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私は敵になりません! 作者:奏多
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行き先に変更あり

「いや……なんか、狐に嫌な思い出があるらしくて」
 土偶のふりをして、黙っているのだ。
 けれど不自然に魔力があるのはわかるのだろう。ルナールやリーラがふんふんと匂いを嗅いで……あ、舐めちゃった。
 師匠が携帯みたいにぶるぶると小刻みに振動し始める。

「師匠、そろそろ慣れようよ」
 そう言って、私は師匠をルナール達が届かないよう腰に下げていた紐をほどき、高い高いする。
 天井を背景にした土偶は、狐と離れてちょっとほっとした様に思えた。

「わしゃ、こいつらとは合わんのじゃ! 人様と縄張り争いなぞするあげく、わしの腰痛を酷くして南へ追いやったのも、そもそもはこいつらの……」
 師匠の移住原因は、氷狐だったらしい。

「でもそれ、リーラ達じゃないでしょ」
「そんなもん十把一絡げじゃ!」
 ホレス師匠が清々しく言いきる。

「そもそもタラシな弟子が悪いんじゃ。人の男だけならまだしも、なぜ魔獣まで引っかけよるのか……。そんなとこだけ師を見習わなくても良いであろうに、ウッヒッヒッヒ」
 師匠のとんでもない発言に、私は悲鳴を上げる。

「ちょっ、いつ私がタラシとか……っ!? 人聞きが悪いでしょう!」
「ふん、その無い胸に手を当てて聞いてみるがいいわ、クックック」
「なッ、無くないもん!」

 普通ぐらいはあるはずだもん! 転生したことで新たに得たささやかな喜びって、そこだけだから間違いないのに!
 抗議した私に対し、ホレス師匠はニヤついているような口調で更に私の怒りを煽る。

「そうかいな~? わしの感覚じゃと、だいたいはち……ぐへぇぁっ!」
 私は師匠をシェイカーのように上下に振った。口をふさいだって、別に師匠は口でものをしゃべっているわけでもない。叩いたってろくに打撃と感じないのだ。これが一番効く。

「うへぇっ、ちょっ、やめっ……!」
「もう言わない? むしろ記憶から抹消した?」
「したしたした! うげふっ、まいった、助け……」

 そこでようやくシェイクを終了する。こっちも腕がつかれてきたし、ここまでにしておこう。
 ……赤裸々な話を耳にしたカインさんやアランが、顔を背けているので、早々に話題を変えたい。
 二人とも、変なこと聞かせてごめんよ。もっと土偶の躾けはちゃんとしておくから。

「あんまり私のこといじめると、師匠と同居してあげませんからね? どっかに師匠地蔵とかいって祠立てて、そこに置き去りにして時々魔力足しに通うだけにします。きっとマイヤさんが素敵なべべかけとか作ってくれると思いますよ。あ、自力で戻って来ようとしても、みんなにちゃんと巣に返すようにお願いしておきますから安心してね」
「なっ、師を晒し者にする気か! わしをこんな体にしたのはお前さんだろうに!」

「乙女の秘密をさらそうとした罪は重いんですよ。で、どっちがいいんです?」
「くっ……同居がいいに決まっておろう! わしゃお前が死ぬまで傍に居てやるんだからな!」

 ――死ぬまで傍に居てやる。
 その言葉に、私はおもわずどきっとしてしまう。
 外見土偶で元は干物老人の言葉に、一瞬でもときめいた自分が悔しいので、私はことさらツンとした態度で答えた。

「いいでしょう。責任取って介護してあげます」
「あっはっは。すんごく仲いいんだねー」

 私と師匠のやりとりに、ジナさんが大笑いする。
 それでも彼女は下品に見えない。顔立ちが前世の女優かと思うほど可愛いこともあるだろうけど、明るい雰囲気が、何をしてもそういう印象を抱かせないような、そんな人なのだ。
 ちなみに23歳の彼女は、私よりも出るべきところが適度に出ている。素直に羨ましい。

「そんで師匠さんて、呪いの人形みたいなもんなの?」
 オカルト扱いされたことが地味にショックだったらしく、師匠はがっくりとうなだれた。
 くっ、私の言葉より衝撃的だったらしいことが、なんか悔しいわ。
 とりあえず私は、ジナさんとギルシュさんに師匠の説明をした。私が作った器に、師匠の魂が入っているんだとうごく簡単なことだけど。
 二人は魔術師ってそんなこともできるんだ、とすごく驚いてくれた。

「それで……お前たちは、狐がくっついて歩いている間だけ、こちらの軍に厄介になりたいってことか?」
 咳払いをし、話を仕切り直したアランに、ジナさんとギルシュさんは顔を見合わせ、それからジナさんが言った。

「氷狐を連れて目立たないように国外脱出するのは、難しいと思うんです。だから、皆さん方はいずれトリスフィード伯爵領を解放しに行かれますでしょう? そこまで雇われるという形を取らせていただいて、トリスフィード伯爵を辺境伯子息様が解放した後、そこからサレハルドへ戻りたいと思います」
「お金はいくらあってもいいしねん」
 ギルシュさんが付け足したところで、ジナさんがちょっと身を乗り出して言う。

「魔術師がいても、魔獣っていろいろ役に経つと思うんです! なにせ居るだけで敵も警戒しますからね! 今までは遅れたふりして後をついて歩いて、私達前金泥棒してた状態なんで、ファルジアの方の恨みを個人的に買ったりはしてませんし、お得ですよ!」

「二人雇って、氷狐の分を含めて一日銀貨5枚! でも長期契約ですもの、お安くして今回の契約で何日までかかても金20枚くらいでどうかしらん! 私もお仕事がんばっちゃう!」
「大特価ですよダンナ!」

 ジナさんとギルシュさんが一生懸命売り込みをかける。さすが値段交渉もする傭兵稼業といったところか。
 その様に、私は前世で見たスーパーの安売りの文字が躍るチラシを思い出す。
 ギルシュさんはアピールのために、隣のカインさんに「アナタのためにも頑張るから、お願い!」と迫って、カインさんをドン引きさせていた。
 思えばこの世界でオネェな人を見るのって初めてだなぁ。

 しかしアランはなかなかうんと言わない。
 金20枚は結構大金だけど、トリスフィードまでの日数を考えたらそんなもんかな? と思ったんだけど、高いんだろうか。でも私、傭兵の相場とかわからないし。

 すると、腿の上に顎を乗せていたリーラが、すん、と鼻を鳴らした。
 机の上に置いた師匠は、びくついてかちゃっと肩を動かしたが、私の心はきゅんとした。
 思えば最近、じっくりと犬猫と戯れて遊んでない。
 エヴラール城にはどっちもいたので、ほどほどに遊んでいた。この世界の狐もイヌ科なのか、毛質は犬っぽいなぁと思いながら、リーラの背中を撫でた。
 そういえばアランて、犬が好きだったよね。
 さっきから、部屋の隅でお座りしていたサーラを横目で見てたし。氷狐でもいいから触りたいんだろうな。
 そんなことを考えながら、隣のカインさんにこそこそとささやく。

「ねぇカインさん」
 カインさんも犬好きなんだろうか。足下のルナールを、時々じっと無表情に見ていた彼は、はっとしたようにこちらを見る。

「一日銀貨5枚て、相場より高いんですか?」
「そこそこですね。魔術攻撃ができる氷狐を連れているのですから、高いものではありません。ただサレハルドの傭兵を、自分の一存で連れて行っていいものかと思っているのでしょう。雇えば、あの狐たちはキアラさんの傍に度々べったりとくっつくでしょうし」

 確かに、戦闘に氷狐を伴えば、魔力補充をしに私の所へ来るだろう。
 でも顎を載せてくるとか、足下で丸まるぐらいなら可愛いものだと思うんだけど。私の傍にいることで、何か不都合なんてあるだろうか。

「殿下が許容されるかどうかを、アラン様は気にされているのではないでしょうか」
「レジーって動物の毛にアレルギーなんてないよね?」
 レジーも犬猫と戯れていたので、大丈夫なはずだけど、カインさんはうなずいてくれない。

 その後、アランはジナさん達を迎えることに決めた。
 正直、魔術に対抗できるリーラ達の技能はとても得難い。それが手に入るのならとアランは決断したのだ。
 話がまとまったので、その日はようやく休むことができたのだが……翌々日、私はとんでもない話を耳にすることになる。

 傭兵達の遺体を埋めた後、焼けてしまった家の後始末を手伝い、人手を使ってやるよりも楽でとっても感謝してもらえていた私は、メイナール市を出発する時になって初めて知った。

「クロンファード砦に戻るんじゃないの!?」
 驚く私に、アランがうなずく。

「既にレジー達は、カッシアの城を攻撃している頃だ」
 動じないところからして、カインさんも最初から知っていたようだ。

「どうして……? 何か急ぐ理由でもあったの?」
 けれどその問いには、曖昧にはぐらかすだけで、二人とも答えてはくれなかった。

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鳥かごの大神官さまと侯爵令嬢


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