読者の皆さんからの意見を参考に武器を開発しました。
ありがとうございました。これからもどうぞご意見を。
次はクルスク工業地帯のナナフシ。
マイクロブラックホールキャノン。
ナデシコを撃沈させるだけの威力を持つ強力な武器。
DFすら容易に突破した威力は注意するべきだ。
あれを回避するのは不可能に近いしな。
ま、それは後で考えるとして、色々と動いてみようと思う。
「ウリバタケさん」
「おう。マエヤマ。どうした?」
「DFがある敵専用の武器とか考えてくれませんか?」
「ふっふっふ。良くぞ聞いてくれた。一応だが、構想はあるぞ」
フィールドランサーだな、きっと。
「どんな奴です?」
「槍の先端にDFを中和する装置をつける訳だ。
槍の先端って事は一点集中し、なおかつ、全重量をそこに込められる」
「なるほど。それなら、DFを容易に突破できる訳ですね」
「ああ。見た所、敵の戦艦の装甲は薄いからな。DFさえ突破できれば余裕だろう」
ジンシリーズの対策にもなるから素晴らしい武器だ。
これはDF対DFでは必須のアイテムだな。
「ま、形状や性能的にチームを組んで対応する事になるだろうな。
突破した瞬間を狙われると隙だらけだから」
チームを組む・・・か。
単機じゃフィールドランサーを活かしきれないのかな?
一機で一つの戦艦を攻略できた方が効率もいいし、無駄なエネルギーを消費しなくて済む。
・・・要するにフィールドランサーで突破すると同時に攻撃できればいい訳だ。
右手にフィールドランサーを持って、左手にラピッドライフルを持って突撃するか?
でも、そうするとフィールドランサーを両手で持てないから威力が弱まっちまうな。
どうすれば、いいんだろう?
「名前はフィールドランサー。ふっふっふ。素晴らしい考案だろう」
「流石はウリバタケさんですね。DFを無効化できればこちらが断然有利です」
「だろ、だろ。あ。マエヤマには開発の途中で協力してもらうかもしれん」
「全然問題ないですよ。任せてください」
「流石は天才プログラマーだな。俺はいつもプログラミングで苦労するんだよ」
「いえいえ。プログラミングなんてパズルみたいなもんですよ。
決まった形を組み合わせるだけ―――」
・・・組み合わせる?
「どうかしたのか? マエヤマ」
決められた二つの事柄を組み合わせる事で一つの事柄としてしまう。
別の物と別の物とを組み合わせて一つの物体としてしまう。
銃と槍とそれぞれの機能が欲しいのなら、一つでどちらの機能も賄ってしまえばいい。
「マエヤマ。どうかした―――」
「そうか! その手があったんだ!」
「うぉ!? な、何だ? いきなり」
「ウリバタケさん。もし、フィールドランサーでDFを突破したと同時に攻撃できたらどう思います?」
「そりゃあ理想だがな。そう簡単にはいかんだろうが。
両手にそれぞれ武器を持っちまったら威力は半減だしな」
「違うんですよ。ウリバタケさん。一つの武器で二つの機能を満たしてしまえばいいんです?」
「あん? 近距離と遠距離を同時にこなすってか?
何だ? 蛇腹剣でも作れってのか? ありゃあ夢だが現実には無理だぞ」
「もっと簡単なのがあるじゃないですか!
技術の進歩で廃れてしまいましたが、日本の戦争時代では標準装備だった奴が」
「日本の戦争時代だと? お前、若いのによくそんな事知ってんな」
「え? だって、戦争の事は色々と・・・」
「んな昔の事は誰も知らないんじゃねぇのか?
地球連合が発足して戦争なんて起きなくなったしな」
そうか。地球連合の存在があったのか。
俺の時代は下手したら祖父ぐらいでも戦争を体験してた時代だもんな。
俺なんかは割と身近な事で話とかも聞けたけど、この世界じゃずっと遠い昔の話なんだ。
この時代じゃ三百年近く昔の事だし、興味ないのは当たり前か。
しかも、地球連合の存在が戦争を抑止してたから、戦争なんて一般人には縁の遠い話。
誰も戦争の事なんか考えないよな。道理で一般人が木星蜥蜴に対して気楽な訳だ。
今の軍なんて反乱やら何やらの抑止力でしかないし。軍活動なんてやってなかったんだろ。
ま、そのツケが木星蜥蜴が来て何にも出来ないっていう現状なんだろうけど。
「銃剣って知りません?」
「おぉ。あれだろ。銃の先端に刃をつける奴。すっげぇ昔の事、知ってんだな」
「ま、まぁ、何で知ってるかはいいじゃないですか。
銃剣は近距離も遠距離も対応できる特別な仕様になっているんです」
「ほぉ。すると、お前はフィールドランサーにライフルとしての付加価値をつけようってんだな」
「ええ。命名、フィールドガンランス。どうです? いけそうですか?」
「・・・フィールドガンランス。おめぇ、やるじゃねぇか。その案はすげぇぞ」
「おし。どうです? 作ってみませんか?」
「おっしゃ。任せとけ。作ってやるよ」
「俺も協力しますよ。言いだしっぺですし」
「ふっふっふ。こんなこともあろうかと、と言える日がやってくるな」
「ええ。技術職なら一度は言ってみたい台詞ですね」
「おぉ! 分かってんじゃねぇか! おめぇ、ナデシコ終わったら俺ん所、来るか?
おめぇがいればプログラミングも任せられて助かるしな」
「ハハハ。考えておきますよ。いつ頃出来そうですか?」
「試験的に軽く作るだけならすぐにでも出来んぞ。本格採用は割りと先になりそうだが」
「そうですか。それじゃあ、何かあったら呼んでください。力になりますから」
「おう! いや、良いアイデアをもらうと気分がいいな。いつでもきやがれ!」
「はい。それでは・・・」
フィールドガンランス。
ナデシコの新しい力になりそうだ。
これは楽しみだな。
おし。次は・・・。
「コウキ」
「あ。何っすか? アキトさん」
「微妙に口調が変わってるな」
「うす。後輩風っす」
「ま、まぁ、いい。ちょっと相談があってな」
アキトさんが相談?
何だろ?
「俺がミスマル提督と接触したのは知っているよな?」
「ええ。皆で考えた計画ですからね」
フクベ提督とミスマル提督の両名をリーダーとした新しい派閥。
二人には木連の事、遺跡の事など、この戦争に関する事を説明してある。
ま、それとなく気付かせるようにで、完全な説明をしている訳ではないが。
あまりにも詳しすぎると逆に怪しまれる可能性が高いしね。
「フクベ提督とミスマル提督の協力を得られた。彼らを核に勢力は広まっていくと思う」
「軍内部での新しい派閥ですか。さしずめカイゼル派ですか?」
「い、いや、意味が分からんだろ。トップの特徴を伝えても掲げる意図が掴めん」
「冗談です。協力を得られた事は分かりましたが、何故そこで俺が出てくるのかが分かりません」
「ああ。徐々に勢力は強まってるが、如何せん発言力が低い。
影響力、求心力は高くとも軍内での身分はそれ程高くないのでな」
「確かにそうですね。フクベ提督は既に退役してますし、
ミスマル提督も数ある提督の中の一人ですから」
「そうだ。そこで、彼らの発言力を高めたいんだ。カイゼル派の発言力をな」
「カイゼル派でいいのかよ!? ・・・えっと、発言力を高める為にはどうすれば?」
「意外とカイゼル派でも良い気がしてきた。
・・・そうだな。木星蜥蜴を倒したという事で評価を得たい」
「要するに、現状で成す術がない彼らに対する術を授けてくれと」
「ああ。そうなるな」
「何故に俺なのか、って感じです。俺には何も出来ませんよ」
「武器や機体を開発しろって言ってる訳ではない。
IFSがなくても戦えるようにしてくれないかという事だ」
IFS?
あぁ。未だに嫌がってるんだっけ。
地球人は危機感が足りないねぇ。
「あれですか?IFSに代わる操作システムというと・・・。
あの統合軍が標準配備してたステルンクーゲルのEasy Operation Systemみたいのですか?」
「そうだな。もちろん、コウキならより高度なものを用意してくれるんだろう?」
何? そのニヤッとした笑みは。
お前なら当然だよな的な黒い笑みだね。
急な技術進歩はまずいんだけどなぁ。
「ま、ご期待に沿えれば」
「ほぉ。楽しみにしてよう」
いえいえ。楽しみにしないでください。
「あ。それとも、トレースシステムがいいですか?」
「何だ? そのトレースシステムというのは」
「簡単に言えば、身体の至る所にセンサやらを付けて、
身体を動かした通りにエステバリスを動かすというものです」
「ほぉ。面白いな」
「ですが、中の人間が超人じゃなっきゃ無理ですね。
たとえば生身の身体と腰布だけでエステバリスを破壊するぐらいには」
「何だ? その空想上の人物は」
「いえ。まぁ、気にしないで下さい」
貴方も一応空想上の人物なんですけどね・・・。
「とりあえず、EOSのようなIFSを必要としないソフトを組んでおいて貰えるか?」
「組むのは構いませんが、どこ製の機体に搭載するつもりですか?」
「む。そこまで考えてなかったな」
「生産ラインを整えなければなりませんからね。いっそ技術士官でも派遣してもらいます?」
「軍自体が生産するという事か?」
「ええ。でも、それだけの資金があるかが問題ですけどね」
「・・・そうか。その辺りは提督と相談してみるから、
とりあえずコウキはソフトを開発しておいてくれないか」
「分かりました。あれですよね?
シューティングアクションゲームみたいな感じでいいんですよね?」
「ん? どういう事だ?」
「幾つもの動作をルーチン化して、コンボとかで動作を変えるようにしたり、
決められた動作を瞬時に出せるようにしたりとか」
「ま、まぁ、その辺りは任せる」
「それでは、アキトさんの機動データを参考にしたりして、
パターンを幾つか作ろうと思いますが、構いませんか?」
「構わないが、俺は癖が強いぞ?」
「それじゃあ、誰がいいですかね?」
「そうだな。癖がないといえばアカツキかヒカルだな」
会長かヒカルのどっちかか。
うん。ここはヒカルに頼もう。
会長にはあまり借りを作りたくない。
それじゃあ、ヒカルを基準にして・・・。
「分かりました。では、アキトさんの動きは上級者用にしておきましょう」
「じょ、上級者用?」
「扱いが難しいけど、慣れると強いみたいな、味がある設定です」
「そ、そうか・・・」
「幾つかパターンを製作してパイロット毎にパターンを選べるように出来たら楽しそうですね」
やばっ。なんか燃えてきた。
俺の知るシューティングアクションゲームを全て参考にしてやる。
ゲームの画面上に映像として行っている事を実機でやらせればいいって事だろ?
うん。なんかやる気が出てきた。
「ま、まぁ、任せる」
「分かりました」
「それではな」
仮想ソフトを多用して幾つもの動きを検証しよう。
まずはナデシコパイロットの機動データを参考にして、仮想キャラを作ってみるかな。
コンピューターが基本動作を行うステルンクーゲルよりは、
むしろ決められたパターンの複合だから簡単だと思う。
ま、パターン読まれたら厳しくなるかもしれないけど、
それは、あれだ、必殺コンボでも編み出して欲しい。
「ガンアクションシステム。略してGAS。ガスか?
それとも、リアルアクションシステム。略してRAS。ラスか?」
・・・名称は後で考えよう。
とりあえず、何パターンも動作パターンを用意して、それぞれの動きをコマンド入力する形で。
おし。誤差補正のソフトを組み込めば、正にシューティングアクションのような事が出来そうだ。
色々と試してみよう。やる気が漲ってきたぁ!
・・・ん? あれ? ちょっと待とうか。
「・・・トレースシステムも面白いかも」
機体に乗ってリアルタイムで直接動かすのは無理だけど、
自分の動きをパターンとしてあらかじめ覚えさせて同じように動かす事は出来る。
スポーツゲームとかでプロ選手にセンサを付けて実際に動いてもらって、
それをPCで解析して実現させるみたいな感じ。
これはある意味、イメージのIFSよりも自分の動きを忠実に再現してるからやりやすいかも。
要するに基本動作だけ登録しておき、後は自分の身体を使ってカスタマイズできるみたいな。
うん。これはこれで面白い。EOSみたいだけど、それよりちょっと趣がある感じ。
カスタマイズ出来なければ、パターンがあらかじめ登録されているGASかRASを使えばいいし。
GASかRASはサンプルとして提供して、独自でカスタマイズしてもらうというのも面白いか?
パイロット一人一人が独自で機体を成長させる事が出来る。
また、一人一人が独自にカスタマイズ出来るんだから、個性も出てくる。
軍としては決まってた方が分かりやすいかもしれない。
だが、俺は個性こそを推奨する。皆違って皆良いんだよ。うん。
「さしずめトレースアクションシステム。略してTAS。タスだな」
おし。
方針としてはナデシコパイロットを参考にサンプルを作り、
ヒカルの機動データを基本動作として登録。
後はトレースアクションシステムを開発して、
ヒカルの機動データをカスタマイズできるよう設計。
サンプルは格闘重視、援護重視、機動重視あたりで手を打つか。
アキトさんの機動は隠しキャラとして登録しておこう。
まるで格ゲーのような扱いだ。まぁ、リアルアクションシステムは格ゲーとあまり変わらんしな。
「複合アクションシステム。略してCAS。・・・カス。なんか嫌。キャスだな」
うん。そうだな。俺はCASを製作しよう。
「フィールドガンランスと複合アクションシステムの二つ。
とりあえず俺が現状で出来るのはこれくらいかな」
知識があっても実現できるだけの技術力はまだこの時代にはない。
現状で取り組める事といったら、これくらいだ。
ふむ。出来るだけ早く完成させたいな。フィールドガンランスは特に。
「おし。やるか」
明確な目標が定まりやる気が漲った日の事でした。
「・・・そうですか」
「ええ。正面から立ち向かう事か、時間が解決してくれるかを待つか。そのどちらかね」
「正面から逃げずに・・・という事ですね」
「そうね。逃げてたらいつまで経っても直らないわよ」
「・・・分かりました。ありがとうございます。イネスさん」
「頑張りなさい。コウキ君」
「ナナフシ!?」
ついにこの時が来ました。
一、二度しかなかったナデシコ撃沈の危機の内の一つ。
もう一つはボソン砲かな。ディストーションブロックは正にこんな事もあろうかとだった。
・・・マイクロブラックホールキャノン。
ナデシコを沈めたといっても過言ではない重力波レールガン。
DFを貫く威力も当然だけど発射後に大気に与える影響も軽視できない。
チャージまでに莫大な時間が掛かるといっても、その戦略性は凄まじいものがあると思う。
下手すれば、連合本部なんて一瞬な訳だし。
戦略級の武器の一つだと思うね。俺は。
相転移砲も凄まじいものがあったけど、それに等しいぐらい。
もしナナフシが大量に配備されてたらと思うとぞっとする。
って事はきっとこのナナフシは実験機でしかなかったんだろうな。
大量生産の見込みはなかった訳だ。
これで実験機かよ!? とも思うけどさ。
「そうよ。木星蜥蜴がクルスク工場地帯を占拠し、新たに配置した新兵器。
その形状から司令部ではナナフシと呼ばれているわ」
「それでは、今回の任務はそのナナフシの破壊という訳ですね。提督」
「ええ。でも、油断しない事ね。今までに連合軍の特殊部隊が三度破壊に向かったわ。でも・・・」
「・・・でも?」
「全滅よ。全滅。何をやってるのかしらね」
キノコ提督。
仕方ないと思いますよ。
それ程にマイクロブラックホールキャノンは恐ろしいのです。
「な、何と不経済な。いやはや。その分をネルガルで・・・」
どうしようと言うのですか? プロスさん。
あと、その高速演算は何の計算でしょうか?
「そこでナデシコの登場という訳ですね! グラビティブラストで一撃必殺!」
ピースっと笑顔でアピール。
ナデシコの性能なら敵うかもしれませんけど、そうはいかないんだよなぁ。
「そうか! 遠距離射撃だね! ユリカ」
「その通りだよ! ジュン君」
おぉ。艦長と副艦長が分かり合ってる。
これはこのまま実行という形になりそうだけど・・・いいのかな?
「これ以上、地球経済に負担をかけないよう、我々ナデシコが頑張るべきですな」
プロスさんは地球の経済を背負っている方なのですか!?
「エステバリスが危険に晒されなくて済みますね」
「あら~。それを言うならガイ君が、でしょ?」
「そ、そそそ、そうですね」
ガイ。大切にしてやれよ。健気な彼女を。
「それでは、直ちに作戦を―――」
「ちょっと待ってくれ」
「え? アキト? そう。遂に私に告白する決意を―――」
「艦長。我々は―――」
「ユリカ! ユリカって呼びなさぁい! 艦長命令です」
凄い職権乱用。
「艦長。真面目な話だ」
「・・・ぶぅ」
不貞腐れた!? やはり子供だな。
ユリカ嬢。大人になれよ。甘えた分だけ大人になれよ。
「我々がナナフシの攻略に適している事は分かる。
射程距離にしても、その攻撃力にしても、地球ではナデシコがトップだろうからな」
うん。それは確かに。
「だが、かといって、安心するのは気が早い。俺達はもっと情報を集めるべきではないのか?」
「テンカワ。それはどういう意味だい?」
「ジュン。三度も特殊部隊が攻め込んでどうして攻略できなかったのか。
それを知らずして攻め込むのは愚かな事だと思う」
「そ、それは・・・」
正論です。
正論過ぎてジュン君も言葉がありません。
「提督。その辺りはどうなんだ?」
「ナナフシとその一帯が持つ対空迎撃システムが原因ね」
「それに全滅させられているのだな?」
「そうよ。それがどうしたのよ? ナデシコが遠距離射撃したら御終いじゃない」
成功すればですけどね。
「コウキ」
え? 俺? 何故?
「な、何すか?」
「火星においてお前は言ったな。万が一を考える事こそが生き残る為には必要だと」
「ええ。最悪の事態を常に想定する。そうする事で気持ちに余裕が生まれますから。
想定外の事程、焦るものはないでしょう?」
「その通りだ。焦りは人に死を運ぶ。
常に冷静である事が戦場で大事な以上、あらゆる想定をしておくべきだと思うがな」
「・・・そうだった。士官学校でも僕はそう習ったじゃないか。慢心していたよ」
「ナデシコの性能が圧倒的で油断するのは分かる。
だが、指揮官たるもの、常に客観的に物事を眺めるべきだ」
「ああ。その通りだ。すまなかった」
ジュン君が頭を下げる。
えぇっと、これで一応は最悪の事態を想定するという展開に持ち込めたのかな?
「艦長。敵の射程がこちらより長かったと想定しよう。どうする?」
「・・・グラビティブラストによる遠距離射撃が不可能である以上、
エステバリスによる破壊になるでしょう」
「しかし、グラビティブラストの射程に敵う武器が―――」
「最悪の事態を想定するのに固定概念は不要ですよ。ゴートさん。
何があってもおかしくないよう想定しておくんですから」
「・・・む。すまない。そうであったな」
グラビティブラストが最強。
そんな事を言っていられるのも今の内だけだ。
これから相転移砲という破壊力抜群の兵器も出てくるんだし。
「対空迎撃システムが充実されている以上、陸移動になりますよね」
「そうだな。地上戦のフレームは陸戦フレームと砲戦フレームの二つ。
攻撃力的には優れているが、いかんせん移動力がない」
陸戦フレームは本当に唯のエステバリスって感じ。
あえて言うならワイヤードフィストがあるぐらい。
でも、あれって、そんなに必要性を感じないんだよな。
どうせやるなら、もっと高出力のロケット積んで、巨大な拳とかドリルにしちゃえばいいのに。
ドリルのロケットパンチとかウリバタケ技師には鼻血もんだろうに。
「移動するなら陸戦フレームに外付けのバッテリーを大量に積ませる必要があるな」
お。ウリバタケさん参加。やっぱり本職に意見を聞かないとね。
「それだけで解決できますかね?」
「下手すると敵陣のど真ん中に取り残される可能性があるな。
あれだろ? ナデシコは近付けない前提だろ?」
「ええ。対空迎撃がある以上、格好の的ですから」
流石にDFでも無理だろ。
マイクロブラックホールキャノンをもし初弾で避けられたとしても、近付くのは困難だと思われる。
結局、攻略法はグラビティブラストの射程外距離からの遠距離射撃か、
エステバリスによる単独破壊しかない。
「分かりました。それでは、考えを纏めましょう」
御願いします。艦長。
「現状で取れる策はナデシコの遠距離射撃かエステバリスによる破壊工作かのどちらかです」
ふむふむ。
「エステバリスによる破壊工作のリスクが高い以上、
遠距離射撃で仕留めてしまいたいというのが私の考えです」
誰もがうんうんと首を縦に振る。
誰だって危険な目にあって欲しくはない。
「確実に仕留める為にはまず向こう方の射程距離を確認する必要があります。
その辺りはどうなのですか? 提督」
「残念ながら分からないわよ。詳しい射程距離なんて。
グラビティブラストとどちらが長いかなんてもっと分かんないわ」
・・・それで良いのか? 連合軍。
「それを確かめる為に他の艦隊から援軍を頼みたいのですが―――」
「無理よ。この独立愚連隊のナデシコに助けなんて来るもんですか」
「・・・ですよねぇ。ユリカ、困っちゃうなぁ」
独立愚連隊って自覚あったんだね。提督。
「どうしよう? アキト」
「・・・危険だが、ナデシコのDFを前方に集中させて、敵の攻撃をあえて受けるしかあるまい」
「でも、それって、かなり危険ですよ」
「ああ。だが、策としてはこれしかないだろうな」
あえてナデシコで受けるか。
でも、そんな危険な橋を渡るのは嫌だな。
そもそもDFを前方に集中とか出来るのか?
「やはりここはナデシコによる遠距離射撃に賭けるしかないな」
そうなんだよね。
でも、失敗するって分かってるのに何にも出来ないってのも・・・。
「・・・そうだな」
どうなるか知っている組も手詰まり。
ここでエステバリスでの作戦を提案しても周囲の賛同は得られないだろうし。
「どちらにしろ、DFを即座に張れる準備を御願いします。
ミナトさんはいつでも回避できるようにしておいてください」
「分かりました。DF発動シークエンスを進めておきます」
「緊急回避ね。やってみるわ」
少しでも直撃から免れれば、ナデシコの被害も減るか。
「それでは、作戦を開始します。直ちに配置についてください」
「了解」
それぞれのクルーが配置に付く。
パイロット組はブリッジで待機。
出番がなければ嬉しかったけど、そうもいかない。
すいません。そして、御願いします。
「グラビティブラストチャージ開始」
「グラビティブラストチャージします」
果たしてグラビティブラストをチャージして意味があるのか。
「チャージ完了と共に山陰から抜け出し発射します。
ルリちゃん。念の為、DFの発動も意識しておいてください」
「グラビティブラストの発射はラピスに任せます」
「・・・わかった」
山陰を隠れ蓑に。
出てきた所を狙われるとはもぐら叩きされている気分だ。
「相転移エンジン異常なし」
グングンと上昇するナデシコ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
何があるか分からない。
それがクルーに緊張感を与える。
「作戦ポイントに到達」
「ラピスちゃん。グラビティブラス―――」
「敵弾発射しました!」
「ルリちゃんDF発動。ミナトさん! 緊急回避!」
「ディストーションフィールド発動します」
「揺れるわよぉ~」
ドダァァァァァァァァァァァァ!!
「ディストーションフィールド消失!」
「直撃は避けられましたが、エンジン機関部に命中」
「相転移エンジン停止します」
「え? 嘘? ミナトさん! 緊急着陸を」
「いいわ。きちんと掴まってなさい」
「艦内の全クルーに連絡します。本艦は敵兵器の攻撃を受け、墜落します。
近くにある物にすぐさま御掴まりください!」
『あれは重力波レールガンね。私の見解では―――』
「イネスさん。後で説明の機会を設けるので静かにしていてください!」
「補助エンジンを起動!」
『仕方ないわね。でも―――』
「聞いてる余裕なんてありませぇぇぇん!」
「不時着するわ! 振動に気を付けて!」
ズッシャァァァァァァァァァン!!
『マイクロブラックホールの生成に時間がかかるから、しばらくの間は安全よ』
「き、貴重なご意見ありがとうございました」
『ええ。詳しくはまた後で』
「・・・相変わらずマイペースな人だ」
「・・・カオスだな」
うん。酷い有様だ。
正に混沌。収拾がつかない。
やっぱりエステバリス作戦か。
また、俺は何にも出来ないのかな?
「私の見解では、ナナフシのマイクロブラックホールの生成は十二時間。ほぼ半日ね。
攻撃を受けたのが・・・」
現在、イネス印のホワイトボードを前に説明を受けています。
余裕は後十一時間とちょいしかないという現状。
しかも、相転移エンジンに被害が及んでいる為に、ナデシコの脱出は不可能。
とにもかくにもナナフシを潰すしかないという結論に達した。
不幸中の幸いは人的被害がなかった事かな。
軽傷を負った人はもちろんいたけど、重傷患者はいなかった。安心したよ。
整備班は今から相転移エンジンの突貫作業に入るらしい。
少しでも修理しておいた方が良いのは確かだしな。
「これが想定していたという事なのか。冷静に物事を考えられる」
ジュン君がなにやら感心したように呟きます。
「緊急事態になっても冷静でいられるのは良い事よ。誰の差し金かは知らないけど・・・」
げっ? そこで何故俺を見る? 俺じゃないし。アキトさんだし。
「ま、いいわ。それでは、以上で説明を終わります。起立。礼」
「ありがとうございま―――」
「って、違う! ここは学校じゃないっての!」
ナデシコクルーはノリが良過ぎます。
「後は艦長に任せましょう」
そう言って颯爽と去っていくイネス女史。
その途中、俺とすれ違いながら・・・。
「挨拶も碌に出来ない生徒は補習よ。覚悟してなさい」
・・・とかおっしゃってました。
いや。勘弁してください。身も心も疲れ果ててしまいますから。
その後、しばらく時間を置いて、作戦が発表された。
どうやら作戦会議をしていたらしい。艦長、副長、ゴートさん、アキトさんの四人で。
「それでは、作戦を発表します」
ナデシコによる破壊が失敗した以上、エステバリスで叩くしかない。
「エステバリスで地上よりナナフシに接近し破壊します」
「作戦開始は一時間後とする。砲戦を三機、陸戦を三機の構成で作戦を実行してもらう」
原作と違ってガイが生きている。
その分、砲戦が一機増えるから、攻略は楽になりそうだ。
あ、それと、多分、外付けバッテリーはガイが持つんだろうな。
アキトさんに持たせるとかまずないだろうし、エースパイロットだしね。
頑張れ、ガイ。それも愛の試練だと思って。
「作戦指揮はテンカワ。任せたぞ」
「ああ。了解した」
心強い返事。
不思議な事に不安や恐怖はまったくない。
きっとアキトさんを始めとする優秀なパイロット達に対する信頼がそうさせるんだろうな。
だから、ブリッジの皆にも負の感情はない。
彼らなら絶対に何とかしてくれる。
そんな強い信頼関係がナデシコクルーにはある。
あぁ。これがナデシコなんだな。
クルー達の団結力こそがナデシコが強い所以。
性能や武装ではない。クルー一人一人の強さがナデシコの強さなんだ。
「コウキ。留守は任せたぞ」
「はい。アキトさん」
俺に何が出来るか分かりませんが、任されました。
「ま、お前の出番はねぇけどな」
「うるさいよ。荷物番」
「て、てめぇ、それは言わない約束だろ」
「・・・信じてるぞ。ガイ」
「おう! きちんと成功させて無事に帰ってきてやるよ」
「ああ。メグミさんを悲しませんなよ」
「あったりめぇだ!」
まったく。頼り甲斐のある男になりやがって。
「コウキは気楽に待っててよ」
「おう。俺達がミスる訳ないしな」
「クックック」
「頼むよ。皆」
パイロット三人娘。
彼女達の腕なら大丈夫だ。
「ねぇねぇ、君はどうするのかな?」
「・・・アカツキ・ナガレ」
「もし、ナデシコが危機に面したら、何もしないで震えてるの?」
「何!?」
「恋人が乗ってるんでしょ? それなら、きちんと男を見せないとね。僕のように」
「軟派野郎は男らしくないと思うけど?」
「ま、この作戦で彼女達は僕に惚れるよ。男らしい背中を見てね」
「ないない。ま、精々頑張れよ」
「ふふっ。負け犬の応援はやる気が出るねぇ」
「クッ」
・・・ふぅ。落ち着け。怒った所で何も変わらない。
俺だって、いつまでもトラウマなんて言ってられないんだ。
いつまでも震えてられない。
「頼むぞ。皆」
次々とブリッジを去っていくパイロット達。
その心強い背中に作戦の成功を祈った。
作戦開始まで後一時間弱。
「えぇっと、何ですか? これ」
「無論、お前が着る奴だ」
パイロット達が出撃し、ブリッジには何とも言えない空気が漂っていた。
そんな時だ。
まるでネルガル陣がブリッジにいない時を狙ったかのようにウリバタケさんがやって来て・・・。
「さぁ、これに着替えるんだ! 作戦司令部ならば当然の事だぞ」
・・・などなど言い出して、ウリバタケ秘蔵コレクションから色々と持ってきた。
いいよ。普通に軍服な人は。
でもさ、ルリ嬢は・・・原作通りだから、覚悟はしてただろうけど、ラピス嬢とセレス嬢は何?
ラピス嬢は西欧の甲冑姿で凄く重そう。
セレス嬢は騎士甲冑っていうの? 物凄く派手なんですけど。
地面に付きそうなぐらい長いマントっぽいのがあるのはどうかと思うんだ。うん。
それでさ、何で俺はこれなの?
「いいじゃねぇか。エリートのみが着る事を許された白服だぜ」
「あれですか? 仮面はデフォですか?」
「無論だ。あのシリーズの敵キャラは仮面と決まっているんだよ」
「・・・さいですか」
クソッ。こんなものを着なくてはならないとは。
認めたくないものだな・・・自分自身の若さゆえの―――。
「って、仮面違いだし!」
「あん? 何だ?」
「い、いえ。なんでも・・・」
はぁ・・・。素直に着るか。
「えっと、なかなか、似合ってるの、かな?」
「・・・フォローになってませんよ。ミナトさん」
「・・・仮面・・・ですか?」
「そうだよ。私の正体を隠す為には仕方なかったのだよ」
「成り切ってるように見えて首が真っ赤よ」
「ク、クソッ。俺だって・・・。俺だってぇ・・・」
「使い方間違ってんぞ。マエヤマ」
「グハッ!」
完璧に負けました。ガクッ・・・。
「さて、俺は帰るぜ。またな」
ウリバタケ氏は満足して帰っていった。
「あら?」
「パイロット達は!? ・・・ん?」
「貴方達は何を・・・」
入れ替わるように現れるネルガル陣。
どこか嬉しそうな笑みを浮かべるエリナ秘書。
もはや諦めの境地に達したのか表情を変えないゴートさん。
絶賛胃腸炎中のプロスさん。
「ビシッ!」
ビシッ!
「・・・コスプレかね?」
「はい。司令部はこういうものだと聞きました。ビシッ!」
ビシッ!
「・・・作戦遂行中である。諸君、警戒を怠るな」
「了解! ビシッ!」
ビシッ!
「・・・・・・良いな」
ってか、嬉しそうにしないでください。
それと、隠れてませんから、ガッツポーズ。
・・・あぁ。ゴートさんのイメージが。
「パイロットの方々の様子はどうなのでしょう?」
「順調に進んで―――」
「・・・き、機影反応です・・・」
え? 機影反応!? 敵!?
「ル、ルリちゃん!」
「・・・やられました。周囲、全方位囲まれています」
「な、何で? いつの間に・・・」
「罠だったようですね。ナナフシは」
う、嘘だろ? こんなの原作にはなかった。
エステバリスが留守の間に襲われるだなんて事はなかった筈だ。
「ナデシコは見事に餌に引っ掛かってしまったようです」
無情にも告げられる報告。
背筋が凍った。
「ル、ルリちゃん! 相転移エンジンの調子は?」
「整備班が頑張ってくれていますが、現状では半分程の出力しか」
「そんな・・・」
・・・完全に狙われた。
周囲を囲むように飛んでいるバッタ。
周囲を囲むように迫ってくる旧兵器。
戦車やら戦闘型飛行機やら装甲車やら。
どうやら制御が奪われてしまっているようだ。
現在、あれらは完全に木星蜥蜴の支配下にある。
敵戦力はエステバリスがいない今、圧倒的だ。
ただでさえ相転移エンジンが本調子ではないというのに・・・。
「敵反応、徐々に近付いてきています」
「DFを張ってください。攻撃を耐え抜きます」
「・・・駄目です。DFだけではとても・・・」
周囲を囲み徐々に近付いてくる敵。
攻撃されるのも時間の問題だ。
ガタンッ! ゴドンッ!
攻撃を喰らってナデシコが揺れる。
ドダンッ! ガガガ!
こうしている間にもナデシコは次々と傷付いていくんだ。
「相転移エンジン出力低下。DF弱まります」
「グラビティブラストは撃てますか?」
「不可能です。DFに回すだけのエネルギーしか得られません」
「・・・・・・」
このままだと危険だという事は誰にだって分かる。
でも、その対処法が何もなければ、俺達にはどうする事もできない。
ドドンッ! ガタンッ!
「キャッ!」
・・・今、動けるエステバリスパイロットはいない。
ナデシコには迎撃できるだけの力がない。
・・・俺には・・・何が出来る・・・いや。
「・・・コウキ君」
・・・俺がやるしかないんだ。
「・・・艦長。俺がエステバリスで出ます」
「・・・え? でも、マエヤマさんは・・・」
「正面から逃げずに立ち向かう」
「え?」
「そうやってトラウマを克服する事が―――」
「コウキ君。震えてるの分かってる?」
「・・・嫌だなぁ。そんなの・・・分かってるに決まってるじゃないですか」
言われなくたって分かってる。
指先だけじゃない。全身が震えてるさ。
でも・・・。
「俺がやらずに誰がやるんです? 今、この状況を打破できるのは俺だけでしょう?」
・・・俺しかいないんだ。
エステバリスで出撃できるパイロットは。
「だから、俺が―――」
「貴方は背負い込んでばかりね」
「え?」
突然抱き締められた。
身体の震えは、不思議と収まっている。
「義務感で動いて欲しくないわ」
「でも、俺しか・・・」
「義務感や責任感に囚われてちゃ駄目よ。
どうしてエステバリスに乗ろうと考えたのか良く考えなさい」
「俺は・・・」
俺しかいないという義務感。
ナデシコを護らないとという責任感。
その二つで動いていた。
でも、その根本にあるのは・・・。
「ナデシコを護りたいからです。ミナトさんに、ナデシコクルーに死んで欲しくありません」
護りたいという思い。
思い上がりでも、己惚れでも。
俺に護れる力があるのなら、俺は皆を護りたい。
「そう。それじゃあ、その気持ちで行動しなさい。助けたいという思いで動きなさい」
「・・・変わりますかね?」
「ええ。自分が何故その行動を取ったのか。それをしっかりと自覚して、思いを乗せなさい。
そうすれば、コウキ君、貴方なら出来るわ」
「・・・はい。分かりました。ミナトさん」
「私達はコウキ君に辛い思いをさせようとしている。ごめんなさいね」
「謝られても困りますよ。謝られるぐらいならありがとうと言われたいですね」
「それじゃあ、無事に帰ってきて。帰ってきてきちんとありがとうって言わせて」
「・・・ええ。必ず帰って―――」
唇に優しい感触。
「・・・おまじないよ。無事に帰ってくるようにって」
潤んだ瞳で見詰めてくるミナトさん。
彼女を死なせたくない。悲しませたくない。
その為にはナデシコを護り、その上できちんと帰ってこなくちゃ。
「それじゃあ、行ってきます」
「ええ。行ってらっしゃい」
ミナトさんが身体から離れる。
それだけで、再び身体が震え始めた。
それ程にミナトさんの存在は俺にとって偉大だという事だろう。
エステバリスの乗る為にブリッジから抜け出して、格納庫へ向かおう。
そう席を立ち上がろうとする瞬間・・・。
「・・・コウキさん」
・・・掛けられた声に俺の動きは止まった。
「・・・セレスちゃん」
声の主はセレス嬢。泣きそうな顔で俺を見上げている。
「・・・大丈夫なんですか?」
「怖いし、身体は震えてるよ。でも、皆を護りたいんだ」
「・・・でも、コウキさんは・・・」
「護れる力がある。それにね、俺はパイロットの皆に任せれたんだ。ナデシコを。
彼らが作戦を成功して帰ってきた時に帰るべき家がなかったら悲しむだろ?」
「・・・コウキさんがいなくなるんじゃないかって心配です・・・」
「大丈夫。絶対に戻ってくるから」
「・・・・・・」
無言で俺の身体をよじ登ろうとするセレス嬢。
いつもの体勢だろうと思って、抱きかかえると・・・。
「・・・え?」
視界一面に映るセレス嬢の顔。
小さな唇の感触が俺の唇に暖かさを伝えてくれた。
「・・・私からもおまじないです。必ず帰ってきてください」
照れもせず、涙目になりながらも真剣な表情で俺を見詰めてくるセレス嬢。
・・・そんな顔された約束破れないな。
「うん。セレスちゃんからおまじないしてもらったんだ。絶対に帰ってくるよ」
「・・・はい。気を付けて下さい」
「任せて」
腿の上に座る小さく軽いセレス嬢をゆっくりと床に降ろす。
こんなに小さな子に激励されて、情けないな、俺。
でも、その期待に応えなくちゃもっと情けない。
「それじゃあ、行ってくるね」
「・・・いってらっしゃい。コウキさん」
今度こそ、ブリッジから抜け出し、格納庫へ向かう。
あれからコンソール越しの戦闘なんて練習してなくて、
絶対に反応速度とか落ちてる自信がある。
でも、俺に出来る精一杯を、やるだけだ。
「ウリバタケさん」
「おう。聞いてんぞ。お前がナデシコを護るんだ。いいな!?」
「はい!」
身体の震えを懸命に抑え、エステバリスに飛び乗る。
「・・・はぁ・・・ふぅ・・・」
落ち着け。落ち着け。
自分の思う通りにやればいい。
気負うな。我を失うな。気を強く持て。
「・・・はぁ・・・おし」
エステバリスのコンソールに手を置く。
戦闘の為にコンソールに手を置くのはどれくらいぶりだろう。
『搭乗者確認。マエヤマ・コウキ。カスタム状態に移行します』
大丈夫。大丈夫だ。落ち着いてやれば大丈夫だ。
「マエヤマ。オプション武器はどうする!?」
搭乗フレームは高機動戦フレーム。
現在の場所は対空迎撃が発動しないギリギリの位置らしい。
それなら、高機動戦フレームの方がやりやすい。
「レールカノンとラピッドライフルを片手ずつ持って―――」
「フィールドガンランス試作型。出来てるぜ。試してみるか?」
「本当ですか?」
長期戦になる。
フィールドガンランスなら時折近接攻撃に移る事で戦闘続行可能時間を延ばす事が出来る。
近距離と遠距離をどちらもこなせるのはかなり有効的だ。
「それなら、フィールドガンランスを持っていきます。
腰にラピッドライフを二丁備え付けて置いてください」
「了解した。フィールドガンランスは背中に収められるように作られている。
イミディエットナイフは装着パックの所だ。行って来い」
次々と運び込まれてくる武装。
「・・・ふぅ。冷静にな」
震える腕を抑えつけ、エステバリスを動かす。
武装装着を確認。・・・よし。行こう。
「マエヤマ・コウキ。高機動戦フレーム。行きます」
カタパルトに移動し、発進。
凄まじいGに襲われながら、開けた視界には数多の敵。
『コウキ君。私がここにいるわ』
『・・・頑張ってください。コウキさん』
ミナトさん。セレス嬢。
・・・こりゃあ気張るしかないな。
・・・震えが止まった。
「うし」
すれ違う戦闘型飛行機をフィールドガンランスで突き刺し、
地面からこちらを狙ってくる戦車を貫く。
ラピッドライフルでは装甲が厚くて効果的なダメージを与えられないが、
レールカノンを素体としているフィールドガンランスなら・・・。
「貫ける!」
地上にいる戦車を優先的に潰し、時折襲ってくる戦闘機は射撃ではなく近接攻撃で倒す。
戦闘機なんて高機動戦フレームの機動力にしてみれば的に等しい。機関銃の攻撃はDFが弾く。
「次!」
フィールドガンランスを背中に収め、腰からラピッドライフを取り出す。
「やはり二丁拳銃が俺の武器か」
威力強化されたラピッドライフルならDFを纏う新型バッタとて貫ける。
戦車の攻撃は回避し、戦闘型飛行機とバッタをこれで潰す。
「・・・高速で移動しながら標準をつける。いけるのか? 俺」
・・・違う! やるんだ!
「フィードバックレベルを上昇させる。意識を奪われるな。己に打ち克て」
フィードバックレベルの上昇はより鮮明なイメージを実現させる。
システムに意識を奪われるな。機械的になっても、敵だけを狙え。
「・・・・・・」
・・・意識が切り替わった。
何の感情もなく、機械のように身体を動かす。
「・・・・・・」
効率的に、効果的に、無駄を失くし、迷いを捨て、常に先を想定する。
『コウキ君! しっかり―――』
「・・・大丈夫です」
『・・・そうみたいね。安心したわ』
「・・・必ず守り抜きます。ミナトさんは―――」
『分かったわ。私は貴方を信じて、自分に出来る事をする』
「御願いします」
意識を奪われかけても引き戻してくれる人がいる。
恐れるな。立ち向かえ。逃げるな。真正面から打ち破れ。
「ハァァァ!」
雄叫びをあげ、視界を埋める程の敵へ突っ込んでいった。
SIDE MINATO
意識を保ちながら、必死に戦うコウキ君。
身体を震わせていたのも最初だけ。
ナデシコを護るという意思がコウキ君を強くさせる。
「ルリちゃん。グラビティブラストをチャージしてください」
「しかし、DFにエネルギーを」
「時間をかけてしまっても構いません。DFの出力を少しだけ落とし、GBをチャージしてください」
「・・・分かりました」
たとえコウキ君といえど、一人でこの量全てを倒せる訳じゃない。
大量に撃破するにはやはりGBが一番よ。
「・・・せめて回避行動が取れれば」
移動も出来ないナデシコ。
私には何も出来ないの?
ううん。何かある筈。
「ミナトさんはいつでもマエヤマさんが補給できるように、
デッキの位置をマエヤマさんがいる方向に合わせておいてください」
「ッ! 分かったわ」
コウキ君の補給を迅速に行えるように回頭する。
今の私に出来る精一杯。
「頑張れ。コウキ君」
めまぐるしく動き回り、敵を引き付け、撃破していくその姿は他のパイロットにも見劣りはしない。
射撃をすれば高確率で敵を貫き、敵が近付けば槍のようなもので貫く。
ライフルを片手に一つずつ持って両手で敵を倒していく姿は、
正にガンマンというのに相応しかった。
この戦闘を後どれくらい続ければいいのだろうか?
「・・・コウキ君」
戦闘終了の合図が来たのはそれから数時間後だった。
コウキ君はそれまで五回もの補給を繰り返し、休む事なく戦い続けた。
戦闘が終了した途端、コウキ君はバタリと倒れてしまう。
もしや、また・・・と不安で潰されそうになったが、
気を失う彼の顔を見ればそんな感情は吹っ飛んだ。
コウキ君は・・・満足したかのように穏やかな顔だったのだから。
・・・お疲れ様。コウキ君。
SIDE OUT
トラウマ克服の話。
ちょっとトラウマにしては軽いかもしれませんね・・・。
これでパイロットとしてもコウキ君が活躍できると周囲は知りました。
パイロットとしての出番も増えるかもしれません。
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