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私は敵になりません! 作者:奏多
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ソーウェン包囲戦3

 私は弱いから、頼りにされない。
 私を守ろうとしてみんなが遠ざけるんだったら、力を認めさせることができたら、レジー達だって私のことを頼ってくれるようになるのではと気付いた。
 そう考えたのは、イサークに言われたことがきっかけだった。

 ――お前が、完膚無きまでにたたきのめしておけば?

 依存させたいわけではない。ちゃんと戦力として数えて欲しい。そうしたら、カッシアの時のように私を連れて行くことさえしない、なんてことにはならないと思った。

 ルアイン兵達は、この有様に混乱をきたしていた。
 逃げられない状況だというのに抵抗する者はあらかた弓の的になり、剣の餌食になって倒れていく。もうだめだと諦めた者は、早々に剣を手放して降伏する。
 それでもまだ、後方のルアイン兵は戦いを止めない。早く撤退してほしいのに。
 仕方なく私は土人形(ゴーレム)を動かした。

「……いけるのか?」
 師匠は自分が魔術師だったから、私の習熟度であれだけ広範囲の術を使うことが、どれだけ負担になるのかわかるのだろう。
 私はその問いにうなずいた。

「まだ大丈夫」
 完膚無きまでに、やらなければ意味がない。そのつもりで私はルアイン兵を潰走させるため、土人形を歩かせた。
 さすがのルアイン兵も、止めを刺されるのかと怖気づいて逃げていく。

 レジーは背を向けた兵に向かって、短い距離だけ追討させていた。……たぶん、これで今回は終わりだ。
 成果は出したと思う。
 これで従軍して行って、レジー達を守ろうとしても、エダム様達が後押ししてくれるだろう。私のことを度外視するなら、兵は減らなければ減らないほどいいのだから。
 アランも早く戦いを終わらせたいと言っていた。兵の損失を抑えることができれば、先に王都を占拠してしまうだろうルアイン軍を早く倒すことができる。
 なにより、私を作戦から外さなくなるだろう。
 遠い場所に置かれて、レジー達の誰かが、また矢で射られるのを心配しなくてもいい。守れる場所にいられる。

 ほっとした私は、固めていた場所の土を元の柔らかさに戻す。
 次にやや急ぎ足で土人形(ゴーレム)を移動させた。作り上げた場所にほど近い、防風林らしきものと、低木が生えている場所だ。

 手前で土人形(ゴーレム)をゆっくりとくずしていく……でなければ、そのまま転がり落ちてしまいそうだったからだ。
 なんとか木陰になるところへ座り込み、けれどそれすらも辛くなって、仰向けに転がってしまう。
 久々に息が切れて、せき込みそうなほどだ。メイナールでもいろいろと術を使ったのに、こんな風になったのはクロンファード砦以来だろうか。

「クロンファードも、ここまでじゃ、なかった……のに」
 なんだろう、苦しい。
 はっ、はっ、と息をしているのに酸素が取り込めていないような、そんな息苦しさだ。
 すると師匠が呆れたように言った。

「仕方あるまい。血で自分の魔力を含ませたものを動かすのと、他者の魔力同然のものを動かすのでは、負担が10倍以上違うだろう……わしは、現役時代に、わざわざそんな真似をしたことはないがのぅ」

 やっぱり血を使うのと使わないのとでは段違いみたいだ。結構辛い。今度はこっそり血を使えるように考えるべきだろう。
 けれど、できればそれを使わなくても十分大きな術を使えると見せたかった。その上で平気なフリをしたら、間違いなくレジー達は納得せざるをえなくなる。

「ねぇ、師匠。誰にも、言わないで……ね」
 辛い。でも誰にも言いたくない。誰にも知られたくない。
 知られたら、今度こそ私は何もさせてもらえなくなる。
 ホレス師匠はしばらく答えを渋るように黙り、小さくぽつりと言った。

「お前のしたいようにせい。自分の命を使う方法は、お前が納得できるものを探すしかあるまい。そもそもこれだけの魔術を使えるお前を止めるとしたら……まぁとんでもない方法を使うしかなくなるだろうて。イヒヒヒッ。まぁ、泥沼に沈んで行く弟子を見たいわけではないしのぅ」
「ありがと、ししょ……」

 きっと師匠ならそう言ってくれると思った。
 命の使い方、という形で魔術のことを捕えられるのは、魔術に触れた者だけだ。何をしても生きたいと願い、最後に残った命のともしびを私が魔術師になるために使ってくれた師匠だから。命の使い道を決めた私のことを、止めはしないだろうと。

 私は皆の目から隠れる場所を探して、近くの花が咲いている繁みの陰にうずくまった。
 じっと自分の体の中を動き回る魔力が収まるように念じて、耐える。
 でもそれが上手くいくのかわからない。なかなか治まらない体の中の反乱は、魔術師くずれが砂になっていく姿を思い出させて、怖い。

 もう死んでしまうのだろうか。
 ここで誰にも知られずに? 最後の言葉も言えずに消えるのは、寂しくて。
 目に涙が浮かんで、もがく様に焦って手を伸ばしたところで、軽い足音と共にふわっと腕に触れる感触があった。
 青白い毛並み。緑のリボン。リーラだ。

 すんすんと私の頬のあたりを嗅ぎ、それからヒヤッとする体をくっつけて伏せる。
 冷たさが気持ちいいなと思った次の瞬間、す、と自分の中から熱が引くのを感じた。
 物理的に、冷されたのではない。魔力がうごめいて作りだされはじめた熱が、少し魔力が吸い取られるのと同時に御しやすくなった。
 そうだ。リーラ達は魔術師の魔力が好きで寄ってくるんだった。

 おかげで体の中の魔力は、次第に治まって行った。
 心細かった私は、助けてくれたリーラに抱き付く。リーラは逃げずにじっとしてくれた。
 安心して、ほっと目を閉じた。それだけの瞼の動きで、目に溜まった涙が流れだして。それでも、誰かが来るまでの間に拭って置けばいいと思ったのだが。気が抜けたせいで、少しの間だけ意識が遠くなった。

 そしてざりっと、足音が鳴る音で目を見開いた。
 はっと振り向いたそこにいたのは、カインさんだ。

「カインさん……」
 私はしまったと思った。明らかに疲労困憊した姿を見られてしまっては、強がることもできない。せめてもう少し経ってからなら、カインさんが見間違えたとでも言い逃れできただろうに。

 けれど言い訳を探しながら、私は違和感に気付く。
 どうしてか。カインさんがいつもより苦しそうな、それでいてどこか嬉しそうな表情をしている気がした。でも気のせいかもしれない。

「レジーには言わないでください。ちょっと疲れただけなんです」
 そう言って、起き上って大丈夫だと見せたかったけれど、まだ貧血になった人みたいにだるくてふらつく。それでも根性で起き上った。
 またカッシアの時みたいに、不意を突いて置いて行かれては困るのだ。
 そんな私に、カインさんは苦笑いする顔になった。

「ほんとうに、頑固な人だ」
 その場に膝をついて、カインさんが手を伸ばす。その指先が、頬に残った涙の痕を拭うように滑った。

「私の負けですよ……。だからせめて、頼って下さい」
 頬に触れた手は、首筋を撫でて私の肩をわずかに跳ねさせた後で、もう一度頬を包み込む。
 剣を握って、血と鉄錆びた匂いにまみれた手は暖かい。

「こんな風に、私の手など何一つ必要ないと言われる方が辛いんですよ。見ているだけで手を出させてもらえないぐらいなら、共犯者になって傍にいる方がいい。いいえ、むしろ私のためにも戦って下さい。ルアインを倒すためなら……」

 ぞっとするような暗いまなざしで、カインさんが私を抱き起こす。
 その動作には、必要があって触れるといういつもの建前をどこかへ捨てて、自分の腕の中に囲ってしまうような熱を持っていた。

「もしそれが殿下の意に反しても、私はあなたの意思を尊重します」
 聞いた私は、冷水を浴びせられた気がした。
 ただ私が、全てのものに馴染めないと思って、そんな中でやりたいただ一つのことのために、レジーの意見を聞かずに行動をするため私の我を通したせいで。この人に、私はなんて選択をさせてしまったんだろう。
 私の意に反しないで傍にいるということは、彼にとってそんな意味になってしまったのだ。
 まるで主を変えるといわんばかりの言葉に、私は思わず身震いした。

「そんな……」
 怯える私に、カインさんも自分の言葉がどう聞こえたのかを察したのだろう。安心させるように微笑む。

「大丈夫ですよ。ただ私が、貴方が戦うのなら手伝いたいだけです。……どうあっても、私は貴方が敵までも殺したくないという気持ちを理解できない。それほど、ルアインがどうしても憎いんだと。貴方が殺させたルアイン兵の様子に、私はそれを思い知らされました」

 あの、戦うのではなく、一方的に蹂躙するような戦闘の様子に、カインさんは自分の恨みを思い出してしまったのだと言う。
 ……彼は家族を失ったから。彼がルアインと戦うのは、仇を討つ意味合いもあるからだろう。
 それにずっと、私が埋葬をするのを黙って見ていてはくれたけれど、嫌だと思う気持ちは残っているのを感じていた。
 もしサレハルドが相手の戦争だったら、カインさんもそうは思わなかったのだろう。ただ役目として、敵と戦ったに違いない。

「ずっと、あなたが可哀想だと思って、遠ざけようとしていましたが……貴方が戦う方針を変えないのなら、それを支える方へ回ればいいと、そう思ってしまったんです」
 そうして彼が、私の片手を持ちあげて指先に口づける。

「貴方にはその方が都合が良いはずです。殿下も貴方の決めたことを、止めるなと言っていますから大丈夫。万が一にもあなたが殿下の敵にでもならない限り、問題はありません。だから……私の望みを叶えていただけませんか」
 レジーの敵にならないこと。それはアラン達の敵にもならないことだ。間違ってもルアインの味方になるようなことなど、私は選択しようと思わない。
 それなら……大丈夫、と思った。
 何よりもカインさん達を守りやすくなるのだ。

「……お願いします、カインさん」
 私は彼の申し出を受け入れた。

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