるかな。

「ミナトさん。俺は副操舵手と副通信士とサブオペレーターを兼任しようと計画していたんです」
「そっか。それで色んな資格を取ろうとしたのね。
 操舵手の資格を一番最初に取ったのもその計画に沿って?」
「まぁ、そんな所です。ナデシコクルーの中で混ざっても違和感のない役職は何かなって思って。
 結局、俺は補佐役に回るのがベストだなって考えた訳ですよ」

あのナデシコクルーだからこそあの結末を導けた。
俺の存在が誰かしらの欠員を出したら本末転倒だ。

「それじゃあ、コウキ君は元々乗るつもりだったって事?」
「そう・・・みたいですね。おかしな話です。
 ナデシコに乗らずにいようと考えていた筈なのに、いつの間にか乗る事を前提にしていました」

不思議だよな。最初は乗らないつもり満々だったのに。
なし崩し的?に乗る事になっちゃいそう。断ろうにも・・・。

「ん? どうかしたの?」
「いえ。なんでもありませんよ」

・・・ミナトさんもいるしな。
あれだけお世話になったミナトさんだけを危険な所に行かせるってのも・・・。
ま、無事だった事は確かなんだけど、何かあるか分からないだろう?
俺の知っている通りに物語が進むかなんて分からないし。

「私はね、悩んでいる、というか、コウキ君がいる方にいようと思うの」
「え?」

俺が・・・いる方?
それって・・・。

「私って楽しい仕事じゃないと嫌なのよ。
 給料とか、そんなんじゃなくて、充実感が得られる仕事に就きたいの」

うん。確か、それこそがミナトさんのナデシコ乗艦理由だったと思う。

「一年前かな。コウキ君と出会う前はちょっと物足りなかったのよね。
 つまらない訳じゃないけど、もっと何かあるんじゃないかなって」
「俺を拾ってから何か変わったんですか?」
「拾うって・・・。まぁ、そんな感じよ。ほら。コウキ君って見てて退屈しないじゃない?
 だから、その物足りなさも埋まったっていうか・・・」
「・・・・・・」

はぁ・・・。期待して損した。
好かれてるとか思っちゃったじゃん。
あぁ・・・退屈しないからですか。そうですか。

「どうしたのよ? 何で落ち込んでるの?」
「いえ。己惚れ屋の自分に呆れてただけです」
「えぇっと。よく分からないけど元気出して」

はい。そうします。

「だからかな。コウキ君といれば充実感が得られると思って」

ま、まぁ、必要にされてるって思ったらそんなに嫌じゃないかな。

「でも、コウキ君は自分で決めなさい。私がナデシコだったかしら?
 それに乗らなければいけないから自分も乗ろうとかそんな風に決めたら駄目よ」

・・・図星です。そう考えている自分もいました。

「私は・・・そうね、乗ろうと思うわ」
「え? 何でですか?」

本当は何かしらの理由があったのか?
充実感って嘘?

「面白そうじゃない。せっかく資格も持ってるんだし、使わないのは損だもの」

・・・それで良いんですか? ミナトさん。

「何よ? その呆れた表情」
「・・・いえ。何だか拍子抜けしたというか・・・。
 ミナトさんらしいと思ったというか、まぁ、そんな感じです」

でも、そっか。ミナトさんはナデシコに乗るのか。
それなら、俺も決まったな。

「そうですか。それなら、俺もナデシコに乗ろうと思います」





SIDE MINATO

「そうですか。それなら、俺もナデシコに乗ろうと思います」

色々な悩みを抱えていたのね。コウキ君って。
望まぬ力に望まぬ境遇。それでも、生真面目だから、何かしないといけないって自分に責任を課す。
もっと肩の力を抜いて、好きに生きればいいのに。
気遣いとか、思いやりとか、過度は自分に毒よ。

「それは何で? 無理に乗らなくてもいいのよ」

コウキ君が乗りたくないなら乗らなければ良い。
元々乗らないつもりだったんなら尚更。

「ミナトさんもいますし。ミナトさんだけ危ない所に送り出す訳にはいかないじゃないですか」

・・・私が・・・いるから?
えぇっと。それって・・・。

「ミナトさんにはお世話になりましたし。まだ恩を返しきれてないですから」

・・・そうよね。
恩返しとか、そんな理由よね。
な~んだ。期待して損しちゃった。
好きだから傍にいたいとか、そんな事を言ってくれるのかと思ったのに。
・・・そうね。そんな甲斐性。コウキ君にはないものね。

「えぇっと。何ですか? その呆れた眼」
「なんでもないわよ」

本当に、子供なんだから。

「歴史を変えたいとか、未来を変えたいとか、俺が何でも解決してやるとか。
 俺は別にそんな風に思った訳じゃないんです」

真面目な顔のコウキ君。
葛藤もあっただろうに。
覚悟を決めた男の子って素敵ね。

「どうしても逃れらない運命だっていうんなら・・・。
 俺は逃げないで正面から立ち向かう事で打破してやります。
 その上で、幸せを見つけてみようかなって。そう思いました」

正面から・・・か。
何だかんだ言って、コウキ君なら出来る気がするわ。

「でも、それじゃあコウキ君の望む平穏って奴が得られないんじゃないの?
 コウキ君の能力が知られたら・・・」

パイロットとして有名になれば軍が逃がしてくれない。
ボソンジャンプ・・・だったかしら? それが知られれば、瞬間移動だもの。誰だって欲しがるわ。
それがタイムマシンかもしれないと知られたら余計に。
身体能力だって、ナノマシンだってそう。
コウキ君はそういう科学者みたいな人達からしてみれば宝の宝庫よね。
知られたら・・・ただじゃ済まないわ。

「そうなんですけどね。ま、俺も男ですから。
 ミナトさんを護るぐらいの甲斐性はあるつもりですよ」
「ちょ、な、何言ってるのよ」

私を護る? 私が、コウキ君に護られる?
あぁ。もう。顔が熱いわ。コウキ君のバカ。
そういうのはプロポーズの時に添える言葉なの。

「それに、いざとなったら逃げますから」
「・・・・・・」

・・・呆れた。カッコイイって思ったのに。たった数秒しかもたなかったわ。
やっぱり、そんな甲斐性、コウキ君にはないわよね。
護るっていうのなら逃げないで最後まで護りなさいよね。
って、私ってば何考えてるの!? コウキ君に護ってもらおうだなんて・・・。

「どうかしました? 悶えちゃって」
「え・・・う、ううん。なんでもないわ。気にしないで」
「はぁ・・・」

は、恥ずかしい。ペースが崩されまくりだわ。

「そ、それで、どんな役職で乗るの?」

計画通りに行くのかしら?

「色々考えたんですが、予備パイロットも引き受けようかなって」
「え? いいの? それで」
「ええ。ガキみたいな考えですが、多分、ずっと反発していたんだと思います。
 パイロットになれる力があるからこそ、パイロットになるって事に対して」

運命だとか、そんな筋書きに反発していたって事かしら?
パイロットになる事が運命に従うみたいで嫌だって。

「でも、拒否し続けて危険な眼にあったら本末転倒だなと思うんです。
 死んだら何の意味もないですからね」
「まぁ、そうなんだけど。私としては・・・乗って欲しくないかな」
「あれ? 心配してくれるんですか?」

心配してくれるのかって?
そんなの・・・。

「そんなの、当たり前じゃない! 誰が好き好んで危険な眼にあって欲しいなんて思うのよ!」

大事な子に死んで欲しいなんて思う訳がない!
そりゃあさっき軽くパイロットなればいいなんて言っちゃったけど、
あれは出撃とかしないで、大丈夫だと思ったからで本心じゃない。
正規のパイロットだったら断固反対してた。

「・・・そっか。嫌がってくれるんだ・・・」
「コウキ君?」

俯くコウキ君。呟いてるけど何も聞こえなかった。
何て言ってたの?

「護れる力があるなら護りますよ。ミナトさんも乗っていますから」

そう言って笑うコウキ君。
今までで一番男らしくてカッコイイ笑顔だった。

SIDE OUT





「そうですか。引き受けて頂けますか」
「ええ。ですが、あくまで予備ですからね。危険な時だけですよ」
「分かっております。いざという時に御願いするだけです」

結局、予備パイロットを引き受ける事になったな。
どうなるか分からないけど、出来るだけの事をしよう。
それにしても、何で今までみたいな抵抗感がないんだろう?
やっぱりミナトさんのお陰かな? 
気が楽になったし、護る為にはなった方が良いって思えるようになったし。

「それでは、ハルカさんには操舵手を。
 マエヤマさんには副操舵手、副通信士、予備パイロットを御願いしますね」
「分かりました」
「はい。分かり―――」

あれ? サブオペレーターはどうなったんだ?

「えぇっと。サブオペレーターはどうなりました?」
「新しく候補者が現れまして。その方にお任せする事にしました」

新しい候補者?
ルリ嬢以外にもオペレーターが・・・。
あ! そうか! 盲点だった!

「・・・マシン・・・チャイルド・・・」

俺が匿名で送ったMCの情報。
それを頼りに救出されたMCは何人かいる筈。
ルリ嬢の他にオペレーターを務められるMCがいてもおかしくない。
いや、むしろ、ネルガルがMCを利用しない筈がない。

「おや? ご存知なのですか?」

あ、や、やばっ。ど、どうにかして誤魔化さないと。

「僕もIFSを持っていますからね。噂程度には・・・」
「私はメインオペレーターの事もお話していませんが・・・」

うわっ! 墓穴掘った。
どうする? どうする?

「マエヤマさん。貴方・・・」

や、止むを得まい。

「ホシノさんがメインオペレーターなのでしょう?
 MCや彼女の事は両親から聞いていましたし、先日、彼女がネルガルに雇われたと知りまして」 
「ほぉ。ご存知で。そういえば、マエヤマさんの両親も研究者でしたかな? 
 それならば、MCにお詳しいと」

おぉ! 両親の設定が役に立ったか!?

「はい。わざわざホシノさんレベルのオペレーターを雇ったのです。
 同等とまでは行きませんが、それに近い人をサブとして雇う筈。それならば・・・」
「MCである可能性が高いと。そう考えた訳ですね」
「その通りです」
「・・・まぁ、いいでしょう」

納得してくれたか? いや、多分、疑っているんだろうな。
でも、匿名で送ってきたのが俺だとはバレてないだろう。
疑われても確証はないのだから。

「しかし、よくお調べになりましたな。
 ルリさんの事はネルガルが全身全霊をかけて隠していた筈ですが・・・」

まだだった!? まだ疑いは晴れてない! 甘かった!

「こう見えても天才プログラマーと呼ばれている俺です。少し調べればチョチョイのチョイです」
「ほぉ。ハッキング・・・という奴ですかな?」

キランと光るプロスさんの眼。
おいぃ! 怖いよ!

「いえいえ。そんな事はしていないですよ。研究所の方をちょっとね」

実際に調べてないんだから、跡はついてない筈。
意地でも誤魔化し通す。

「おや。それは盲点でしたな。研究所の方でしたか。
 それならば、注意が甘くなっていてもおかしくありません」
「そうなんですよ。ハハハハハハ」
「素晴らしいハッキング技術ですな。ハッハッハ」

・・・早速追い込まれました。どうしよう?

「コウキ君? そんな事をしてたの?」

ミ、ミナトさんまでそんな白い眼で・・・。
やばい。信用と立場を失い兼ねない。

「後で色々と教えてね」
「・・・了解しました」

耳元でそう言われたら断れませんよ。
トホホ・・・。

「それでは、お引き受けして頂けるという事で。こちらが契約書になります」

ズバッと。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

懐から出すの早過ぎです。
ミナトさんなんて眼が点。
ま、俺は見えてたけど。

「読み終えたらこちらの方にサインを」

といってすぐにサイン蘭を指差すプロスさん。
フッフッフ。契約書とはきちんと読むものなのですよ。
後々、あんな事態にならないようにあらかじめ手を打っておきます。

「う~ん。大丈夫そうね」
「おっと。ミナトさん。ちょっと待ってください」
「え?」

サインしかけたミナトさんを止める。
そういえば、何でミナトさん、あの項目を見逃してたんだろう。
・・・あ。読めないよな。こんなちっちゃくちゃ。それも、見えづらいように工夫してある。

「幾つか確認したいのですが、よろしいですか?」
「何なりと」

フフフ。プロスさん。後悔しても知りませんよ。

「まずは一つ目。俺って予備パイロットとして登録されているんですよね?」
「ええ。そうなっております。ここに役職が書かれているでしょう?」

ま、確かに名前の下に役職名が書いてある。

「それなら、何故、保険について何も書かれていないんですか?」

予備パイロットとてパイロット。
何かしらの破損で弁償とか勘弁して欲しい。

「おぉっと。忘れておりました。いやはや。申し訳ありません」

このうっかりオジサンめ。
意図的だったら性格悪いぞ。
俺はアキト青年のように苦労したくないの。
借金地獄とか勘弁して欲しい。

「二つ目ですが、俺の部屋はどこになります? 
 契約書を見るとブリッジクルーと一般クルーとで部屋が違うみたいですが・・・。
 役職的に俺はどちらに所属する事になるんでしょうか?」

俺って予備パイロットだし、副通信士だし、副操舵手だろ。
全部、副とか予備とかだから、実は一番立場がないのでは?

「マエヤマさんはブリッジクルーと同様一人部屋とさせて頂きます。
 OSなどでお世話になるつもりですから。ブリッジの方に席も御用意させて頂くつもりです」
「OS・・・ですか? プログラミングとかはオペレーターの方にお任せした方が良いのでは?」
「御戯れを。天才プログラマーのマエヤマさんには敵いませんよ」

俺なんてすぐに抜かれると思うけどな。
俺の利点なんてナノマシンぐらいだけだし。
っていうか、既に抜かれてるんじゃないか?
ま、いいや。それなら・・・。

「それなら、オペレーター補佐とか、そんな役職もつけてくださいよ。
 何もしないのにブリッジにいるのは申し訳ないですから」
「そうですか。いやはや。助かります。マエヤマさんは働き者ですな」
「いえいえ。そうすれば給料もアップでしょ? メリットもあるんですよ。
 無料でプログラミングとか嫌ですし」

どうせならねぇ、きちんとした仕事という形で引き受けたいものです。

「・・・中々に抜け目がないですな」
「ないよりあった方が良い。お金なんていくらあっても困りませんから」

もう使い切れないぐらいあるんだけどね。
ないよりはあった方が良いでしょ。何があるか分からないんだし。

「ま、いいでしょう。了解致しました。給料の方もそれに見合うだけの金額をお出しします」
「助かります」
「コウキ君。あんまりがめついちゃ駄目よ」
「え、ええ。分かりました」

呆れないでくださいよ。
正当な権利なんですから。

「それで最後ですが・・・」

あの騒動に巻き込まれたくないし、気軽にミナトさんとお茶とか出来なくなっちゃう。
何としても説得だな。

「この項目をどうにか出来ませんか?」

噂の手を繋ぐまでって奴だよ。
別に如何わしい事をしたい訳じゃないけど、艦内恋愛なんて自由でいいんじゃない?
恋は理屈じゃないんですっと言わせて頂く。
ついでに異性間の部屋の行き来の禁止ってのもいただけないね。
食堂でのお茶会もいいけど、部屋でのんびりしたいとかも思うし。
あれ? ユリカ嬢。即刻アキト青年の部屋に訪ねてなかったっけか?
ってか、これって事実上、無視扱いか?
何度も行き来してた気がするが。
緊急事態は構わないのか?

「あら? そんなのあったかしら?」
「ほら。ありますよ。物凄く小さいですけど」
「あ。本当だわ。これは酷いわね」

そうですよね。呆れますよね。

「いやはや。困りますな。私達からしてみますと、艦内恋愛はちょっと」
「恋愛は自由だと思いますよ。ただでさえ閉じ込められた空間です。何かあってからでは遅いのです」

あっち方面って爆発しちゃうと危険でしょ? 何を仕出かすか分からないし。
あ。もちろん、俺は大丈夫だよ? 何ていってもこの一年間耐え切ったんだから。
むしろ、褒めて欲しいね。夜は悶々でしたよ。うん。本当に。

「大人なのですね。マエヤマさん」
「いえいえ。少し考えれば分かりますよ」
「・・・エッチ」

グハッ! ボソッと告げるのはやめて下さい。
心にグサッと刺さりますから。

「そ、そんなつもりはないですよ。ただ、部屋でお茶会と開きたいじゃないですか。飲み会とか」
「まぁ、分からなくもないけど・・・」

ミナトさんって見た目と違って結構堅いからなぁ。
あ、別に見た目を貶している訳じゃないよ。本当だよ。
美人さんだけど、清楚っていうよりは大胆とか、引っ張っていくとか、そんな感じだからさ。

「食堂とかでもいいんですけどね。部屋の方がのんびり出来るかと」
「なるほど。そういう意味ですか。ですが、それでは相手方が契約違反になりますよ」
「あ、だから、俺と相手も対象にしてください。俺だけじゃ意味がないですから」
「しかしですね・・・」
「給料5%でどうですか?」
「・・・致し方ありませんな。
 部屋の行き来に関しては許可しましょう。ただし、如何わしい行為は」
「し、しませんよ」

だから、睨まないで下さい。ミナトさん。

「しかし、それでは手を繋ぐ方の理由としては不適格ですな。
 お茶会ぐらいなら接触もないでしょうし」

むぅ。確かに。でもさ、手を繋ぐ以上なんていくらでもあるんじゃないかな?

「たとえば足を挫いてしまったとか、そんな時には背負ってあげるべきでしょう?
 接触する事態なんて幾らでもあると思いますよ」
「それらは例外ですよ。見逃します」
「社内恋愛は禁止にしない方がいいですよ。
 抑えつけられる事で逆に燃え上がっちゃう事もありますから」
「・・・大人なのですね。マエヤマさん」
「・・・エッチ」

しまったぁ。いらぬ一言だった。

「と、とにかくですね。手を繋ぐ以上の接触なんて幾らでもあると思うんですよ」

時と場合によるけどさ。恋愛関連以外にもありえるでしょ。

「それに、落ち込んでたり、悩んでたりする時って無性に人の温もりが欲しくなったりするんです。
 温もりって大切だと思いますよ。心の支えになってくれますからね」

俺はミナトさんのお陰で心が軽くなった。
ミナトさんの優しさと温もりが俺を元気付けてくれたんだ。

「・・・コウキ君」
「・・・マエヤマさん」

暖かな視線で見詰めてくるプロスさんとミナトさん。
・・・って、俺は何を恥ずかしい事を言っちまってるんだ。
これじゃあ温もりを欲しているみたいじゃないか!
いや、ま、欲しいんだけどさ。こんな事、他人に言う事じゃないだろ!
しかも、経験がありますみたいな言い方だったし、恥ずかし過ぎる・・・。
いや、あるんだけどね。

「・・・そうね。私もこの項目は消して欲しいわ」

こちらを見ながら言わないで下さい。恥ずかしがってるんだからスルーの方向で。

「マエヤマさんのおっしゃる事はよく分かります。
 ですが、これを失くしてしまうとそれこそ際限がなくなってしまうでしょう?
 私達と致しましてもそう易々とは・・・」

仕方がない。元々多過ぎるくらいの給料だ。
多少減っても・・・まあ、構わないだろう。

「更に5%で・・・」
「・・・10%」
「・・・7%」
「・・・・・・」

首を横に振るプロスさん。
クソッ。譲れないってか。
致し方あるまい。

「分かりました。10%で御願いします」
「それでは、マエヤマさんは合計15%のカットとなります」

15%か。・・・結構あるな。
ま、それでもかなりの量だから良いけど。

「あ、もちろん、相手方も対象ですからね」
「・・・もちろんです」

誤魔化すつもりだったな?
流石はプロスペクター氏。抜け目がない。

「それじゃあ、私も15%カットでどっちも消してもらおうかしら」

そうだよな。ミナトさんにだって自由に恋愛する権利があるんだ。
・・・ちょっと寂しいっていうか、こう・・・そう、胸が痛む。
お姉さんを取られる弟の気持ちって奴なのかな?

「・・・分かりました」

渋々って感じで了承するプロスさん。
ま、文字通り渋々なんだろうな。

「それでは、こちらの方にサインを」

パッと見で不備はない。
きちんと全部に眼を通したし、矛盾とかもなかったし、こちらが不利になる項目も特にない。
よし。いいか。
・・・あ。その前に。

「一応、減らされた後の給料を確認させて頂けますか」
「あ。私も御願いします」
「はい。分かりました」

・・・出たよ。
神速のソロバン弾き。
ミナトさんなんて口開いちゃってる。

「まずはマエヤマさん。こちらになります」

ソロバンで弾いた数字を一々電卓に打ってから見せる。
二度手間だよね。あいも変わらず。
んで、電卓に映る数字。
全役職分の給料とそこからカットされた分を引いて・・・。

「うん。やっぱり多いですね」
「ネルガルは気前が良いのですよ」

うん。本当にそう。
気前良過ぎ。この世界って就職難とかじゃないのかな?
そう願いたい。だって、申し訳ないもの。

「そして、こちらがハルカさんですね」

高速弾き。そして、提示。

「あら。本当に気前が良い」

ですよねぇ~。

「よろしいですか?」
「はい」
「ありがとうございました」

うん。大丈夫。サイン、サインっと。

「はい。確かに。契約成立です」

サインした契約書を懐に入れて、プロスさんが立ち上がる。

「出航は一ヵ月後。合流は出航の一週間程前には済ませておいて下さい。
 場所はサセボシティの軍用ドックです」
「分かりました」

こうして、俺の物語が始まった訳だ。
いる筈のない、存在する筈のないイレギュラーの物語が。


それから会社の方へ退社届けを出した。
俺はアルバイトだから、そんなに重々しくなかったけど。
もちろん、ミナトさんは残念がられたよ。
個人の問題だから、納得してくれたみたいだけど。
それと意外に俺も残念がられた。
ま、便利君だったしな。食事とかも結構したし、割と気に入られてたのか?
・・・うん。そうだったら嬉しいかな。

「それじゃあ、行きましょうか」
「はい」

マンションも引き払い、いらない荷物はミナトさんの実家に送った。
あ、俺に私物なんてないから、何の心配もいらない。
何で男物が送られて来たの? とかいう問題も起きていない筈だ。
残りの私服とスーツはナデシコに持っていくしな。もうとっくに郵送済みだぜ。
ちなみに、ミナトさんも郵送済み。だから、今持っているのは手荷物程度。
さてと、早速ドックへ行きますか。






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