ヤクザの学校(6/28)縦書き表示RDF


2008年最初の投稿です。遅れましたが、皆様あけましておめでとうございますm(__)m
ヤクザの学校
作:タンポポ



教訓その六〜チャンスに打ち勝て!



30分が経過し、グランドにやってきた俺達。

軽く体を温め、試合が開始した。

対戦相手グローリーは、皆男で体付きは高校生。慎重も高く、どう見たって小学生対大人だ。

先攻は俺達。オーダーは一回戦からずっと同じなので一葵からだ。

バットを長く持っていた一葵だったが、今回は軽いバットを短く持っている。目付きも真剣だ。真面目な一葵はなんか変だな。

ピッチャーは噂の二ノ宮だ。さて、お手並み拝見だな。

大きなモーションから放たれたボールはズドンと音を立ててキャッチャーミットに納まった。

「はやっ!何今の!いや速過ぎるだろぉ!」

打席で一葵が騒いでいる。まぁ誰の目から見ても今のは打てんわな。

マジで速い。ヒナレベルじゃないと打てねぇぞ、あんなもん。

二球目、一葵はバットを振ってみるが、タイミングが合わない。ミットにボールが入ってから振っている。

野球経験者の一葵がこれだ。こいつはちっと骨が折れそうだぜ。

三球目、なんとかバットに当たったが、力負けした打球はボテボテのピッチャーゴロ。

あっさり討ち取られてしまった。

ベンチに戻ってきた一葵は絆創膏ばんそうこうを手の平に張り出した。

「今の一降りで皮持ってかれた。手が痺れてやがる。なんて質の重い球投げやがる…!」


おいおい、マジかよ。
下手投げであんな速い球投げられるってだけでも凄いのに…。

一葵でこれだ。女の子のレイナには危ないんじゃ…。

『レイナ!俺が代わろうか?』

「……え?あ、いえ、その、大丈夫です」

…? なんか動揺してるように見えるな。やっぱり恐いんじゃ…!

『危ないからさ、無理だけはしないでくれよ』

「本当に大丈夫です。し…心配してくれて…ありがとうございます」

「よかったねレイナ!大好きなジンく…」

「何言ってんのヒナ!あの、違いますから。じゃあ行ってきます」

…なんだこの子達は…?

「ふんっ!デレデレしてんなよジン!」

マヤに背中を叩かれ、試合に集中した。

「あ、ジンくん。レイナなら大丈夫だよ」

ヒナはやたらと安心そうに見ている。

男の一葵だって力負けしたのに、レイナの細い手じゃどうする事も…。

そっか! 二ノ宮は女の子相手だから手加減して投げてくれる…

〜ビュシュ!!〜

わけないか…。
むしろ一葵の時より目付きが本気だよ…。


〜パコーン〜

それを打っちゃったよ!

「レイナって案外、力あるみたいよ。ほら、あの子も裏の世界で育ったし」

ヒナがパチパチと手ばたきしながら、顔を俺に向けて言う。

いや、え? あぁ、はい。そうですか。と、納得するしかなかった。

打球は綺麗にセンター返しでヒットとなった。

女の子に打たれた二ノ宮はショックなのだろうか、妙に苛立っている。


「次はアタイか…」

マヤが二・三回、素振りをして、こっちを見た。

「……………」

『どうした?』

「…は!?何でもないよ!」

…だから、なんなんだよ!

「まったく…アタイの事は心配してくれないのかい…」

打席に向かうマヤの背中は小さく見えた気がした。

怒ったり落ち込んだり大変だな、マヤも。

『なぁ一葵、なんかマヤ元気なくない?』

「ふっ、お前鈍い上にムカつくな。殴っていいか?」

「ジンくん、レイナの事泣かしたら許さないからね!あとマヤちゃんも!」


訳分かんねぇって皆!


おっと、それより試合に集中しないとな!

マヤからは急に怒のオーラが見えた。


だが、力んだのがいけなかった。

ランナーがいる時はゴロを打つのが良いが、フライが上がってしまった。

守備が少ない分、ダブルプレーの可能性がないのだから、これはいただけない。

だが、一葵でも《当てる》のが必死だったのに、マヤは《打った》のだ。この差は大きい。



『女の子なのに良く頑張った』
「女の子ってのは辞めろ!」

随分と機嫌悪いな…。
あ、もしかして怪我でもしたか?

一葵の手の皮がめくれる程の剛球らしいしな。

『マヤ、ちょっと手ぇ出してみ?』

俺はマヤの手を掴んで、手の平を確認した。なぁんだ、無事じゃないか。よかったよかった。

「……な!なに手ぇ握ってんだテメェ!」

『いや、怪我はないかと…』

「心配…してくれたの?」

『あぁ、そりゃまぁ』

「あ…ありがと。でも礼は言わねぇからな!」

言ってるじゃねぇかよ。


「ジン、やっぱ殴っていい?」

なぜ!? ってかさっきから何で一葵は怒ってんのかも分からねぇ。

〜ズドン!!!〜

ミットの音に体がビクッと反応し、試合をしていた事を思い出した。

「速い、やるね、君」

ヒナは楽しそうだった。

女の子に挑発され、二ノ宮は怒り心頭、爆発寸前だった。

プルプルと震え、今にも暴れ出しそうだ。

「二ノ宮、落ち着け。相手は女の子だぞ?」
「っせぇな!黙ってろ!」

チームメイトの励ましにも冷たい態度。血の気が多いな。なるほど、甲子園出場を剥奪された原因がコイツなのも頷ける。

「こんな奴らによ…」

二ノ宮は一塁にいるレイナを睨み付けた。さっきヒットを打たれた事をまだ根に持っているのか。困ったボーヤだぜ。

「あぁー!ムカつく!ムカつく!ムカつく!」

まるで餓鬼だな。高校生ってこんなもんなのか?

「いいから早くぅ〜♪」

ヒナの方が大人に見えるのは…気のせいだな、絶対。

「この…!」

今日一番の大きいモーションから放たれたボールを、ヒナは難無く打ち返した。

「なにっ…!」

センターの頭を越えた打球。しかし、守備の人の足が速い。

返球も手際よく、ヒナは二塁止まり、レイナはホームに帰れず、三塁止まりとなってしまった。


でも状況は押せ押せだ。

このまま先取点も取れるぞ!



…あ、次俺か。


『さぁーて、んじゃ行ってくるかな』

「バット振るの久しぶりだろ?こんな絶好のチャンスで鈍ったなんて言わせねぇぞ?」

『…知ってたのか?』

「野球選手の情報は特に…な」

全く、一葵はどこからそんな情報を仕入れてくるんだか。

俺はバットを手にとり、バッターボックスに向かった。

「そのバットじゃねぇだろ。お前のはこっちだ」

そう言って一葵は持参したバットケースから、あるバットを渡してきた。

全く…本当によく知ってやがるぜ。

「え?なに?ジンって野球上手いのか?」

「まっ、見てれば分かるよ」

打席に入って構える。
…が、二ノ宮は構えようとしない。

何だよ、ヒナのヒットまで気にしてんのか?

やだやだ、そんなんでいちいち試合を中断させられちゃたまらないぜ。

「くそ…くそ!女なんかに…二回も………あ?」

お、やっと俺に気付いた。


「テメェ!舐めてんのか?この俺を!」

『いや、俺は至って真面目ですぜ?』

「じゃあ何だよ、そのバットは!?」

『あ、これ?《ビヨンドMAX》』

バットは木製、金属製の主に二種類だ。

だが、ビヨンドMAXとは、普通のバットとは違い、ミートする部分がゴムでできている。

指で押してもヘコむぐらいだ。

ジャストミートすれば飛距離は凄いのだが、ミートできなければダメ。まさに一か八か。

…と、言うより、力があって自信があるものでないとこのバットを使おうとはしないのだ。

自分の剛球に対してビヨンドで対抗する俺に腹が立ったのだろう。

「どいつもこいつも…俺を舐めるなぁあぁ!」


………あ!

と、皆が気付いた時には遅かった。

二ノ宮はソフトボールの投手が禁じられている《上手投げ》をしてきたのだ。

ついにキレたか。

予想通り、下手より上手の方が球速も球質も良いに決まっている。

だからこそビヨンドなのだ。

力には力。その反動はゴムの部分でカバーしてやるさ。


「なぁ、ジンってそんなに有名な選手だったのか?」

「ある意味…な」

「ある意味…?」

「中学生の頃、バッティングセンターでたまたまジンを見た事があったんだ。

ジンは柄の悪い連中と一緒だったが、初めて野球をやるみたいだった。

ジンは俺を覚えてなんかいなかったが、俺はジンを忘れた事なんてないさ。

だってよ…普通、右打ちの奴は左足を上げるだろ?

なのにジンの野郎は…」


『うおおおぉぉらぁ!』


「右足上げてバンバン打ってんだからよ!」



『逆一本足打法!!』



「その時ジンに貸してやった(本当はカツアゲされた)俺のバットが…ビヨンドMAXだったのさ」



空高く舞った打球は、そのまま勢いを無くす事なく飛んで行った。

誰が見ても文句なしのホームランだろ?

推定飛距離じゃ160は行ったな、ありゃ。


「凄いですジンさん。とってもカッコイぃ…あ、あの、その……」

「やるじゃんジンくん!でも変なフォームだね♪」

ホームベースについた俺を、先についたレイナとヒナが待っていて祝福してくれた。


ふぅ、何とか打ててよかった。内心ヒヤヒヤもんだったからな。


「二ノ宮くんには期待してたのになぁ…パートナーには向いてないや」

ってか二ノ宮は人として問題があるよね。

「なんで俺の投げた球があんな飛ぶんだよ!しかも上手投げしたんだぞ?マジありえねぇーー!!」

マウンドで怒り狂う二ノ宮。もうホントにあの人どうにかして…。

「ゲームセット!グローリーの反則負けとする!二ノ宮はペナルティー!」

審判の先生が叫んだ。
おぉ、そうだ。先生がいるじゃん。

良かったあ、二ノ宮の暴走を止めてくれるよ。


……………あ?

………俺今なんて言った?

先生がいて良かった?



こんなに先生を頼ったのはいつぶりだろう?



この学校に入ってからは、カスみてぇな奴を見てきた。

そいつらを見て苛々した。


真面目にやれ…って、違うだろ!


俺自身そんな偉そうな事言える立場じゃないだろうが!


今までの生活で、周りの真面目な連中から見たら…俺はカスみてぇな事ばっかしてたんだな…。



先生…。この学校卒業したら、まずアンタのとこに謝りに行くよ!



「うわあぁ!離してくれ!」

…人がせっかく気分良く語ってたのに…二ノ宮が先生二人に拉致されていった。


「仲間の声も聞かず、すぐ我を見失う。プライドばっかり高いし、たいした実力じゃなかったわね…」

おわっ!? なんかヒナがブツブツ言ってる。

キャラ違うだろ。いつもの語尾に♪マークはどうした。

「ちょっと頼りないけど…いざという時に出来るジンくんがイィ〜♪」

わゎ!? こら、ヒナ。抱き着くな!

「ちょっとズルイ!……じゃなくて、辞めなさいヒナ!」

「ジンくん!殺し屋やらない?」

『それは勘弁…』

「てめぇヒナぁー!ジンから離れろ!」

「きゃーマヤちゃんが怒ったぁー♪」

もういい加減にして下さいよホントに。


「ジン…コロス!」

その声は一葵からではなく、ヒナ親衛隊によるものだった。












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