「そうはいかないわ! ナデシコは私の物よ!」
出航の日から何日か経った。
随分と長い間、ふらふらと飛び回っていたけど何だったのかな?
デモンストレーションって奴?
ま、ナデシコの性能をアピールしなっきゃ企業としてはやっていけないか。
「ん~。ホウメイさんの料理は相変わらず美味しいわね」
「そうですね。あ。セレスちゃん。溢してるよ」
「・・・ポッ」
現在、お昼の休憩中。
ミナトさんとセレス嬢と食事中です。
俺はAランチ、ミナトさんはBランチ、セレス嬢はお子様ランチ。
俺的にはBランチの方が良かったかな。好物が多い。
お子様ランチは子供が多いから急遽考えたらしい。
小さな事でも変化があるんだなって実感した。
「それにしてもですね。ホウメイさんって一人で大丈夫なんですかね?」
テンカワさんがコックを担当していないという事実。
完全にパイロットのみらしい。
すると、だ。ホウメイガールズを除けばホウメイさんが一人でキッチンを回している事になる。
ホウメイガールズとて料理は出来るのだろう。だが、彼女達は接待係であってコックではない。
本質的に料理を作るのはホウメイさんのみだ。
今更だが、ナデシコクルーは軽く百人を超す。
まぁ、通常の戦艦ならもっと多いみたいだけど。
ナデシコは、ほら、オモイカネのおかげでかなりの人数を減らせるから。
スーパーAI恐るべしって所。
で、ま、とにかく、百人を超す全クルーの朝昼晩の食事を一人で受け持ってる訳だろ?
それってさ。
・・・凄まじいと思うわ。
「そうよねぇ。美味しいのは嬉しいんだけど、大変そうよねぇ」
チラッとキッチンを見ながらミナトさんはそう告げた。
・・・忙しなく動き回っています。ホウメイさん。
俊敏過ぎるぜ。スプリットが半端ない。
「キッチンに後何人か入れてもいいと思うんですけどね」
経費削減か?
それにしたって厳しいと思う。
「ホウメイさんレベルの人が見つからなかったのかしら?」
「ま、確かに美味しいですもんね」
和洋中全てに対応できてこの味は流石だと思う。
「でも、補佐する人ぐらいは入れてもいいんじゃないですか?
他の方達は接待がメインみたいですし」
「そうよねぇ。コウキ君って料理できたかしら?」
「出来ますけど趣味程度ですよ。素人ですもん」
アキト青年は、参入時には既に料理人として活動していた。
そんなアキト青年でもまだまだだね。レベルだ。
到底、俺が力になれる訳がない。
「そっか。私もそんなに上手じゃないからなぁ」
「ミナトさんの手料理美味しいですよ。俺は好きです」
「うふふ。ありがと。でも、やっぱり、ホウメイさんと比べるとね」
ま、それは否めない。相手はプロだもの。
でも、家庭料理ってホッとするじゃん。
ミナトさんの料理はそんな感じで落ち着く。
「セレスちゃん。美味しい?」
「・・・はい。美味しいです」
つたない手付きで箸を握るセレス嬢。
当然、ミナトさんは構いたくなるよな。
「可愛らしいわぁ」
可愛いもの好きは相変わらずですね。
ピコンッ。
『マエヤマさん。ブリッジの方へ御願いできますかな。お知らせしたい事がありますので』
あ。プロスさんからの通信だ。
遂に目的地の発表か?
「食事を終えてからでも構いませんか? 急ぎますので」
『ええ。構いません。
それとハルカさんとセレスさんもそちらへいらっしゃいますよね? 連れて来て頂けますか?』
「了解しました。すぐに向かいます」
ピコンッ。
コミュニケの通信が切れる。
「何だって?」
「ええ。何でもお知らせがあるとかで、急いでブリッジに来て欲しいとの事です」
「そう。じゃあ、急ぎましょう」
「そうですね」
俺とミナトさんはペースを速める。
でも、セレス嬢はそんな事は出来ない。
今でも一生懸命に食べてるのだから。
そして、そんな姿が微笑ましさを誘う。
「もう。この至福の時間が・・・。勿体無い」
「まぁまぁこれからいくらでも見れますよ」
ミナトさんを宥めつつ、セレス嬢をちょっと急がせる。
「ごめんね。ちょっと急げるかな? ブリッジに来て欲しいって」
「・・・はい。頑張ります」
ここでスプーンとかに変えたりはしない。
箸で頑張ろうとしているんだから、応援してあげないと。
甘やかしちゃ覚えないしな。
「父親みたいよ。コウキ君」
グサッ!
十九歳にして父親扱いされるとは・・・。
ま、まぁ、それぐらい若いパパさんもいるとは思うけどさ。
ぼ、僕は違いますよ。
・・・・・・・・・・・・。
「じゃ、行きましょ」
「はい」
「・・・はい」
食事を終えて、片付けて、急いでブリッジへと向かう。
だが、しかし、廊下を走ったりはしない。
女の子はエレガントに、だ。
・・・俺は女の子じゃないけどさ。
「お待ちしておりました。マエヤマさん。セレスさん。ハルカさん」
お出迎えありがとうございます。プロスさん。
「お知らせとは何ですか?」
「ブリッジクルーの皆さんが勢揃い致しましたらお知らせしますので、席でお待ち頂けますか?」
「分かりました」
そう言われたら仕方ない。
「何なのかしらね?」
「目的って奴じゃないですか? ナデシコの」
「あ。そういう事」
「ずっと知らされてませんでしたから」
ミナトさんにはナデシコの目的を話してある。
でも、どのタイミングで知らされるかは教えてない。
だから、こういう形で説明した。
これなら、憶測って感じで疑われない。
相変わらず綺麗に合わせてくれるから流石だ。ミナトさん。
「お待たせしましたぁ! あ。アキトだぁ!」
パイロット席に座るテンカワさんを見て、入った来て艦長が騒ぎ出す。
正直に言うと、うるさいです。
「うぅ・・・。ユリカぁ・・・」
相変わらず綺麗にスルーされてるから流石だ。ジュン君。
「皆さんお集まりのようですな」
あ。最後が艦長と副長だったんですか。
「本日お知らせ致しますのは我がナデシコの目的地です」
おぉ。プロスさんがいつもより輝いている。
演出流石だね。オモイカネ。
「これまで隠してきたのは妨害者の眼を欺く為なのです」
「妨害者? 妨害者なんているんですか?」
ま、誰かしら妨害するよね。
火星に行きたいなんて言えば。
心配からの妨害もあれば、利益からの妨害もあると思う。
・・・というか、デモンストレーションなんかしてるから連合軍に眼を付けられるんじゃないの?
さっさと向かっちゃえばいいのに。
「ええ。目的地が目的地ですから」
プロスさんの言葉に首を捻るブリッジクルー一同。
俺もハテナ顔をしておこう。
「その目的地とは?」
「目的地は―――」
「火星だ」
プロスさんの言葉を提督が引き継ぐ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
そりゃあ黙り込むよな。
今の火星はもう壊滅状態だって情報だし。
「な、か、火星ですか!?」
「はい。火星です」
慌てるジュン君と済ました顔のプロスさん。
対照的な表情だ。
「そ、それでは、地球の事は放っておくというのですか? これ程の戦力があれば・・・」
「しかし、火星で生き残っている方がいらっしゃるかもしれません」
「火星は壊滅だって。そう軍が―――」
「軍の情報が全て正しいとは限らないでしょう?
生きているか死んでいるかは私達には分かりません。
それならば、生きていると。そう信じ、救出にいく事こそが―――」
「ですが! 生きているか、死んでいるか分からない人を助けるより地球に残り、
生きている人を助ける方が遥かに意味が―――」
あ。その発言はまずい。
「ほぉ。それは火星人は護るべき対象ではないと。そういう事だな?」
ほら。テンカワさん大激怒。
ブリッジ内の温度が何度か下がったような気がします。
とてもじゃないですが、一般人が出せる雰囲気ではありません。
「そ、そうじゃない。でも―――」
「それならば、何故そのような事を? どうでもいいと考えているからの発言ではないのか?」
射抜かんばかりにジュン君を睨みつけるテンカワさん。
初めて感じたよ。これが殺気って奴?
身体が勝手に震えてしまう。
「火星大戦から一年。我々は火星の壊滅を対岸の火事のように気にする事なく過ごしてきた。
それは、木星蜥蜴が市民を襲わないという事が大きく影響しているのかもしれん」
対岸の火事・・・か。
耳が痛いな。
俺は彼らの現状を知っていて彼らの事を無視してきたのだから。
「だが、当事者である彼らはどうだろう?
地球から救出に来てくれるという希望に縋り、毎日を必死に生きているのかもしれん。
絶望し、生きる事を諦めているのかもしれん」
現状では後者。
どうせ死ぬなら故郷に骨を埋めたいという者ばかりだった。
・・・そもそも彼らは裏切られたんだ。
護ってくれる筈の軍に。
ここに当時、指揮を執っていたフクベ・ジンとムネタケ・サダアキがいる事がその証明だ。
軍人は滅びる火星を余所目に逃げ出した。
そうでなければ、火星に駐在していた軍人がここにいる訳がない。
もちろん、彼らには彼らの都合があったのかもしれない。
火星大戦の情報を地球に送り届けるなどといった。
でも、火星の民が誰一人として救出されていないのはおかしいと思う。
上流階級の人間は分からないが、一般市民は確実に無視されている。
火星の民を護ろうと思うのならば、脱出の際に無理してでも保護するべきではないだろうか?
少しでも犠牲を減らそうと市民の脱出まで時間を稼ごうとするべきではないだろうか?
今までに軍によって助けられたという火星の民は誰一人としていない。
もしいれば、軍が支持を得ようと誇大表現しながら公表するだろうし。
それなのに、そのような事を一切しないで、フクベ・ジンをチューリップを初めて撃沈した英雄、
所謂、プロパカンダ、広告塔として掲げたのはその失態を隠したいからだ。
要するに、火星の民を見捨てた事を誤魔化しているんだと俺は思う。
火星の民が軍を信じていなかったのもそれを理解していたからではないだろうか?
自分達は軍に見捨てられた。そして、救出に来ないという事が地球にすら見捨てられたのだと。
「漸く、だ。漸く、火星に救出にいけるだけの環境が整ったんだ。
今こそ火星に救出に行くべきではないか? いや、行かなければならないのではないか?」
機動戦艦ナデシコ。
地球で初めて木星蜥蜴に対抗できる力を示した地球最新鋭の戦艦。
火星が木星蜥蜴に占拠されている現状、
救出を成功させるにはそれに打ち勝つだけの力がなければならない。
その力をナデシコは持っている。
「・・・・・・」
流石のジュン君もあれだけ言われれば納得するしかないか。
テンカワさんがどれだけ火星の事を思っているか、それが痛い程に伝わってきたもんな。
「・・・そうね。どうせやるなら人命救助の方が良いわよね」
「はい。火星に向かうのは怖くもありますが、
苦しんでいる人がいるのなら、助けてあげたいと思います」
ミナトさんとメグミさんはテンカワさんの言葉に胸が響いたのだろう。
覚悟を決めた表情をしていた。
「・・・どうやら、納得して頂けたようですな」
周りの雰囲気を感じ取り、プロスさんがそう告げる。
ジュン君は俯き、何かを考えているようだった。
きっと、彼の中で葛藤があるんだろうな。
ジュン君だって間違った事を言っている訳じゃない。
地球だって危機に陥っているんだ。
それを解決できるだけの力があるナデシコを意味があるのかどうか分からない事に、
使用するのは勿体無いと感じているのだろう。
地球を愛する心から発せられたんだ。
決して、これは彼のエゴではない。
軍人として市民を護りたいという誇りある考えなんだと俺は思う。
ま、影が薄くて印象が弱いジュン君が言ってもあんまり心に響かないかもしれないけど。
・・・あれ? 結構失礼な事を考えてないか? 俺。
「それでは、艦長」
「はい! では、機動戦艦ナデシコ発し―――」
「そうはいかないわ! ナデシコは私の物よ!」
突如、雪崩れ込む連合兵士。
「・・・あ。副提督の事を忘れていました」
・・・プロスさん忘れていたんですね。
そういえば、ブリッジクルー全員集まったって確認してましたもんね。
その時、気付かなかったんですか?
・・・かくいう俺も忘れていたので、こんな事言えないんですけど・・・。
何故だ? 何故あんなインパクトの強い副提督の事を誰もが忘れていたんだ?
・・・あ。どうでもいいって認識だったのか。
それが裏目に出たって訳ね。分かります。
「何事だ!?」
ゴートさんが叫ぶ。
・・・落ち着きましょう?
銃が突きつけられているんですから。
「ムネタケ! 血迷ったか!?」
寡黙なフクベ提督の叫び。
それだけ、提督の火星行きに懸ける思いは強いって事か。
「あら? 血迷ったのはどちらですか? 提督」
「何ぃ?」
「これだけの戦力を火星なんか送ってどうなるんです? 墜とされるだけだわ」
「これだけの人数で何が出来る!?」
だから、落ち着いてくださいゴートさん。
銃を突きつけられているんですから。
「・・・コウキ君」
震えているミナトさん。
他の皆だって震えている。
銃を突きつけられて震えるのは人間として当然の事だ。
死を実感するのだから。
でも・・・。
「大丈夫です。彼らは撃てませんから」
「あら? 状況次第では撃つ事もありえるわ。私達軍人は市民を護る為ならなんだってするの」
「・・・市民を護る為に市民を撃つとは本末転倒だな」
「ふ~ん。強がっちゃって。どうにも出来ないのに随分と余裕ね」
テンカワさんをニヤニヤしながら眺める副提督。
「どうにも出来ない? そんな事はないさ」
そんな副提督に対しても表情を崩さないテンカワさん。
「録ってるんでしょ? ルリちゃん」
「ッ!? 何で・・・それを?」
狼狽するルリ嬢。
だって、オモイカネにアクセスしたの見えたし。
後は自分のコンソールから確認するだけだよ?
「え? 録ってるって?」
「ムネタケ・サダアキ。出世と名誉の為なら何でもやる狡猾な軍人。それが俺の得た情報です」
「な、それが何よ!? 当たり前じゃない!」
「そんな男が自らを追い詰めるような事はしないという事ですよ。
自己保身には長けているでしょうから」
「へぇ。貴方も余裕そうね。
でも、死人に口なしって言うじゃない? 覚悟は出来ているんでしょうね?」
多数の軍人から突きつけられる銃。
「コウキ君!」
大丈夫ですって。ミナトさん。
「その為の映像ですよ。現在、このブリッジの光景は全て録画されています。
無力な市民に銃を突きつけている傲慢な軍人という絵柄で映っているんじゃないですか?」
「う、嘘よ!」
「殺します? そうなると映像がきちんと記録されてますから、貴方の責任問題になるでしょうね。
って事は、今まで貴方が築き上げてきた経歴は全てパーです」
正直言えば、今の俺は強がってるだけ。
銃を突きつけられてて怯えるのは俺だってそうだ。
でも、毅然としてなっきゃ示しがつかない。
「それに本当は弾なんて入ってないんじゃないですか?
威嚇射撃の跳弾で殺してしまったなんて事になったら本末転倒ですし。
貴方は危険な橋は渡らない人でしょ?」
「・・・・・・」
これはカマかけ。
ムネタケ・サダアキの臆病さならそうすると思っただけだ。
「そ、そんな事な―――」
「機影反応。所属は連合軍です」
副提督の言葉を遮るように告げられたルリ嬢の言葉。
来たか。第二の爆撃が。
「ミナトさん。セレスちゃん。耳塞いで」
「え、ええ」
「・・・分かりました」
どうにか耳を塞いでもらえた。
俺達が耳を塞いだとほぼ同時にモニターに現れるカイゼル髭のオジサン。
来るぞ!
「ユリカァァァァ!」
「お、お父様!?」
連続爆撃で不協和音で頭が痛い。
「ぐぉ!」
「・・・また聞こえませんな」
すいません。また救えませんでした。
「お、お父様!?」
ま、驚くよね。
遺伝子的繋がりがどこにも見えないし。
「これは一体どういう事ですか!?」
「ユリカァ。私も辛いのだよ」
「ミスマル提督。どのようなご用件でしょうか?」
「コホン。私は連合宇宙軍第三艦隊提督ミスマル・コウイチロウである。
機動戦艦ナデシコ。武装を解除し、停船せよ」
「・・・・・・」
色々と台無しですよ。
「困りますなぁ。提督。ネルガルはきちんと軍に許可を得ている筈ですが?」
「このような戦力を民間企業に運営させる訳にはいかんのだよ」
「そういう事よ!」
この狐が!
後ろ盾が来たからって強く出やがって。
「はぁ。困りましたなぁ。我々にも目的があるのですが」
「そちらの言い分は後で聞こう。まずは停泊させたまえ」
毅然と告げるカイゼルオジサン。
こう見ると軍人らしいんだよな。
「それでは、交渉といきましょう」
「よかろう。但し、そちらのマスターキーは預からせてもらう」
有効的だな。
マスターキーがなければ何にも出来ないんだから。
だが、しかし、俺が擬似マスターキーを作った今、その策は無意味だ。
「艦長! 抜くな! これは敵の策略だ!」
結構、鋭いんだな。ヤマダ・ジロウ。
きちんとマスターキーについて理解している。
「いや。ユリカ。提督にマスターキーをお渡しするんだ!」
「・・・ジュン君」
この状況でよくそんな事が言えるな。
ほら。ブリッジクルー全員が白い眼で見てるぞ。
「こんな戦力をむざむざと無駄にする必要はない。これは地球を護る為に必要な艦なんだ」
「・・・・・・」
悩んでいるみたいだな。ユリカ嬢。
でも、すぐに抜くんじゃなかったか?
カイゼルさんに用があるからって。
「ちょっといいか?」
え? テンカワさん?
「ん? 何だね? 君は」
「テンカワ・アキト。この艦でパイロットを務めている」
「うむ。パイロットが何だね?」
「貴方はこちらの状況を理解しているだろうか?」
「ふむ。ナデシコが木星蜥蜴に有効であると―――」
「そうではない。連合軍の兵士達が今、俺達に何をしているのか理解しているかという事だ」
「致し方ないのだよ。我々はなんとしてもナデシコを確保しなければならない」
「市民を脅してでもか?」
「・・・市民を護る為に強い力を求めるのは当然の事だ」
苦々しい表情をしているな。
やはり市民を脅すという行為は嫌いらしい。
「だが、市民に銃を突きつけたという事実をどうするつもりだ? 我々はこの映像を記録している」
「何!? ムネタケ君!」
「え、あ、その、それは・・・」
失態に狼狽えているっといった所か?
「我々がこの映像を公開したらどうなるか分からない訳ではあるまい」
「・・・何が要求だ?」
「話が早くて助かる。我々の要求はナデシコを見逃す事。
あくまでナデシコの運営権はネルガルにある」
「それは出来ない相談だ。我々は市民の為に何としてもナデシコを確保しなければならない」
「・・・なら、マスターキーはこちらで預かった上で交渉としてくれ。
いざという時に動けないのは困る」
「木星蜥蜴の事かね?」
「ああ。何があるか分からないからな」
「その時は我々が諸君らを護ろう」
「ただの戦艦で対処できないからナデシコを求めているのだろう?
そちらが我々を護れるとは到底思えない」
「・・・仕方あるまい。その要求を呑もう」
「感謝する」
・・・そうか。始めからそれが狙いだったのか。
チューリップに襲われた時、ナデシコが動ければクロッカスとパンジーを助けられるもんな。
テンカワさん達はそうやって護ろうとしたか。
俺の擬似マスターキー、無駄になっちゃったな。
「但し、諸君らには一箇所に纏まっていてもらう。何かされたら困るのでな」
「・・・致し方ない」
食堂に監禁って訳か。
ま、すぐに取り戻すんだろうけど。
「それでは、参りましょう。艦長」
「はぁ~い。お父様。待っていてください」
「うんうん。ユリカ。早くおいで」
「あ、ちょっと待って。僕も行くよ」
プロスさん、艦長、副長が出て行く。
あのさ、艦長がいなんだから副長が指示ださなくちゃ駄目でしょ。
副長ってそういうもんじゃないの?
「・・・他のクルーはどこに拘束されているんだ?」
テンカワさんが副提督に訊ねる。
「ふ、ふん。食堂よ。連れて行きなさい!」
・・・調子取り戻しやがった。
むかつく野郎だな。
「マエヤマ・コウキ。残念だったわね」
ニヤニヤした顔で、この野郎。
お前の手柄じゃないだろうが。
「結局は権力なのよ。これでナデシコは私の物」
言ってろっての。
・・・こうして、俺達は食堂で監禁された。
「あぁあ。夢の旅路もここで終わりか。また女房のケツに敷かれんのかよ」
ウリバタケさん。
駄目男に見えますよ。
「私達、これからどうなるんでしょうか?」
皆が皆、暗い顔をしている。
そうだよな。軍人にブリッジ占拠されて、監禁されているんだ。
不安になるのも当然か。
「おいおいおい。何を暗くなってるんだよ!」
「当たり前じゃないか。希望が絶たれたんだからよ」
そんなに家から逃げたいんですか?
「そんな時はこれだ!」
ビデオテープを掲げるヤマダ・ジロウ。
噂のゲキ・ガンガーか。
「お? 何だ何だ?」
「元気が出る熱い奴だよ!」
「ほぉほぉほぉ。お前も男だな」
「おうよ! 熱く燃えるのさ!」
残念ですが、ウリバタケさんが考えているのとは違うと思いますよ。
というか、こんな公衆の面前でいかがわしいものはありえないかと。
「何だこりゃ? アニメかよ」
「なにぃ!? ゲキ・ガンガーを馬鹿にするな!」
わいわいと騒がしいな。
ま、元気が出て良いか。
暗くなくなったし。
「マエヤマさん」
「マエヤマ」
「・・・・・・」
ん? ルリ嬢とテンカワさんか。あ。ラピス嬢もいるな。
どうしたんだろう?
「お前は―――」
「コウキ君」
「ん? あ。ミナトさん」
テンカワさんの言葉を遮って俺に近付いてくるミナトさん。
何だろう? どうかしたのかな?
「何です? どうかし―――」
バチンッ!
「・・・え?」
殴ら・・れた?
頬が焼けるように痛い。
でも、そんな事より、何で?
「・・・・・・」
無言で俯くミナトさん。
俺からはどんな表情をしているのか分からなかった。
「・・・どうして?」
「え?」
「どうしてあんな危険な真似したの!?」
「危険な真似?」
「銃を持っている相手に挑発するなんて何を考えているのよ!?」
「ちょ、挑発だなんて。俺は」
「バカ!」
叫びと共に抱き締めてくるミナトさん。
その顔には涙が浮かんでいた。
顔を真っ赤にして、怒りながら・・・泣いていた。
「私、コウキ君が殺されちゃうんじゃないかと思った」
「・・・ミナトさん」
そっか。俺の為に・・・泣いてくれているんだ。
「撃たれないって自信があったのかもしれない。
でも、相手は人間なの。逆上したら何を仕出かすか分からないわ」
「・・・・・・」
「ずっと怖かった。いつかコウキ君が撃たれるんじゃないかって。
・・・無茶しないで。貴方に死んで欲しくない!」
必死に縋りつくミナトさんが小さな子供みたいに見えた。
俺なんかの為に泣いてくれるミナトさんを愛おしく思った。
「・・・すいません。ミナトさん」
だから、俺には謝る事しか出来なかった。
弱々しく震えるミナトさんを力強く抱き締め、心の底から。
「心配・・・かけましたね」
「・・・・・・」
「本当にごめんなさい」
原作で誰も撃たれなかったから大丈夫だと思ってたんだ。
もう原作とは違うって理解していたのに。
殺される訳がないって過信して。
「・・・許さないわ」
「え?」
「絶対に許してあげない」
「えぇっと」
困ったな・・・。
「どうすれば許してくれるんですか?」
「・・・して」
「え?」
「・・・キス・・・して?」
「・・・ミナト・・・さん?」
「・・・キス。貴方がここにいるって私に教えて。私に貴方の存在を感じさせて」
・・・いつからだろう。
ミナトさんの事を想い始めたのは。
始めは単純だった。
ミナトさんが俺に温もりと暖かさをくれたから。
きっかけはたくさん。
死んだら悲しんでくれるかなって思いを否定されたと誤解して勝手に心を痛めて。
悲しんでくれるんだって分かった瞬間、喜びが込み上げてきて。
想ってくれているんだと実感して、嬉しくなって。
近くにいてくれるだけで心が落ち着いて。
・・・傍にいてくれるだけで幸せで。
あぁ。やっと気付いた。
俺はミナトさんが・・・。
「・・・ミナトさん」
「・・・コウキ君」
・・・大好きだったんだ。
SIDE MINATO
コウキ君が殺される。
そう思っただけで心が引き裂かれるように痛かった。
失いたくない。傍にいて欲しい。
そんな想いが胸の中で膨らんできて・・・。
堪らなくなった。
暗闇の中を歩いているように、心が、身体が、恐怖で震えた。
怖くて怖くて堪らなくて。
気付けば、頬を叩いていた。
どうしてそんな事をするのか?
何故、私の想いに気付いてくれないのか?
やり場のない怒りと悲しみで心がぐるぐると渦を巻いて。
そして、無意識に彼を求め、温もりを求めた。
視界は涙で滲み、足は恐怖で震え、腕は探し物を探すように彷徨う。
少しでも早く、少しでも強く、少しでも・・・。
私は必死に彼に縋りつく。
そこにいるんだって実感したくて。
死んでないんだって実感したくて。
でも、全然足りなかった。
温もりが、優しさが、私には全然伝わってこなかった。
存在を感じたい。
温もりを感じたい。
優しさで包まれたい。
だから、私は・・・。
「・・・ミナトさん」
「・・・コウキ君」
・・・唇で貴方を感じた。
SIDE OUT
「・・・コウキ君。好きよ」
「・・・ミナトさん。大好きです」
暖かくて、ずっと抱き締めていたかった。
唇の感触が心地良くて、ずっと触れていたかった。
見上げるように見てくる彼女が愛おしくて、俺は・・・。
パチパチパチパチパチ。
「え?」
「え?」
・・・・・・・・・・・・・・・あ。
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「・・・グゥゥゥ・・・ギィィィ・・・おのれぇぇぇ!」
こちらを見る数多の視線。
女性陣の叫びと男性陣の血走った眼。
「・・・ミナトさん。これって」
「・・・え、ええ」
胸の中に収まるミナトさんと顔を見合わせる。
顔に赤みを帯びているミナトさんを可愛らしく思いながら、近くにいた女性に訊いてみた。
「あの、見てました?」
すると・・・。
「うん。もう。バッチリ」
・・・素敵な返答をありがとうございます。お姉さん。
「・・・・・・」
興味やら歓喜やら憤怒やらの視線を向けてくる周囲を見渡した後、
俺は見詰めてくるミナトさんを見詰め返して・・・。
「・・・とりあえず」
「とりあえず?」
「もう一回御願いします」
「もぅ。バカ」
見せ付けるようにキスしてやった。
「マーエーヤーマーコーウーキー!」
「テメェ! この野郎!」
「呪い殺すぞ! クソガキが!」
ふっ。ミナトさんは俺の物だ。
「開き直ると凄いのね。コウキ君って」
お褒めに預かり至極光栄。
「クゥ~~~! 熱いぜ。燃えるぜ。敵の策略に嵌り閉じ込められたクルー。
助けを求める子供達。愛し合う男と女。一致団結し、基地を取り戻す主人公」
おぉおぉ。盛り上がってるじゃないか。ダイゴウジ・ガイ。
「自由を勝ち取れぇ! 基地奪還だぁ!」
「うるせぇ!」
ウリバタケさんの鉄拳がガイ、改め、ヤマダ・ジロウの後頭部へ飛んだ。
「グハッ!」
・・・痛そぉ・・・。
「おい! コラッ! マエヤマ!」
「何ですか?」
「テメェ! ミナトちゃんを俺に寄越せ!」
「馬鹿言わないで下さい。ミナトさんは俺の物です」
「コ、コウキ君」
誰にも渡さない。
掴んだ物は放さない主義ですから。
「クソォォォ! チッ! 野郎共ぉ!」
「へイッ! 主任!」
・・・お前ら、どこの賊だよ?
「桃色の幸せを求め、こんな所抜け出してやろうじゃないか!
自由を奪え! 愛を掴み取れ! 次は俺達の番だ!」
「オオォオォオォオォ!」
凄まじい咆哮だな。
やる気が漲り過ぎだろ。
「な、何だ? 今の叫び声は」
叫び声が聞こえたんだろうな。
見張り番の兵士が扉を開けてこちらを覗き込んで来た。
「いくぞぉぉぉ! 続けぇぇぇ!」
「オオォォッォォオォ!」
「お? お? な、何だ? 何なんだ? うわぁぁぁ!」
哀れ。名も無き兵士は人の波によって押し潰されてしまいましたとさ。
「おい。マエヤマ」
「・・・テンカワさん」
怒涛の勢いで走っていく男性陣を見送る俺にテンカワさんが話しかけてきた。
「お前は食堂を護れ。時期が来たら連絡する。その後、ブリッジクルーをブリッジまで連れて来い」
「了解しました」
フッと笑って男達の方へ走り出すテンカワさん。
そして、男達の波の先頭に立って。
「ナデシコを取り戻す。ゴートさんと何人かは俺とブリッジへ。残りは格納庫だ」
「おう!」
「よし。行け!」
「うおっしゃぁぁぁぁぁぁ!」
凄まじい勢いだな。おい。
「・・・コウキ君」
未だに胸の中にいるミナトさん。
どうしよう。放したくないけど・・・。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
女性達の好奇の視線に耐えられません。
「大胆ですね。マエヤマさん」
今更ですが、恥ずかしいので言わないで下さい。メグミさん。
「おいおい。熱過ぎて火加減間違えるだろ? 他所でやっておくれよ」
茶化さないでくださいよ。ホウメイさん。
ニヤニヤしてて丸分かりです。
「・・・ポッ」
子供にはちょっと早かったかな?
「・・・いいなぁ・・・」
すぐに恋人できますよ。ホウメイガールズの皆さんなら。
「・・・私もアキトさんと・・・」
「・・・アキトと・・・」
口に出したらまずいんじゃない? その台詞。
「あの、さ、恥ずかしいんだけど」
背の関係で見上げるように俺を見てくるミナトさん。
潤んだ瞳と頬を赤く染めた顔が愛し過ぎる。
「嫌・・・ですか?」
「え? い、嫌じゃないのよ。ただ―――」
「じゃあ、いいじゃないですか」
ふっ。恥ずかしさも限界を超えれば問題ないのさ。
今の俺に羞恥心という言葉は存在しない。
「もぉ。人が違うみたいに大胆になって。普通逆でしょ?」
「偶にはいいじゃないですか。いじられるミナトさんって可愛いですよ」
「ッ!」
息を呑んで、もっと赤くなる顔。
あぁ。もう駄目だ。末期だな。
「まだ放したくあ―――」
『こちらテンカワだ。ブリッジを取り戻した。至急、な、何だ?』
良い所なのに邪魔するからです。
「睨まないの。アキト君。分かったわ。すぐに向かうわね」
『りょ、了解した』
ちぇっ。他の男と話しちゃってさ。
「あら? ヤキモチ?」
「そ、そんなんじゃありませんよ」
何で分かるんだ?
「顔に出てるわよ」
「ふ、ふん。他の男と話すミナトさんがいけないんです」
「ふふふ。拗ねちゃって。可愛い。続きはまた後でね」
「し、仕方ないですね。それなら」
渋々、本当に渋々ミナトさんを放す。
「ほら。行くわよ」
「はい」
手を引かれながら、俺とミナトさんはブリッジへ向かった。
どうやら、これからもミナトさんに引っ張られる事の方が多そうだ。
「ねぇ? 私達の事、忘れられてないかな?」
「・・・仕方ありませんよ」
「・・・いく」
「・・・ポッ」
「ようやく来たな」
ブリッジに辿り着いた俺達の視界に映るのは縛られた兵士達と気絶したキノコ副提督。
あ。提督はここで監禁されてたんですか。
「アキト君は?」
「格納庫へ向かった。艦長とミスターを迎えに行くらしい」
テンカワさんは時間稼ぎか。
クロッカスとパンジーはどうなったんだ?
間に合ったのか?
「遅れました」
「すいません」
あ。忘れてた。
「・・・マエヤマさん」
ジト眼で見られてしまいました。
すいません。
「ごめんごめん。ルリちゃん。状況を」
「はぁ・・・」
呆れられちゃった。
「チューリップ、こちらに接近中。
途中、連合軍所属クロッカス、パンジーの両艦が襲われたようですが・・・」
・・・クソッ。間に合わなかったか。
「乗組員は脱出済みです。怪我を負った方もいるようですが、全員、命は無事です」
「そう。アキト君の時間稼ぎが功を奏したのね」
ほっ。良かった。
流石です。テンカワさん。
「アキトさんが足止めしているので接近といっても微速です。今のうちに対策を」
・・・確か、原作だとチューリップに突っ込みつつグラビティブラストだったよな。
あれは相転移エンジンの出力が低くて、普通に撃つだけじゃ力が足りなかったからだろ?
今回はどうなんだろう?
『こちらダイゴウジ・ガイ。いっくぜぇ!』
って、おい。ちょっと待て。
勝手に出撃するな。
「メグミさん。ウリバタケさんに―――」
『もう遅ぇ!』
あ。前方にヤマダ機確認。
苦労をおかけます。ウリバタケさん。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
・・・どうしようか?
「アキトさん。そちらにヤマダさんが向かいました。対処の方、お願いします」
『骨折しているのに無茶をするな、ガイの奴。了解した』
面倒をおかけします。テンカワさん。
「艦長の乗ったヘリコプターを確認。アキトさん。ヤマダさ―――」
『ダイコウジ・ガイだぁ! ガイ! ガイ! ガイィ!』
「・・・両名はチューリップを引き付けつつ、艦長の防衛を」
どうやら、今回も同じ作戦になりそうだな。
「ルリちゃん。レールガンで援護に入る。良いかな?」
「現在の指揮権は提督にあります。提督に許可を」
今まで結構、自由にやってたよね? 俺達。
今更感が漂っているんですが。
「提督。よろしいですか?」
「うむ。じゃが、どうするつもりじゃ?」
「本体に当てるとこちらに注意が向く可能性がありますので、
両パイロットを狙う触手を蹴散らします」
「む、無理です。この距離であんな細いものに当てるなんて」
ふっふっふ。ルリ嬢。
俺を甘く見てもらっては困る。
「オモイカネ。レールガンセット」
『セット開始』
コンソールに手を置いて、オモイカネに指示。
その後、懐からサングラスのようなものを取り出す。
「コウキ君。それは?」
「ウリバタケさんの力を借りて作った精密射撃専用のシューティングレーダーです」
このサングラスみたいなのはイメージ次第でズームインやズームアウトを行え、
かつ、レールガン一つ一つの標準を合わせられる射撃モニターを映し出す。
また、逐一情報も送られてくるからまるでエステバリスから射撃するように精密な射撃が行える。
手元の端末と同期してあり、コンソールからの指令にこいつは従ってくれる訳だ。
名付けて精密君。ごめん。嘘。
『セット完了』
誤差修正ソフト、未来予想ソフト、空間把握ソフト。
これらスナイパーにとって涎ものの精密射撃ソフトを導入しているんだ。
俺が外す訳がない。
『う、うわっと』
早速出番だ。
ダンッ!
「す、凄い。この距離を・・・」
驚くのはまだ早いぜ。ルリ嬢。
『ナデシコ。助かったぜって、うお!』
ダンッ!
世話が焼ける。
『よっしゃぁ。このダイゴウジ・ガイ様の勇姿。見てやがれって、ダハッ」
ダンッ!
「ねぇ、ルリちゃん。ヤマダ・ジロウ。下げてくれない?」
「言う事を素直に聞いてくれるとは思えませんが?」
「・・・それもそうだね」
まさか、触手に翻弄されているヤマダ・ジロウを助ける為だけに、
レールガンを使う破目になるとは思わなかったよ。
ま、テンカワさんに援護なんて必要ないだろうけど。
「艦長。着艦しました。すぐに来るかと」
「了解した。援護を続ける」
メグミさんもミナトさんも自分の仕事をしている。
ラピス嬢もセレス嬢もルリ嬢のフォロー。
うん。艦長がいなくてもやっぱりプロだな。
誰もが何をすべきか把握して、きちんと動いている。
「ナデシコで対処致しますので退避してください」
『しかし・・・』
「再度申します。ナデシコ以外で対処できませんので、退避を御願いします」
『・・・了解した』
これで連合艦隊が巻き込まれる事はなくなったな。
ナイスです。メグミさん。
「コウキ君。射線上に何もない位置へ移動したわ。これでGBを撃っても被害は皆無よ」
かなり細かい微調整だったでしょうに。
助かります。ミナトさん。
「グラビティブラスト装填完了」
「・・・いつでも撃てます」
よし。後は艦長を待つだけだ。
「ルリちゃん。チューリップの様子は?」
「ほぼ停止状態です。アキトさんとヤマダさんに引き付けられています」
対処可能な環境を整った。
後は艦長の裁量によるな。
「お待たせしましたぁ!」
帰ってきたみたいだ。
「いやはや。大変でしたぞ」
「・・・・・・」
やっぱりジュン君は忘れてきたんですね。
「状況を」
「チューリップは両パイロットによって停止状態。グラビティブラスト発射準備完了」
「ミナトさん。射線上にチューリップを」
「とっくに終わってるわよ」
「メグミちゃん。連合軍に退避するよう連絡入れて」
「完了済みです」
「わお。皆、早いですね」
「感心してないで指示を御願いします。艦長」
こうまで周りが優秀だと艦長も楽だろうな。
「それではチューリップに気付かれないよう微速前進。チューリップの口にナデシコを接近させます」
「え? チューリップにくっつけるの? どうなっても知らないわよ」
ま、まぁ、普通はそうですよね。
「御願いします」
「はぁ~い」
説明してないんだけどな。
結構、お気楽ですね。ミナトさん。
「こちらの合図でいつでもグラビティブラスを撃てるようにしておいてください」
「了解」
徐々に迫るチューリップの姿。
触手を使ってエステバリスを払う姿はチューリップというよりはハエトリグサ?
いや。違うか。
「もっとです。もっと、もっと、近付いてください」
「食べられちゃうわよ?」
「構いません」
「あ、そう」
いやいや。構おうよ。
「・・・・・・」
暗い空間の中に入っていくのって結構怖いよね。
気味が悪い。
「・・・食べられちゃった」
呆れるように告げるミナトさん。
貴方も大概余裕ですよね。
「グラビティブラスト。放てぇぇぇ!」
「グラビティブラスト。発射します」
艦長の感情の篭もった叫びにルリ嬢はクールに告げる。
ま、対照的な二人だけど、それが良いバランスなのかな? ナデシコでは。
「チューリップの撃破に成功。エステバリスは帰還してください」
「やったぁ!」
「やはり逸材だな」
高評価を得て満足そうなユリカ嬢。
周りも一安心って所かな。
「無茶するわね。艦長って」
「ま、結果よければ全て良しって奴ですよ」
「それもそうね」
顔を見合わせてミナトさんと笑い合う。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
な、なんか、照れるな。
「見詰め合っちゃってるよ。ルリちゃん」
「構いません。作戦は終了してますから」
「・・・ルリ。興味あるのバレバレ」
「なっ!?」
「・・・ポッ」
・・・聞こえてますよぉ。
「うふふ」
「ははは」
もう笑うしかないよな。
「どういう事ですか?」
「私も気になりますな」
「後で教えてあげますよ。艦長。プロスさん」
・・・結局、テンカワさん達パイロット組が帰ってくるまで照れ隠しをしていましたとさ。
「あ。副長はどうしました?」
「ジュン君? そういえば、どこに行ったんだろ?」
「・・・忘れてきましたな。いやはや。歳を取るとは怖いものです。ハッハッハ」
「・・・可哀想に」
というお約束があったのも忘れちゃいけませんよね。
・・・はぁ。次はビックバリア突破か。大変だな。
ご愁傷様です。ジュン君。
「マエヤマ・コウキ。一人の介入者の影響がここまでとは」
「ミナトさんと結ばれてしまうなんて」
「ツクモさんと結ばれるべきだと思っていたんだが・・・」
「それもありますが、どことなく違和感があります。
私がオモイカネに秘密で御願いしてたのを知っていましたし」
「ルリちゃんが本気で隠したのをあいつは簡単に見つけてしまったという訳か。
電脳世界で最強を誇るルリちゃんの」
「ええ。彼の影響がどれ程になるかまるで検討がつきません。もしかすると・・・」
「俺達の計画に支障をきたすかもしれんな」
「あの精密射撃もそうです。あんな事、普通の人には出来ません」
「射撃には慣れていたつもりだが、あそこまでの精密射撃は俺にも無理だな」
「能力を隠している。何故かは知りませんが、私はそう思います」
「隠さなければならない理由がある。そう考えるべきか?」
「はい。彼の本当の目的が何なのか。それを見極める必要がありそうです」
「仲間を疑わなければならないとはな」
「仕方ありません。私達の計画を邪魔される訳にはいきませんから」
「あの状況でバラされるとは思わなかったからな。どうにか交渉に利用できたが・・・」
「もともとオジサンとの交渉に使うつもりでしたからね。
キノコさんはどうでも良かったんです。意味がなくなるかと心配になりました」
「これからもそんな事をされたらいずれ邪魔になるな」
「・・・どうしましょうか?」
「・・・そうだな」
「・・・・・・コウキ。良い人だと思う」
「・・・それでも、計画の為なら仕方ありません」
「・・・分かってくれるよな? ラピス」
「・・・分かった」
「あれ? ミナトさん。胸元。どうしたんです? いつも開けてたじゃないですか」
・・・・・・・・・あれ? いつの間に食堂に?
あれ? 俺っていつの間に着替えてたの? あれ?
何で眼の前に朝食が? ま、いっか。食べよう。
「当たり前じゃない。あそこはコウキ君専用なの。もう誰にも見せてあげないわ」
「ゴホッ」
グッ! 気管に詰まった!
「な、何を言ってるんですか!?」
「あら? 誰かに見せてもいいの? 私の胸元」
「胸元と言わず何でも見せたくありません。視界に入れる事すら嫌です」
「うふふ。独占欲が強いのね」
「・・・ご馳走様です」
何か昨夜からの記憶がないんだよな。朝とかどうなってたんだっけ?
制服を着た覚えもないんだけど・・・。ま、いっか。食べよう。
「マエヤマさん。ボーっとしてますね。どうかしたんですか?」
「泊まっていったもの。コウキ君」
「・・・それって」
「ええ。昨夜は大変だったわ。コウキ君ってば初心だし。
朝だって私が着替えさせてあげたのよ。ずっとボ~っとしてて」
「ゴホッ」
「・・・ご馳走様です」
グッ! 気管に詰まった!
「えぇっと、その、あの・・・」
お、思い出したぁ!
お、俺って・・・。
「あら。真っ赤」
「分かりやすいんですね。マエヤマさんって」
微笑ましいみたいな眼で見ないで下さい。
「あぁ~あ。せっかく狙ってたのに」
「ごめんなさいね。我慢できなくなっちゃって」
「いいですよ。お似合いですもん。ミナトさんとマエヤマさん」
「・・・・・・」
「思考停止中みたいね」
「結構、手馴れてそうに見えたんですけどね」
「女性経験が少ないんでしょ? ま、私としては私色に染められるみたいで嬉しいけど」
「姉さん女房って奴ですか?」
「そうね。コウキ君ってまだまだ頼りないし。私が引っ張ってあげなくちゃ」
「じゃあ、これからマエヤマさんをミナトさん色に染めちゃう訳ですね」
「そうよん。うふふ。楽しみ」
「・・・・・・」
「まだ思考停止中ですよ」
「まったく。コウキ君ったら」
「・・・・・・」
「フゥゥゥ」
「ひゃっ」
ゾ、ゾクっときた。
「な、何ですか? って、近い近い」
「耳が弱いのよねぇ。コウキ君って」
「耳に息ですか。典型的ながら有効的な訳ですね」
「何を真面目に解説してるんですか。メグミさん」
「あら。いいじゃない。ゾクってきたでしょ?」
「そ、そりゃあきましたけど―――」
「フゥゥゥ」
「や、やめてください」
ゾ、ゾクっときた。
「朝からお腹一杯です」
「とめてくださいよ。メグミさん」
「フフッ。嬉しそうですよ。マエヤマさん。私は馬に蹴られたくないので失礼しますね」
「メ、メグミさん。待ってください」
・・・行ってしまった。
「恋人の前で違う女性を呼び止めようとするなんて、いけない子ね。コウキ君」
「ミ、ミナトさん」
「罰ゲームよ。フゥゥゥ」
「ひ、ひゃっ」
・・・周囲の視線が気にならなくなった日の事でした。
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