SIDE MINATO
「・・・マエヤマさん。大丈夫かなぁ・・・」
「・・・ユリカ。残念だけど・・・」
「うん。分かってる。可能性で言えば生きている方が不思議なんだって事は」
「・・・ユリカ」
「・・・私は覚悟が足りなかったのかな?」
「ユリカ。前を向こう。そんなんじゃ、犠牲になってくれたマエヤマが報われない」
「・・・うん」
艦長と副長の会話が示すように今、ブリッジ内には暗い雰囲気が漂ってる。
・・・というか、勝手にコウキ君を殺さないで欲しいんだけど。
「ミナトさん。マエヤマさんは・・・」
「大丈夫よ。メグミちゃん。戻ってくるって言ってたでしょ?」
「でも・・・」
「コウキ君は冗談ばっかりだけど、嘘は吐かないもの」
「・・・ミナトさん」
「絶対に帰ってくるって言ってた。それなら、私が信じてあげなくちゃ」
「・・・私も信じています」
「セレセレ・・・」
「・・・私もコウキさんなら絶対に戻ってくるって信じてます」
「ええ。信じましょう」
秘策があるって言ってもの。
コウキ君が戻ってこない筈がない。
「・・・強いんですね。ミナトさんは」
「そんな事ないわよ?」
「いいえ。強いです。もし、ガイさんが残るなんて事になったら、私・・・」
悲しそうに俯くメグミちゃん。
多分、それが普通の反応だと思う。
もしかしたら、私自身、強がってるだけかもしれない。
だけど、どうしてだろう?
コウキ君なら大丈夫だって、そんな気がするの。
「機影反応」
「ルリちゃん。モニタに」
「はい」
突如として告げられる機影反応。
艦長の指示に従ってモニタに映し出されたのはヒナギクのような飛行機。
そして、それには一人の女の子が乗っていたの。
『うわ、うわわわ』
・・・とりあえず、回収してあげましょう。艦長。
SIDE OUT
「ナデシコに攻撃していたのは力を示す為ですか?」
「ええ。福寿の性能を認めさせる。それが第一歩でしたからね。
ナデシコは木連軍人にとって悪玉のようなものです。
ナデシコを撃退させる事が出来れば、私達は軍内で大きな権限を持つ事が出来ます」
悪玉って・・・。
「まぁ、戦争なので、何も言いませんが、一応、念の為に・・・」
「はい」
「俺の中ででしかありませんが、ナデシコこそが和平の鍵になると俺は考えています」
「それは教官が乗っているからですか?」
いやいや。だから、俺なんてそんな大袈裟な存在じゃないっての。
「艦長がミスマル提督の娘というのもありますが、
何より対木連ではかなりの知名度を持つからです。
戦争の中心にナデシコがいる事は間違いないでしょう」
「はい。こちらもナデシコには注目しています」
「だからこそ、ナデシコの動きが両陣営に対して与える影響は大きい。
現在、軍内部での・・・」
・・・ミスマル提督の企みとか言わない方が良いのかな。
俺自身はケイゴさんならって思うけど、こういうのは代表者同士で話し合うべきだしね。
「どうしましたか? コウキさん」
「あ、いえ。ミスマル提督ら改革和平派の権力も強くなってきましたしね」
「・・・・・・」
うわ。何? その誤魔化しは利きませんよ的な視線。
「詳しい事は現段階では御話できないんです。申し訳ないですけど」
「・・・そうですね。まだ私達は完全に協力体制を築いた訳ではないので」
う。そんな言い方されつお罪悪感が・・・。
いや。うん。ごめん。やっぱり言えないわ。
「コホン。ケイゴさん。今後の方針について確認しておきましょう」
「・・・仕方ありませんね。分かりました」
そうそう。優先すべき事をしましょうね。ケイゴさん。
「俺はこのまま脱出しても良いんですよね?」
「ええ。本来なら許されない事ですが、ツクモも逃がしたもらったようですし」
あぁ。白鳥さんね。確かにナデシコが彼を逃がしたわ。
いやぁ。白鳥さんを逃がした事が巡り巡って俺を助けるとは。
ありがとうございます。ミナトさん。
「そもそもこちらがそうしなければ教官一人で撃退されてしまう」
「いや。そんな事は―――」
「事実、私達は一人でやられてしまいましたから。
実質的に私達が敗北したと言って良い。
むしろ、私達こそがコウキさんの言う通りにしなければならないでしょう」
敗北者だから的な話ね。
まぁ、俺としてはそんなに事を荒げたくないからスルーの方向で構いませんけど。
「それなら、許して欲しい事があるんです」
「は? 許して欲しい事とは?」
「事後承諾になりますが、先程の戦闘データ、全て消させて頂きました」
「・・・本当ですか?」
「ええ。本当です」
「・・・教官。何をしてくれてるんですか!?」
うわっ。ケイゴさんがキレた。
やばい。初めてだ。なんて新鮮に感じている余裕はないだろっ!
怖っ! 檄怖!
「今回、ナデシコを撃退した事で権力を得られると思ったのに・・・」
今度は項垂れるケイゴさん。
えっと、すいませんとしか言えない。
「でも、その後のこの戦艦が占拠されてしまった映像もありましたよ」
「そちらは削除するつもりでした」
・・・胸を張って不正を言われてもね。
まぁ、既に消してしまった以上、何を言っても変わらないんだけど。
でも、多分、その件は大丈夫だと思う。
「映像がなくとも情報は伝わると思いますよ。ナデシコが注目されているのなら」
「・・・そうでしょうか?」
・・・恐らくでしかないけど。
「どちらにしろ、ナデシコが撤退したという事実に変わりはありません」
「・・・分かりました」
まぁ、納得してもらえるとは思ってないさ。
「えっと、話を戻しても?」
「ええ。どうぞ」
まず、カグラヅキから脱出した後、ナデシコに戻るだろ?
その後、原作通りなら地球に降下する事になる。
そこで色々とネタバレした後、クルーの逃亡生活が始まる。
んで、だ。ナデシコ強奪事件が起きて、クルー達が再度集まる。
そして、仮初めの和平交渉。
ここから全てがズレ始めた。
とまぁ、原作をなぞってみたけど、既にこうはならない筈。
まず、地球に降下してもナデシコは安全。
原作では白鳥九十九さんの妹であるユキナちゃんが乗っていて、
彼女を引き渡すようにと告げる軍人達から逃亡して隠れる事になる。
でも、それは地球側があくまで事実を隠蔽しようとしてたから。
今回はミスマル提督の下、和平派が活動しているから、
ユキナちゃんを一方的に渡せなどと言われない筈。
予想だけど、ナデシコ内で保護って形になると思う。
その間、ナデシコやらエステバリスやらを全面改装する必要があるな。
臆病とか思われてもいいから、性能を強化しておいた方がいい。
夜天光とまではいかなくても、エステバリス以上の機体は出てくるだろうから。
どちらにしろ、地球に戻ってからが忙しいって訳だな。
火星再生機構の話もきちんとしておきたいし。
一度、火星人の皆や提督達を集めて話し合う必要がありそうだ。
「地球に戻り次第、俺は提督に連絡を取ろうと思います」
「はい。私も父と話してみます」
神楽派の代表はケイゴさんの父親か、やっぱり。
ケイゴさんと同じでイケメンなのかな?
まぁ、関係ないけどさ。
「その間の連絡手段ですが・・・」
・・・どうするか。
同じ目的を掲げていようと、両者間での緻密な話し合いは必須。
秘密裏に結託して活動するのなら尚更だ。
その為には何度も連絡を取り合う必要がある。
でも、俺達には連絡を取り合う手段が・・・。
「それは大丈夫です」
「手段があるんですか?」
驚いた。
だってさ、地球と木星間で連絡を取り合うとか、無理じゃないの?
「教官は偶に抜けてますよね」
「・・・よく言われますよ」
どうしてかな? いつも言われるんだけど。
「そう拗ねないでください」
「べ、別に拗ねてないですよ」
「教官の新たな一面ですね」
・・・なに遊ばれてるんだろう。俺。
「コホン。その手段ってのは?」
「はい。クリムゾンへ連絡するルートと同様のルートを用います」
「・・・あ」
そういえば、クリムゾンと連絡を取り合ってたんだな。木連って。
あぁ。それで抜けてるって事ね。
「クリムゾンとはどうやって」
「流石に地球から木星間は遠いですからね。
間に衛星のような形でバッタを挟めば良いんです」
へぇ。そうやって連絡を取り合ってたんだ。
「クリムゾンと同じルートではバレてしまいますので、
こちらで新しいルートを構築します。連絡先さえ教えて頂ければ・・・」
「分かりました。それなら、これに連絡してください」
直接提督の所だと危ないからね。
一応、地球での俺の連絡先を教えておく。
「これに連絡すると俺の所に来るので、その後、提督にお知らせします」
「分かりました。お願いします」
ケイゴさんを信じてない訳じゃないけど、慎重に慎重を重ねないとね。
「まずは両陣営の間を取り持ちます。それぐらいは俺にも出来るでしょうから」
「教官なら安心して任せられます」
信頼されるのって気持ち良いね。
期待に応えたくなっちゃう。
「両者間での繋がりを深め、足並みを揃える。和平の道を探すのはそれからです」
「はい」
まだまだ課題はいくらでもある。
民間意識の統一も済んでなければ、事実の公表も終えてない。
軍の主導権だって握ってないし、ネルガルの問題も解決してない。
でも、少しずつ、出来る範囲で解決していこう。
焦らなくていい。俺には支えてくれる人がいるんだから。
「それでは―――」
ドンッ! ドンッ!
「おい! シンイチ!」
・・・駆け込み乗車は違反ですよ。シンイチさん。
「ノックしたまではいいが、したなら、返事を待てよ」
「その通りです。シンイチさん」
うおっ。いつの間にかマシンガンを構えるマリアさんが隣に。
怖っ! 超怖っ! これが最強メイドさんの実力かよ!
・・・俺、まるで気付かなかったぞ。
「そんな余裕はないんだ! ケイゴ!」
肩で息をしながら、大柄な身体の全体を使って緊急事態をアピールするシンイチさん。
尋常じゃない何かが、想定外の何かが、起きてしまった。そんな形相をしている。
「草壁中将が和平を提案して、地球側に使者を送った」
「な、何!?」
・・・残念だけど、俺にとっては想定内ですよ。
いつになく慌てているケイゴさんに比べ、俺は冷静そのものだった。
そりゃあ、今まで徹底抗戦を訴え続けてきた草壁派が和平を唱えたら驚くさ。
でも、それは一種のイベント前の準備でしかない。
白鳥九十九暗殺事件。それを徹底抗戦を訴える道具にする為の。
あくまで草壁派の狙いは徹底抗戦だ。
「・・・草壁中将が?」
「俺達の意見に賛同したって事なのか?」
「いや。それはないと思う・・・が、そうではないとも言い切れない」
「クソッ。おちょくられてる気分だぜ。今まで散々徹底抗戦を訴えてたくせに」
「駄目だ。判断材料が足りな過ぎる」
「・・・俺達は草壁中将と結託するべきなのか?」
「・・・それも分からない。現状では保留だ」
「・・・だな」
暗殺事件の事を話せてしまえたらどれだけ良い事か。
でも、現時点でそれを知っているのはあまりにもおかしすぎる。
言った所でケイゴさん達を混乱させてしまうだけだ。
そもそも同じ事件が今回起きるかも分からないし。
とりあえず、現時点では、俺も決断を保留にせざるを得ない。
もちろん、厳重に注意を払って暗殺は確実に阻止するつもりだけど。
「草壁中将が派遣した使者はどこに?」
「そこまでは分からなかったが、恐らくナデシコだろう」
「・・・ナデシコ、か。誰なのかは分かるか?」
「それも不明だ」
「そうか。・・・コウキさん。充分に注意してください」
「ええ。分かりました」
まぁ、ユキナちゃん自体は危険じゃない。
彼女はあくまでツクモさんの為であって・・・あれ?
「今回、ミナトさんはツクモさんと・・・」
まさか・・・ね。
恋人持ちの女性を追うなんて事は・・・ないよな?
写真を飾ってるなんて事は・・・ないよね?
「使者か暗殺者か分かりません。本当に気を付けてくださいよ」
「分かってます。誰にも危害は加えさせません」
心配性だなぁ・・・。
でも、気を引き締めないといかん。
まだ、ユキナちゃんだって決まった訳じゃないんだし。
もしかしたら、本当に暗殺者が使者として赴いている可能性もある。
「それでは、こちらから強襲揚陸艦をお貸ししますので、コウキさんはそれで」
「はい。ありがとうございます」
とりあえず自分のエステバリスをそれに括り付けて、ナデシコに帰ろう。
いやぁ。流石にね、エステバリスのバッテリーが持ちませんでしたよ。
まぁ、帰る分まで積んでいた訳じゃなかったから覚悟の上だったけどさ。
いざとなったらボソンジャンプで帰ろうと思ってた僕を叱ってください・・・。
「送ります。マリア。シンイチ」
「かしこまりました」
「おう」
という訳で、三人に連れられて格納庫へ移動中。
言わば、艦長と副長という艦内トップの二人に送らせている訳だ。
偉くなったなぁ、俺も。
「おい。マエヤマといったな」
「あ。はい」
隣を歩くシンイチさん。
うん。木連軍人らしい刈上げなんだけど・・・。
それが真面目という印象ではなく怖いという印象を与えている。
まるでヤーさんのようだ。
「次に戦場で合間見える時は俺が勝つ」
「・・・えっと」
ここは、俺も負けません、とか熱血路線でいけばいいのか?
それとも、冷静に、味方になろうとしているのに争うんですかと返せばいいのか?
・・・うん。違うな。俺達の目的が和平なら・・・。
「シンイチさん」
「何だ?」
「共に和平を築き、平和になった時、真剣勝負をしましょう」
「・・・へっ。言うじゃないか。いいな。その勝負、乗った」
手を差し出す。
さっきの喧嘩腰なんかじゃなくて、心からの握手だ。
「よろしく御願いします」
「こちらこそよろしく頼む」
今度はガッチリと握手をかわす。
共に同じ目的を達成する為の同志として。
「それでは、よろしく御願いします」
格納庫へ到着すると既にエステバリスが括り付けられていた。
仕事が速いですね。ケイゴさん。
「分かりました。なんとしてでも提督に話を付けてみせます」
それが和平に繋がるなら、俺だって労力は惜しまない。
軍内で活動する訳でもないから目立たないだろうし。
大事なのはトップ同士の話し合い。
俺はそれのお膳立てをするだけだしね。
「約束、守れよな」
「もちろんです。シンイチさん」
男臭い笑みを浮かべるシンイチさん。
なんか、どことなくガイみたいだった。
多分、ガイならすぐに木連人と馴染むだろうな。
共通の話題もあるし。
「それじゃあ、行きます」
始めの一歩。でも、大きな一歩。
今回、和平を目的とする神楽派と接触出来たのは幸運だったのかもしれない。
後は俺がどれだけ両者間を取り持つ事が出来るかに懸かってくる。
う・・・。責任重大じゃないか。
でも・・・頑張ろう。
まずは戦争を終わらせる。それが後々の平穏に繋がるのだから・・・。
軍から身を引いたくせにまた余計な事に手を出しちゃったコウキ君。
彼はこれからも苦労の日々なんでしょうね・・・。
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