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私は敵になりません! 作者:奏多
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ソーウェンにての会議

 国王軍が潰走。
 朝食の後で、商談のついでに優雅に会食をするのだろうなという、漆喰の白も柱の木目も美しい会議室に召集されて、告げられたのがそれだった。

 集まった人々は皆、落ち着いていた。
 レジーやアランは私の前世知識ノートを見ていた、というせいもあるだろう。
 他の人に関しては、この世界の文明レベル的に慌てようがないからかもしれない。

 どんなに急いで行きたくても、飛行機も鉄道もない世界だ。普通にシェスティナ侯爵領まで行こうとしたら、何日もかかる。ルアイン軍を倒しながらとなれば、一か月で済むかどうか。
 前世の日本だったら、その連絡が来た時点で食事抜きで集合しろとか言われたり、すぐに出発するといわれそうな事態だが、どうしようもないので、慌てないのだろう。

 一番落ち着きがなかったのは、朝から真っ青な顔をしていたソーウェン侯爵かもしれない。
 青い顔の原因は、おそらく夜中の件だろう。
 当主として身内の管理が行き届かなかった件について、レジーにいじめられたのに違いない。会議室に入る前に、レジーから『あの件についてはきちんと話がついたから』といわれた。

 ちなみに私の方も、夜のうちに、何かあったら魔術を使ってオーバーキルになった場合は、まずいだろうかと聞いておいた。
 レジーは笑いながら『問題ないよ。思いきりやると良い』って許可してくれた上、そのことも侯爵に告げると言っていたので、十分に脅してくれたのだと思う。
 私の方は、やりすぎてもおとがめなしと確認がとれたので、十分だったのだけど。

 そんなソーウェン侯爵も、報告を聞いてそちらに意識が向いたようだ。
 でも気にしているのは商売上のことのようだ。レジーに勝ってもらわないと、ルアインに併合されては、取り立てができなくなる可能性を案じているらしい。
 小さく「ウリカケキン、ウリカケキン」とつぶやいているので、隣にいたジェローム様が嫌そうな顔をしている。

 アランは予想はしていたけれど、実際にそうなると面倒だな、という表情だ。
 国王軍が健在ならば、挟撃することもできる。
 王宮はおそらく王妃によって占領されているだろうけれど、ルアイン軍に対処した上で、貴族達の連合軍で王宮を囲んでしまえばいいのだ。
 けれど国王軍が潰走、しかも国王が行方不明となれば再度召集する者はいない。
 代理をするべき人間が、王宮内で無事でいるかも不明だ。

 むしろシェスティナ侯爵を含む王都近隣の貴族達は、自分の領地を守るか、夜逃げをする準備で今頃おおわらわだろう。とても応援が望めるとは思えない。
 それでもレジー率いる軍が、諸侯が壊滅的打撃を受けてしまう前に、その近くまで到達できれば別だが。

「さすがにこの夏の暑い時期に、兵を動かし続けるのは不可能ですな。秋風が吹くまでは、留まるしかありますまい。ルアインがいつ王都を攻撃するのか不安は残りますが、我々がこれ以上のことをするのは無理でしょう。予め立てていた計画通りには、進んでいますからな」
 色々な事情を含んだ上でのジェロームさんの言葉に、皆がうなずく。

 出発した当初から、まずは王都への順路を確保すること、そして素早く攻めることで、ルアインがこちらに備えをする前に叩きつぶすことを目的としていた。
 おかげでソーウェンまではなんとかルアイン軍から奪還することができた。

 けれどこれ以上は、無理だ。
 クロンファード砦は、まだ激しい暑さになる前に攻略した。
 カッシアは砦を落とした以上、安全性の面においても落さなくてはならなかった。
 ソーウェンに攻め入るのは、エダム様と半数近くの兵をカッシアに置いてきたため人数が少なかったので、氷狐三匹で涼をとらせる作戦も、ぎりぎり使えた。

 しかしデルフィオン男爵領へ攻め込むとなれば、別だ。
 カッシアを放置できないので、兵力がこころもとなくなる。
 できれば暑さが引く一月後に合流するだろうアズールとエニステルの軍を加えなければ、国王軍を破って余裕ができただろうルアイン軍を撃破するのが難しくなるだろう。

 それにサレハルド王国の軍もデルフィオンの北、トリスフィード伯爵領に逗留したままだ。
 ルアインが攻撃された場合、そちらの軍も出てくるだろう。
 敵も暑さで上手く身動きできないとはいえ、少ない兵数で強行するのは得策ではない。
 表情を全く変えずにいるレジーが、口を開く。

「既に国王陛下が暗殺された可能性が高い、という情報は入っていた。だから将軍に任命された者が軍をまとめきれず、結局はルアインに敗退するのは、予想されていたことだ。今後の方針に変わりはない、ということでいいと思う」
「暑い間は、エヴラールからカッシアまでの守りを固めましょう」
 ジェローム様がうなずく。

「ソーウェン、カッシア内にいる残党はどうする?」
「基本的に投降を呼びかけるか、狩ってエヴラールへ送ろう。エレンドール経由にて捕虜の扱いについてはやり取りができたと連絡がきている。先方から支払人が来たら、金銭と引き換えで戻す。それまでの間は、エヴラールで既に行っている通りに、なるべく北の土地で畑の世話をしてもらおう」
 アランの問いに、レジーが捕虜交換について話す。それを聞いて、ウリカケの呪文を唱えていたソーウェン侯爵がふっと顔を上げた。

「ということはあれですな。手間ではありますが、ルアイン兵を殺さず送りつければ、その分だけルアインの資金力を削ぐことに……」
「その分、こちらは監視の兵や捕虜の衣食住を賄うお金がかかっていますからね」

 レジーから即座にツッコミを受けて、ソーウェン侯爵は捕虜での儲けを考えることをやめたようだ。
 たぶんそれ、面倒見るエヴラールの方でもらった上で、レジーからという形で再分配されるんだろうけど、半分くらいは負担がかかってるエヴラールにとられるし、ソーウェンの取り分はほとんどないと思うけど。

「進軍しないとなれば、あとの懸念は収穫についてでしょうな」
 エヴラールの騎士隊長さんの言葉に、ソーウェン侯爵がとっても大事! と何度もうなずいている。

「畑に戻る者たちのために、近隣の巡回をさせましょう。カッシアでも既にエダム殿に采配を任せている。ソーウェンについては侯爵に秘蔵の兵を使っていただこう」

 優し気に微笑むレジーの顔に、なぜかソーウェン侯爵が身震いした。元々そのつもりで何か侯爵に言っていたのだろうか。
 でもカッシアのように男爵までが討ち死にし、兵のほとんどを失うに等しい状況の領地と違い、引きこもったソーウェンには余力がある。
 しかも砦にいた一軍は撃破した後だ。ソーウェンだけでもなんとかなるといわれても仕方ないだろう。
 ソーウェン侯爵もだから抵抗などせず、レジーの言葉に頭を垂れた。
 それから言葉を切り、レジーは全員を見回した。

「さて、今までは国王陛下の軍がいることを考え、私達は国防のための義勇軍という体裁をとっていた。けれど国王陛下が不明、軍を指揮することができない状況になったということで、私は王位継承者として、改めて自分が率いるものをファルジア王国軍とする」

 今まで、レジーは王子という立場で軍を率いていた。
 本人も王族として元帥としての地位を持つことはできるし、エヴラール辺境伯が元帥代理の称号を持っているので、それ自体は問題ない。でも国王がいて、別に召集した軍がある以上、ファルジア王国軍、と呼称することを控えていたのだ。

「後は従来通り、私を元帥、アラン・エヴラールを元帥代理とし、エダム・レインスターとジェローム・リメリックを将軍とする。魔術師のキアラ・コルディエは元帥代理付きとして、階級については将軍と同じ扱いだ」

 最後の言葉に、私は思わずレジーの顔を凝視してしまった。
 立場としては今までとさして変わらない。けれど違うことがただ一つ。
 ずっと枠外の存在として扱われていた私を、アランが率いる兵の中に組み入れ、立場を明確にしたのだ。

 レジーが、認めてくれたのかもしれない、とちょっとだけ思った。
 もしかしたら、これから別領地の兵士がやってきた時に、混乱しないためだったりするだけかもしれないけど……。

 エダム様やジェローム様が将軍の呼称で呼ばれるのは、この国の軍というのが、その領地の貴族が率いてくることに、関係するのだろう。
 騎士も兵士も民から徴兵された人も、領主が殺されたりしない限りはまとめてその領地ごとに管理される。
 そんなわけで爵位を持たないお二人を将軍にしなければ、領地事の兵の指揮系統や後々の処理が、色々と面倒なことになるのだ。

 と、そこに別な伝令兵がやってきたと、会議室の外にいた騎士の一人が取り次いできた。
 少々くたびれ気味な伝令兵のおじさんが差し出したのは、書状が入った筒だ。
 受け取ったレジーの騎士グロウルさんが筒を開け、中の紙をレジーに渡した。

「……エレンドールと話がついたらしい。あちらの兵がエヴラールに数千だが入る」
「数千でも十分ですな。エレンドールとまでことを構えたくないのなら、ルアインは手を出せません。引くしかなくなるでしょう」

 ジェロームさんが笑みを浮かべた。
 私達もほっとする。
 ルアインの真南に位置するエレンドール王国が、協力してくれるのだ。
 これでエヴラール側からのルアインの侵入はかなり抑えられる。大軍を移動させるルートとしては、ルアイン側も使えなくなるだろう。
 この報告もあって、ルアインに王都を奪われる瀬戸際という状況に変わらないものの、穏やかに会議は終わった。

「あの、魔術師殿」
 部屋を出ると、先ほどの伝令兵がなぜか私に話しかけてきた。
 珍しいことだったので、立ち止まった私は思わず自分を指さして「ホントに私?」と尋ねてしまう。
 伝令兵はこくこくとうなずいて肯定した。

「お手紙を、魔術師殿宛てに預かりました」
 差し出された封筒には、確かにキアラ・コルディエ様へと書いてある。送り主はベアトリス夫人だ。
 一体何だろうと思い、部屋に引き上げてすぐに中身を読んだ。そうして私は、

「あ、そうだった!」
 思わず声を上げてしまった。

「どうなさったのですか? キアラさん」
 私に付き添っていたカインさんに尋ねられる。

「誕生日!」
「はい?」
「アランの! このままだと過ぎちゃうんだ!」

下記も連載しています!
鳥かごの大神官さまと侯爵令嬢


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