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第三部 ~暗躍~
第三十五話




「ご苦労様だったね。マエヤマ君。これだけの情報があれば、状況を覆せるよ」
「そうですか。それは何よりです」

趣味の一環で集めたデータを提供。
俺に出来るだけの事をした。うん。
これ以上は無理。絶対に無理です。

「それで、答えは得たのかな?」
「ええ。決めました」

派閥の一員としてカイゼル派を盛り立てていくか。
あくまでナデシコの一員として、ナデシコを護る為に戦うか。

「俺はナデシコに護りたい人がいます。俺のやるべき事はナデシコを護る。ただそれだけです」
「そう。・・・分かった」

そう言って参謀は席を立つ。

「付いて来てくれるかな」
「ハッ!」

ムネタケ参謀の執務室を退室し、廊下を歩く。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

俺も参謀も無言だ。
きっと向かう先はミスマル提督の執務室。
俺には提督に言わなければならない事がある。

コンッコンッ。

「私だ」
「ヨシサダか。いいぞ」
「失礼するよ」
「失礼します」

参謀の後に続く。

「ん? マエヤマ君もかね」
「コウイチロウ。提案があるんだが」
「何だね? ・・・まぁ、何となく予想は付く。とりあえず座ってくれ」

執務室にある来客用のソファ。
そこに腰掛け、正面の提督を見詰める。

「さて、用件を聞こう」

聡明な提督の事だ。
聞くまでもなく理解している。
でも、言葉にしなければいけないと思う。

「提督。私はナデシコの一員です」
「うむ」
「今まで、私はテンカワさんと提督の目的に賛同し、協力してきました」
「・・・・・・」
「ですが、私はあくまでナデシコの一員です。
 現在、ナデシコは徴兵という形で軍隊入りしていますが、
 私の中でナデシコと軍は別物であると割り切っています」
「それは、現在の地位を捨てても構わないという事かね?」
「はい。むしろ、私には不要の階級であり、不要の名誉です。
 技術士官という立場も特務大尉という立場もお返し致します」
「・・・そうか」

俺がここにいるのはアキトさんが未来を変えたいと言ったから。
そして、その為に軍内部で権力が必要だったから。
その為に俺は軍に協力したまでだ。
俺とてあんな未来を変えたいとは思っている。
だが、既に未来は変わりつつあり、もはや俺個人の力だけでどうなる事ではない。
CASを開発し、教官としてパイロットを育て、武装の調整をした。
先程提出したハッキングデータは俺にとって最後の義理立てだ。
あれは勢力を逆転させるだけの証拠と成り得る。
最後だからこそ、このデータに関しては全力を尽くした。
俺がカイゼル派に出来る最高の贈り物だったと自負している。
これだけの事を俺はしてきたんだ。
既に俺に与えられた役目は充分に果たしていると思う。
それならば、俺は本来の役目に戻りたい。ナデシコを護るという本来の役目に。

「相分かった。君の意思を尊重しよう」
「ハッ。ありがとうございます」
「ハハハ。普通の軍人であれば降格されれば落ち込むというのに逆の反応。
 君にはやはり軍人は似合わないよ」
「最高の褒め言葉です。参謀」
「そうかね」

執務室に笑い声が木霊する。
提督も参謀も、そして、俺も笑っていた。
本当に上司らしくない気の良い人達だと思う。
軍人に似合わない? それは要するに一般人だと言われているようなもの。
俺はあくまで一般人だ。
そう言われるのはむしろ嬉しい。

「そうなると一つだけ問題がある」
「・・・キリシマの事ですね」
「ああ。現在のナデシコは私の管轄外。キリシマ君を、火星人をナデシコに戻す事は出来ない」

カエデはナデシコにいられない。だから、こちらで保護してもらった。
ナデシコの立場も状況も変わっていない以上、カエデをナデシコに搭乗させる事は出来ない。

「では、管轄外でなくせば良いのです」
「それはナデシコの利権を私側が得ればいいという事かな?」
「ええ。その通りです」
「しかし、キリシマ君の為にそこまでの事は―――」
「いえ。キリシマだけの為に言っているのではありません。他にも理由はあります」
「他の理由かね?」
「はい。テンカワさんが乗っているという点もありますが、
 何よりナデシコはこれから重要な役目を担ってくれるからです」
「重要な役目? それは何故かね?」
「戦力的な点もありますが、彼らが一度木連に接触しているという点が一番大きい」
「・・・なるほど。ナデシコがもしかしたら橋渡しの役目を担ってくれるかもしれないという訳だね」
「はい。ナデシコのクルーの事です。
 木連側と接触し、木連の生い立ちを聞けば、必ず和平を申し出るでしょう」

原作ではそうだった。そして、今回も必ずそうなると確信している。
俺が画面越しではなく実際に知り合ったナデシコクルーだ。
彼らがどうするかなんて原作を見ていた時以上に理解している。

「彼らが和平を申し出た時、管轄内にあれば、
 後押しも出来るし、行動を規制する事も出来ると思うんです」
「後押しは分かるが、規制とは?」
「たとえば、和平交渉を勝手にやられたり、和平交渉に必要な物品を勝手に向こう側に渡したり。
 などなど、そのような事を防ぐ為です。万が一にも備えられますし」
「・・・ふむ。しないとは思うが、確かにその危険性もなくはないな」

・・・いえ。娘さんは前者をしましたし、後者も似たような事をしました。不本意だと思いますが・・・。

「どちらにしろ、ナデシコはこれから大事な役目を担ってくれる頼もしい艦です。
 違う管轄で味方にするよりはきちんとした形で指揮下に置いた方がやりやすいかと」
「・・・そうだな。理解した。だが、その方法が―――」
「参謀。貴方なら、出来ますよね?」
「ハハハ。それを君が言うのかい?」

苦笑する参謀。
だってね、その為のデータだし。

「どういう意味だね?」
「彼が仕入れてくれた情報の中に極東方面軍司令官のスキャンダルが載っているのだよ」
「そ、それでは・・・」
「ああ。司令官を失脚させた上でコウイチロウを極東方面軍の最高責任者に出来る」

参謀ならそういう事だって実現してくれる筈。
それだけの能力が参謀にはある。伊達に参謀ではないのだ。
・・・なんか偉そうだな。俺。

「ナデシコが極東方面軍に配属されている以上、
 最高責任者になったミスマル提督なら配属を自由に出来る権限があります」
「そうか。だが、あくまでナデシコは独立部隊とする。
 そうでなければ力を発揮しないだろうからな」
「そうですね。それならば、提督の直属部隊としてしまえばよろしいかと」
「ふむ。そうしよう」

ナデシコは独立部隊でないと力を発揮しない。
それが真理であり、独立部隊としている事は意地悪でもなんでもないのだ。
ナデシコの性能。DFという盾にGBや相転移砲という矛。
それらを活かすには単独行動の方が遥かに効率がいい。

「しかし、いきなりは不可能だぞ」
「承知しています。そのあたりはキリシマを説得しますから」
「うむ。了解した。ナデシコが地上に戻り次第、君の身柄はナデシコに戻そう」
「ハッ。ありがとうございます」
「なに。君は私達の期待以上の功績を残してくれた。感謝こそすれ感謝される筋合いはないよ」
「いえ。キリシマの件など、私にも感謝する理由があります」
「そうか。君の功績に昇進という褒美が出せない以上、
 君に頼まれたキリシマ君は必ず私達で護ろう」
「御願いします。提督」
「ふむ。次は司令と呼ばれる立場にいたいものだ」

貴方なら必ず司令として責務を全うしてくれると信じています。

「カグラ君には君の副官から外れてもらう事になるな」
「カグラはその後、どうなるのですか?」

ケイゴさんにはお世話になった。
異動になる前にきちんと話しておきたい。

「ちょうど良い機会だろう。彼には小隊を任せる」
「カグラ小隊ですか?」
「ああ。極東方面軍の要となってもらうと以前言ったな。それを実行するまでだ」
「カグラは要になれるだけの能力があります。それは私が保証しましょう」
「教官からのお墨付きをもらえれば安心だな。彼の下には同じ訓練生をあてがおう」
「私が教官として教えられる事は全て教えました。彼らなら期待に応えてくれる筈です」

ケイゴさんを筆頭に、皆、筋の良いパイロットだ。
俺の代わりにナデシコにいっても充分活躍できる。
それだけのパイロットに育て上げた自信がある。

「そうか。君には本当に世話になったな。
 今の我々が一つの派閥として活動できるのは君のお陰だ」
「いえ。そんな」
「謙遜なんぞしなくてもいい。CASがなければ我々は木連に対抗できなかった。
 君が教官として鍛えてくれなければパイロットは戦力にならなかった」
「そんな事はありません。彼らが成長したのは彼ら自身の力です」

教えたのは俺。でも、応えてくれたのは彼らだ。
俺はちゃんと知っている。彼らが仕事として与えられた時間外も訓練に勤しんでいた事を。
俺が育て上げたんだという思いはある。
だが、彼らの力は彼らの物で、俺は少し後押ししただけだ。
教育なんてやる気を促すだけだと俺は考えている。努力したのは彼ら自身だ。

「そうか。だが、それだけではない。
 こうして我々の派閥にとって何よりも必要としていたデータまで集めてくれた」
「君の情報がなければ私も何も出来なかったと思う。私からも感謝させて欲しい」
「派閥があるのも君の尽力のお陰かもしれんな」

・・・いや。それは言い過ぎだと思うんですけど。

「感謝しよう。マエヤマ君」
「感謝する。マエヤマ君」

えぇっと、将来の連合宇宙軍総司令官とその参謀に頭を下げられてしまいました。
どうしましょう? というより、恐れ多い。

「えっと、頭を上げてください。提督。参謀」

うん。とりあえず、心苦しいので。

「私に出来るだけの事はしました。同じ目的を持つ同士、私が協力しないのもおかしな話かと」
「しかし・・・」
「でも、それ程に私に恩を感じていただけるのなら・・・」

正面から二人を見詰め、ハッキリと告げる。

「なんとしても目的を果たしてください。
 私やテンカワさん、そして、提督達が掲げる嘘偽りのない最善の和平を」

それだけが軍に対する俺からの望みです。
報酬はいりません。だから、なんとしてもこれだけは果たして欲しい。

「了解した。ミスマル・コウイチロウの名に誓って、私は責務を全うしよう」
「ムネタケ・ヨシサダ。全力で責務を全うすると誓う」

それで、俺は満足です。提督。参謀。

「ありがとうございます。とても心強いです」
「ありがとう。マエヤマ君。君の協力は忘れないよ」
「機会あれば、君とは飲み交わしたいものだね」
「そうですね。生意気な若造ですが、提督や参謀と一人の男として飲んでみたいです」
「ほぉ。一人の男としてか。楽しい時間になりそうだ」

笑顔の二人。
きっと、彼らなら、俺達の理想を実現してくれる。
そう信じられる頼もしさを俺は彼らに感じた。





「・・・え。それって・・・」
「教官。それは真ですか?」
「はい。本当の話です」

提督の執務室から退室後、俺は副官の二人を呼び出した。
これからの事をきちんと話す為だ。嘘偽りなく。

「ちょっと待って。コウキ。貴方は私を置いてくの?」
「・・・すまない」

カエデを置いていく事になる。
それが一番の心残りだ。

「い、嫌よ。ここに残されるなんて」
「少しだけ待っていてくれ。時間が解決してくれる」
「な、なら、貴方も残ってよ。私が帰れるようになってからでもいいじゃない」

・・・そう。確かにそうなんだ。
カエデが帰れるようになってからでも遅くはない。
でも・・・。

「すまない・・・」

・・・一刻も早く帰りたいんだ。
立場も名誉もいらない。あそこには待っていてくれる人がいるから。
ナデシコが俺の家だから。

「い、いいわよ! もう知らない!」
「カ、カエデ!」

走り去っていくカエデを追う事が出来ない。
俺があいつを置いていくのは事実だから・・・。

「・・・教官」
「すいません。ケイゴさん。カエデの事、御願いできますか」
「それは構いませんが、良いんですか?」
「・・・元々、ここでの任期が終わったらカエデはここで保護してもらい、
 俺はナデシコに帰るつもりでした」
「それはカエデにはもう話してあったのですか?」
「一応は。俺はナデシコでの仕事があり、
 あいつがナデシコに帰れない以上、そうなるだろうって」
「・・・そうですか。分かりました。私がここにいる限り、カエデの事は私が護ります」
「御願いします」

頭を下げる。
二人とも俺のエゴに巻き込んだのだ。
本当に申し訳ない。

「問題ありません。私も彼女の支えになりたいですから」
「え、あ、はい」

頭を上げる。
ケイゴさんは頼もしい笑みを浮かべていた。
本当に俺には過ぎた副官だったな。

「カグラ小隊・・・でしたか?」
「はい。今一緒に訓練を受けている訓練生と共に小隊を組んでもらう事になると」
「彼らですか。彼らなら安心して背中を任せられますね」

共に訓練を受けたからこそ、ケイゴさんが一番彼らの能力を把握している。
多分、俺以上に把握し、信頼を寄せてるんじゃないかな?

「教官、いえ、コウキさん」

えぇっと、突然何だろう?

「今までありがとうございました」

そう言って頭を下げるケイゴさん。
本当に律儀な人だと思う。
俺がケイゴさんに与えられ物なんて殆どない。
むしろ、俺がもらってばっかりだった。

「こちらこそ、今までありがとうございました」

共に頭を下げあう。
そのどこかおかしい光景に俺達は苦笑しあうのだった。
カエデの事、よろしく御願いしますね。ケイゴさん。





「お世話になりました」

ナデシコへ帰艦する事を決めてから数日が経った。
その間にカグラ小隊は何度か出撃し、功績を残している。
うん。安心した。彼らなら出来るって分かってたけどね。
カエデとは・・・話してない。
気まずいというよりは避けられているといった感じ。
分かってる。これは俺の自分勝手さがいけなかったんだから。
護ると言っておいて、途中で他人任せにして置いていく。
酷い奴だと自分でも思う。いつかはこうなったっていうのは・・・言い訳だよな。
・・・はぁ。本当にごめんとしか言いようがない。

「おぉ。大尉。いなくなっちまうんだってな」

そして、今は基地内の挨拶回り。
退任する事を報告して、今までありがとうございましたと頭を下げる。

「またいずれ機会があったら飲みたいですね」
「おお。いいぜ。今度は家に呼んでやるよ」
「いいんですか? パパさんの面目を奪っちゃいますよ」
「て、てめぇ、俺の娘に手を出そうってのか?」
「さぁ? もしかしたら、パパさん以上に懐かれてしまうかも・・・」
「駄目だ! お前、出入り禁止! 面会禁止! 日本訪問禁止!」

日本かよ!? 範囲広過ぎだろ!

「と、まぁ、冗談は置いといて」
「あ。冗談なんですか。それなら、娘さんは―――」
「ゴラァ!」
「じょ、冗談ですよ」

すぐ本気にするんだから。この人は。

「それより、どうです? 新フレームは」
「おぉ。秘密で開発中でな。着々と進行中だぞ」
「流石。それでこそです」
「ハッハッハ。まぁな。フレームから武装も派生できっかんな。そっちに回してやれるかもしんねぇ」
「マジですか。なら、ロケットパンチの方を回してください。そういうが好きな奴がいるんで」
「おぉ。お前の所にも話が分かる奴がいるんだな」

ガイのつもりでいったが、良く考えたら整備班全員が興奮しそう。
あれだね。おっちゃんとウリバタケさんを一緒にしたら歯止めが利かないね。
暴走し尽くす。絶対。ま、その分、驚異的な開発をするとは思うけど。

「分かった。分かった。うまくいったら回してやるよ。一つ二つだけどな」
「構いませんよ。ロケットパンチを好んで使いそうなの一人二人ぐらいなんで」

多分、ガイだけだと思うけど・・・一応ね。

「大尉。お前さんには世話になったな」
「いえいえ。俺の方が世話になりました」
「あっち行っても頑張れよ。お前ならできっから」
「何がです?」

ニヤリと笑ってみる。

「何でもだよ。お前はもっと本気出せ。手抜きし過ぎだ」
「えぇっと、いつでも本気出してますよ」

もちろん、本気ですとも。

「ま、意地っ張りなのも大尉らしいけどな。ハッハッハ」

俺らしいって何だろう?

「んじゃあな。また飲める日を楽しみにしてんぞ」
「はい。そちらもお気をつけて」
「へっ。若い奴に心配される程、歳とってねぇよ」

手をあげて去っていくおっちゃん。
うん。本当に俺の周りにいる人は良い人ばっかりだ。
清々しい気持ちにさせてくれる。

「おばちゃん。今までありがと」
「おぉ。コウキ君の食べっぷりはこっちも気持ちが良かったよ」

次は食堂。いつもお世話になってたおばちゃんに声をかける。
キッチンの奥には・・・カエデの姿もあった。

「あのさ、おばちゃん、カエデの事、頼むね」
「何を気まずそうに。何? 喧嘩でもしてんのかい?」
「ま、まぁ、そんな所。ほら、俺いなくなっちゃうからさ。お願いしたいんだよ」
「分かってるって。コウキ君がいない分はおばちゃんが補ってあげるから」

おばちゃんが補う・・・。あ、そう。

「あいつ、最近、どんな感じ?」
「ちょっと上の空って感じだね。悩み多き年頃だから仕方ないんだろうけど」
「おばちゃんだってまだまだ若いって」
「お世辞言うならまずはお姉さんって呼ぶ事から始めなさいな」
「ご尤もなご意見で」

お姉さんって呼ぶにはちょっとね。

「最近は良くカグラ君が来て元気付けてくれるから、それなりに大丈夫」
「えぇっと、ケイゴさんが?」
「そうそう。コウキ君。取られちゃうよ?」
「いや。だから、別にあいつとはなんにもないってば」
「ま、意地っ張りだねぇ。相変わらず」

相変わらずって。おっちゃんと同じ意見ですか?
俺ってそんなに意地っ張りかな?

「ケイゴさんと良い関係なの?」
「どうだろう? ま、これからが楽しみって所だね」
「・・・そう」

ミナトさんも言ってたな。
心の支えになってくれる人が現れてくれたらいいなって。
ケイゴさんがそうなってくれたら安心できるんだけどなぁ。
あの人ほどに好青年という言葉が似合う人はいないと思うし。

「ん? ショックかい?」
「だから、何にもないって。俺はカエデとケイゴさんがくっつくなら応援する」
「そう。ま、おばちゃんとしてはカエデちゃんが幸せになってくれればいいんだけどね」
「そのあたりは二人にお任せって感じ」
「そこをサーっと奪っていこうって魂胆ね?」
「おばちゃんは俺に何を期待してるのさ」
「そりゃあ、ねぇ」

ねぇ、じゃないっての。

「あいつ、意地っ張りだけど、優しい奴だから、本当に御願い」
「分かってるって。カエデちゃんの良さは私達全員が認めてるよ」

そっか。キッチンの皆がカエデを認めてくれているのなら、大丈夫か。

「うん。おばちゃんになら安心して任せられる」

本当に。お母さんみたいな暖かさがあるし。

「そうかい。そんじゃ、コウキ君の期待に応えるとしよう」

そう言ってニッコリと笑うおばちゃん。
うん。本当に頼もしい。

「んじゃ、続き行ってくるわ」
「終わったらまたこっちにおいで。ご馳走してあげるから」
「お。遂におばちゃんの本気が食えるの?」
「いつでも本気だってば」

食堂への挨拶を終え、その後は残りの部署を色々と回った。
教官として指導した訓練生達。
何度もお世話になりました医務室の方々。
ほら、ケイゴさん、容赦ないから。
事務の人や清掃業の人とか、俺がお世話になった人はたくさんいる。
今までありがとうございました。僕はここから巣立って行きます。
そうやってきちんと挨拶した。感謝の気持ちを込めて。
・・・あ。台詞はなんとなくだよ。卒業式的イメージ。

「本当にお世話になりました」

最後に演習場から基地に向けてお辞儀。
こうして、俺の挨拶回りは終わった。





「お父様ぁ~」
「ユ~リ~カ~」

えぇっと、感動のご対面という事でしょうか?
わざわざ僕の迎えの為にナデシコがこの基地までやってきた。
まぁ、補給という面も大きいと思うが・・・。というか、むしろ、俺がついでかな。
責任者同士の対面という訳で、
ナデシコからはムネタケ提督とユリカ嬢が、
基地からはミスマル提督とムネタケ参謀がそれぞれ代表として前に出た。
これって、あれだよね、どっちも親子関係だよね。

「サダアキ。その顔は何かあったようだね」
「ええ。お父様。私は生まれ変わったのよ」

な、何があったんだ? ア、アキトさん。

「久しぶりだな。コウキ」
「こ、こちらこそ、お久しぶりです。それよりキノコ提督に何があったんですか?」
「ああ。何でも昔を思い出したらしい」

昔を思い出した? それってあの首席時代って事?

「理想と現実の違いに絶望したキノコはもういない。
 今のあいつは理想を求め足掻き続けるキノコだ」

・・・真面目な口調でキノコ提督の事、舐めてませんか? アキトさん。

「何かきっかけが?」
「ふっ。前回はガイがいなかっただろ?」
「ええ。ガイを殺したのがキノコさんでしたから」
「ああ。そうだったな。だが、そのガイがキノコの考えを変えたんだ」
「ガイが?」
「前回同様、錯乱したキノコはエックスエステバリスに乗り込んで、コスモスに攻め込んだ」
「やはり錯乱したんですか」
「責任を押し付けられたからな。仕方あるまい」

ナデシコクルーに木連の事を知られてしまった。
その責任を取って、降格させられてしまう。
その恐怖がムネタケ提督を錯乱させたんだっけっか?

「それに誰よりも早くガイが気付いてな。GBをチャージするムネタケを体当たりで吹き飛ばした」
「ガ、ガイ。危険な事を・・・」
「そうだな。だが、そのお陰で自爆されずに済んだんだ。そして、ガイがキノコを説得した」
「ガイが説得? どんな感じでですか?」
「理想に挫けるのは当たり前なんだよ。すんなり叶っちまったら何の面白味もねぇだろ。
 いいじゃねぇか、挫けたら立ち上がれよ。何度だって立ち上がれよ」
「・・・何だろう?」

アキトさんが言うと凄い違和感。

「その果てに叶うからこそ理想って言うんだろうが。数回の挫折で諦めてんじゃねぇ!」

でも、すごくガイらしいと思う。
言葉の節々にあいつの想いが込められてる。

「錯乱してたのが幸いしたんだろうな。真摯にガイの言葉が伝わった。
 いつもだったら、憤慨してただろうが、今回は冷静に受け入れられたようだったな」
「・・・そうですか。凄いですね。アキトさん」
「ん? 何がだ?」
「ガイを救う事が出来た。その結果、キノコ提督まで救う事が出来た。
 なんか改めて意味があったんだなって実感します」
「・・・そうだな。迷いながらも歩んできた道に間違いはなかった。そう思えるな」

そう言って笑い合う俺とアキトさん。
こうして救えた事に意味を持てるのなら、俺達のしてきた事に意味はある。
それが胸を暖かくさせた。

「コウキ君!」
「うぉ」

ダッと突然の背中への衝撃。
ん? この柔らかい感触は・・・。

「コウキ君!」
「ミナトさん!」

後ろを振り向けば、そこには最愛の人の姿があった。

「それじゃあな」

苦笑しながら去っていくアキトさん。
すいません。なんだか申し訳ないです。

「お久しぶりです。ミナトさん」
「久しぶりね。コウキ君」

ナデシコを離れてからかなりの月日が経つ。
久しぶりに会うミナトさんはやっぱり素敵だった。

「ほら。セレセレ」
「ん?」
「・・・お久しぶりです。コウキさん」

いそいそと現れたのはセレス嬢。
おぉ。なんだかちょっと背が伸びた気がする。

「久しぶりだね。セレスちゃん」
「・・・はい」
「元気だった?」
「・・・寂しかったです」
「え?」
「・・・コウキさんがいなくて寂しかったです」

・・・そっか。寂しい思いをさせてたのか。

「ごめんね。寂しい思いさせて」
「・・・いえ。仕方ありませんから」
「そっか。でも、もうこれからはずっと一緒だから」
「・・・はい」

久しぶりのセレス嬢の笑顔。
花が咲くような可憐な笑みで、本当に癒される。

「滞在期間はどれくらいでしたっけ?」
「えっと、あと数時間で補給を完了させるって言ってたわね」
「・・・そうですか。あの、ミナトさん、御願いしてもいいですか?」
「何かしら?」
「あの、ですね・・・」

ミナトさんに御願いしよう。あいつの事を。





SIDE MINATO

「あの、ですね・・・」

御願いって何かしら?

「俺がナデシコに戻るという事は聞いてますよね」
「ええ。だから、戻ってきたんじゃない」

何を今更って話よね。

「でも、そうなると、カエデはここに残していかなくちゃいけないんですよ」
「・・・そうだったわね」

ナデシコが火星人の受け入れを禁止されている以上、カエデちゃんはナデシコには戻れない。

「説得を試みたんですが、怒らせちゃって・・・」

・・・はぁ。コウキ君。そういう事を私に頼むのはどうかと思うわよ。
信頼されてるって思えば嬉しいけどさ。それって恋人に頼むような事じゃないわ。

「分かったわ。私が少し話してみる」
「すいません。御願いします」

コウキ君は本当にカエデちゃんを大切に思ってる。
もちろん、きっとそれは友達としてなんだろうけど。
ちょっと妬けちゃうかな。私をもっと見てって思うのはおかしいのかしら?

「それじゃあ、案内し―――」
「おぉい! マエヤマ! ちょっとこっち来い!」

えっと、ウリバタケさん?
あんな遠い所から拡声器まで使って。

「何でですかぁ!?」
「補給やら何やらでお前の意見を聞きたいんだよ! いいから。早く来い!」
「えぇっと、すいません。ミナトさん」

・・・はぁ。コウキ君の馬鹿。

「あ。ちょっといいかな」
「はい。何でしょう? 大尉」

近くにいる誰とも知らない女性に声をかけるコウキ君。
えっと、多分、軍人の人。

「申し訳ないんだけど、食堂まで案内してもらってもいいかな?」
「この方をですか? 構いませんよ」
「ごめんね」
「いえ」
「ミナトさん。すいません」
「分かったから、行ってらっしゃい」

コウキ君は頭を下げた後、パーッと行っちゃった。
ちゃっかり、セレセレの手を繋いでいるのがなんとなくコウキ君らしいって思う。

「それでは、こちらに」
「あ。はい。御願いします」

女性兵士に導かれた食堂へ向かう。
今回もコックをやってるのね。カエデちゃんは。

「あの、食堂へは何故?」
「カエデって子、分かります?」
「あぁ。コックさんですね。分かりますよ」
「あの子にちょっと用があるんです」
「そうですか」

カエデちゃんになんて話せばいいのかしら。


それからしばらく歩いて、多分、食堂に着いた。

「帰りもご案内致しましょうか?」
「いえ。大丈夫です。覚えてますから」
「そうですか。分かりました。それでは、失礼します」

ありがとうございますと一礼。
さてっと、カエデちゃんは・・・。

「あ。いたいた」

食堂の椅子に座って、深刻そうな顔をしている。
近寄って、話しかけようかなと思ったんだけど・・・。

「カエデ」

カエデちゃんの前に誰かが座って話しかけた。

「何だろう?」

会話が聞こえる位置まで行って、静かに椅子に座る。

「いいんですか? 見送りに行かなくて」
「あんな奴、知らない」

きっとコウキ君の事ね。

「そんな事を言っては駄目ですよ。コウキさんはカエデの為にあんなに頑張ってくれたのに」
「でも、私一人をここに残していくのよ。あいつは私を助けてくれるって言ってたのに」
「しかし、コウキさんはナデシコでやる事があると言っていました
 。こうなる可能性があるという話もしていたそうじゃないですか」
「そんな事は分かってるわ。でも、私はまた一人ぼっちじゃない」

・・・そっか。カエデちゃんにとってコウキ君は火星壊滅後で初めての友達。
コウキ君がいないという事が一人ぼっちに繋がっちゃうのか。
でも、それは違うわよ。カエデちゃん。もっと周りを見なさい。

「カエデ。貴方は一人じゃない。この基地には私だっている」
「ケイゴ。貴方、何言ってるの?」
「もちろん、私だけじゃありません。
 キッチンで一緒に働いている方々だって貴方にはいるでしょ?」
「・・・あ」
「笑顔でコウキさんを見送ってあげましょう。
 それがきっとカエデが今、一番しなければならない事だと思いますよ」

・・・どうやら私の役目なんてなかったみたい。
まだ納得してないみたいだけど、彼ならカエデちゃんを説得してくれるわね。
ふふっ。私はもう用なし。ナデシコに帰りましょう。
コウキ君。カエデちゃんを支えてくれる人が現れたかもしれないわよ。

SIDE OUT





「ご苦労様だったな。マエヤマ君」
「いえ。ありがとうございました。提督」

ナデシコへの補給も終えて、遂にナデシコ発進の時が来た。
この時より、俺は特務大尉の肩書きを捨て、ただの一クルーとしてナデシコに乗り込む事になる。

「敬礼!」

ビシッ!

ケイゴさんの声を合図に見送りに来てくれてた訓練生やパイロット達が敬礼をしてくれる。
皆、俺の教え子か、パイロットとして訓練に混じった友達。
彼らと別れるのは寂しいけど、俺の居場所はナデシコだから。

ビシッ!

敬礼を返す。感謝の気持ちと楽しかったという気持ちを込めて。

『ほぇ~。カッコイイ』
『なんだか別人みたいね。コウキ君』
『・・・コウキさん。カッコイイです』

えぇっと、一応、感動の別れなので、その覗き見とかはしないで欲しいんですが・・・。
というか、聞こえてますから。はい。

「それでは、失礼します!」

基地のデッキからナデシコへ向かう。
感慨深いな。ここには結構お世話になったし。
でも、ちょっと、心残りがある。
あれから、結局、カエデと話す事が出来なかった。
やっぱり、まだ―――。

「コウキ!」
「ッ!?」

その声にパッと振り向く。
そこには疎遠気味だったカエデが一生懸命こちらに手を振っていた。

「貴方なんかいなくたって私は全然大丈夫だから!」
「カエデ!」
「貴方は私の心配なんてしないで自分の仕事をしっかりと果たしなさい!」
「ああ! 分かってる! お前もな!」
「分かってるわよ!」
「俺がいないからって寂しがるなよ!」
「そっちこそ私がいないからって寂しがらないでよ!」
「それはない!」
「はぁ!? 少しは寂しがりなさいよ!」

・・・安心した。
いつものカエデだ。

「待ってるぞ! カエデ!」
「ええ! 待ってなさい! コウキ!」

・・・ありがとう。ミナトさん。
そう感謝の念を抱きながら、俺はカエデに手を振り返した。

「じゃあな!」
「ええ! また会いましょう!」

そう言って笑うカエデ。
その笑みが今までに見た事ない程に魅力的で不覚にもドキっとしてしまった。
その事を誤魔化したくて、俺はパッと背を向けてナデシコへと歩き出す。
・・・頑張れよ。カエデ。俺も頑張るから。
こうして、俺は無事ナデシコに帰艦した。
連合軍の士官としてではなく、ナデシコにいる普通のクルーとして。




第三部、連合軍暗躍編、完。
見返してみて、何処が暗躍? と思った自分がいます。
出来れば突っ込まない方向で・・・。ええ。本当に。

もっと僕に感想のエナジーを!
大事な成分です。御願いします。


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